ケンジロニウスの再生

ロック史を追いながら関連図を作成(関連図挫折中)

KING CRIMSON『MUSIC IS OUR FRIEND JAPAN2021』12.2.フェスティバルホール

・作品至上主義

僕は〝作品至上主義〟的なところがある。『リボルバー』や『ペットサウンズ』を発端に66年〜69年にかけてライブ再現を度外視した多くのスタジオ作品が生み出された。ビートルズはライブを辞め、ブライアンウィルソンもスタジオに篭ったこの時期にはそもそも結成時からライブを念頭におかないバンドやプロジェクトも多く誕生している。ライブを度外視し、作品に焦点をあてることで自由度の高いアレンジやエフェクトを施すことが可能になり、楽曲はより洗練されていった。僕はこの時期のスタジオ作品群に思いっきり心を奪われ、「作品」こそが最も純粋で最も正義であるという頭になってしまったわけだ(コンセプトアルバムやトータルアルバムというよりも楽曲そのものの作品性としての意味合い)。そんなわけで実のところライブ音源やライブにほとんど興味を示さないスタンスを取ってきた。ペンタングルの2ndやEL&Pの『展覧会の絵』のようにライブ音源をオリジナルアルバムとしてリリースしている例を省くと、ライブアルバムはほとんど聴いていない(ディランのようにあまりにもアレンジが違いすぎるものは聴いてる)。「オリジナル音源はただのその時の記録であり楽曲は常に変化していく」とするディランや「楽曲はライブでこそ完成系に至る」とするグレイトフル・デッドや「偶然性の音楽」を試行する実験音楽家らの考えは理解はできるが、僕はレコードに封じ込められた作品としての音楽にどうしようもなく魅かれてしまうのだ。同じ理由でブルースやジャズのアドリブセッションにもさほど興味を示していない。

・死ぬ前に一目見ておこう

僕がロックに夢中になった時はもう21世紀で、ロック黄金時代を生きたレジェンド達はもうお爺ちゃんになろうとしていた。お爺ちゃんの何人かは精力的にツアーを行い、日本にもライブをしに訪れていたのだが、僕はそれを無視して彼らが60's70'sに録音した作品をひたすら聴いていた。

そんな日々を過ごし、2010年代ともなると本格的に次々とロック界のレジェンドの訃報が飛び込む時代になっていた。するとライブにさほど興味のない僕でも「死ぬ前に見とかないと」という感情が芽生え始めた。それからやっとなるべくビッグアーティストが関西に来たら行こうと思うようになった。それでも「なるべく」だ。ボブ・ディラン、ポールマッカートニー、エリッククラプトン、あとクーラ・シェイカーくらいか。思い出すのは2011年、イーグルスの来日をパチンコで金をすって逃したこと。大阪公演当日は布団の中で大きく後悔した。

来日公演に対してそんな程度な僕が「なるべく」から「必ず」に考えが変わったのは今年2021年になってからで、それはコロナ禍で来日公演の有り難さを実感したことと、8月にチャーリー・ワッツが死んでしまったことが大きい。そんな「関西にレジェンドが来たら何も考えず行こう」期に突入した僕の最初のライブが今回のキングクリムゾン来日だった。

KING CRIMSON『MUSIC IS OUR FRIEND JAPAN2021』12.2.フェスティバルホール

f:id:kenjironius:20211205014138j:image

〝作品至上主義〟だとか言っても、僕だってライブの素晴らしさは知っている。言わずもがな生で視聴できること、ミュージシャンと同じ時間空間を共有できることだ。ディランを観たとき、ポールを観た時、彼らの声を生で聴けたことに大きく感動した。あのCDの、レコードの中の住人が現実に存在し、自分と同じ場所を共有していることに涙が流れた。ロックに狂わされ多くを失ってしまった人生、悪くなかった(おい、まだ終わるな)、そう思わせてくれる体験だった。しかしこれは厳密には「音楽的感動」とは種類の違うものだ。それよりももっと大きい、人生に関連した感動だった。その経験は何よりも大切で忘れ難いものだが、ライブ音楽に完全に納得いったかといえばそうでもないのが正直なところだ。そもそもライブとは「音楽的感動」を得る場所ではなく、「ライブより音源の方が音楽的に良い」だとか「ライブの音響がスタジオ音源より良いわけがない」だとか言ってること自体が馬鹿げていたのだ。ライブの素晴らしさはその全てをひっくるめた「体験」にこそある。そんな誰もが言葉にせずともわかっていることを、わざわざ言葉にして理解したがるから僕は色んなことを逃してしまう。

