ケンジロニウスの再生

ロック史を追いながら関連図を作成(関連図挫折中)

1-6 The Lovin'Spoonful〜グッド・タイム・ミュージック(第67話)

なんとなしにジョン・セバスチャンの70年ソロ1st「John B. Sebastian」を聴いてて。

John B Sebastian [12 inch Analog]

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正直ジョン・セバスチャン及びLovin'Spoonfulって何か掴みどころがないというか、《都会的》と言われる割に土臭かったり、《東のByrds》と呼ばれる割にはフォークロックフォークロックしてないし、ただグッド・タイム・ミュージック》と称されるように〝古き良きアメリカ〟な曲を書くのは確かで、長年ずっとそんな印象で。

加えて「アメリカンロックはウエストコースト!」と頭の硬い僕はあんまり深くは歩み寄れず2枚ほどCDを持っているが好んで聞くわけでもなかったんだけど、ジョン・セバスチャンラヴィン・スプーンフルを抜けて西海岸に移ってCS&Nらのサポートの元作ったソロアルバム「John B. Sebastian」を聴いてから最近ここにきてラヴィン・スプーンフルに軽くハマって(その「John B. Sebastian」には大してハマってないんだけどね)。なわけでラヴィンスプーンフルを!

 

1-6 The Lovin'Spoonful〜グッド・タイム・ミュージック(第67話)

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まず図を繋いでおこう。ラヴィン・スプーンフルはニューヨークのバンドであるので《1章CSN&Y関連》で囲うのはなかなか無理矢理ではあるんだけどそこから。

ジョン・セバスチャンは68年にラヴィン・スプーンフルを抜けて西海岸へ移り、そこでCS&Yのサポートを受けて1stソロアルバム「John B. Sebastian」をレコーディングするわけだが、知らなかったんだけど逆にジョン・セバスチャンはCS&Nの結成秘話に関わってるようで。

僕がこのブログをスタートさせた1章で書いたCS&N結成秘話では単に「ジョニ・ミッチェル宅でクロスビーとスティルスとナッシュが顔を合わせた」という風に書いたと思うんだけど、その場にはジョニ・ミッチェルの他にジョン・セバスチャンとキャス・エリオットもいたらしく、さらには場所はジョン・セバスチャン宅だって話もあって。場所がどちらかわからないが、クロスビーとスティルスがナッシュ、ジョニ、キャス、ジョンセバの前でセッションを始めてそこにクロスビーが即興で加わったのが結成秘話であるらしい。

CS&Nを結成した3人は更なるメンバーとしてジョン・セバスチャンを加えようとした、という話もあるようだがそれは叶わず結局ニール・ヤングを加えCSN&Yになったようだ。

もしジョンセバが加入したとなると、バーズのクロスビー、バッファロー・スプリング・フィールドのスティルスホリーズのナッシュに加えてラヴィン・スプーンフルのジョンセバの4人になるわけだからこりゃまたスーパーもスーパーなグループになってたわけだ。それは叶わなかったものの互いの交流は継続され68年ジョンセバの1stにクロスビーとスティルスとナッシュが参加、CS&Nでドラムを叩いたダラス・テイラーはジョンセバが紹介、CSN&Yの70年「デジャヴ」の〝デジャヴ〟でジョンセバがハーモニカで参加している。CS&Nにはキャス・エリオットがバッキングコーラスで参加してるし、ジョニミッチェルとCSN&Yの関わりは以前書いた通りで、CS&N結成時に立ち会った面々はその後も密接な交流を持つこととなる。

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こんなところから遡る形でジョン・セバスチャンラヴィン・スプーンフルの話を少し。

 

ラヴィン・スプーンフルとママス&パパスを産んだマグワンプス

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(マグワンプス)

ラヴィン・スプーンフルの話をするならやっぱりマグワンプスママス&パパスについて触れなければならないだろう。

マグワンプスはニューヨークにて64年に活動し、1枚のアルバムを残したフォークロックグループでありそのメンバーに後にカリフォルニアでママス&パパスを結成するキャス・エリオットデニー・ドハーティと後にラヴィン・スプーンフルを結成するジョン・セバスチャンザル・ヤノフスキーが在籍していたことで知られる。もう1人のメンバーであるジム・ヘンドリックス(ジミヘンじゃない)はキャス・エリオットの夫でありマグワンプス解散後はカリフォルニアでフォークロックバンドThe Lamp of Childhoodを結成した(こりゃしらん)。ジム・ヘンドリックスとキャス・エリオットはマグワンプス以前の62〜63年にThe Big 3というフォークグループで活動していた(これも聴いてない)。

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ママス&パパスとラヴィン・スプーンフルという東西の名グループを産んだ点でマグワンプスは非常に重要なグループである。64年にレコーディングされたアルバムは解散後の67年にリリースされたが、これにはジョンセバは不在でジョンセバ以外の4人の写真が上のジャケット写真というわけだ。それにしてもキャス・エリオットのデカさはすごいな。

ちなみにThe Big 3での写真も強烈!

