『【サイケデリック】という言葉をアルバムタイトルに使った最初のアルバム』という文句で紹介されるアルバムは矛盾しているが3枚あり、66年10月〜11月にリリースされたその3枚のアルバムを《3大ファーストサイケデリック》と名付けさせてもらった(もっといい名称ないかね)。
その3枚とは
「The Psychedelic Sounds of the 13th Floor Elevators」/13th Floor Elevators
「Psychedelic Lollipop」/Blues Magoos
「Psychedelic Moods」/The Deep
である。3枚ともアメリカのバンドの作品であるがこの内13th Floor Elevatorsはテキサスサイケの回で触れ、
Blues Magoosは前回紹介した。
なので今回は最後の一つ、The Deepの「Psychedelic Moods」を!
9-6 The Deep/Freak Scene〜3大ファーストサイケデリック〜(第57話)
The Deepはラスティ・エヴァンスという人物を中心としたサイケデリックバンドであり、66年に「Psychedelic Moods」をリリース。翌年67年にはメンバーはほとんどそのままでFreak Sceneにバンド名を改めてまたもや【Psychedelic】を冠した「Psychedelic Psoul」をリリースした。
《3大ファーストサイケデリック》はもちろん66年のThe Deepの方であるが、僕の体感では67年Freak Sceneの方がサイケの重要作品としてプッシュされているように思う。まぁ単に僕がFreak Sceneと出会ってから、遡る形でDeepを知っただけで一般的にはどうかわからないけど。とにかくそんなわけでどちらかと言えばFreak Sceneの方が思い入れは強かったりするんだけど今回は《3大ファーストサイケデリック》の括りで進めたいのでまずはDeepから!
The Deep/Freak Sceneを簡単に説明するとしたら〝フォークシンガーラスティ・エヴァンスによるサイケプロジェクト〟となるだろう。
ラスティ・エヴァンス
ラスティ・エヴァンスは50年代末にロカビリーシンガーとしてキャリアをスタートさせ、60年代頭にはニューヨークフォークの聖地グリニッジ・ヴィレッジを中心に活動していたフォークシンガーであった。64年には2枚のアルバムをリリースし、65年にはThe New Christy Minstrelsに参加。
The New Christy Minstrelsは男女十数人からなる大所帯のフォークグループであり、日本でも『みんなの歌』で有名な童謡で合唱でも歌われる〝グリーン・グリーン〟の原曲を生み出しヒットさせたグループである(ある日〜パパと〜2人で〜語り〜あったさ〜♪のやつ)。ちなみにThe New Christy Minstrelsにはジーン・クラークもThe Byrds結成前の63年ごろに参加していた。
そんなフォーク畑のラスティエヴァンスが66年にサイケデリックアルバムを作ろうと思い立ちニューヨークのミュージシャンを集めて結成したのがThe Deepである。このDeepも翌年のFreak Sceneもライブを一切行なっていないので、バンドというよりはサイケプロジェクトと呼んだ方がいいのかもしれない。
The Deep「Psychedelic Moods」
66年(10月?)にリリースされ《3大ファーストサイケデリック》の中でも最も早く【Psychedelic】の言葉を用いた説が濃厚な「Psychedelic Moods」。サブタイトルとして(A Mind Expanding Phenomena)とあり、訳すと【心を広げる現象達】みたいな感じだろうか、バッチバチである。
それにしても初期のアメリカンロックはフォーク界隈の人間とブリティッシュインヴェイジョンの接触によって成り立ったと言っても過言ではない。ジェリーガルシアやデイヴィッドクロスビー、ポールカントナーらは元々サンフランシスコのフォーク界隈にいた人物であるし、ニューヨーク勢もグリニッジ・ヴィレッジ周りのフォークシンガーが非常にロックに関わっている。アメリカのルーツミュージックであるブルースだが、ブルースとロックの交わりというのはイギリスの方が盛り上がりアメリカは逆輸入的な印象がある。カントリーもカントリーロックの登場は70年付近となる。ま、ロックの一つ前のブームがフォークリヴァイバルだったってことが1番大きいんだけども。
