ここんとこデヴィッドボウイが続きましたが僕はボウイマニアでも何でもなくて、ボウイを含めたただのロック好きなので、特にサイケ好きで、今回はちょと別のとこへ。
まだサブスクはYouTubeに勝てない
Apple MusicやSpotifyなんかのサブスクはここ数年でかなりマニアックなところまで手の届くようになって、僕もApple Musicをめちゃくちゃ利用させてもらってるんだけどそれでも無いものは無くて。これってマニアックか否かというよりもレーベルがサブスクに乗り出してるかどうかの問題なのか、その辺の事情はちんぷんかんぷんなんだけど、ここんとこApple Music→Bluetoothスピーカーという便利さに甘えた音楽の聴き方をしてる僕なんかはApple Musicにない素晴らしいアルバムを聴かない日々が続いてたわけで。
こりゃいかん!てなわけで先日久しぶりに〝YouTubeのお気に入りリスト〟を見返していた。これはかつてYouTubeで音楽探索をしていた日々の大事な履歴であり、素晴らしくもコアな60's〜70'sロックフルアルバムの宝庫だ。この〝YouTubeのお気に入りリスト〟は〝Amazonの欲しいものリスト〟とほぼリンクしていてCDを手に入れたら双方のリストから消す、というシステムで密かに運営していた。つまりここにまだ残っているものはCDを買えていないもの、そもそもCD化されてないもの、レコード高すぎるもの、とかになるんだけどそのほとんどはやはりサブスクになくて、つまりは僕が現時点で〝YouTubeでしか聴けないもの〟である。レーベルがサブスクに流すよりもマニアがアップロードする方が(違法だけどね)やはり何年も早くて、まだまだ音楽探求の最大のホットスポットはYouTubeであることを痛感した今日この頃。
さて、〝Amazonの欲しいものリスト〟に在籍し続けYouTubeで拝聴するしかない状況が長年続いているものの中にNeon PearlとPleaseという素晴らしきブリティッシュサイケバンドのフルアルバムがある。どちらのCDもAmazonにたまに出てくるが1万を超えてるもんで未だ買えず……どちらも60年代末のブリティッシュサイケバンドであり、ピーター・ダントンという奇才が引っ張ったバンドである。今回は60年代末〜70年頭にかけてこのピーター・ダントンが密かに歩んだバンドストーリーを。
4-9 ピーター・ダントンの出世魚バンド(第65話)
ピーター・ダントンはドラムボーカルでありながら鍵盤やギター、そして作曲をこなすマルチプレイヤーでありリーダーとしてNeon Pearl,Please,T2を率いた。この3バンドの流れに僕は典型的な60年代末のロック変動を見て、何となく出世魚的に括っている。ギターサイケなNeon pearl,オルガンサイケなPlease,そしてプログレへと至る70年T2(ターミネーター2じゃない)。この中で唯一CDも簡単に手に入りApple Musicにもあるのがプログレファンに愛される最終形態のT2であるが、そこへ行き着くまでのピーター・ダントンを中心とした歴史をこの3バンド以外にもいくつかのバンドを交えながら見ていきたい。
さて、久しぶりに図を書き加えていきたいのでひとまず先にGunというハードサイケバンドを全体図に繋いでおくことにしようか。
Gun
イギリスには90年代に同名のハードロックバンドがいるが、このGunは60年代末に活動していた《ハードロック/ヘビーメタル》の源流とも言えるハードサイケな3ピースバンドである。68年のデビューシングル〝Race With The Devil〟がイギリスでヒットした。68年に1stアルバム「Gun」,69年に2nd「Gunsight」をリリース。
同じく3ピースであり、ハードロックの源流となったクリームと同志向のバンドだがクリームよりもさらにハード。アメリカでいうとブルー・チアー的な。個人的には好みではないんだけど繋がりをいくつか。
ポール・ガーヴィッツとエードリアン・ガーヴィッツの兄弟とドラムのルイス・ファレルのパワートリオバンドがGunであり、ガーヴィッツ兄弟は70年代にもThree Man Army、ジンジャー・ベイカーを迎えたBaker Gurvitz Armyとトリオハードロックバンドにこだわり続けるが、68年デビュー前のGunは鍵盤をメンバーに加えたサイケポップバンドであった。その時期にYes結成直前のジョン・アンダーソンが一度だけのステージであるがGunに参加した話は有名。これで繋いでおきます!
