ケンジロニウスの再生

ロック史を追いながら関連図を作成(関連図挫折中)

映画『ザ・ビートルズ:Get Back』を観て(Part 2 ④)

映画『ザ・ビートルズ:Get Back』パート2、続きです!

前回↓

kenjironius.hatenablog.com

1969/1/23

奇声セッション再び

ヨーコ奇声セッション再び。これに対して、というよりヨーコのバンドへの近さに対して周りはあまりよく思っていない、というのが定説だ。しかしこの時もトゥイッケナムでの時もポールは奇声セッションにガッツリ参加している。心中ノっているのかは定かではないが、冷めて引いている様子ではなく、実験的セッションとして捉えようと努力している感じだろうか。ヨーコの距離感には疑問を覚えつつも前衛芸術家としては評価していたのか…個人的には前衛芸術家としては素晴らしい人だと思うが、前衛音楽家としては評価に値する人ではないかと…

時間ないのにふざけるほど上機嫌

ビリー・プレストンがもたらした音楽的充実感によりメンバーは非常に上機嫌。予定しているライブが迫っており、時間がないのにふざけまくるほどに。先行映像で見れたふざけまくるメンバーの姿はここで見ることができる。これに対してジョージマーティンが厳しい表情なのが笑っちゃう。


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やる気に溢れるジョージと不安定なジョン

29日にプリムローズ・ヒルで、という具体的なライブ予定がようやく立てられた。

ライブまで一週間を切っているわけで、ふざけるのもそこそこに本格的に取り組まなければならない。本当にビリープレストン参加によるメンバーのやる気上昇は一目瞭然で、特に顕著なのがジョージ。数日前に脱退騒動を巻き起こした男とは思えないほどやる気に満ち溢れており、〝ゲットバック〟のアレンジに対しても積極的に意見を出している。

ジョンも昨日に引き続きノっている様子だが

「昨日は叫んでばっかで最悪だった」

という発言もあり、やはりかなり不安定な様子。昨日の22日は映像を観る限り誰よりもテンション高かったからね。

ビートルズとドラッグ

ご存じの通りビートルズは皆ドラッグを嗜んでいた。ポールは長年マリファナを愛し続けたし、ジョージはLSDに、リンゴはコカインにハマった。ちなみにジョージはこのゲットバックセッションの頃はドラッグに見切りをつけて瞑想に没頭している(70年代半ばにカムバックするけど)。とにかくメンバーみんな何かしらドラッグにハマっていたわけだがヘロインにハマったのはジョンだけだった。ヘロインは数あるドラッグの中でも最上位に危険とされており、この後立て続けに死んでいくジャニス・ジョプリンジミ・ヘンドリックス、ジム・モリソンもヘロインを愛用していた。エリッククラプトンも70年代前半にヘロインにより廃人と化したことがある。ビートルズは〝みんな〟ドラッグをやっていたがマリファナLSD、コカインとジョンがハマったヘロインとでは実はドラッグのレベルが全然違うのだ。「ポールはマリファナを愛していたがジョンのヘロイン中毒には嫌気がしていた」というのは実は全く矛盾してなかったりするわけで。

とにかくこの『Get Back』にはヘロイン中毒による不安定なジョンの様子がちらほら残されている。21日にマイケルリンゼイホッグ監督から頼まれて撮った

今夜のホストはローリングストーンズです

という《ロックンロールサーカス》の紹介文句をこの数日間何度も何度も繰り返したり。

1969/1/24

Two Of Us〟見事な変貌

トゥイッケナムでのセッションの初めのほうから試行錯誤していたTwo Of Us。ジョンが歌詞を覚えようとしなかったり、ビートを強調したバージョンを演ってみたり苦戦していた曲であるが、ここで変貌を遂げる。ベースレスのアコースティック編成、ポールとジョンのニ声ハーモニー、見事な着地だ。この曲にはビリープレストンの直接的貢献はないが、アップルスタジオに移動しビリーが参加したことで歯車が上手く回り出したことを表すシーンだった。

