ケンジロニウスの再生

ロック史を追いながら関連図を作成(関連図挫折中)

9-3 Vanilla Fugde〜偉大なるサイケアレンジ〜(第54話)

60年代末のサイケブームが終わると、70年代前半には《ハードロック》プログレッシブロックが次なるトレンドとなる。初期のハードロックの代表的なバンドがディープパープルブラックサバスレッドツェッペリンなどで、プログレ勢がピンクフロイドエスキングクリムゾンELPジェネシスなどであるが、これらは全てイギリスのバンドである。アメリカの有名なハードロックバンドといえば、エアロスミスヴァンヘイレンKISSジャーニーなどがいるが彼らが世に出始めたのは70年代半ばから後半にかけてであり、イギリス勢から5年ほど遅れてのブームであった。アメリカのプログレはというとアメリカン・プログレ・ハード》と呼ばれるものが存在するが、これも70年代後半にイギリスのプログレとハードロックからの影響で誕生したものであって、産業ロックへと進んでいく70年代後半ということもあり所謂《プログレ》とは似て非なるものだ。やはりクラシック等西洋音楽の要素が強い《プログレッシブロック》はイギリス及びヨーロッパ諸国が本場である。

なわけでハードロックとプログレはイギリスで生まれたロックであると言えるわけだが、その下敷きとなったのは共にサイケデリックロックである。もちろん個々のバンドが受けた影響は様々であるが、大まかに言えばサイケ/アートロックで取り入れたクラシック的要素や実験音楽的要素などによるロックにおける表現方法の拡大をさらに推し進めたのがプログレであり、サイケ勢の中でもブルース色が強かったクリームなどの先に生まれたのがハードロックである。

さて、ハードロックとプログレッシブロックを生んだのはイギリスであるが、その下敷きとなったサイケデリックロックは英米問わず〟である。シスコサイケのブルーチアーズジミヘンはハードロックに大きく影響を与えたし、アメリカのサイケ/エクスペリメンタル勢もプログレ誕生に欠かせない存在であり《プロト・プログレと呼ばれるバンドもたくさんいる。70年代頭にブームとなるハードロックとプログレにおいてアメリカは大きく遅れをとるわけだが、その誕生にはしっかりアメリカンサイケロックの影響があり、DNAは受け継がれているのだ。そんな中でも特にハードロック、プログレの誕生に影響を与えたとされるのがニューヨークのサイケバンド、Vanilla Fudgeである。

 

9-3 Vanilla Fugde〜偉大なるサイケアレンジ〜(第54話)

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バニラファッジはマーク・スタイン(オルガン/ボーカル)、ヴィンス・マーテル(ギター)、ティム・ボガート(ベース)、カーマイン・アピス(ドラム)の4人で66年にニューヨーク州にて結成された。

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【ファッジ】ってファッション誌にもあるけど何なのか調べたら、イギリスの伝統的な砂糖菓子みたい。キャンディやキャラメルのようなものでチョコっぽくもあるみたいだけど、日本でも普及してるの??知らぬ。とにかくバンド名は【バニラ味のファッジ】という意味であり、こういうポップな意味を持ったバンド名はサイケバンドあるあるだ。

バニラファッジはまさにNYサイケ!!って感じでもない気がするんだけど非常に重要なバンドなので一応!

 

67年に1stシングルであり彼らの代表曲となる〝You keep me hangin' on〟でデビュー。〝You keep me hangin' on〟は66年にスプリームスダイアナ・ロスがいた女性ボーカルグループ)がリリースした楽曲でありそのカバーがバニラファッジのデビューシングルとなったが、この《カバー》こそが彼らの真骨頂である。スプリームスの原曲と聴き比べてみるとわかると思うがもはや全く違う曲であり、スプリームスモータウンでソウルなポップソングがハードでサイケなロックソングに大幅にアレンジされている。そのアレンジ能力の高さも話題を呼んだが、マークスタインによる力強い歌とオルガン、ティムボガードとカーマインアピスによる強力なリズム隊は67年当時他のバンドにないものである。これがビルボードチャート6位とヒットし華々しいデビューを飾る(66年スプリームスのオリジナルは1位)。

