ケンジロニウスの再生

ロック史を追いながら関連図を作成(関連図挫折中)

3-3 怪物キングクリムゾン襲来!

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キングクリムゾンを知らなくてもこの絵は誰しも1度は見たことがあるんじゃなかろうか。

この衝撃的なジャケットに負けないくらいの音楽的衝撃をロック界に与えた「クリムゾンキングの宮殿」で69年にデビューしたキングクリムゾンはのちに、誰が言ったか「5大プログレバンド」の一角に数えられることとなる。

前回は同じく5大プログレバンドのYESについて触れ、その凄まじいメンバーの流動を見ながら図を進めたが、キングクリムゾンもリーダーでありギタリストのロバートフリップという変わり者のせいか、数々のメンバーチェンジを繰り返したバンドである。

前回も少し触れたが、プログレッシブロックは70年代前半にピークを迎え、熱気とブームが去った70年代後半および80年代になるとプレグレバンドは「良質な(つもりの)ポップス」をやる傾向があって、若者達に「オールドウェーブ」と揶揄されながらもたくさんの元プログレバンドは商業的に成功を収めた。そんなわけで70年代後半以降の売れ線に走っていくプログレバンドには少し「がっかりした」というような気持ちがあるんだけれどクリムゾンだけはちょっと別で。

キングクリムゾンも74年にピークを迎え解散するのだが、81年に再結成した際にはプログレ期よりもさらに実験的音楽を追求し、それはある種ニューウェーブと呼べるものであった。90年代に入るとヌーヴォメタルと呼ばれるような音楽性へとなっていくわけで、今現在まで一切世間に媚びない姿勢を貫いている。アルバムチャートにおいてもプログレ5大バンドで唯一1位を獲得したアルバムが1枚もない。にもかかわらず世界的に超有名なバンドであり、その世間に目もくれず音楽追求を続ける姿は「カッコいい」と思わざるを得ない(といってもやっぱり81年の再結成後は大して聞いてない、すまん)。

3-3 怪物キングクリムゾン襲来!

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3章はプログレ。ムーディーブルース、YESときて今回はクリムゾン!すでに図に名前があるのはグレックレイク、ジョンウェットン、そしてYESを脱退して72年に加入するビルブラフォード。果たしてすでに混雑してる図をまとめられるのか心配だが、進めてみようと思う。

キングクリムゾンはデビューから50年が経ち、メンバーは目まぐるしく変わっていったが常にロバートフリップという男は在籍している。クリムゾンはロバートフリップという男のバンドといってもいいだろう。

ロバートフリップとジャイルズ兄弟(マイケルジャイルズ、ピータージャイルズ)の「Giles, Giles and Fripp」というバンドが原型であり、そこにキーボード、メロトロンからサックスやフルート、クラリネットまでを演奏するマルチプレイヤーであるイアンマクドナルドとフェアポートコンベンションのボーカルであったジュディ・ダイブルが加入(1stのボーカル。2ndからがサンディデニー)。68年にデラムレコードから1枚アルバムをリリースしているがデラムレコードが68年に出したアルバムで最低の売り上げであったと言われている。

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さらに作詞とライブ時の照明という役割でピート・シンフィールドが加入する。作詞家を正式にメンバーとして抱えた斬新なスタイルは初期キングクリムゾンにおいて重要な点である。

バンドはアルスチュアートのバックで演奏したりしながらホームレコーディングを繰り返したがジャイルズ兄弟の弟ピータージャイルズが脱退。代わりにフリップは昔からの友人であるグレッグレイクをベースボーカルとして迎え入れ、バンド名を改め、キングクリムゾンが誕生する。

「クリムゾンキングの宮殿」

1.21st Century Schizoid Man including Mirrors(21世紀の精神異常者)
2.I Talk To The Wind(風に語りて)
3.Epitaph including March For No Reason and Tomorrow And Tomorrow(エピタフ)
4.Moonchild including The Dream and The Illusion(ムーンチャイルド)
5.The Court of the Crimson King including The Return Of The Fire Witch and The Dance Of The Puppets(クリムゾンキングの宮殿)

