ケンジロニウスの再生

ロック史を追いながら関連図を作成(関連図挫折中)

11-5 We All TogetherとTelegraph Avenue〜ペルーロック伝説〜(第94話)

前回、前々回とペルーのロックについて書きました。

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前回は《ペルー2大サイケ》Traffic SoundとLaghoniaについて触れた。反米スタンスの軍事独裁政権下のペルーで60年代末から70年代頭にかけてこの2バンドがMaGレコードから英詞のサイケ/プログレロックアルバムを残したことはペルーロックの伝説であると言えるだろう。そんなペルー2大サイケバンドの片割れであるLaghoniaの素晴らしきプログレッシーヴォアルバム71年2nd「Etcetera」にMaGレコードのオーナーの息子カルロス・ゲレロがバッキングボーカルとして参加したことをきっかけにLaghoniaはそのカルロス・ゲレロを中心としたバンドへと作り替えられ、バンド名をWe All Togetherと改めて72年に再デビューすることとなる。

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というところまでが前回のお話。今回はそのWe All Togetherについて!あとTelegraph Avenueという日系ペルー人を中心としたヒップでソフトなラテンロックバンドを!

 

11-5 We All TogetherとTelegraph Avenue〜ペルーロック伝説〜(第94話)

We All Together

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見ようによってはレーベルのオーナーの息子がLaghoniaを乗っ取ったようにも見えるが、そんなことは置いといていいほどにこのカルロス・ゲレロの歌と楽曲は素晴らしい。Laghoniaでほぼ全曲の作曲を担当していたコルネホ兄弟の楽曲は少なくなり、Laghoniaで炸裂していたカルロス・サロムのオルガンはピアノに置き換えられ、Laghoniaでメインボーカルだったサウル・コルネホはバッキングボーカルに移り、Laghoniaで辿り着いたプログレッシーヴォは消え去ってしまった。が、そんなことは置いといていいほどにカルロス・ゲレロの歌と楽曲は素晴らしい。

ブリティッシュビート、サイケデリックムーヴメントに影響を受けて英米に2,3年遅れる型でTraffic SoundやLaghoniaはサイケ/プログレをペルーにて披露したが、We All Together(カルロス・ゲレロ)は70年代イギリスのポップロックに焦点を絞った。その対象はビートルズメンバーのソロ活動やバッドフィンガーであり、リアルタイムのブリティッシュポップロックを吸収し放出したのだ。悪く言えばもろパクりだが、それだけで済まないクオリティ。というか〝パクる〟ことがどれだけ難しいことか。ビートルズが世界で一番影響力を持ったバンドであることは紛れもない事実であるのに丸パクリ〝できた〟バンドはいない(Rutlesがいるが)。We All Togetherはビートルズメンバーのソロ(70〜72年ごろの)においての丸パクリに成功した世界的にみても数少ないバンドの一つである。

72年に1stアルバム「We All Together」をリリース。

ポール&ウイングスの71年1st「Wild Life」から2曲、バッドフィンガーの70年1st「Magic Christian Music」から2曲のカバー曲4曲を含む全10曲。まずこのカバーが全て素晴らしい。ポールはビートルズ解散間際からこの時期、スタジオでの過剰な装飾を嫌っており「Wild Life」もかなりラフなアレンジと録音で作られている(僕はポールの飛び抜けたポップセンスは装飾してこそ輝くと思ってる)。「Wild Life」はポールの歌も結構ラフで曲はいいのにもったいないなぁと思っていたので、We All Togetherの〝Tomorrow〟〝Some People Never Know〟のカバーを聴いた時は「これだ!」と思った。演奏やアレンジは本家の完コピに近いが、歌とコーラスワークがかっちりハマっている。カルロス・ゲレロの声はポールっぽくもジョンっぽくもあるがカート・ベッチャーっぽくもあり、まぁ反則だ。バッドフィンガーからは〝Carry On Till Tomorrow〟〝Walking In The Rain〟(本家のタイトルは〝Walk Out In The Rain〟)をカバー。これまたどちらも素晴らしい出来だが、〝Carry On Till Tomorrow〟はシングルとしてもリリースされWe All Togetherの代表曲となった。バッドフィンガーが意識していたかは不明だが、この曲はサイモン&ガーファンクル風の暗いフォークロックで、サイモン&ガーファンクルは69年にペルーのフォルクローレ「コンドルは飛んでいく」に歌を付けてカバーしており、ポール・サイモンは72年のソロ移行後アンデス民謡や南米音楽に傾倒していく。そんなこともあり〝Carry On Till Tomorrow〟はペルー人に親しみやすい曲だったのかも、とか思ったり。

ポールとバッドフィンガーのカバーとなるとかなりポール・マッカートニー色が強いように思うがオリジナルはむしろジョン的要素が強い。オープニング曲〝Children〟8.〝Why〟は「イマジン」に収録されていてもおかしくないピアノを主体とした名曲。しかもジョンのソロ風の曲でありながらジョンのビートルズ期特有の〈気怠さ〉を持たせており、まさに理想的なジョン(俺だけ?)。6.〝Hey Revolution〟は終盤で一瞬ビートルズ〝Revolution〟を引用していることからパロディと捉えそうにもなるがいやいや素晴らしいブルージーサイケ。個人的にはこの曲とビートルズ〝Revolution〟とトゥモローの〝Revolution〟とで《三大サイケレボリューション》と括っている。

そして2.〝Young People〟が曲構成から歌からスライドギターから全てがジョージソロ。バラバラになってしまった70年代ビートルズを一つのアルバムにまとめ上げたこのアルバムは感動モノ。

アレンジの発想はLaghoniaに比べるとシンプルだが、コーラスワークがカートベッチャー並に重厚で決して陳腐なポップロックではない。

コルネホ兄弟の楽曲は2曲。4.〝It's a Sin to Go Away〟はイエス風(〝Sweetness〟)のオルガンのイントロが印象的で、ラスト〝The City Will Be a Country〟はCS&N風のカントリー/フォークロックで、とりわけビートルズバカなのはやはりカルロス・ゲレロのようだ。

 

1stリリース後Laghoniaサウンドの要であったカルロス・サロムが脱退。代わりにTraffic Soundでベース兼鍵盤を弾いていた(3rdで脱退)ウィリー・ソーンが加入し、74年に2ndアルバム「Volumen Ⅱ」をリリース。

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(繋がるペルーロック!)