同67年1stアルバムVanilla Fudgeリリース。

彼らの代表作であり、アメリカンサイケの重要作であるこの1stアルバムは〝You keep me hangin' on〟を含む7曲のカバー曲とオリジナル曲3曲の計10曲で構成されているが、オリジナル曲である〝Illusions of My Childhood(Part One〜Part Three)〟の3曲は20秒ほどの《繋ぎ》のようなインスト曲であり実質全てカバー曲で構成されたアルバムと言える。

さてその7曲のカバーだが、ブリティッシュロック勢からビートルズ〝Ticket To Ride〟〝Eleanor Rigby〟ゾンビーズのデビューシングル〝She's Not There〟の3曲とスプリームス〝You keep me hangin' on〟やシェールの〝Bang Bang〟などアメリカンポップのカバーが4曲となっている。

一貫して共通するアレンジは原曲に比べて大幅にテンポを落としていることであり全ての曲が重たくハードなサイケデリアに生まれ変わっている。僕はオリジナルか否かに割とこだわるほうであるが、このアルバムに関してはオリジナルと捉えていいんじゃないかと思うくらいの大胆なアレンジ。シングルでは3分弱であった〝You keep me hangin' on〟もアルバムでは7分を超える大作となっている。

アレンジの指揮をとったのはスタインとボガートであるようだが、彼らがまず熱心に行ったのは原曲の歌詞を深く読むことであった。ポップソングである〝You keep me hangin' on〟であるが歌詞の内容から苦しみや悲しみの感情が溢れていることを嗅ぎ取り、そこから言葉の持つ世界観により寄り添うアレンジを施した。〝Eleanor Rigby〟なら歌詞の不思議な世界観をより不思議な音楽に、という風に。

こうしたインストゥルメンタル面に感情やテーマを強く反映し表現する手法は非常にクラシック的であり、《プログレッシブロック》的であった。悪く言えば《大げさ》でありサイケファンにも少し苦手な人が多かったりするが(僕です)67年にこれをやってるのは異常であり、後のプログレ勢に多大な影響を与えた。特にYesは69年デビュー時のビートルズ、バーズ、バッファロースプリングフィールドらの曲の大胆なカバーアレンジにバニラファッジからの影響が強く表れている。バニラファッジは《アートロック》の代表としても語られるが、ポップソングに深みと難解さを持たせたアレンジは〈大衆音楽→アート〉というロックの動きを明確に提示したと言えるだろう。

 

サウンドの核となっているのはスタインのオルガンであるが、ディープパープルジョン・ロードはスタインのオルガンに影響を受けており、英ハードロックにとってもバニラファッジは重要なバンドである。ちなみにスタインはニューヨークのブルーアイドソウルバンド、ラスカルズ(ヤングラスカルズ)のオルガンに強い影響を受けたようで、ロックオルガンの歴史を辿ってみるのも面白いかもしれない。

そんなわけでスタインのオルガンはもちろん欠かせないものであるが、歌もなかなかのもの。初めてライブ映像を見た時体全体を使って感情的にオルガンを弾きながら手を振り回して熱唱する暑苦しい姿は衝撃的であった。

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スタインだけでなくバンド全体も大げさなパフォーマンスで、正直笑ける。そんなことから僕はどうしてもバニラファッジをネタ的なバンドとして見てしまうんだけど…カテゴリー的にはオランダのプログレバンドFocusと同じ部類に分類してしまっていて(いやFocusもネタじゃないんやけど)。

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(Focus〝Hocus Pocus〟での伝説の歯笛シーン)

 

とはいえバニラファッジの1stは全米6位、一躍人気バンドとなった。デビューまもないレッドツェッペリンを前座に従えてアメリカツアーを行ったのは有名な話で、再結成ライブか何かで「今俺たちこんなんだけどかつてはあのレッドツェッペリンを前座に従えてたんだぜ?」と自虐ネタ的にMCをしてる映像を見たことがある。バニラファッジは70年に解散し、80年代以降何度か再結成しているが、2007年にはツェッペリン「In Through the Out Door」をもじって「Out Through the Out Door」というツェッペリンのカバーアルバムをリリースしている始末(この時期のライブのMCなのかな?)。

 

