プログレはポスト・サイケ!
3章プログレッシブロックはピンクフロイド、キングクリムゾン、イエス、ELP、ジェネシスの『プログレ5大バンド』、『元祖プログレ』なムーディーブルース、『カンタベリーの雄』ソフトマシーン関連、この程度で終わってしまっていた。70年代イギリス(及び欧州)には上記のバンドを筆頭に無数のプログレバンドが存在するが正直そこまで深く掘り進めてはいない。
僕を知る身近な人の中には僕のことをプログレ好きだと認識している人もいるかと思うが、実はそれほどでもなくて例えば5大バンドの次点のバンド、ジェントル・ジャイアントやヴァンダー・グラフ・ジェネレーター、ジェスロ・タル、バークレイ・ジェイムス・ハーヴェスト辺りなんかも本当にさっと触れた程度にしか聴いていなかったりする。イタリアやフランスなんかのプログレも全く手を出せていないし、ジャーマン・プログレと呼ばれるのもタンジェリン・ドリームにアシュラ・テンプル、アモン・デュール2を各1,2枚ほど持ってるくらいか。
もちろんプログレも好きは好きなんだけど、僕のど真ん中は66年〜68年辺り、《サイケデリックロック》や《バロックポップ》や《ソフトロック/ソフトサイケ》や《プロト・プログレ》と呼ばれるもののようで、僕はその直後に登場するプログレをいわば【ポスト・サイケ】として捉えている。ここんとこデヴィッド・ボウイについてばかり書いているが、《グラム・ロック》も同じで【ポスト・サイケ】として捉えておりやはり深くは掘り進めてはいない。ボウイとT-Rex,モット・ザ・フープルくらいだ。
プログレというのは60年代中頃から芽生え出した芸術志向のロック、《アートロック》の到達点と言えるジャンルで《サイケ》でロックに取り込んだ多様なアプローチを更に広範囲に広げて複雑化し表現の幅を広げた。つまりプログレは非常に多角的なジャンルと言え、そんなこともあってか我らプログレリスナーは割と違う地点からそれぞれの視点でプログレを捉えていたりする。クラシック側から〈クラシックとロックの融合、クラシックとポピュラーミュージックの折り合い〉を見る視点、ジャズ側から〈ジャズとロックの融合、即興音楽と構築音楽の狭間〉を見る視点、HR/HM側から〈演奏テクニックの極地〉を見る視点など。そして僕は時系列順にサイケ側から〈サイケの延長、ポスト・サイケ〉として見ている。
そんなわけで僕はサイケの延長線上にあると感じられるプログレバンドが好きで、キングクリムゾン74年「レッド」でプログレが終焉を迎えたという説を取るなら68年〜74年というプログレ期の中でもやっぱり68,69,70年辺りがサイケ臭がまだ残っていると感じられるバンドが多くて。
69年にレコーディングされ70年にリリースされたLocomotiveの「We Are Everything You See」は僕にとって正にそれで、尚且つストリングスを用いたクラシックな側面を持ちブラスを用いたジャズ的側面も持つ非常に多様性を持ったバンドでもある。プログレッシヴ!!
3-8 ロコモーティヴ〜チンパンジーの乗った機関車〜(第73話)
後期サイケともアーリープログレとも取れるロコモーティヴは割と好きだったんだけど、人脈まではあまり調べてなくて(そんなバンド山ほどある)。そこでふとCDを引っ張り出してブックレットを読んでたら意外と繋がりが多く図の書きがいのある、正にこのブログ向けのバンドだったのでびっくり。
しかし図…全体図が上手くまとまらないため諦めて、各章ごと、ジャンルごとに図を作成する方向にシフトチェンジしたんだけど、その全体図失敗の原因のほとんどは膨大な繋がりがあるプログレ界隈のせいで。そのプログレ界隈だけを抜きとってみてもやっぱりごちゃごちゃしてて、ここは諦めず整理したいとこだが少し時間がかかりそう。なわけでひとまずロコモーティヴ、適当に書きこんどく。
ロコモーティヴの超簡単な説明文としては『鍵盤ボーカルノーマン・ヘインズを中心とし、70年に唯一作「We Are Everything You See」を残したプログレバンド!』になるが、バンドの始まりは65年になる。そこから順に!