・我が人生とクリムゾン

f:id:kenjironius:20211205023139j:image

そんなわけで12月2日、大阪フェスティバルホールにあのプログレッシブロックの雄、キングクリムゾンを「体験」しに行ってきた。しかしそもそも僕は人生の感動を得るほど、クリムゾンに没頭した人生を送ってこなかった。聴き込んだのは74年『RED』まで。ディシプリンクリムゾンは『discipline』と『Three of a Perfect Pair』を軽く聴いて、エイドリアン・ブリュートニー・レヴィンという2人のアメリカ人加入による変化に衝撃を受けたがそこまで踏み込まず。90年代00年代の再再再結成(?)ヌーヴォメタル期なんかは太陽と戦慄part4とpart5(level 5)をやってるらしいね、ってくらいで。2010年代から始まったこのトリプルドラムライブクリムゾンもYouTubeで何度か観た程度だった(〝Heroes〟演ってた時のライブかな?)。なので今回のツアーメンバーでハッキリと知ってるメンバーはクリムゾンオブクリムゾンであるロバート・フリップと2nd〜4thまで在籍したメル・コリンズ、ディシプリンクリムゾン以降を支えたトニー・レヴィンくらいで、ボーカルのジャッコジャクジクとトリプルドラムの面々はよくわかってなかったり。それでも現行クリムゾンは『RED』以前の曲もかなり解禁してるし、ディシプリン以降に疎い僕でも生クリムゾンを体感できるだろうと一か月前くらいから『RED』以前のアルバムをワクワクしながら聴き直していた。

・いざフェスティバルホール

f:id:kenjironius:20211205031837j:image

フェスティバルホールは昔祖母とさだまさしのライブを観に行ったぶりで、リニューアル?してからは初めて。早めについたので物販の列に並んでみて太陽と戦慄Tシャツを購入。久しぶりにタイダイ染めしようかと目論み白Tにした。

f:id:kenjironius:20211205032031j:image

コロナ禍での来日公演、直前まで本当に開催されるのかと不安であったが、なんとまぁぎりっぎりセーフの開催でしたね、11/30に政府から鎖国が発表されましたから。当然会場には事前にコロナ関連の個人情報入力をメールで送る必要があるんだけど、入り口前で「なんやねん、聞いてへん」とわめき散らかすジジイが出没。大阪とはいえそれなりの教養がなければクリムゾンを観に来ないと思うんだけど、残念でござんす。そんなジジイを横目にホールに入り着席。

f:id:kenjironius:20211205045854j:image

9列目の11番(左側/フリップの逆側)というかなり前の席で観ることができた。トリプルドラムを前列にしたステージ配置は迫力満点。トニーレヴィンはエレキベースとスティックとアップライトを使うのか、とかメルコリンズはサックス、フルートにクラリネットオーボエ?)も吹くのか、とか真ん中のドラマーは鍵盤も兼任するのね、とか考えてる間に開演。

・第1部

01.トリプルドラムタイム
02. Pictures of a City
03. The ConstruKction of Light
04.宮殿
05. Neurotica
06. 太陽と戦慄パート2
07. Peace
08. Discipline
09. Indiscipline
10. Islands
11. 太陽と戦慄パート1

トリプルドラムのセッションからの幕開け。バスドラとフロアのローのデカさに驚いたが流石の迫力。パズルのように合間を縫っていく3人のドラムは見てるだけで面白い。そこから〝Pictures of a City〟、正直この初期楽曲ではトリプルドラム(これはダブルだったかな?)が邪魔な気がした。特にこの曲では〝21世紀の精神異常者〟に酷似したキメキメ間奏パートが登場するのだが、それがごちゃついてなにがなんだか。ナチュラルにかかってしまうホールリヴァーヴのせいかもしれないが。それでも70年2nd『ポセイドンのめざめ』からの楽曲が聴けたのは嬉しかった。フリップのチョーキングで上がっていくフレーズも堪能できたし。続いて〝The ConstruKction of Light〟、この曲はわからなかったが(調べたら2000年12thアルバムのタイトル曲のよう)トニーレヴィンがスティックを持った時点で80's以降の曲だろうことはわかった。ディシプリン以降はほとんど聴いてないがそれでもトニーレヴィンのスティックには度肝を抜かれた人間で、意外とディシプリンクリムゾンの映像は昔結構見ていた。

(エレファントトーク聴きたかったぜ)

