ケンジロニウスの再生

ロック史を追いながら関連図を作成(関連図挫折中)

4-8 続・Twink〜激動の2010年代!〜(第59話)

Twinkの2010年代の活動について前回書くつもりでしたが、まずは彼の音楽キャリアを63年Fairiesからおさらいしてみようってことで71年Starsまで書いたところで力尽きてしまい全く2010年代まで辿り着かなかったので今回はその続きから。

前回

前回のを自分で読み返してみたんだけど、少し訂正というか…冒頭で「TVを10年持っていない」とか「ネット検索というのは情報に対して能動的」だとか言っていて、まるでネットに精通してる人間かのように語っているが実のところ僕はパソコンを持っていなければWi-Fi設備もなくネットを接続できるのは格安SIM低速回線のスマホ1台だけという非常にネット弱者なのである。お恥ずかしい。

 

さて71年Stars以降のトゥインクだが、僕が全く追っていなかったこともあるがなかなか詳しい情報を掴み取ることができない。明らかに71年以前の情報ばかりが溢れており、すなわち71年までがトゥインクの全盛期と言えるのだろう。それ以降の情報が(特に日本語の)少なくて、度々出くわす《昔のことのほうが最近のことよりもよくわかってる現象》について考えてみたり。

 

僕は〝離れたほうがよく見える〟という教訓を割と胸に刻んで生きている。物事の中にいては物事の全貌を見ることはできない。これは人間とは、生物とは何なのか、この世界、この宇宙って何なのだろうか、なんて問いに詰まった時に〝その中に自分が含まれる以上全貌は見知ることはできない〟という諦めをもたらす教訓でもあるんだが、もう少し狭い単位で言うと、ベタなのは離れてわかる恋人や友人との人間関係だったり、自分の属するコミュニティ、学校であったり会社であったり家族であったりバンドであったりを外から見てみること、客観的に俯瞰的に見るということは大事なことだったり。日々生活する街を六甲山から見下ろした時に〝生活〟というものの真理を理解するあの感覚であったり。日本を出れば日本がよりわかったり、地球を出れば地球がよりわかったり。

などなど〝離れたほうがよく見える〟は物質的距離にも精神的距離にも当てはまるが、それは《時間的距離》にも当てはまるのかもしれない。

僕は何かしらのマイナス要素を含んだ出来事や問題に対してよく言われる『時間が解決してくれる』という考え方が好きではない。それは大抵〝解決〟ではなく〝風化〟であるからだ。「いや別に風化でも苦悩が去ればいいのよ」と言われればそれまでだが僕は答えを導き出したい、男の子だから。

しかしながら時間が経てばわかる答えもあるもんだなぁ、と最近思うようになった。時間が経ち過去の問題の〝時点〟から離れることで見えてくることもあるなぁと。これは距離を取ることで過去の〝時点〟だけではなくもう少し広い範囲の〝時間〟を眺めることができるようになるからなのかもしれない。問題の〝時点〟とそれに至った要因となる〝時点以前〟、それから時間が経つと〝時点以降〟が生まれ見えてくる。これは僕が今〝時点以降〟の最中ではなく〝時点以降以降〟にいるから見えてきたのだろう。

結局何が言いたいかというと〝点〟でしか見えなかった問題が時が経つと〝時点以前→時点→時点以降〟という〝線〟、即ち〝時間〟として見えてくるようになり答えが浮かび上がってくるんだということ。これは『未来が過去を作る』という僕の持つ哲学にも繋がる話だがそれはひとまず置いておいて。

で、《時間的距離》を置き、過去を〝点〟としではなく〝線〟として捉えたほうが見えてくるってのは歴史にも言えることで、そう考えると最近の事というのはその未来がまだ訪れていないから〝線〟として捉えることができず見えてこないのかもしれない。

なわけで《昔のことのほうが最近のことよりもよくわかってる現象》〝離れたほうがよく見える〟で説明できる。

 

…てな話を僕が最近のトゥインクの活動情報を掴み切れてない言い訳にしてみたり。

4-8 続・Twink〜激動の2010年代!〜(第59話)

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さて本題は2010年代のトゥインク。冒頭から長々と言い訳したようにあんまりよくわかってないんだけど、とにかく〝相変わらず〟な姿に嬉しくなってしまった勢いだけで進めていきます。

 

しかしひとまず70年以降の歩みを。自身が中心となり始動したアシッドパンクバンドPink Fairiesを1stアルバムのみを残して脱退し、シドバレットの最後の灯火Starsへ参加した71年。その後の流浪人トゥインクの活動をほんとにほんとに簡単に。

70年代以降のトゥインク

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(【twink】で画像検索かけたら少年モノのゲイ画像がわんさか出てきて焦った。そういうスラングなのね…トゥインクを画像検索する時は【ジョン・アルダー】で検索することを推奨します。ゲロ吐きそう…)