これが1st同様のスタイルで素晴らしい曲が並ぶが、ジャケットが雰囲気モノすぎてなかなか手が出ないアルバムなのよね…これを機に聴き込みたいところです。

この2ndをリリースして74年に解散。とにかくビートルズ好きなら必聴!個人的には僕のように「Wild Life」あんまりな人にこそ聴いてほしい。

 

あと1組、Telegraph Avenueだけ!

 

Telegraph Avenue

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60年代末、日系ペルー人のボー・イチカワ(市川)はサンフランシスコに滞在しピッピー文化の洗礼を受ける。帰国して69年半ばにTelegraph Avenueを結成。【Telegraph Avenue】はサンフランシスコの通りの名前から付けられた。メンバーはボー(ギター)、Chachi Luján(ギター)、Alex Nathanson(ベース)、Walo Carrillo(ドラム)の4人。シスコ譲りのヒップなサイケにラテンリズムなパーカッションを組み合わせたサウンドが特徴。

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70年にはリマで人気のバンドとなり71年にMaGから1stアルバム「Telegraph Avenue」をリリース。

TELEGRAPH AVENUE

TELEGRAPH AVENUE

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Alzo&Udineの68年唯一作「C'mon and Join Us」の1曲目〝Something Going〟のカバーから幕を開ける。Alzo&UdineはNYのソウル/ソフトロックデュオ(恥ずかしながらこのブログのコメントで教えていただき去年知ったところ)であるが、彼らが再評価されたのは90年代に日本の渋谷系界隈が60's,70'sのソウル/ラウンジミュージックをフリーソウルとまとめて紹介してかららしく、CD再発も日本発である。つまり70年代当時はほとんど知られなかった存在でるにもかかわらず、それをカバーしているTelegraph Avenueはよっぽどの音楽マニアに違いない。このカバーが南米のラテン要素と完璧にマッチした素晴らしいものであるが、元々Udineのパーカッション(Alzo&Udineは12弦ギターとパーカッションの異色デュオ)はラテン音楽の影響が大きいので、それを南米ペルーのバンドがカバーするのはむしろ逆輸入的なものとも言える。ソフトロックはボサノヴァの影響も強いし、南米音楽とソフトロックは通ずるものがある。

なわけでこのTelegraph Avenueの1stはソフトロックファンにも響くだろうアルバムであるが、シスコ譲りのヒッピー感を強く持っているのが特徴。2.〝Happy〟4.〝Lauralie〟などハッピーでヒッピーな曲と、まさにラテンでパーカッシブルな3.〝Sweet Whatever〟のような曲が自然に同居しているのが面白い。まさにシスコサイケなファズギターも登場するが基本的には穏やかで心地よい。B面1曲目の〝Sungaligali〟は〈すんが〜りがりがりすんが〜りが〜り〉という呪文のようなパートが強烈な印象を残す。これはインド等東洋系のメロディにも聴こえるが、自らのラテンルーツのものなのだろうか。パーカッションはTraffic Sound同様コンガとヴィブラスラップによるものだがTraffic Soundよりも洗練されたイメージ(ヴィブラスラップは僕も好きで持っているが、元となったのはラテン楽器のキハーダであるらしく、彼らが使ってるのは正しくはキハーダのよう)。

 

アルバムリリース後バンドは一時休止し、ベースとドラムのAlexとWaloは72年にアルゼンチン人のメンバーとTarkusというハードロックバンドを結成し一枚アルバムを残す(未聴、これもMaGからリリース)。

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ELPの「タルカス」が71年であるので間違いなくそこから取られたバンド名だろう。

Tarkusは一年足らずで解散し、Telegraph Avenueは再始動。75年に2nd「Telegraph Avenue Vol.2」をリリース。

Vol. 2-Telegraph Avenue

Vol. 2-Telegraph Avenue

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Tarkusを経たメンバーのせいか時代のせいか1stとは一転かなりハードになった印象。数曲相変わらずなヒッピーハッピーな曲もあるが。

Discogsのバイオグラフィーによると75年にリリースされたこのアルバムが〝70年代のペルーで最後にリリースされたロックアルバム〟とのことで76年〜79年までペルーではロックアルバムがリリースされてないそう。続いて軍事独裁政権は本質的に音楽シーンを終わらせた〟とある。この事実はTraffic Sound,Laghonia,We All Together,Telegraph Avenueという優れたペルーバンドの60年代末から70年代前半の短い時期の活動を伝説化するに十分な根拠だろう。熱い。

 

ペルーロック終わり!

他にも掘っていけばまだまだいるんだろうが、ひとまず代表的な4組を!

Traffic Soundの2nd「Virgin」、Laghoniaの2nd「Etcetera」はサイケ/プログレ好きなら!

We All Togetherの1stはビートルズ好き必聴!

telegraph avenueの1stはソフトロックファンに響くはず!

彼らがペルー国内でどれほどの扱いなのか、伝説的ロックバンドとして扱われているのか、いつかペルー人と話す機会が会ったら聞いてみたいものです。

いやー素晴らしいペルーロック。

では!

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(ペルーロック図)

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英米外ロック図)

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