ケンジロニウスの再生

ロック史を追いながら関連図を作成(関連図挫折中)

3-10 Kestrel(ケストレル)〜プログレの落とし胤〜(第80話)

 

ロック史の分岐点

フォークロックの始まりを告げた65年ボブ・ディラン「Bringing It All Back Home」及びThe Byrds「Mr. Tambourine Man」、ロックに芸術性を吹き込んだ66年ビーチ・ボーイズ「Pet Sounds」、サイケデリックロックの幕開けとなった66年ビートルズ「Revolver」、コンセプトアルバムという概念を広めた67年ビートルズ「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」、プログレッシヴロックの出発点となった67年ムーディーブルースの「DaysOf Future Passed」、浮かれたヒッピームーヴメントやサイケブームに終止符を打ちロックをルーツに立ち返らせた68年The Band「Music from Big Pink」。

ロックの分岐点に位置する重要アルバムの一例だ。こういったパイオニア的アルバムに影響された作品が続くことで様々な派生ジャンルが生まれロックは形を変えながら拡大していった。

 

新たな時代を作ったパイオニア的作品とは逆に〝1つの時代の終わり〟を象徴するアルバムというのもある。

思い浮かぶのは76年イーグルスの「ホテル・カリフォルニア。ウエストコーストロックの終わりを告げたアルバムであるとよく言われる。

エストコーストの終わり

The Byrdsから始まり、ドアーズが誕生し、67年フラワームーブメントと共にシスコサイケが盛り上がり、その裏でビーチボーイズやフィルスペクターの影響下で数々のソフトロックが生み出されたアメリカ西海岸、ウエストコーストロック。60年代末にはスーパーグループCSN&Yやポコといったフォーク/カントリーロックバンドが登場し始め、70年に入るとアサイラムレコードからイーグルス、ワーナーからドゥービーブラザーズがデビューする。ジャクソン・ブラウンにJ.Dサウザージョニ・ミッチェルリンダ・ロンシュタットトム・ウェイツといったアサイラムSSW勢も70年代前半のウエストコーストを大いに盛り上げた。そうして続いてきたウエストコーストロックの終わりを宣言したのが76年「ホテル・カリフォルニア」だと言われている。そう言われる所以はタイトル曲〝ホテル・カリフォルニア〟の歌詞の内容によるところが大きいが、現に70年代後半になると西海岸にはジャーニーやヴァン・ヘイレンTotoといった商業ロックが続々と出始め60年代から70年代にかけて受け継がれてきた〝ロック魂〟は死滅してしまう。そういった時代の流れの分岐点、ウエストコーストロック最期の魂として「ホテル・カリフォルニア」は位置付けられている。

 

さて、時代の終わりを象徴するアルバムとしてもう一つ思い浮かぶのは74年キング・クリムゾン「Red」だ。60年代末に誕生し70年代前半のイギリス及びヨーロッパ諸国で盛り上がったプログレッシブロックブームの終わりを象徴するアルバムだ。

プログレの終わり

レッド(紙ジャケット仕様)

レッド(紙ジャケット仕様)

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60年代末のイギリス及びヨーロッパ諸国ではサイケデリックロックの延長としてさらにアート性を強めたプログレッシヴロックへと突き進んでいくことになる。その目覚めは67年ムーディーブルース「Days Of Future Passed」であるが、時代を切り開く起爆剤となったのは69年キング・クリムゾンクリムゾン・キングの宮殿だろうか。無数のプログレバンドが誕生し、70年代前半に全盛期を迎え怒涛の勢いを見せたプログレッシヴロックは74年付近に急減速する。それは英プログレ5大バンドを見ても一目瞭然である。

  • ピンク・フロイド:73年「狂気」をリリースして長期休暇に入る。
  • エス:72年「危機」をリリース後ビル・ブラフォード、リック・ウェイクマンが順に脱退し減速、74年「リレイヤー」リリース後にはそれぞれがソロアルバムをリリースするなどしバンドとしてのリリースが77年まで途絶える。
  • ELP:73年に「恐怖の頭脳革命」をリリースし、74年にツアーを行ったあと活動休止。
  • ジェネシス:74年「眩惑のブロードウェイ」リリース後にピーター・ガブリエルが脱退し、方向性の変更を余儀なくされる。
  • キングクリムゾン:74年「Red」で解散。