他にもYesやAsiaなどのアルバムアートを手がけヒプノシスやキーフと共にプログレ界隈を中心にアルバムアートの代表的なデザイナーとなるロジャー・ディーンが最初に手掛けたアルバムアートが68年Gunの1st「Gun」であったり。Gunの前身バンドの時代なのかわからないがUFOクラブに出演していたとの話も。
このGunがピーター・ダントンと絡んでくるのでひとまず図に繋げておいたが一旦置いといて、やっと本編、ピーター・ダントンのストーリーを。
まずはNeon Pearlから。
Neon Pearl
Neon Pearlは67年にピーター・ダントン(ドラム・ボーカル)とバーナード・ジンクス(ベース)を中心にロンドンで結成され、西ドイツを拠点に活動したサイケデリックロックバンドである。
67年半ばの半年ほどの活動でリリースもなく人知れず終わったバンドであるが2001年に音源が発掘され「1967 Recordings」としてリリースされた。これが地味ではあるが独特の雰囲気を持っていて超お気に入り。リバーブの効いたドラムにローが強いベースが作り出す重力感とアルペジオ時々ヘロヘロ単音ギターと鬱っ気のある歌の浮遊感が混ざった素晴らしいサイケデリック。キーボードがいるらしいがほぼ3ピースで最低限の音数でのアンサンブルが心地よく、何かが足りない気は常にするんだけど何を足しても蛇足になりそうな、そんな感じ。ピーター・ダントンの世界観とメロディセンスは光るものがあり、重力感と浮遊感が同居する1.〝What You See〟、アコギを使ったフォークロック風味の4.〝Just Another Day〟、レディオヘッドへ通ずる透明感のある鬱っ気を持った6.〝Going With The Flow〟や7.〝Urban Ways〟など捨て曲なしの全8曲。重いけど軽くて、冷たいけどゆるくて、フォーキーだけどスペーシーで、不思議なバンド。
67年11月に西ドイツから帰国。ギタリストにGun加入前のエードリアン・ガーヴィッツが加入しバンド名をPleaseに改める。
Please
エードリアン・ガーヴィッツはすぐに兄ポール・ガーヴィッツが結成したGunに加入し離脱、結局元のギタリストニック・スペンサーが戻ることになりPleaseはNeon Pearlのロンドンでの再出発という形になった。
Pleaseは68年69年と活動するがこれまたリリースはなく歴史に埋もれる。時が経ち発掘された音源が98年に「1968/1969」として、2000年に「Seeing Stars」としてリリースされた。
68年半ばに1度解散しすぐに再結成。そのタイミングでメンバーの変動がいくつかあるようだが基本的にはNeon Pearl時代の仲間で編成されている。
ピーター・ダントンのゆるさと鬱さは変わらないが、サウンド的にはオルガンがメインとなった。これはプロコルハルムら《プロト・プログレ》勢が台頭し始めた68年という時代に沿ったシフトチェンジと言えるがNeon Pearlの独自性のある世界観からは離れ、数々いるオルガンサイケの一つという印象。それでも作曲者兼ドラムボーカルでありながらギター、そしてオルガンまで弾きだしたピーター・ダントンのマルチな才能には脱帽。曲もよくてB級サイケ群の中でも好きな方。
69年春にダントンはルイス・ファレルの代わりにGunに加入してPleaseを離脱。残されたPleaseのメンバーはドラムにそのルイス・ファレルを迎えてBulldog Breedとして活動を始める。GunとPleaseは双方のドラムを入れ替えた形になったわけだ。
Bulldog Breed
ダントンの代わりにGunのルイス・ファレルが加わったPleaseの変名バンドであるサイケバンドBulldog Breed。
バーナード・ジンクス、ニック・スペンサー、ロッド・ハリソンはNeon Pearl時代からのメンバーである。69年半ばにデラムレコードと契約し、唯一作「Made in England」をレコードディング(リリースは解散後の70年)。
Neon Pearl,Pleaseではこの時点で音源をリリースしておらず、ダントンが抜けたこのバンドでようやく契約&リリースというのもダントンにとってはなかなか厳しい話。ダントンはGunではレコーディングに参加していないので初リリースは70年のT2になるわけか。
Bulldog Breedは誰が主導権を握って作曲を進めたのかわからないがギターリフもののハードな曲がちらほら見え、Pleaseとは全く別物のバンドという印象。このアルバムに関してはほとんど聴けてない。
レコーディング後にロッド・ハリソンが脱退しキース・クロスというギタリストが加入するが解散。