68年2nd「The Beat Goes On」リリース。

Beat Goes on

Beat Goes on

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色んな国の言葉が書かれたジャケットであるが、日本語でも【音律がはずむ】と書かれてある。これが謎のアルバムで、かなり実験的。曲は1stでもカバーしたビートルズ〝Bang Bang〟の作曲者であるソニー・ボノの楽曲やクラシックやロックンロールが元となっているがPhase1〜4までPhaseごとにメドレー形式になっている。ビートルズのカバーメドレーも1stのような大胆なアレンジではなくほぼ原曲に忠実な様子である。68年であり「サージェント」以降であるので何かしら大きなコンセプトがあることだろうと思うんだけどよくわからない。調べてみるとプロデューサーに勝手に編集されたものであるようで、プロデューサーの実験性が強い作品のようだが聴きようによっては非常にプログレッシブなアルバムである。とにかくバニラファッジはビートルズの熱烈なファンなんだなってことだけは伝わってくる。

 

同年3rd「Renaissance」ではやっとバンドのまともなオリジナルソングが使用された。

サイケともプログレともハードロックともとれるバニラファッジの持ち味が十分に詰まったオリジナルソング達であるが、やはり先入観からなのか最後の曲、ドノヴァン〝Season of the Witch〟のカバーが1番良いような気がするんだな。「ネタバンド」と「カバーバンド」という2つの先入観が染み付いてしまってバニラファッジを真っ直ぐに聴けないのよね正直。

 

69年に4th「Near the Beginning」,5th「Rock & Roll」をリリースしてバニラファッジは解散。マイクスタインはブーメランというバンドを新たに結成したようだが、これは全く知らない。

 

ベック,ボガート&アピス

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やはりバニラファッジを語る上で避けては通れないのがスーパーバンドベック,ボガート&アピス

イギリスのスーパーギタリストであるジェフ・ベックは60年代末に通称第1期ジェフベックグループを率いて活動しており、69年には名盤Beck Ola」をリリースしていたがニッキーホップキンスが脱退、ロンウッドがFacesを結成するため脱退、となり第1期ジェフベックグループは事実上解散となる。

新たにメンバーを探していたジェフベックはバニラファッジのリズム隊、ティムボガートとカーマインアピスのプレイに衝撃を受ける。そしたら偶然にもバニラファッジのギタリストヴィンス・マーテルが怪我をし、代役としてバニラファッジはベックを迎えてセッションを行う。これを機にベックとボガートとアピスは新バンド結成に動き出すことになる。

当初は第1期ジェフベックグループのボーカル、ロッド・スチュアートを迎えた4人でのスーパーバンドを考えていたがロッドスチュアートもロンウッドと同じくFacesに加入することとなり、結果3人でのスタートを決めた。

がしかし、そんな69年末にベックが交通事故を起こし全治3か月の重傷を負い計画が流れてしまう。ボガートとアピスはベックの回復を待たず70年に新バンドカクタスを結成。

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カクタスは最初期のアメリカンハードロックの重要なバンドであるが、ほとんど聞いたことない。元デトロイト・ホイールズのジム・マッカーティ、元アンボイ・デュークスのラスティ・デイと共に結成。デトロイトイールズもアンボイ・デュークスもデトロイトの重要なバンドであり(ほとんど聞いてない)、前回言ったように非常にヘヴィなガレージロックを鳴らしていたデトロイト勢とバニラファッジの融合によるハードロックバンド結成、というのはものすごく納得がいく。

一方ジェフベックは怪我の回復後、第2期ジェフベックグループを始動させた。

カクタス、第2期ジェフベックグループ共に数枚のアルバムをリリースした後72年に再びベックとボガートとアピスが接触し、ようやく念願のスーパーバンドが始動する。これによってカクタスと第2期ジェフベックグループは解散した。

73年に唯一作「ベック・ボガート & アピス」をリリース。

クリーム、ジミヘンの流れを組む3ピースロックバンドの名盤としてロックファンなら聞いておかなければならないアルバムであるが、個人的には別にそこまで、って感じ。73年は遅すぎる。

とはいえこのスーパーバンドは世間を騒がし当時「最強のロックトリオ」と称され、日本にも来日している。

さらにライブ盤を1枚リリースしたが74年にはベックとボガートの確執により自然消滅。

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(BB&A周辺)

 

 

終わり

カクタス以降の話は完全にハードロックの領域になるので正直専門外で興味外!

バニラファッジの1stはアートロックとしてもサイケとしても重要な一枚!

 

バニラファッジは個人的に「ネタバンド」的な意味でFocusと被ると言ったが、「サイケカバーバンド」という意味では同じくニューヨークのGandalfとも並べてたりもします。なわけで次回は深淵のリバーブメロウサイケGandalfを!

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