(いや曲名、インクルーディングしすぎ)

69年10月にリリースされたキングクリムゾンによるデビュー作「クリムゾンキングの宮殿」。

このアルバムは《ビートルズアビーロードをついに1位から転落させたアルバム!》ということで有名だが、それは都市伝説で実際には全英5位が最高である。しかしその都市伝説を信じてしまうほどのクオリティと衝撃をこのアルバムが持っていることは確かだ。

キングクリムゾンはロバートフリップのバンドだとは言ったがこの1stに関してはイアンマクドナルドが作曲面でも演奏面でもかなり主導権を握っていると思われる。「21世紀の精神異常者」こそあまりにも有名なディストーションギターのリフや中盤の凄まじいインストゥルメンタルパートを持ったプログレッシブソングだが他の曲はマクドナルドによるメロトロンやフルートなどをフューチャーした浮遊感のある幻想的なサウンドに仕上がっている。

この頃のクリムゾンは「シンフォニックロック」というジャンルに分類されることが多い。シンフォニックロックはムーディーブルースなどによってすでに開拓されていたジャンルではあるがムーディーブルースとは比べものにならないほどの完成度の高さである。グレッグレイクの歌声もシンフォニックロックを形造る大きな要因で、この後彼が結成する「エマーソン、レイク&パーマー」でもこのアルバムと共通するものを聞くことができる。全体的に幻想的で神秘的な雰囲気を漂わせるが、ピートシンフィールドの歌詞が持つ世界観を見事に表現したサウンドである。

このアルバム最後の曲でありアルバムタイトル曲の「クリムゾンキングの宮殿」は壮大でまさに「宮殿」という表現にぴったりの曲だが、マクドナルドとシンフィールドによる共作で、まずこの曲が先にあってそこからキングクリムゾンというバンド名が決まった。

そんなマクドナルド主導で始まったクリムゾンだが、このアルバムリリース後、早々とマクドナルドとマイケルジャイルズが脱退する。2人は「McDonald and Giles」として71年に同名のアルバムをリリース。ピートシンフィールドとピータージャイルズも手伝っており、「クリムゾンキングの宮殿」の続きとも言えなくもない音楽性で商業的には今ひとつだったがめちゃくちゃいいので是非!(CD持ってたのに見当たらん悔しい!)

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いきなりのバンド崩壊

クリムゾンは新たなアルバム製作のためサックス奏者メルコリンズを加入させる。メルコリンズはサックスの他にフルート、メロトロンをプレイした。彼はセッションマンであり数々のミュージシャンやバンドに参加している。78年ローリングストーンズ「ミス・ユー」でのサックスソロなどが有名。

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さらに脱退しているジャイルズ兄弟をサポートメンバーとして2nd「ポセイドンのめざめ」のレコーディングをなんとかスタートさせるがレコーディング最中に今度はベースボーカルのグレッグレイクがELP結成のため脱退。

そんな状況で作られた「ポセイドンのめざめ」は全英4位を記録(これが結果的にキングクリムゾン史上1番売れたアルバムである)。まだグレッグレイクがボーカルであるためシンフォニックロックと呼べる。

ちなみに原題は「In The Wake Of Poseidon」である。「wake」は「航跡」を意味し、実際は「ポセイドンの跡を追って」的な意味であるが当時の和訳者が同じスペルの「目覚め」と誤訳してしまい日本では「ポセイドンのめざめ」となってしまっている。

早くも作詞家ピートシンフィールドはいるものの演奏するオリジナルメンバーがロバートフリップと1人になってしまったクリムゾンは2nd「ポセイドンのめざめ」でボーカルとして一曲参加したゴードンハスケルをベースボーカルに、キースエマーソンの紹介で当時キースエマーソン邸宅に部屋を間借りしていたアンディマカロックをドラムに迎え3rd「リザード」をリリース。ジャズの要素を取り入れシンフォニックジャズロックなるものに。