Gunに行ったピーター・ダントンは69年夏にすぐに離脱し、ルイス・ファレルもGunに戻る形に。ピーター・ダントンはバーナード・ジンクス、ニック・スペンサーというまさにNeon Pearlな3ピースでPleaseを再々結成し結局元の鞘に収まる。少しだけ活動してPleaseはまたもや解散。これが69年9月ごろのようで、この時期の音源が2000年にリリースされた「Seeing Stars」のよう。で、Bulldog Breed以前のPleaseの音源が98年にリリースされた「1968/1969」ということか。そう思って聞いてみると、ハードなバンドであるGunを経たピーター・ダントンとBulldog Breedを経たバーナード・ジンクスとニック・スペンサーの3人での「Seeing Stars」は以前に比べるとハードなオルガンサイケに感じる。
Please解散後、ダントンとジンクスはBulldog Breedに参加したキース・クロスと新たな3ピースバンドを結成。バンドはThe Morningとして始まったが70年にはT2と名を改めた。
T2
《ハードプログレ》としてプログレファンから愛されるピーター・ダントンの出世魚バンド最終形態T2。70年にデッカレコードから名盤「It'll All Work Out In Boomland」リリース。
曲は長尺になりまさにプログレな全4曲で構成され、特に4〝Morning〟は20分の大曲となった。まずNeon PearlとPleaseでは聴くことがなかったダントンの超絶ドラムに驚く。ライブ音源や映像は見たことないが、これを歌いながら叩いてるとしたら怖すぎる。バーナード・ジンクスのベースもうねりにうねり、キース・クロスの激しいギターと絡む。1.〝In Circles〟こそトリオを強調したハードプログレであるが全体的にはアコギや鍵盤を多用していて、静と動のメリハリがはっきりとしたドラマチックな展開を持つ。ダントンがNeon PearlやPleaseで魅せた鬱っ気は2.〝J.L.T〟なんかに感じられるが独特のユルさは失われた(J.L.Tはクソ名曲)。その点は残念だがこれも時代にピッタリと沿った変化である。
アルバムリリース後にキース・クロスは脱退。ピーターダントンはその後ギタリストを補充しT2で70年代半ばまで活動したり90年代に再結成したりしてるみたいだがほぼ「It'll All Work Out In Boomland」という名盤1枚のバンドと思ってよさそう。
以上が67年のサイケバンドNeon Pearlから70年プログレバンドT2までのピーター・ダントンの物語。
その他
Asgaerd
Neon Pearlの初期段階、Pleaseの再結成、Bulldog Breedでギターを弾いたロッド・ハリソンが72年に結成したプログレバンドAsgaerd。【アスガード】は『指輪物語』から取られた名のようで北欧神話に登場する神々の王国のことであり、『マイティー・ソー』の【アスガルド】と同義だろう。
72年に『指輪物語』をテーマにした唯一作「In The Realm Of Asgaerd」をリリース。ツインボーカルという編成でプログレバンドには珍しくコーラスワーク満載。バイオリンとロッド・ハリソンのハードなギターと伸びやかなツインボーカルが特徴で非常に聴きやすいプログレ。まぁ要所要所ダサさが垣間見えるがジャケットも良くて割とお気に入りなB級プログレ。
Keith Cross & Peter Ross
T2を脱退したキース・クロスが71年にシンガーソングライターのピーター・ロスとフォークデュオKeith Cross & Peter Rossを結成。72年に唯一作となるアルバム「Bored Civilians」をリリース。
T2ではハードで激しいギターを弾き倒していたキース・クロスであるがこのデュオではアコギを中心に情緒あるギターソロやスチールギターなど繊細なギタープレイを披露。サンディ・デニーがフェアポート脱退後に結成したフォザリンゲイのカバーも収録されていてブリティッシュフォーク的な面も見えるがCS&Nらアメリカンフォークロックからの影響も強そう。
2人の歌とギターのアンサンブルに加えてピアノ、オルガン、メロトロン、ヴィヴラフォン、フルート、サックス、オーケストレーションなど多数の楽器とサポートミュージシャンにより装飾されており楽曲の構成やキース・クロスの出身バンドからも〝ぎりぎり〟《プログレ・フォーク》と呼べるものになっている。フルート奏者として参加しているのはCaravanのジミー・ハッチングス。
プログレフォークは女性ボーカル及び男女混成が多い(僕がそればかり好んでるだけか)ので男性デュオのプログレフォークは個人的に新鮮でこれは割とお気に入りなアルバム。
以上!
隠れた才人ピーター・ダントン関連でした!
サイケ好きならNeon Pearl,Please!
ハードなのが好きならGun,Bulldog Breed!
プログレ好きはT2,Asgaerd!
フォーク系好きはKeith Cross & Peter Ross!
個人的にはNeon Pearlが1番おすすめ!