ケンジロニウスの再生

ロック史を追いながら関連図を作成(関連図挫折中)

YES『危機-50周年記念ジャパンツアー』2022.9.8.大阪NHKホール

昨年末のクリムゾンに続いてYes来日!!

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昨年末にキングクリムゾンの来日公演を観てしばらくしてからイエスの来日情報が舞い込んできた。当初僕はその来日の知らせにさほど心は動かされなかった。クリムゾンと並んで「プログレ四天王」または「五大プログレバンド」の一角を担うイエスだが、実のところ僕はどちらかというとクリムゾンよりも断然イエスに夢中になりイエスに影響を受けてきた人間だ。それでもイエスの来日をスルーしていたのには理由がある。

 

はたしてYesとは?

エスはクリムゾンほどではないにせよ68年の結成から数々のメンバー交代を行ってきたバンドだ。イエスの代表作とされる71年『こわれもの』72年『危機』をレコーディングした〈ジョン・アンダーソン/スティーヴ・ハウ/クリス・スクワイア/ビル・ブラフォード/リック・ウェイクマンの5人がいわゆる〈黄金メンバー〉とされているが、そこから1人去り2人去り、80年にはボーカルのジョンアンダーソンまで去り、代わりに〝ラジオスターの悲劇〟で有名なバグルスの2人がイエスに加入したり、80年代末には分裂してイエスの曲を演るバンドが2つになったり、それが合流して8人組になったり。

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まぁとにかくメンバー入れ替わり立ち替わりのイエスだがクリス・スクワイだけは結成時からずっと在籍していた。イエスオブイエスだ。クリムゾンにおけるロバートフリップのような存在で、彼がいるなら迷わず今回の来日公演に飛びついただろう。そのクリススクワイアが2015年に死んだ。

今回の来日公演は72年『Close to the Edge(危機)』のリリース50周年ライヴなわけだが、『危機』のレコーディングに参加したメンバーはスティーヴ・ハウしか残っていない状態。他の参加メンバーは80年に加入したバグルスの片割れジェフ・ダウンズ(ハウとエイジアをやったりもしてた)、73年に加入したアラン・ホワイト、ボーカルとベースは最近加入した少し若めの知らない人、といった感じだ。僕は80'sイエスにほとんど興味がないのでジェフダウンズの名前に惹かれることはなかった。ただ、アランホワイトに関しては〈黄金メンバー〉ではないにせよ73年からずっとイエスに在籍し続けており、恐らくクリススクワイアの次に長くイエスに在籍したメンバーだから少し心が動いた。が、そのアランホワイトもこの2022年の5月に死んだ。

そうしてドラムも若めの知らない人に代わることがアナウンスされた今回の来日ツアー。僕が思ったのはスティーヴハウしかいないイエスってイエスと言えるのだろうか?ということだった。野球チームやサッカーチームのファンは例え時間が流れ選手が全員入れ替わってもファンであり続けたりするが、バンドってそういうんじゃないんじゃないの?これってもう言ってしまえば「イエスコピーバンド」じゃないの?ってことだった。ここ数年前から「レジェンドが来日したら何も考えず行こう」と心に決めていたけど、このイエスって果たしてあのレジェンドバンドのイエスなのかい?って。公式に「YES」の名を名乗ってることってそんなに大事なことだろうか。野球チームじゃあるまいし。

 

東京公演初日、SNSで大絶賛

そんなことでスルーしていてほとんど忘れていたイエス来日だが、9月5日、来日初日東京公演に参加した人々の感想やライヴレポがSNSで流れてきた。それがとにかく絶賛の嵐で、スティーヴハウのギターがキレキレで健在だ復活だ、って内容だった。それらの文章を見た時、僕の心はざわついた。

僕が「レジェンドが来日したら何も考えず行こう」と決めたのは、〝終活〟の一環と言えるのかもしれない。良くも悪くもロックに多くを占められた人生、その清算のようなものだ。

音源というものは時間も距離も越えて人の感性や人生を刺激する。そんなスピーカーを通して僕の世界を、感性を、人生を豊かにしてくれたミュージシャン、バンド達を生で観ることは、自分がどんな道を歩んできて今どこに立っているかを明確にし人生を整理することになると感じた。まだ30代で終活を始めるのは早すぎるとも思うが、どんどん死んでいってしまうレジェンドが僕の人生の清算を早めているのだろう。