スティックってのは10弦とか12弦あるベースのような弦楽器をタッピング奏法で演奏する特殊な楽器なんだけど、それを生で見れたのはよかった。ってかエレキベースも左手だけで弾いてる瞬間があったような。トニーレヴィンはスキンヘッドだからかずっと見た目が変わらないし、あの横に揺れながら弾くスタイルも80'sから変わってない。そのトニーレヴィンがエレキベース持つかスティック持つかで次曲がRed以前かディシプリン以降かが予測できるわけだ。で、エレキベースを持ったやいなや〝宮殿〟が始まった。フリップメロトロン炸裂!手を思いっきり広げたかったが、皆んな静かに鎮座していたので大人しくメロトロンの洪水に浸っていた。この曲はドラムのフィルインが多いのでそれをドラマーが分け合ってるのが面白かった。間奏のコリンズによるフルートは美しかったが、やはりホールリヴァーヴの影響か輪郭がボヤけ気味。仕方ない!ライブってそうなのよね!続いて〝Neurotica〟、82年ディシプリンクリムゾンの2作目『Beat』の楽曲だ。この曲は聴いたことがあった。ボーカルのジャッコジャクジクの歌はRed以前の曲はかなりマッチしてると思うんだけど、ディシプリン以降はやっぱりエイドリアンブリューの癖が強すぎるせいか違いすぎるか。で〝太陽と戦慄パート2〟。この辺の曲はどうしてもビル・ブラフォードが恋しくなってしまうんだけど、トリプルドラムの妙を体感。〝Peace〟を挟んで(〝Pictures of a City〟の前に演ればいいのにとか野暮なこと思っちゃった)、なんと〝Discipline〟、〝Indiscipline〟の連続。このディシプリン期曲は本家4人での鬼気迫るぶつかり合いと比べると落ち着いてる感があるが、それでも現7人編成でリアレンジし挑戦する様は見応え満載だった。正直開演直後は音響が団子状態になり気味で不安だったが(無駄すぎるPA卓チラ見を何度か)この辺りから調整したのか耳が慣れたのかあまり気にならなくなる。エイドリアンブリューのあの狂気じみた語り歌(叫び?)はなかったが、ジャクジクとレヴィンのハーモニーもよかった。で、〝Islands〟。ここでおもいっきり感動した。ここまでは僕はクリムゾンと向かい合っていたが、ここで完全にライブ空間に包まれた。4th『Islands』は割と思い入れのあるアルバムだったが、まさかこの曲が1番刺さるとは思いもしなかった。欲を言えばなんとか〝Prelude〟から繋げて演ってほしかった、そしたら泣いてたろうな。しかし〝Islands〟とか〝Peace〟では割とロバートフリップが暇な時間があるんだけど、ジャッコジャクジクやメルコリンズが頑張ってるのを横からジッと見てるのよね。特にジャクジク、あんな近くからあんな顔で見られたらプレッシャー堪らんやろなぁと。トニーレヴィンは信頼されてそうだが、コリンズとジャクジクはまだ審査されてそうな、なんとなくそんな気がした(笑)。フリップは近頃妻トーヤとのYouTuber活動でだいぶ厳格さが損なわれきたんだけど、それでもクリムゾンのマスターとして威圧感はバリバリ健在。

美しき〝 Islands〟が終わり、第1部ラストが〝太陽と戦慄パート1〟。事前に東京公演やアメリカツアーのいくつかのセットリストを見た限り、太陽と戦慄はパート1,2のどちらかって思っていたのでびっくり(〝Discipline〟〝Indiscipline〟も同じく)。この12/2はまだ第1部なのにもう終わってまうんじゃないかってくらい詰め込まれたセットリストだった。

・第2部

12.トリプルドラムタイム
13. Epitaph
14. Red
15.トニーレヴィンタイム
16. Radical Action II
17. Level Five
18. Starless