The Kansas City Seven
65年にトランペット奏者のジム・シンプソンを中心にバーミンガムにてジャズバンドThe Kansas City Sevenを結成。
このバンドにスティーブ・ウィンウッド、デイヴ・メイソンらと共に67年にTrafficを結成するサックス奏者のクリス・ウッド、60年代末にヘヴィサイケバンドSpooky Tooth、71年にはGunのガーヴィッツ兄弟とのハードロックバンドThree Man Armyを結成するドラムのマイク・ケリーなど後に活躍する人物が在籍。さらにはツェッペリン結成前のバーミンガム時代のジョン・ボーナムも叩いたとか叩いてないとか。
ジム・シンプソンは後にブラック・サバスのマネージャーとして有名になる人物で、ブラック・サバスにTrafficなどのバーミンガムのロック界隈において非常に重要な人物がThe Kansas City Sevenに在籍していた。
66年にはオリジナルメンバーはジム・シンプソンのみになり音楽性もジャズからロック寄りになりバンド名をLocomotiveに改名。【Locomotive】は【機関車】の意である。
ノーマン・ヘインズの加入
67年頭に鍵盤奏者のノーマン・ヘインズが加入したことで、音楽性の幅が大きく広がる。ロコモーティヴはギターレスであるがノーマン・ヘインズの鍵盤とトランペット、サックスのブラスメンバーとの激しい絡みが大きな特徴である。が、まだこの時期はジャズやR&B色がかなり強い。
67年末にシングル〝Broken Heart〟でデビュー。このデビューシングルの後、ジム・シンプソンが脱退しマネージャー業に専念する。ジム・シンプソンはロコモーティヴの他に同じくバーミンガムのTea&symphonyやブラックサバスをマネージメントした。
68年末のセカンドシングル〝Rudi’s In Love〟が英25位のヒットとなり、これがロコモーティヴ唯一のヒットとなる。〝Rudi’s In Love〟はスカの要素を取り入れた曲でこのヒットを機にアルバム製作に取り掛かるわけだがノーマン・ヘインズらメンバーはプログレッシブな方向性に目覚め、唯一のヒットシングルとは全く違う音楽を作り出す。マネージャーのジム・シンプソンは頭を抱えたことだろう。
70年「We Are Everything You See」
そんなこんなで作られたのが名盤「We Are Everything You See」。70年の2月にリリース。チンパンジー?が機関車?の窓から覗く奇妙なジャケット。
この時のメンバーはノーマン・ヘインズとベースのミック・ヒンクス、ドラムのボブ・ラム、それと管楽器メンバー。
プロデュースはエルトン・ジョンやデヴィッド・ボウイの〝Space Oddity〟で知られるガス・ダッジョン。こないだSpace Oddityについて書いたとこなのでびっくり。
作曲はほとんどノーマン・ヘインズによるものだが、約半数ほどTea&symphonyのニゲル・フィリップスが共作者としてクレジットされている。イカれアシッドフォークバンドTea&Symphonyはブリティッシュフォークの脈絡で書いたが作曲はほぼジェフ・ダウが行っていたのでここでニゲル・フィリップスの名前が出てきたのはこれまたびっくり。確かに所々垣間見えるアシッドなイカれ具合はTea&Symphonyに通ずるところはあるが、ノーマン・ヘインズ曰く「ニゲルフィリップスはアレンジは施したが共作とまではいかない」らしい。
1.〝Overture〟はストリングスのアンサンブルによるクラシカルなオープニング曲。ロコモーティヴは管楽器メンバーを含みロックとブラスの融合が目立つが、ストリングスの活躍も中々のものである。ガス・ダッジョンはこのストリングスアレンジャーとしてこれまたボウイ〝Space Oddity〟で仕事をしたポール・バックマスターを起用を考えていたがノーマン・ヘインズが拒否したという話もある。
2.〝Mr.Armageddon〟は69年の1月にシングルとしてリリースされたサイケプログレナンバー。この曲がこのアルバムの代表曲になると思う。ストリングスのフレーズをフィーチャーしたスリリングなバンドサウンドとプロコルハルム、またはボウイのようでもあるソウルフルなノーマン・ヘインズの歌も良い。この曲が69年1月リリースとのことなので、アルバム製作は68年末から始まっていたが事情があってリリースは70年まで遅れたみたい。なので実質69年の作品と見てもよさそう。