こうしてプログレブームは終焉を迎えるが一般的にその終焉を宣告したとされるのが74年キングクリムゾン「Red」である。この後肥大しすぎたアート志向の逆張りと言えるパンクが登場し、英ロックは新たな時代に突入することになる。

 

プログレの終わり〟の直後のプログレ

今回紹介したいのはこの「Red」の直後に、〝プログレの終わり〟を宣言された直後に現れたKestrelというバンドだ。もちろん70年代後半にも、そこから現在までにもたくさんのプログレバンドがデビューしてるしいいバンドもたくさんいる。が、おそらく2度と70年代前半の熱が戻ってくることはないだろう。そのプログレ黄金時代の終わりに時間という壁に守られた一本の線を「Red」が引いたとしたら、そのすぐ外にいるのがkestrelであり、その一本の線がいかに重要かというのを体感させてくれるのが彼らの75年唯一作「Kestrel」である。そういった時代の流れと照らし合わせて「Red」と「Kestrel」を聴くと面白いのよね。

3-10 Kestrel(ケストレル)〜プログレの落とし胤〜(第80話)

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さぁケストレル

一般的にプログレファンから愛され、〝マイナーのメジャー〟的一枚として人気の高いアルバムとよく紹介されているが、これに対して僕は「ほんまか??」と疑っている。ある程度密かに人気があるのは間違いないだろうが一般的に〝プログレファンが愛している〟とはどうしても考えにくい。

僕がYoutube&AmazonのコンボでCDを漁ってた時代にケストレルと出会ったが、Youtubeで冒頭を聴いて「お、よさげやん」とジャケットにも惹かれてAmazonで購入し全編聴いてみると「思ったのと違う」となったアルバムである。僕は75年のこのアルバムを聴いた時に「やっぱり74年でプログレの時代は終わったんだな」と思ったし、〝プログレファンから愛される〟という前情報に疑いを持った。

確かにイエスELPジェネシスからの影響をぷんぷん感じるし、プログレ専門楽器と言ってもいいメロトロンを初期クリムゾンばりに使用してたり、楽曲の構成やフレーズなんかにもプログレ要素が散りばめられている。が、〝プログレとはかけ離れている〟メロディやフレーズやビート感も同居しているのがケストレルである。プログレとポップの融合というのもよく言われているが、70年代後半からのイエスジェネシスのようなプログレ→ポップへ鞍替えしたようなものでもなくて音楽性的にはArgentなんかに近い印象(Argentはゾンビーズ解散後にロッド・アージェントが組んだプログレポップロックを融合させたような音楽性を持つバンド)。もちろんプログレとも呼べるが、アートロックと呼ぶべきか…まぁブリティッシュロックだな。やはりプログレ黄金期ファンには許されない顔を持っていると思うし、ただ英ロックとして見れば優れたアートロックだとも思う。なので〝頭の硬いプログレファンより英ロックファンに愛される名盤〟ってのがしっくりくるかな(おれ頭硬ぇ!)。

 

なんだろう、〝プログレブームの終わりを告げた「Red」の直後にリリースされたプログレアルバム〟という肩書きが妙にしっくりくるのよね。いや個人的にこんなにカッコよさとダサさが同居してるバンドってあるんだって思うんだよな。手放しに絶賛することはできないけど、コケにすることもできない、で割と聴いてるってゆー。

 

ケストレルは71年に結成されて74年にキューブ・レコードと契約し75年に唯一作「ケストレル」をリリース。ほとんどの曲を作曲したギタリストのデイヴ・ブラックがバンドの中心人物。ボーカルのトム・ノウルズのポップなメロディとデイヴブラックのギタープレイ、キーボーディストのジョン・クックELP的鍵盤、ジャズ的アプローチ、クリムゾン的メロトロンなんかが持ち味。

 

ケストレルはアルバムを1枚残したのみで76年に解散するが、その解散理由は中心人物であるデイヴ・ブラックがとあるバンドに引き抜かれたことにある。アルバム「ケストレル」を紹介する前にそちらの話から。

 

The Spiders From Mars

今年に入ってからちょこちょことデヴィッド・ボウイ図を作成していて、前回70年3rd「世界を売った男」とそのバックバンドであるThe Hypeについて書いた。

その後のボウイのバックバンドとなるのがかの有名な火星の蜘蛛達、スパイダース・フロム・マーズであるがデイヴ・ブラックは76年にそのバンドに加入することになる。が、ボウイとは直接関係ない。