アンコール
19. 21st Century Schizoid Man

1部の2部の間に15分の休憩があったので、多くのニコチン中毒者と共にテラス喫煙所へ。皆それぞれ1部の余韻に浸りながらニコチンを摂取していた。2部も1部と同じくトリプルドラムセッションで幕開け。からの〝エピタフ〟。かつては1stの中で1番好きな曲だったので大興奮(今はのっぺり感が否めない)。そして〝Red〟。疲れてきたのか2本のギターが少しブレ気味だったが、まぁいいでしょう!Red以前の楽曲のトニーレヴィンのベースアレンジはどれも秀逸だったが、〝Red〟が1番はじけてたな。その〝Red〟のギターメロを基盤としながらアドリブで弾き散らかすトニーレヴィンによるアップライトベースソロタイムを挟み、〝Radical Action II〟。この曲は知らなかったが後から調べるとこの7人編成になってから作った曲のよう(2015,6年頃?)。続いて〝Level 5〟こと太陽と戦慄パート5。クリムゾンは71年4th『Islands』まではシンフォニックな側面が強いバンドだったが、73年5th『太陽と戦慄』以降は「リズム遊びとインプロヴィゼーション」を強調したバンドになっていく。僕はクリムゾンをどうしても「74年Red以前/81年ディシプリン以降」で区切りがちだったが、実際は「71年Islands以前/73年太陽と戦慄以降」で区切ったほうが正しいのではないかと今回のライブを経て思った。繰り返されるヘヴィなバッキングリフや単音リフに複雑なビートが絡み、その上でサックスやリードギター等がアドリブをかます。このスタイルはディシプリンクリムゾン、ヌーヴォメタル、そして現行クリムゾンまで続いてるように思う。だから『太陽と戦慄』や『Red』の楽曲はこの7人編成でもしっくりきた。本編ラストの〝スターレス〟も。何やら同一会場で複数公演がある場合〝21世紀の精神異常者〟を演らない日がある、という噂を聞いていて、現に東京国際フォーラムの2日目は〝精神異常者〟をやってなかった。大阪も2日間公演があったのでそれなりに覚悟していたものの、やはり最初で、そしておそらく最後となるだろうキングクリムゾンのライブ、是が非でも生〝精神異常者〟は聴いておきたいという想いはあった。〝精神異常者〟は演るなら大抵アンコールのようで、演らない場合は〝スターレス〟がアンコール。なので本編ラストで〝スターレス〟が始まった時はまずアンコール〝精神異常者〟の確定に歓喜した。一つガッツポーズを決めたところで、落ち着いて〝スターレス〟に集中。なんといってもフリップの超絶サステインギターメロだけで感無量。後半のインプロパートも圧巻。やはりコリンズのサックスは輪郭がはっきりしなかったけど、大満足。そしてアンコール、〝21世紀の精神異常者〟。ジャクジクの歪みボーカルも再現度高いし素晴らしかった。というかもう完成度とかどうでもよかった。少なからずプログレにハマった人生、それを胸を張って肯定できる瞬間だった。MC一切無し、メルコリンズはソロ終わりに何度か楽器を客席に向かって掲げていたが、その他のファンサービスといえばラストの〝精神異常者〟でドラマー3人がブレイクで一斉にスティックを放り投げたくらい(すまんけどこれは要らんかったわ…)。欲を言えばあと〝ムーンチャイルド〟を聴きたかった…〝レッドナイトメア〟も演らなかったなー…サプライズで〝ヒーローズ〟演らんかなぁという淡い期待もあった…

現行7人編成クリムゾン

クリムゾンは常に積極的に音楽実験を試みてきたバンドだ。70年代半ばにプログレッシブロックは限界を迎え、多くのプログレバンドが音楽探究の足を止めていく中、大衆に一切媚びることなく80'sも90'sも独自の道を突っ走ってきた。この現行のトリプルドラムクリムゾンもまた新たな実験体の一つであるのだろうが、過去曲を次々解禁していっていることもあり「ファンに媚びた金稼ぎロートルバンド」と見えなくもないのは確かだ。というか僕はそれでよかった。「音楽的感動」よりも「ロックを愛した僕の人生の感動」を得にいったところはあるから。しかし観終わってみるとしっかりと7人編成クリムゾンという最新の怪物の姿を認知することができた。全ての楽曲が7人編成用にリアレンジされ、そりゃオリジナルの奇跡感はないし、『Red』の時の黄金トリオのケミストリーもないし、ディシプリンクリムゾンの鬼気迫る緊張感もないかもしれないが、現行クリムゾンは現行クリムゾンの形がしっかりとあった。個人的MVPはジャッコジャクジクで、これは個人的に事前評価が低かったこともあるんだけど、素晴らしいボーカルだったと思う。ジャッコジャクジクってマイケル・ジャイルス(オリジナルドラマー)の娘と結婚してるんだってね。スキッゾイドバンドからのメンバーらしいから、そこで縁があったのかしら。ってかこの〈MUSIC IS OUR FRIEND〉ってツアーは夏にアメリカから始まって今日本に来てるんだけど、そのアメリカツアーでのライブ音源がもうすでにリリースされてるんだってね。

僕は『Red』までのオリジナルアルバム7枚をひたすら聴いてたんだけど、予習としては絶対これを聴いておくべきだった。クリムゾン日本公演も残すところ今日12/7と明日12/8のオーチャードホールのみですね。これでおそらくツアーは最後だろうと囁かれてますが、どうなんでしょう。実はポールやディランやクラプトンは一度観たからもういいか、と思ってるんだけど、クリムゾンはまたチャンスがあるなら行きたいですね。そう思わせられる内容でござんした。長々と失礼。このブログ始まって以来初のライブレポでした。

Listen on Apple Music

Try Apple Music