全てはイーグルスの来日公演を逃した時に感じた虚無感が発端で、同じことを繰り返さすまじ、となるべくロックレジェンドの来日公演には足を運ぶようにしてきたわけだ。

『こわれもの』と『危機』、特に『危機』は僕の感性を大きく刺激したアルバムだ。『狂気』とも『宮殿』とも違う世界を見せてくれた。ロックに聖なるものを感じたのはこれが最初だったように思う。曲構成やポリリズムの使い方、リフや歌やキメの全てに根付くメロディック。そしてスティーヴハウのギター。70'sはほぼほぼブルースギタリストが席巻した時代だ。その中でブルースを感じさせないスティーヴハウのスパニッシュ風味のヘンテコなギターはYesの音楽を特別なものにした。これはロック色の強いオリジナルギタリストのピーターバンクスでは成し得なかっただろう(まぁ僕は1stが危機並に好きなんだけど)。

9月5日の東京公演の皆様の感想を受けて、「やっぱりスティーヴハウを観に行かないといけない」と思った。後悔しそうな気がする、と。それで9月8日の大阪公演にどうにかして行かないと、というモードに入った。

 

初めての当日券

で、行くにはもう当日券しか方法がないわけだけど、プロのライヴに当日券で入るなんて経験はない。ネットで「イエス 大阪 当日券」と調べても何にも出てこない…当日券の有無ってどこで発表されるのかしら…そもそも東京公演は完売で追加公演が発表されていたぐらいなので当日券なんてないのかも…

わからなさすぎて、まぁ当日NHKホールに突撃したらなんとかなるだろうと楽観的思考に陥ったまま迎えた8日の朝。念のためキョードー大阪に電話をしてみた。

当日券ってありますか?と問うと「わずかですが有ります。けどA席扱いの二階バルコニー部分で少し見えづらい席になります。それでもよければこの電話取り置きできますよ」とのこと。もちろん承諾し取り置きしてもらった後に「もしS席のキャンセルがでたら少し値段が上がりますがそちらに変更しますか?」との提案。もちろんです。

で18時にNHKホールへ向かった。

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外からは観たことがあったが入ったのは初めて。なんか素敵なとこでございました。当日券売り場のカウンターに行くとS席のキャンセルが出たので変更可能とのこと!しかもかなり前の方でメンバーの表情もわかるくらい!ラッキーでござんす。

当日券売り場で僕の前に受付してたおじいちゃんは未電話で突撃してきたようで、1枚しか買えないことに声を荒げていた。電話したけど繋がらなかった!!!と。何やら2人組で来てたみたい。爺さんらがどーなったのかは知らないが、当日電話して取り置きしたら何とかなるし、運が良ければ前の方の席に座れたりすることを学んだ。

 

YES『危機-50周年記念ジャパンツアー』を観て in大阪NHKホール 2022.9.8.

NHKホールは全面禁煙で、18時15分に会場してから19時スタートまで、キツかったですねー…タバコやめねーとなぁ…

そんなこんなでYesを観てきました!

アランホワイト追悼ムービー

まずは先日亡くなったアランホワイトの追悼ムービーから。アランホワイトはプラスチックオノバンドに抜擢されてからビルブラフォードが抜けたイエスに加入した。その前の下積み時代はニューカッスル界隈で叩いていて、それはリンディスファーン周りの回で少し触れたところだ。

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個人的にはアランホワイトは73年のライブアルバム『Yes Songs』が印象的。ビルブラは72年『危機』のリリースツアーの1週間前にクリムゾン移籍のため脱退することをメンバーに告げた。が、本人はもちろんツアーはこなした後脱退するつもりだったらしい。しかしジョンアンダーソンやクリススクワイアはそれを拒否して急遽アランホワイトを加入させてツアーに挑んだ。その無謀な選択の裏にはまさかライバルバンドのクリムゾンに移籍するなんて!という怒りもあったのだろうか。

なんにせよアランホワイトは1週間でYesの複雑な楽曲を覚えなければならなかったわけで、ビルブラとはスタイルが違うがその事実は『Yes Songs』を聴く上で個人的には重要な要素となっている。アランホワイトすげーな、と。