70年代前半は同じアングラ界で仲の良かったホークウィンドとつるみながらも特に目立った活動はなかったが、75年にPink Fairiesへ再加入しライブを行った。

76年にグレッグ・リドリー(ハンブル・パイ,Steve Marriott’s All Stars)ミッキー・フィン(T-Rexのとは別人Steve Marriott’s All Stars)と共にthe Fallen Angelsを結成するが最初のライブ前に自動車事故で入院しトゥインクは離脱。またもやバンド作っては去るトゥインク。

※その後Fallen Angelsはミッキーフィン主導で動きフィル・メイ(Pretty Things)のバックバンドとなり、78年に「Phil May & The Fallen Angels 」をリリース。

Phil May & the Fallen Angels

Pink Fairiesは70年ごろのロンドンアングラの中心に君臨し、70年代半ばに誕生するロンドンパンクに多大な影響を与えたバンドであるが、トゥインク自身もボーカルとして77年にThe Ringsというパンクバンドでシングル〝I Wanna Be Free〟をリリース。

※The RingsのメンバーにはThe Advertsのメンバーが含まれていたり、トゥインクが去った後のThe Ringsのメンバーがマニアックスを結成したりと、ロンドンパンク界隈が大絡み。

 

78年には自身の音楽を《アシッドパンク》と説明し、Twink & the FairiesとしてEP「Do It '77」をリリース。〝Do It〟Pink Fairiesの代表曲であり、そのセルフカバーがA面であるが、B面の〝psychedelic punkeroo〟という曲がなんとシドバレット作だとクレジットされている。Stars時代に作ってた曲なのか…謎である。

 

そこからしばらくの間目立った行動はなかったが86年に自らのレーベルtwink records〉からシングルを発表し始め、90年に「Think Pink」以来20年ぶりの2ndソロアルバム「Mr Rainbow」をリリース。

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Tomorrow〝Mr Rainbow〟Pink Fairies〝Do It〟などのセルフカバーが目立ち、オリジナルアルバムというよりはトゥインクのキャリアを振り返るようなアルバムである。

続けて91年に3rd「Odds And Beginnings」をリリース。

こちらもPink Fairies時代の曲やカバー曲で構成されていて「あら、トゥインクも人生のまとめに入ったのね。」と思ってた。のに2010年代に謎のサイケ爆発するわけ。

2枚とも音楽性的には正に《アシッドパンク》といった感じでPink Fairiesの延長と言えるものである。

 

Pink WindとHawkfairies

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「Odds And Beginnings」ではトゥインクの最初のバンドであるFairies時代の旧友が参加していているが、90年代は他にもいろんな人とコラボレーションしている。特に目立つのはHawkwindニック・ターナーとのコラボだろう。ホークウインドPink Fairies時代のアングラ仲間であり70年ごろにPink Windとして伝説のコラボを行なっていたと言われているが、その再来といった感じだろうか。90年代半ばに行われたこのコラボライブから2枚のライブアルバムがリリースされており、95年にPink Windとして「Festival of the Sun」、96年にHawkfairiesとして「Purple Haze」をリリース。ニック・ターナーのサックスが炸裂していて、楽曲はトゥインク側Pink Fairiesの曲も多いが音楽的にはかなりホークウィンド寄りだったりして面白い。

 

そこからは2000年に「The Lost Experimental Recordings」という60年後半から70年前半ころにレコーディングされた未発表デモ集がリリースされたくらいでしばらく音沙汰がなくなる。しかしこのデモ集は「Think Pink」前後の生々しいサイケトゥインクが聞けて結構オススメ。

次に姿を現したのが2013年である。

Lost Experimental Recs..

Lost Experimental Recs..

  • アーティスト:Twink
  • Get Back
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2010年代

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(ここからは全てまだApple Musicでしか聴いてないがその内必ず手に入れる!)

 

2013年にトゥインクはThe Technicolour Dreamというイタリアのバンド、さらにギタリストにブロッサム・トゥースブライアン・ゴディングを従えて「You Reached for the Stars」をリリース。

このイタリアのThe Technicolour Dreamというバンドの詳細はイマイチよくわからないが、テクニカラードリームと言えば67年に行われた伝説的ライブ、Pink Floydらと共にトゥインクもTomorrowで参加したロンドンサイケの祭典『The 14 Hour Technicolor Dream』だ。もうここからバンド名を取ったバンドをトゥインクが従えてるだけで熱いが、さらにギタリストがブロッサム・トゥースブライアン・ゴディングだってんだから黄金のサイケ時代の再来を匂わせる要素が満載である。ブロッサム・トゥースは前にも少し触れたと思うが67年に「We Are Ever So Clean」という名盤を残したUKサイケの重要バンドである。

We Are Ever So Clean

We Are Ever So Clean

  • アーティスト:Blossom Toes
  • エアー メイル アーカイヴ
Amazon

タイトル曲〝You Reached for the Stars〟は前述の未発表デモ集にもあった曲であるので70年ごろに書かれた曲であるが、これが〝10,000Words In A Cardboard Box〟を彷彿とさせるスローな16ビートサイケデリックで胸熱。僕は完全に「Think Pink」のトゥインクサイケに虜になった人間であるので、Pink Fairies以降のハイテンポな《アシッドパンク》よりもやはりスローでディープなサイケデリックをトゥインクに求めてしまうが、それを2013年に届けてくれてたのだ(2020年まで受け取れなかったが)。