リザード(紙ジャケット仕様)

リザード(紙ジャケット仕様)

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この頃YESはギターのピーターバンクスが脱退しておりギタリストを探していたジョンアンダーソンはロバートフリップにYES加入の話を持ちかけるが、フリップは「お前のほうこそキングクリムゾンに入れ」みたいな返しをしており、それがきっかけでこの「リザード」でジョンアンダーソンが1曲ゲストボーカルで参加している。

リザード」リリース後ライブツアーを考えていたが、ゴードンハスケルとアンディマカロックが続けざまに脱退。またもベース、ボーカル、ドラムを探すハメになる。オーディションにてボーカルにボズ・バレルを、ドラムにキースエマーソンの紹介でアンディマカロックと同じくキースエマーソン邸宅を間借りしていたイアン・ウォーレスを加入させ、ベース初心者であるボズバレルをスパルタ教育でベースボーカルにする形でメンバーを揃えた。

イアンウォーレスは「ウォーリアーズ」というバンド出身であり、ウォーリアーズにはYES結成前のジョンアンダーソンも在籍していた。

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1度目の解散

フリップ、コリンズ、バレル、ウォーレス、シンフィールドの5人で4th「アイランズ」の製作とツアーに入るがバンド内の仲は最悪。芸術的な詩を全く理解できないバレルとコリンズとウォーレスに対してシンフィールドが怒りをあらわにした「レディースオブザロード」が険悪さを物語っている。さらにバンドのブレーンであるフリップとシンフィールドの仲も最悪で、71年リリースの「アイランズ」完成後、フリップはシンフィールドを解雇。シンフィールド作詞による世界観を表現するキングクリムゾンはここで終わるのだ。

Islands [Analog]

Islands [Analog]

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僕はジャズって音楽はもちろんオシャレではあるが、それ以上に狂気的な側面を存分に含んだ音楽だって思うんだけど、そのジャズの狂気を強く感じる「アイランズ」。クリムゾンはこの後ピークを迎え、即興音楽期に入っていくんだけどもうすでにその片鱗が見え始めている。これまでのフリップは音楽を構築していく構造主義的なタイプといった感じだったが、この頃からすでに本能に身をまかせる即興音楽的考え方にシフトしかけている。

ボズバレルのボーカルは細く弱いが神秘的で、僕は好き。クリムゾン脱退後バレルはボーカルをやめてしまうのだがもったいない。

バンドはツアーに入るがその途中でフリップは解散を発表。残りのツアーを消化して、72年4月に解散。

解散後、シンフィールドはグレッグレイクの誘いからELPに作詞で参加したり活動を続け、

メルコリンズ、イアンウォーレス、ボズバレルは「スネイプ」というバンドを経た後、コリンズとウォーレスはスタジオミュージシャンの道へ(ウォーレスはディランやクラプトンなど名だたるミュージシャンのバンドでドラムを叩く)、バレルは元「フリー」のポールロジャース、サイモンカークと元「モットザフープル」のミック・ラフルスと共に「バッドカンパニー」を結成し、大きな成功を収める。ボーカルとしてクリムゾンに入って、初心者なのにベースやらされて、結果バッドカンパニーでベーシストとして成功することになるんだから面白いよね。

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この後バレル、コリンズ、ウォーレスのクリムゾン外でのプレイは山ほど聞けるんだけど、「あ、こういうとこクリムゾンっぽいな」と感じることはほぼ皆無である。そもそもブルースやファンクが好きな3人なので、クリムゾンが持つ狂気や芸術性を担っていたのはやはりフリップなのか。