追悼ムービーは2,3分ほどの写真のスライドショーだったが、プラスチックオノバンドでの写真もあったりで胸にくるものがあった。

ムービーが終わるとメンバーが登場。スティーヴハウは太ってないのが偉い!!!ジェフダウンズはお腹ぽっこり、ベースはニールヤングみたいで、ボーカルはちっちゃかった。

ライブ前半

恥ずかしながらライブ前半はわからない曲がいくつかありました。というのも僕は68年1st〜74年『リレイヤー』までしかちゃんと聴いてないのです。あとはベストアルバムしか持ってなくて、75年以降はそこに収録している曲しか知らないという。というかそのベスト盤で〝ロンリーハート〟を聴いて80'sイエスにガッカリして興味を無くしたって感じか。

なわけで後から調べて知るわけだけど1曲目は〝自由の翼で、78年『トーマト』に収録された曲のよう。これがファンにとってはかなり意外な選曲のようで多くの人が興奮したみたい。

最初の印象はとにかくスネアドラムの音がでかい!!!ってこと。イエスの(ビルブラの)ドラムってジャズチックで、スネアを2,4拍目でタンタン叩くというよりスタッ、スタタタッ、っとリズムの合間を滑るように叩いていくのが特徴的で気持ちよくて。スネアをアクセントとして使わないその叩き方はイエスが得意とする変拍子ポリリズムにもマッチしていて、一聴して拍子を掴ませない役割も果たしているように思う。

最初、ドラムのスネアがデカすぎるのはPAに原因があると思っていたが、もしかしたらそれはイエス側の要望なのかもしれない、と終盤には思うようになっていた。つまりは意図的に拍とビートを分かりやすくしようとしているんじゃないかと。というのも全編通してリズムが危うい箇所が多々あったからだ。リズムのブレを防ぐ苦肉の策としてのスネア強調、スネア頼りのバランスになったのかもしれない。だとしたらもったいない。ビルブラのドラムはイエスサウンドにおいて重要な要素だから。

2曲目は〝Your is No Disgrace〟。71年3rdの収録曲だ。スティーヴハウはこの3rdからイエスに参加したので、やるとしたら3rd以降だろうなとは思っていたけど、いきなりきました。

序盤は他にほぼ現メンバーで作った最新アルバム2021年『The Quest』からの曲もやっていたが、それはやはりしっかりまとまっていた。

途中『リレイヤー』収録の〝To Be Over〟をハウがアコギで奏でるタイムがあり、これが非常によかった。定番になっているのか知らないがアコギインストバージョンでの〝To Be Over〟、癒しでしたね。

前半で1番よかったのが〝Wonderous Stories(不思議なお話を)〟。77年『究極』に収録された曲だが、これはベスト盤で知っていた。ベスト盤ではさほど印象的ではなかったが、この曲がめちゃくちゃよくて『究極』ちゃんと聴こうと思いました。

ライブ後半

前半は知らない曲もあったので大人しく観てました。とにかくスティーヴハウの立ち姿、弾き姿が昔のまんまでそれに見惚れておりました。やっぱり太ってないのは偉い!

後半はイエスの代表曲定番曲のオンパレードでした!まず〝Heart of the Sunrise(燃える朝焼け)〟。からの今回のツアーの主役となる『危機』の〝危機〟〝同志〟〝シベリアン・カートゥル〟の3曲。この4曲を聴けたのは本当に嬉しかった!けど、ま〜〜〜〜演奏は良くはなかった。笑

前評判では「スティーヴハウは健在でジェフダウンズがとちり気味」とのことだったが僕の印象は真反対で「スティーヴハウがグダグダでジェフダウンズは十分頑張ってる」って感じ。とにかくハウ、重要なリフやフレーズがズレるズレる。スティーヴハウは元々独特なリズム感覚を持ったギタリストではあるが、今回のは個性で済ませられるズレではないかと。リズムがズレる、というか追いついてない、って感じか。特に酷かったのは〝シベリアン・カートゥル〟かな。この曲のギターは本当に秀逸で好きなのでその分残念でした。新ドラマーもそんなに良くなくて、キメのフィルの後の頭がズレ気味。長いフィルの後の頭がズレるのはアマチュアあるある。ジェフダウンズはところどころ省略しつつもウェイクマンよろしく多くの鍵盤を扱いそつなくこなしていたと思います!全然悪くなかった!