ハイプのベースでありプロデューサーであったトニー・ヴィスコンティが70年にボウイの元を離れ、パイプは崩壊。代わりにトレヴァー・ボルダーが加わり、ミック・ロンソン(ギター)、ウッディ(ドラム)、トレヴァー・ボルダー(ベース)の3人でスパイダース・フロム・マーズとなる。71年「ハンキー・ドリー」72年「ジギー・スターダスト」73年「アラジンセイン」とボウイのグラム全盛期を支えるが、73年のツアーのラストでボウイは急にジギーというペルソナからの卒業を宣言する。ボウイ扮するジギーと共に火星から来たという設定を持っていた蜘蛛達はここでお役御免となる。半ば捨てられた形になったスパイダースフロムマーズだが、さらにバンドの花形であるミック・ロンソンがソロデビューを目論み脱退し解散となる。

75年にウッディとトレヴァー・ボルダーはバンドの再編を試み、ボーカルにピート・マクドナルド、そしてギターにケストレルのデイヴ・ブラックを加入させ76年に1枚のアルバムを残したのだ。

こちらはハードロックな感じでほぼ興味がなくしっかり聴いたことないが作曲にもデイヴ・ブラックは大きく関わっている様子。

デイヴ・ブラックはその後このスパイダースのボーカルのピート・マクドナルドとGoldieというバンドを結成。ドラムはケストレルでボーカルを務めたトム・ノウルズ。

ゴールディは78年のシングル〝Making Up Again 〟がイギリスでヒットするがこれ一発で消滅。こちらは〝まさに〟な70年代後半のポップロックで僕の苦手な部類。

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ケストレル周り図、ボウイから繋いどきます。

プログレ図でのボウイはYesのリックウェイクマンから。リックウェイクマンはボウイ69年2nd「Space Oddity」に参加しその後ボウイからスパイダースへの加入を打診されたが断った。断ったものの71年4th「ハンキードリー」72年5th「ジギースターダスト」にも参加している。

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75年唯一作『ケストレル

ケストレル

ケストレル

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さてケストレル。1枚しかアルバムを残さず、そのアルバムも商業的に失敗したにもかかわらず英ロックファンからの支持を受け続けているが、それにはこの鳥のクチバシを着けた英国紳士の魅力的なジャケットの力も大きいだろう。

【kestrel】は和名で【チョウゲンボウ】というハヤブサ科の鳥のことのようで、なるほどその鳥のクチバシをジャケットの男は着けてるんだな、と思ったがチョウゲンボウを調べてみると「まさにそう!」とは言えない結果に。

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チョウゲンボウ

ちなみに裏ジャケには代わりに外した〝ヒトの鼻〟がテーブルに置かれているという素晴らしきシュールさ。好き。

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このジャケットと個人的にセットにしてるのがアラン・ハルの73年「パイプ・ドリーム」。こちらも向かって左斜めに構えた英国紳士の絵という共通点があり、口に加えたパイプと鼻が繋がっているというシュールさが光る好きなジャケットだ。またアラン・ハルについても書けたら!

パイプ・ドリーム

パイプ・ドリーム

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ではアルバム内容を軽く。

1曲目〝The Acrobatはその名の通りデイヴ・ブラックによるアクロバティックなリードギターから始まり、いったい何個メロがあるんだというアクロバティックな曲展開をかましてくる。ところどころでYesからの影響を感じられるがとにかく歌、歌、歌といった展開で少ししんどい。ボーカルのトム・ノウルズはYesのジョン・アンダーソンというよりはボウイやピーガブに近いタイプの歌い手だと思うが、ビートに対して前のめりな歌が個人的には気になる。特にこの1曲目。リズムより少し前のめり気味な歌と代わる代わる展開していくメロはつかみどころがなくてサラサラっと流れていってしまう印象……このトム・ノウルズは前述した通り後にGoldieでドラムを叩くんだけど「おっ、もしかしてドラムも前のめりなのか?!」と聴いてみたらこちらではタイトなビートを刻んでいた。リズム感がないわけではないようで、この前のめりな歌はワザとなんだったら何の効果があるのか、気になる。

ケストレルはポップな歌が大きな特徴だが、僕はインストゥルメンタル面に光るものがあると思っていて、この曲の間奏も素敵。デイヴ・ブラックは冒頭こそブチかましているが、基本的にはバッキング系のカッティングギター中心で鍵盤のジョン・クックが彩りを与えている。のでELPチックな面が垣間見えたり。