タイトル曲以外は最近書かれたものだろうが(たぶん)、1曲目〝Dead End〟なんかは60年代後半にあってもおかしくないサイケソング。アウトロとか、泣きそうになるくらい。

 

67年,68年とサイケデリックブームの中、サイケデリックを纏ったバンドは山ほどいたが、トゥインクはサイケデリックそのものだった。ブームが終わってみんながサイケデリックのマントを脱ぎ去ってもトゥインクはサイケをやめられない、裸がサイケだから。

そんなブームに左右されない生粋のサイケ野郎の姿をこのアルバムと2010年代の作品で確認した。感動。

〝日本人は曲より人間のファンになる傾向にある〟とどこかの記事で読んだことがある。トゥインクに関しての僕はまさにそうで、元々ロンドンアングラのロックヒーローとしてシドバレットケヴィンエアーズと並べて拝んでいたが、この2010年代サイケ復活の姿を見てよりシビれてしまった。なわけで正直曲の良し悪しを判断できてるかはかなり不安なところではある…

 

さてこの2013年「You Reached for the Stars」を皮切りにサイケおじいちゃんが次々とリリースしていくアルバムをチャチャっと見ていこう。

この後もThe Technicolour Dreamとのコラボは続行され、2015年に「Think Pink II 」をリリース。

ここでまさかの「Think Pink」というタイトル。そしてこのジャケット。ファンサービスが過ぎる。これが70年「Think Pink」のジャケットの森と同じ場所なのかは定かではないが、恐らくは45年後の同じ場所なのだろう。タイトルの字体も同じで。

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(70年「Think Pink」のジャケ)

「Think Pink」ではトゥインク青年が道の奥にて、「Ⅱ」ではトゥインクおじいちゃんが手前から奥を見つめている。くぅぅう!!

音楽性まで全く同じとは言えないが、落ちつくことを知らないサイケ心はやはり健在。

 

2018年「Think Pink Ⅲ」リリース。

Think Pink III

Think Pink III

  • thinkpink50th.com
Amazon

The Technicolour Dreamとは離れたようだが「Think Pink」シリーズは続行。このシリーズも過去の栄光にすがろうとか、そんなつもりが全くないのが何故かわかるのよね。彼はいまだ〝ピンクを想ってる〟んだなって。

 

2019年再びThe Technicolour Dreamと組み「Sympathy For The Beastリリース。

Sympathy for the Beast

Sympathy for the Beast

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やはりThe Technicolour Dreamと組んだ時に往年のサイケ感が溢れ出る印象。このイタリアのバンドは単体でも活動してるのか非常に気になるところ。

 

同2019年今度はMoths & Locusts (全然知らぬ)と組み「Think Pink IV: Return To Deep Space」をリリース。

Think Pink IV: Return to Deep Space

《ディープスペースへの帰還》というサブタイトルが付いた「Think Pink Ⅳ」。かなりアンビエント臭の強い実験サイケで、サブタイトルが非常にしっくりくる。トゥインク、まだサイケを楽しむ。

 

さらに2019年はシングル〝Brand New Morning / Dreams Turn Into Rainbows〟もリリースしている。

Brand New Morning

Brand New Morning

  • Gare Du Nord Records
Amazon

この〝Brand New Morning〟が初期ピンクフロイドのシングル曲を彷彿とさせる極上のサイケポップなのよ。

この曲が良過ぎるのでクレジットを知りたくて色々調べてたらレーベル公式のYouTube音源を発見、なんか情報あるかもと覗いてみたら驚愕。再生回数300回…おい、いくらアングラのサイケおじいちゃんと言えどもあのトゥインクやで…UKサイケロック最重要人物の1人やで…しかもめちゃくちゃいい曲書いてるのに。

これではっきりした。トゥインク自体はサイケファンなら絶対知ってる偉人なのは間違いないんだけど、やっぱり僕と同じでみんな最近の活動を知る術がないんやって。そんなわけでトゥインクの近況を、この興奮を伝えなければ!と書いてみたわけなんだけど。

 

以上

こんなところです。まだまだわからないことが多いですがこの先トゥインクの活動が続き、この2010年代の行く末が見えて〝線〟となった時にもう少し実態が見えてくることでしょう。

 

とにかく僕はサイケロックが好きで、時代に関係なく美しく素晴らしい普遍的な音楽だと思ってるんだけど、60年代後半のブームが去ると当の本人達が「ドラッグはまやかしだった」だとか「ルーツに還ることが正しい」だとか。そんな中この2020年になってもあの頃のまま、誰にも媚びずにサイケのど真ん中にいるトゥインクおじいちゃんをどうかよろしく。ロックの宝です。

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