〝危機〟も良くはなかったが聴けただけで満足として、よかったのが〝And You and I(同志)〟。恐らくベストアクトじゃなかろうか。ハーモニーもよかったし、とにかくスティーヴハウのスチールギターがめちゃくちゃ美しかった。ベースがクリススクワイアと同じように終盤ハーモニカを吹いたのもグッときた。音源では最初ギターの無造作なハーモニクスがあってからイントロが始まるが、そのハーモニクスまで再現しているのには驚いた。思い返してみると、〝不思議なお話を〟や〝同志〟、アコギソロの〝To Be Over〟などスローな曲は非常に良かった。速い曲になるとついていけないのは、やはり歳によるものかのか…いやーしかし〝同志〟はよかった。まぁそれでも帰ってから昔のライブ観たら桁違いだったんだけれども。

会場に入ってスチールギターがステージにあるのを見た時〝Soon〟を期待したが、〝同志〟と〝シベリアンカートゥル〟で使われてそのままはけていってしまった。

アンコール

アンコールは予想通りのラウンドアバウト〝スターシップ・トゥルーパー〟。アンコールはなんと客席総立ちの盛り上がりとなったわけだが、〝ラウンドアバウト〟は結構良かった!〝スターシップトゥルーパー〟はぐだぐだ!笑

でもアンコールは立って一緒に歌えたので楽しかったですね。やはり座って大人しく見てるから色んなミスが気になってしまうんだな。

そんなこんなで最後はハウにしっかり手を振り、NHKホールをあとにした次第でございます。

ユルいロートルバンド

結論から言うと、演奏自体はかなりひどかったです!東京初日絶賛だったので期待していたけど、お世辞にもスティーヴハウのギターが健在だとは思わなかったし、バンドも仕上がってなく、ユルいロートルバンドといった印象でした。

行くと決めた時、「まぁ世界一のYesのコピーバンドだと思って行くか!」的な思いもあったんだけど、もっと上手いアマチュアコピーバンドたくさんいると思う。

今思うとユルさの象徴がボーカルの立ち振る舞いに表れていた。ボーカルはハイトーンなのに強くない声で、つまりはジョン・アンダーソン的で歌は良かった。ただ、マイクのそばにウインドチャイムを置いていたんだけどそれを暇があったら鳴らすわけ。一曲に10回とか。笑 さらに暇ができたらドラムの方に寄って行ってシンバルを叩いてはしゃいでみたり。これも何度もあった。多分、ロバートフリップならこんなの許さないはず。フリップはお爺ちゃんになってもボーカルが歌うのを横からじっと監視(笑)していたから。クリムゾンは2021年になってもただのロートルバンドじゃなかった。そもそもかつてのイエスは「世界一の練習量」を誇るストイックバンドとして有名だ。多分現行バンドではさほど詰めて練習もせず、ステージングも自由に楽しもう、といった感じなのだろう。

ショックで数日落ち込む

まぁそれでもハウの姿を生で観れてよかった。当日行ってよかった!イエスを好きでよかった!それは本当にそう思った。

ただこのライブから数日ちょっと落ち込むことになった。それは此度の演奏を絶賛してる人が多いことショックを受けてのこと。東京公演がとにかく絶賛だったので、大阪が調子悪かったのかと思い終わった後ネットで感想を検索してみたら割とみんな絶賛してて、中には「完全再現だった」って人までいて…うーん… いやどう考えても再現できてないでしょ、あれを完全再現なんて言ってしまうのはあの名盤に対する侮辱ですよ。

でももう本当に心からそう思ってるならそれは幸せなことで、僕よりもライブを楽しんでて、あれ?おれが偏屈になって楽しめなかったんか?と。うん、なんか、僕はロック好きの人々、あの日イエスのライブを観にきた人々を同志だと思ってたんです。僕と同じく人生にロックが寄り添っている同志。人それぞれ感じることが違うのは当たり前だけど「完全再現」とまで言われると話が違う。なんかめちゃんこ寂しかったわけです。あのライブを絶賛したり「完全再現」って言ってしまうってことは多分あの名盤『危機』の凄さを理解してないんだな、って。あの偉大なアルバムに打ちのめされた人生だからみんな今日ここに足を運んだんじゃないのかよ!って。

 

 

まぁ、そんなことでした。笑 完璧では全然なかったけど、それでも観れてよかったです!!

ここ数日はイエスのライブ動画ばかりを見ていて、案外2000年代くらいのライブが良すぎるので最後にリンクを貼って終いとします!

では!

www.nicovideo.jp

www.youtube.com

まじこの35周年ライブえぐい。。。絶対Blu-ray買お。。。

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