インプロビゼーション期クリムゾン

72年春、北米ツアーが終了しクリムゾン解散後イギリスに帰国したフリップはすぐにクリムゾンの再結成に向けて動く。YESからビルブラフォードを引き抜き、「ファミリー」のベースボーカルでありフリップの大学時代の友人であるジョンウェットン、さらにパーカッショニストのジェイミー・ミューア、そして新鋭のバイオリニストのデヴィッド・クロスが集結し、同年10月から再始動。初期はシンフォニックロックバンドで、3rd,4thではジャズやクラシックの奇妙なエキスを取り入れたクリムゾンがこの再スタートで完全に即興音楽(インプロビゼーション)の超技巧派集団に生まれ変わり、バンドのピークを迎える。

73年3月に「太陽と戦慄」リリース。

5thアルバム太陽と戦慄(Larks' Tongues in Aspic)。原題の直訳は「雲雀の舌のゼリー寄せ」。なんじゃそりゃ。

今でもファンから人気の高いタイトル曲「太陽と戦慄」は「動と静」で構成された凄まじい即興演奏が聴ける。この曲の動と静、そしてジャケットの太陽と月から「雲雀の舌のゼリー寄せ」を「太陽と戦慄」と訳した日本の翻訳者は本当にいい仕事をしたと思う。ビルブラフォードのドラムはYES時代はポリリズムを駆使し数学的で美しいものだったが、クリムゾンでの即興プレイは鬼気迫るものがある。ずっと子どもみたいに口を開けながら叩いてる姿がまたカッコいいのよ。

ちょい脱線。前からビルブラフォードの名前の発音に関してはブラッフォードであるとか、ブルッフォードであるとか色々言われてたが調べてみると本人公認で「ブルーフォード」が正解らしい。なんか嫌!ビルブラビルブラって呼んでたのに!

74年には6th「暗黒の世界」をリリース。ライブ音源とスタジオ音源を組み合わせた珍しいものになっている(ライブでの即興演奏にスタジオで歌入れたり)。パーカッションのジェイミーミューアは仏教修行のため脱退している。

レッド(紙ジャケット仕様)

レッド(紙ジャケット仕様)

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同年74年ラストアルバムとなる「レッド」をリリース。バイオリンのデヴィッドクロスも脱退し3人となった。レコーディングにはかつてのメンバーであるイアンマクドナルドとメルコリンズもサックスで参加。

タイトル曲レッドはヘビーなギターリフが印象的なインスト曲で彼らの代表曲であるがクリムゾンらしくないっちゃらしくない名曲。「スターレス」はデビュー作「クリムゾンキングの宮殿」の頃のシンフォニックさを感じさせる美しい曲であるが、後半になるとサックスとギターの即興演奏パートが繰り広げられるクリムゾンの集大成とも言える曲である。このアルバムでフリップは解散を宣言し、キングクリムゾンは一旦終結する。

解散後ジョンウェットンはロキシーミュージック、ユーライアヒープと多ジャンルのバンドでベースを弾き、ビルブラフォードはナショナルヘルス、ゴングとカンタベリー系で叩いたりジェネシスのツアーメンバーとしてドラムを叩く。そして78年にウェットンとブラフォードは再び合流し「U.K」を結成する。

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ディシプリン

7年後の81年にフリップはビルブラフォードと「ディシプリン」というバンドを結成するため動き出す。んだけど大人の事情で結局バンド名はキングクリムゾンになり再結成となるわけなんだけど、やっぱりやってることが全く別の音楽だし、エイドリアンブリューとトニーレヴィンというアメリカ人がメンバーにいることからもこの先はもはやキングクリムゾンとは呼べないので、また改めてディシプリンとして書きます。ってかちゃんと聞いときます。

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いやもうクリムゾン聞きながら書いてるとほんと疲れた。プログレに足を踏み入れたことを若干後悔してます。なんせ基本寿命長いし、メンバー変わりすぎだし、難解すぎて文字で書けるもんでもないし。

おすすめはやっぱり1st宮殿、太陽と戦慄、レッドくらいかな。僕はアイランズが意外と好きなんだけど。

3章図

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全体

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