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マグワンプスは豊かなコーラスを響かせるフォークグループであるが、同じ64年ニューヨークのフォークコーラスグループであるカート・ベッチャー率いるゴールドブライアーズと比べるとパッとしない印象。ママス&パパスがゴールドブライアーズに影響受けたって話だから、まぁ当然と言えば当然か。

マグワンプス分裂後65年にママス&パパスもラヴィン・スプーンフルも始動。

西のバーズと東のラヴィン・スプーンフル

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64年に結成されたバーズより少し遅れをとるものの、《ブリティッシュ・インヴェイジョン》の影響下で始まった黎明期アメリカンロックバンドとして西のバーズと肩を並べる東のラヴィン・スプーンフル

バーズとの比較やフォークグループ出身であることからラヴィン・スプーンフル《フォークロックバンド》と紹介されるが、どことなく洒落た雰囲気は《都会的》とよく言われ〝古き良きアメリカを思わせる〟心地よいサウンドグッド・タイム・ミュージック》と称される。

都会的だとかグッドタイムミュージックだとか言われるがその内容はフォークよりもブルースやジャズの影響が強く、特にブルース色の強い曲では都会的というよりも土臭くて、結局どっちなんだかと掴みどころがないというのが長年の印象であった。

結論から言うとラヴィン・スプーンフルの音楽の根底には《ジャグバンド》がある。60年代のフォークリバイバルの中、1920年代のジャグバンドを蘇らせようとしたイーブン・ダズン・ジャグ・バンドというジャグバンドがいて、ジョン・セバスチャンはマグワンプス加入前にそのジャグバンドに参加していた。

そのバンドでジョンセバはジャグバンドの演奏方法や彼らが演奏した戦前のブルースやジャズやカントリーを学術的に研究し、それらを60年代半ばにブリティッシュインヴェイジョンと混ぜ合わせたのがラヴィン・スプーンフルである(大まかに)。あくまでロックバンドというスタイルをとりながら当時のトレンドとは外れた音楽性を持っていたことが妙に都会的でありつつ〝古き良きアメリカ〟を思わせる《グッドタイムミュージック》としてアメリカのみならずイギリスでも人気を得たわけだ。

ジャグバンドのリバイバルと言える《スキッフル》が50年代にイギリスで流行し、その影響下に生まれたブリティッシュインヴェイジョン勢、特にビートルズキンクスに近い匂いを持つが、スキッフルをすっ飛ばした20年代ジャグバンドからの影響を直で表現したラヴィン・スプーンフルビートルズキンクスともやはり一味違う。

とはいえビートルズらブリティッシュインヴェイジョン勢やビーチボーイズ、フィルスペクターや当時のポップス、フォークリバイバルの影響もしっかり受けており、それらはシングル曲で特に感じることができる。

そんなわけで20年代リバイバルなジャグバンドのブルースやジャズとシングル曲とではかなり音楽性に違いが見られるのが掴みどころのない原因だとは思うんだけど、その影響が上手く混ざり合った曲は〝都会的〟に化け、中には《ソフトロック》と呼べそうな曲もある。

アメリカンロックはフラワームーヴメントが終わりサイケデリックが滅びた70年付近になるとルーツミュージック回帰の方向へ向かっていく。その時期に出現した代表的な《ルーツロックバンド》といえばザ・バンドCCRなんかがいるが、ラヴィン・スプーンフルは早すぎた《ルーツロック》と言えるだろう。

フォークロック、サイケデリックロック、カントリーロックと常に先駆者であり続けたバーズと20年代リバイバルに魂を燃やしたラヴィン・スプーンフルを《東西2大フォークロックバンド》と括ってしまったことがラヴィン・スプーンフルを理解するのにしばらく時間がかかった理由なんだろう。ま、当時同じくらいの人気とヒットを飛ばしてたからそう張り合わされたんだろうけど。

 

さて、ラヴィン・スプーンフルは〝古き良きアメリカ〟を思い出させる音楽性でヒットしたわけだが、決して〝古き良きアメリカ音楽〟を蘇らせただけでヒットしたわけではない。やはりジョンセバの作曲センスとバンドの演奏技術あってこその成功である。僕もまだ全てのアルバムを聴いたわけではないんだけど、彼らの残した名盤をさらさらっと。