バンドメンバーであるがギターを弾いたのが70年代にシンガーソングライターとして活躍するデヴィッド・ブロムバーグである。
デヴィッド・ブロムバーグ自体のアルバムはほとんど聴いたことがないが、彼はジョージ・ハリソンと曲を共作したりリンゴ・スター、ボブ・ディラン、ジェリー・ガルシア、イーグルス、カントリー・ジョーなど多数のミュージシャンのアルバムに参加しており非常に交流関係の広い人物である。そんな70年代に華々しい活躍を見せることになる彼の極々最初期の活動が66年The Deep、67年Freak Sceneでのギターであった。ソロキャリアでは見せることのない奇妙なギターをここでは弾いている。
「Psychedelic Moods」は直訳すると「サイケデリックな雰囲気」だ。その雰囲気の肝となっている多数のサウンドエフェクトや奇声、笑い声などのアイデアはプロデューサーのマーク・バーカンによるものらしく、このアルバムの誕生には彼の存在が大きい。マーク・バーカンについては正直詳しくは知らないんだけど作曲家でもあり、マンフレッドマンの〝Pretty Flamingo〟の作曲や、アーチーズやモンキースへの楽曲提供でも知られるようでこのThe Deepでも作曲に関わっている。
このレコードはプロモーションもされずバンドはライブも行わなかったため全く話題にならなかったようで、本人達に売る気があったのか無かったのかはわからないが僕は〈アルバム制作〉というより〈サイケデリック/LSD実験〉としてこのレコーディングが行われたんじゃないか、と思っている。フォークシンガーラスティ・エヴァンスによる全く商品としてパッケージングしていない〈サイケデリック/LSD実験〉の結果が残されていた、と言う感じで最初期のサイケデリックロックの姿として非常に貴重な音源である。
内容は1.〝Color Dreams〟や2.〝Pink Ether〟なんかの超アングラ臭のするガレージサイケが目立つが、3.〝When Rain Is Black〟や4.〝Shadows On The Wall〟のような暗くも美しい曲もあり、楽曲自体はバリエーションに富んでいてそれを統一性のある《サイケデリックな雰囲気(エフェクト)》で包んだような感じだ。《ガレージサイケ》と紹介されていることが多いが、特にB面はフォークシンガーラスティ・エヴァンスとしての色が強めに出ていてアシッドフォークと呼べるような曲もいくつかある。一見発想重視に見られがちなんだけどよく聴くと〝良い曲〟がたくさんあるんだよなー。
《ガレージサイケ》ということで言うと黒背景の曲名羅列ジャケットという類似的で67年のキム・フォウリーとマイケル・ロイドによる共同プロデュースでリリースされたガレージサイケプロジェクトFire Escapeの「Psychotic Reaction」と並べてみたり。
Fire EscapeはWest Coast Pop Art Experimental Bandの回でマイケル・ロイド関係で触れた。
↓
時を超えて96年にCD再発されてから様々なバージョンで再発されていてコレクター泣かせのアルバムでもあるが僕はコレクターではないのでノーマル再発(多分)の1枚のみ所有。
ラスティエヴァンスのサイケデリック実験はまだ続き、67年にバンドメンバーはそのままにバンド名とレーベルを変え、コロンビアレコードからFreak Sceneとして「Psychedelic Psoul」をリリース。
Freak Scene「Psychedelic Psoul」
この印象的なジャケット。目玉にはメンバーが映っているが、目玉ジャケットと言えば《3大ファーストサイケデリック》の一つ、13th Floor Elevatorsの「The Psychedelic Sounds of the 13th Floor Elevators」もである。LSD服用によるサイケデリック体験は視覚に強く働きかけるものであることからサイケと目。あと目玉ジャケットと言えばLa'sか。