3.〝Now is The End/The End is When〟はスイングジャズ的なパートの差し込みが秀逸な曲。ブラス+ロックなロコモーティヴはこの曲に大きく現れている。
4.〝Lay Me Down Gently〟はムーヴ風なサイケポップ。ムーヴ及びELOもバーミンガムのバンドであり、ロコモーティヴと関わりがあるがその辺りは後ほど。
5.〝Nobody Asked You To Come〟はオルガンを基調としたサイケナンバー。ノーマン・ヘインズはこのアルバムでピアノ、オルガン、メロトロン、ハープシコードなんかを弾いているが、オルガンが特に素晴らしい。4.〝Lay Me Down Gently〟にも言えることだが基本はオルガン主体のサイケロックで、ストリングスやブラスを印象的に用いたセクションをなかば突拍子もなくぶち込むのがプログレッシブな世界を作り出す。そのぶち込み方がキマッてるんだよな。
ノーマン・ヘインズの声がサイケ声で好き。ナチュラルにビブラートしてる声というか、震え声というか。マーク・ボランとかもそんな印象。
6.〝You Must Be Joking〟,7.〝A Day in Shining Armour〟も素晴らしきサイケデリック。この中盤辺りが良曲多くて好き。
B面は8.10.12と〝The Loves Of Augustus Abbey(Part1〜3)〟という短いテーマが差し込まれており何かしらコンセプトを持って展開していく。9.〝Rain〟はベースのミック・ヒンクスの唯一作曲ボーカル曲でこれがまたトラフィックっぽいサイケでいい。
特筆すべきは11.〝Coming Down/Love Song For The Dead Che〟でこれはアメリカの元祖エレクトロバンドThe United States Of Americaのカバー2曲を繋げた曲である。まずアメリカでも最高181位のバンドのカバーをしているのに驚きだが、これがB面の一連の流れの中で非常に自然に登場する。このカバーありきでB面が作られたんじゃないかってくらい。
特徴である電子サイケは無視してオルガンサイケに仕上げており、あくまで曲の良さに惚れてカバーしたという感じか。
こんなとこかな。素晴らしきサイケ/プログレです。
その後
The Norman Haines Band
ノーマン・ヘインズはアルバムレコーディング後によりプログレッシブな作風を目指して脱退。71年に The Norman Haines Band名義で「Den Of Iniquity」をリリース。これが売れず、レアアイテムのようでYouTubeで少し聴いた程度だがちょいとハードながら良さげ。ノーマン・ヘインズは間違いなく天才であるので是非とも手に入れたい一枚。
Dog That Bit People
ミック・ヒンクスとボブ・ラムはノーマン・ヘインズの代わりにメンバーを補充してロコモーティヴを継続、ラストシングルをリリースした。その後Dog That Bit Peopleに改名し、アルバム「The Dog That Bit People」をリリース。これまた激レアで入手困難。これも良さげ。
Steve Gibbons Band
ボブ・ラムはDog That Bit Peopleの後、71年に末期アイドル・レースに加入。その後アイドル・レースはSteve Gibbons Bandに改名し、70年代半ば〜後半に活動した。これはハードロックかな??
アイドル・レースはバーミンガムのバンドであり、The Move/ELOのロイ・ウッドとジェフ・リンが在籍していたバンドである。ジェフ・リン脱退後、スティーブ・ギボンズが中心メンバーとなりSteve Gibbons Bandとなった、という流れか。
ボブ・ラムは後にプロデューサーとしても活躍し、デュラン・デュランなどを発掘。そう、デュラン・デュランもバーミンガム。ロコモーティヴはブラックサバス、Traffic、Tea&Symphonyやアイドル・レースにデュラン・デュランなどバーミンガムのバンドと何かしら関わりを持つ重要バンド、いやまぁバーミンガムのローカルバンドだ。
以上!
ロコモーティヴはサイケファンにもプログレファンにもジャズファンにもオススメ!!
(ロコモーティヴ周辺図)
プログレ図は何とかそのうち整理します!
(未整理プログレ図)
では!!