 

Do You Believe in Magic

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先にデビューシングルとしてリリースされ全米9位のヒットを飛ばした〝Do You Believe in Magic〟を含む65年1stアルバム。約半数がトラディショナルのブルースやジャズ、カバーがロネッツ〝You Baby〟フレッドニール、残りがオリジナルという構成。まさにラヴィンスプーンフルを表すアルバムで、真骨頂ジャグバンドリバイバルな面とフォークロックなオリジナルが同居する。

フィルスペクター作のロネッツ〝You Baby〟が収録されていて、ジョンセバはフィルスペクターを好んでいたことがわかる。フィルスペクターらの60'sアメリカンポップスの根っこにはもちろんジョンセバが愛するトラディショナルジャズが存在しているので自然なことで、フィルスペクターのポップスがビーチボーイズへ受け継がれソフトロックへと行き着いたようにジョンセバのポップスはソフトロックへの道筋が見える。ラヴィン・スプーンフルが在籍したカーマ・ストラというレーベルにはイノセンストレード・ウィンドがいてニューヨークのソフトロックの流れの根本にはもしかしてラヴィンスプーンフルがいるのかも、とか思ったり。現に〝Do You Believe in Magic〟はサンシャイン・ポップと呼べる名曲だしね。

フィルスペクターは65年にニューヨークのクラブでデビュー前のラヴィンスプーンフルに出会いバーズとは違う視点からのフォークロックに感動し、熱烈なアプローチを送ったがジョンセバは「ウォール・オブ・サウンドに呑まれてしまうのが怖い」と断った、という話がある。ジョンセバはあくまで我が道を行きこの1stアルバムを作り上げたが好きな曲であるフィルスペクターの〝You Baby〟はちゃんと収録してるのよね。フォークロックに熱を持たされるだけ持たされて振られたフィルスペクターは代わりにモダン・フォーク・カルテットを手に入れるわけだが、このモダン・フォーク・カルテットのジェリー・イエスターが67年にラヴィンスプーンフルに加入するんだから面白い。

ちょっと話逸れついでにラヴィンスプーンフルのベースのティーブ・ブーンとジョンセバはボブ・ディランの65年「Bringing It All Back home」のレコーディングに参加してるのよね。バーズの「ミスター・タンブリンマン」と共にフォークロックの目覚めと言える「Bringing It All Back home」に。スティーブ・ブーンもジョンセバもベースで参加したようで、ジョンセバのプレイはセッション留まりで音源には残ってないようなんだけどね。

えーと、そんなフィルスペクターを振ってディランとも関わった年にリリースされた1st。このアルバムからシングルとしてリリースされた〝Did You Ever Have to Make Up Your Mind?〟は可愛いオルガンの音が心地よい《グッドタイムミュージック》で全米2位を記録しラヴィンスプーンフルは一気に大人気バンドに。

Daydream

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66年2ndアルバムはほぼ全曲オリジナルとなった。1stよりもソフトロックやフォークロック的な曲が多くなったが、オリジナルのブルースソングや〝ジャグバンドミュージック〟といういかにもな曲もあり1st同様2面性を持ったアルバム。

1stでもこの2ndでもブルース曲でみせるジョンセバのハーモニカは聞き応えがある。実際彼のハーモニカの腕はかなりのものらしく、CSN&Yの〝デジャヴ〟に参加したのもハーモニカ奏者としてだ。

とにかく1曲目タイトル曲〝Daydream〟は超がつく名曲。ポールはこの曲を聴いてリボルバー〝Good day sunshine 〟を書いたことをインタビューで述べている。ポールいわく〝Daydream〟は《ほとんどトラッドジャズ》でありお気に入りであるよう。

イギリスでいう《トラッドジャズ》とは正に50年代に流行しビートルズらロック誕生に大きく影響を与えた《スキッフル》のことを指すらしい。ふむふむ。ポールの〝Good day sunshine 〟〝When I'm sixty four〟辺りのジャズ風味のポップスはそうゆうところから来てんだな。

フォークロックな〝It's Not Time Now〟やサンシャインポップな〝You Didn't Have to Be So Nice〟などキャッチーな曲が多く聴きやすい。演奏上手い。ザル・ヤノフスキーのギターは地味だけど素晴らしい。ストリングスなどを使わずにほぼギターベースドラムのみでこのポップ感を出せてるのがすごい。

アルバムは米10位のヒットとなった。

Daydream [12 inch Analog]