レーベルを移動したことでバンド名を変えざるを得なかったのかFreak Sceneに変わっているが実質The Deepの2ndアルバムと見られている「Psychedelic Psoul」。読み方は【サイケデリックソウル】なんだろうけど、PhychのようにSoulの頭に〝P〟なんか付けちゃってさ。
プロデューサーがマーク・バーカンから変わったこと以外はほんとにThe Deep「Psychedelic Moods」の続編と呼べるサイケプロジェクトであるが、67年となると本格的なサイケブームが到来し様々なアイデアが生み出されており、Freak SceneもThe Deepと全く同じというわけではなく新たな境地へ突入している。特にA面2.〝...When In The Course Of Human Events〟や3.〝Interpolation: We Shall Overcome〟はワンコードのベースリフの繰り返しとその上で鳴るあらゆるサイケサウンドと〝会話〟のようなもので構成されており完全に《エクスペリメンタル(実験音楽)》と呼べるものである。A面は歌という歌も少なく、フォークシンガーとしてのラスティ・エヴァンスの姿は全くないと言ってもいい内容であるが、マーク・バーカン不在でもサイケ探究熱が冷めないラスティ・エヴァンスの凄みを感じる。この辺りはThe Mothers of Inventionの66年1st「Freak Out」の影響下にあるんじゃなかろうか。B面にまさにThe Deepの続編と言えそうなサイケソングが並んでいる。
4.〝Rose Of Smiling Faces〟と11.〝Red Rose Will Weep〟では笑顔の〝ローズ〟と泣く〝ローズ〟で対比されており、このアルバムが67年の何月にリリースされたかは定かではないが67年6月のビートルズ「サージェント」以降のレコーディングであるならばこういうコンセプト的な試みはやはり「サージェント」からの影響かもしれない。
ガチガチのサイケ実験群の中でラスティ・エヴァンスが時折見せるもの悲しく美しい曲では女性コーラスが入っているのも特徴。The Deepでも何曲かで女性コーラスが入っているがクレジットが見当たらないので何者なのかは謎だが非常に良い役割を果たしている。
とにかくこのアルバムがUSサイケの問題作として紹介されてるのを読んで僕はラスティ・エヴァンスを知り《3大ファーストサイケデリック》のThe Deepを知った。なのでエクスペリメンタルなFreak Sceneを聴いた後にDeepを聴いたもんだから「Deepは意外と普通のガレージなのね」という印象を受けたのを覚えている。まぁ今改めて聴くとどっちも〝異常〟なんだけどね。笑
その後
ラスティ・エヴァンスは実は仮名で、本名は
Marcus Uzilevskyっていうんだけれど。彼は画家としても有名なようで、そちらでは本名で活動し50回以上もの個展を開いたほどらしく「Psychedelic Moods」のジャケット絵も彼本人によるもののようだ。
音楽の方もThe Deep/Freak Sceneのサイケプロジェクト終了後は本名から取ったMarcus名義でソロ活動を始め、70年に「Marcus」をリリース。
Amazonの〝欲しい物リスト〟に入ったまま未だに買えていない数あるアルバムの中の1枚なんだけど、ずっとYouTubeで聴いてて、これが抜群のアシッドフォークなんだよね。正直ラスティ・エヴァンス作品の中では1番ビビッときたアルバムなのでそろそろ買いますか。
Marcus名義では79年にも「Life's Railway To Heaven」というアルバムをリリース。
こちらはサイケ臭皆無のカントリー。これはApple Musicにあったので聴いてみたが、まぁBGMには最適、といった感じ。
以上
以上《3大ファーストサイケデリック》でございました。黎明期アメリカンサイケは得体の知れないエネルギーに溢れてて面白い!個人的にはやっぱり67年,68年の熟成期やブリティッシュサイケの方が好みなんだけどね。
ラスティ・エヴァンスのサイケプロジェクト2作はサイケファン必須アイテム!
Marcusは僕もこれから買うので皆さんも買いましょう!
おしまい!
(3大ファーストサイケデリック周辺図)
(久しぶりに全体図)