2曲目〝Wind Cloud〟プログレというよりは60'sな雰囲気漂うソフトサイケでこのアルバムで1番お気に入り。歌も良し、トム・ノウルズなのか…?とにかく間奏とエンディングに登場する階段状に降りてくる鍵盤フレーズがたまらんのです。

3曲目I Believe In You〟ギターポップロック、4曲目〝Last Request〟はパワーバラード。ここら辺で気づくと思うが明らかにプログレ黄金期の影響を受けてはいるがプログレと呼べる曲は少ない。

プログレッシブロックというのは〝従来のロックの枠を超えた表現を志すロック〟であると僕は思っている。それ故にポピュラーミュージックとしては不向きな曲の長さや難解な歌詞になりがちなわけだが音楽性としては様々で、例えばピンクフロイドなんかは突き詰めればブルースロックで、クリムゾンはジャズとクラシックで、この2つのバンドは全く違う音楽をやってると言える。でも双方一聴してプログレッシブロックだと理解できるのは「何か途方もないことを表現しようとしてる」と感じるからということに尽きると思っている。ポピュラーミュージック性と音楽探究性の割合がかなり音楽探究性に寄っているのが一聴してわかり、それがどこか傲慢で鼻につくところでもあるんだけど。

そういう意味でケストレルプログレ黄金期の〝音楽性〟を継承してはいるが、一聴してプログレッシブロックだとは感じない。プログレッシブロックは70年代前半に難解でありながら一大ブームを巻き起こし、つまり商業的に成功し、つまりポピュラーミュージックとして成立した。ケストレルは何というかブームとなったプログレッシブロックをポピュラーミュージックとして受け取り継承した、というイメージのバンドでありこれは明らかに75年という新たな時代に生まれたスタイルなんだと思うのだ。良くも悪くも表現の限界に挑む鬼気迫る魂は失われているように思う。

ただ僕が言いたいのはI Believe In You〟〝Last Request〟ケストレルプログレではなくブリティッシュロックバンドだと思えば普通に良曲であるということで、《プログレファンに愛される》という紹介文句はどのファン層にも悪く作用するんじゃないか、ということだ。それでも僕自身プログレの章でケストレルを書いてしまっていることは置いといて…

そう思えば6曲目〝Take It Away〟なんてロジャニコやフリーデザインがやっててもおかしくないソフトロックに聴こえるしね。

しかしプログレファン的目線で聴くと非常にもったいない気持ちになるのが5曲目〝In The War〟。5拍子のスリリングな冒頭からYesの〝Siberian Khatru〟を彷彿とさせるイントロセクション、展開は無理矢理ではあるが歌い出しは初期クリムゾンで聴けるグレッグ・レイク的なシンフォニック、そして最後は〝クリムゾンキングの宮殿〟ばりのメロトロンの洪水、とプログレ黄金期要素がふんだんに盛り込まれた曲であるが、途中に超ダサいポップロックセクションが挟み込まれている。歌で言うところの『No,the batlle is won now〜』から始まるセクションだ。何回聴いても「ゲッ」って思う。特にイントロがかなりスリリングでカッコいいだけにもったいない。

8曲中7曲がデイヴ・ブラック作曲であるが7曲目〝End Of A Affair〟のみ鍵盤のジョン・クック作曲。オルガンにピアノとジョン・クックがフィーチャーされた曲。

ラスト〝August Carol〟。これもイントロのギターリフめちゃかっこいい。が歌が前のめり、ってかベースがモタってるのか…何にせよリズムが散漫な気がしてモヤっとする。この曲は2部構成になっており、2部はアルバム全体のクライマックスといった感じでメロトロンの大洪水を拝むことができる。何故に生のストリングスよりメロトロンのストリングス音のほうが〝王宮感〟がでるのか。まぁ絶対〝クリムゾンキングの宮殿〟のイメージのせいなんだろうがやっぱり不思議な楽器だメロトロン。そのメロトロンにデイヴ・ブラックのギターソロが入ってきてアルバム終わっていく。間違いなくデイヴブラックが中心人物なんだろうが実はギターソロというギターソロがこのアルバムあんまりなくて、この最後のキレキレのギターソロを聴く限りもっと弾いてもいいのに、と思ってしまう。

 

終わり

僕の持つ再発CDにはボーナストラックとかはないが、この8曲の他に音源あるんだろうか。また調べてみます。なんか書き終わってみるとネガティブキャンペーンになってしまった感が強いが、とにかくUKロックファン必聴!!

では!

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(3章プログレ図)

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