Daydream [12 inch Analog]

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Hums of the Lovin' Spoonful

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同66年末にリリースされた3rdアルバム。僕が持ってるのがこれで、これを聴いて統一感がなく掴みどころがないと思ってしまった。しかし調べてみるとそれもそのはずでこのアルバムのテーマは「様々なスタイルで演奏しよう!」ってことらしく曲に統一感がないのは当然ってわけだ。

それでもこのアルバムがラヴィンスプーンフルの代表作として紹介されるのは彼らの最大のヒット曲〝Summer in the City〟が収録されていることが大きいだろう。ラヴィンスプーンフルには珍しく激しめでアップテンポな曲だが、とにかくサビの節回しが非常に都会的で現代風でエドシーランみたい(適当)。どこからきた発想なのか、ジョンセバ恐るべし。

〝Summer in the City〟に加えて童謡的フォークな〝Rain on the Roof〟〝Nashville Cats〟〝Full Measure〟とヒットシングル曲が4曲収録されているが、僕が1番お気に入りなのはジャジー〝Coconut Grove〟バッファロースプリングフィールド〝Everydays〟とか、こういう雰囲気のジャズナンバーが結構好き。しかしこの〝Coconut Grove〟誰かカバーしてたな、女ボーカルの…と探してたらAffinityだった。アフィニティ!キーフ傘ジャケットの、ヴァーティゴの、オルガンジャズロックの!忘れてた。このAffinityでのオルガンジャズロックなアレンジバージョンも素敵。

Affinity -Box Set-

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バーズもそうだけどラヴィンスプーンフルもイギリスロックに影響を大きく与えたバンドなんだな。

Everything Playing

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67年末リリースの4枚目のオリジナルアルバム。

ザル・ヤノフスキーがマリファナ所持で逮捕され脱退となり、モダン・フォーク・カルテットのジェリー・イエスターがギタリストとして加入。

ラヴィン・スプーンフルはもちろんブリティッシュインヴェイジョンがもたらしたバンドブームの中で出てきたグループではあるが、その〝古き良きアメリカ〟《グッド・タイム・ミュージック》なイメージから他のロックバンドからは少し浮いた存在であったよう。つまり当時のロックバンドほとんが持っていた〝ドラッグ〟のイメージはラヴィンスプーンフルにはなく清潔な印象であったようで、そういうスタンスが〝都会的〟な雰囲気を作り出したのかもしれない。とにかくザル・ヤノフスキーの逮捕はラヴィン・スプーンフルにとって大痛手で、ここからセールスが目に見えて落ち込むことになりこのアルバムを最後にジョンセバまで脱退してしまいバンドは崩壊へ向かってしまう。

なわけで事実上のラストアルバムとなる本作だが、今までのラヴィンスプーンフルサウンドの要であったザル・ヤノフスキーが抜けたからなのか時代の流れなのかストリングスなどが目立つアレンジに変わっており、元々その要素はあったが完全に《ソフトロック》と呼べるアルバムとなった。ジョンセバのポップセンスが堪能できて普通に良い。

〝Daydream〟を彷彿とさせる〝Money〟では同名のピンクフロイド〝Money〟よりも5年ほど早くレジスターの音によるパーカッションを導入。この曲をヒントにフロイドが〝Money〟を作ったかどうかまでは不明だが、驚いた。

ザル・ヤノフスキーは脱退後故郷カナダへ帰りソロアルバムを作ったようだがそれは未聴。聞いてみる。

 

Revelation: Revolution '69

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ジョンセバは前作で脱退しカリフォルニアへ。

69年に残されたメンバーでラストアルバムをリリース。ジョンセバの代わりにドラムのジョー・バトラーがほとんどの曲のメインボーカルをとっている。

悪くないんだけどね。ちなみに僕はそんなメンバー事情も知らずソフトロックっぽいジャケットからこのアルバムも持っている。

プロデュースはジェリー・イエスターと同じく元モダン・フォーク・カルテットでその後タートルズに加入したチップ・ダグラス

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以上!

ラヴィンスプーンフルはこの他に66年と67年にサントラ盤を2枚リリースしていて、これはまだしっかり聞けてないのでこれからじっくり聞こうかと。西海岸へ移ってからのジョンセバのソロも1st以外聴けてないし。ジョンセバはウッドストックにもソロで出演していて、その辺も踏まえてこれからもう少し探ってみようかと。

しかしここにきてラヴィンスプーンフルほどのビッグネームにハマるとは思わなかった。むちゃくちゃいいじゃない!

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(ラヴィンスプーンフル周辺)

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