5人目のビートルズ

ビリーの存在の大きさをメンバーもハッキリと感じていて、ビリー不在の中ビリーの話題に。

アップルレコードに移籍させよう(この後実現する)とかそんな話で盛り上がる中、ジョンがはっきりと

ビリーは5人目のビートルズ

と発言。

《5人目のビートルズと呼ばれる存在はほんとにたくさんいて。ビートルズの父であるマネージャー、ブライアン・エプスタインビートルズの音楽の父であるジョージ・マーティン。広報担当のデレク・テイラーにロードマネージャーのニール・アスピノール。元メンバーのピート・ベストスチュワート・サトクリフ。後に〝フリー・アズ・ア・バード〟と〝リアル・ラブ〟やビートルズメンバーのソロをプロデュースしたジェフ・リン、このゲットバックセッションの頃にポールとジョンが絶賛し70年代にはジョンと交流を深めたハリー・ニルソン。〝ジェントリーウィープス〟でギターソロを弾いたエリック・クラプトンなどなど。

そんな数々の《5人目のビートルズ》の中でもビリープレストンはかなり有力な5人目のビートルズといえるだろう。『アビーロード』と『レットイットビー』という2枚のアルバムに貢献してるし、シングル〝Get Back〟に関しては〈ビートルズwithビリープレストン〉名義でリリースされたほどだもんな。

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1969/1/25

インドの話


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ポールが昨68年インド訪問の際のフィルムを昨夜見たことをメンバーに伝える。冒頭シーンから順を追って説明していきその演出を絶賛。しかしまるで借りてきた猫のようにかしこまっている自分たちの振る舞いに後悔している、と発言。自分たちらしく振る舞えば良かったと。

するとジョージが

自分らしさを探しに行ったのに?

と一言ぐさり。

エプスタインを亡くして見失ってしまった自分達を探す旅がインド訪問だった。そのインドを振り返り〝自分らしく〟振る舞えばよかった、という発言は確かに破綻している。恐らくは昨夜フィルムを観て、結構面白かったよ、くらいのことを皆に報告したかっただけなんだろうけど、ポール痛恨のミス。

そしてジョージは

(自分らしさが)見つかったら今こんなことになってない

と付け加えた。

セッションの雰囲気は非常に良くなってはきたが根本的な問題は解決はしていないことを匂わせるシーンだ。

アランパーソンズ登場

アラン・パーソンズがちらりと登場。『Get Back』ではほとんどピックアップされてないが、70年代後半からアランパーソンズプロジェクトを率いて活躍したアランパーソンズは69年当時20歳という若さでこのゲットバックセッションとその後続くアビーロードセッションにアシスタントエンジニアとして関わっている。

〝For you blue〟とジョンのスチールギター

ジョージが持ってきたブルース曲〝For you blue〟のセッション。ピアノに新聞をかましホンキートンク風の音色に変えるアイデアは秀逸。ジョンはスチールギターを弾いていて、ブルースの真似事をできることが嬉しいのか新しいオモチャを買ってもらった子供のようにハイテンション。自身のスチールギタープレイを自画自賛し、みんなに同意を求めるが、誰も聞いてない、というやりとりが非常にコメディチックで面白かった。

やる気の逆転現象

この日のセッションは特に満足感を得られたのか、ジョージは

最高のスタジオ、最高のセッションだ

とまで発言。ずっとギターを弾いていたい、こんなことは初めてだ、と。ジョンももうここ数日ずっと上機嫌なのでもちろんやる気満々。やっとメンバーみんなの気持ちが一つになった!

と思いきやポール謎のテンションダウン。むず痒い、ポールはほんとに良くも悪くも人間味ある。あれだけメンバーにやる気を出せと先導していたのに、いざみんなのやる気がみなぎったらポール失速。これは恐らくポールが思い描いたプロジェクトとは変わってしまっているからで、自分の思った道順でメンバーがやる気になったわけではないことに不満を感じている、って感じだろうか。天邪鬼なとこもあるか。

元々TV特番のために撮っていた密着映像は映画へ流用する方向(数日前にハイテンションジョンが映画にしろ、と発言)で話がシフトチェンジしていたが、それに関しても「映画ならこのカメラじゃ画質が…」とか完全にイヤイヤ期に入るポール。あらら。

その後ライブの話になるが、予定していたプリムローズ・ヒルでのライブは不可能となり、監督のマイケルリンゼイホッグとエンジニアのグリン・ジョンズにより今いるアップル事務所の屋上でするのはどうか、という案が出される。この案にはポールがいの一番に飛びつき屋上を視察、やる気を取り戻すポール!でもこれももしジョージやジョンがポールより早く屋上ライブに食いついていたらどうなってたかわかんないな…笑

〝Let It Be〟鬼セッション

かなり疲れ果てた様子の中延々と続く重たい重たい〝Let It Be〟のセッションでパート2は幕を閉じる。

スタジオの移動とビリープレストン参加によりかなり加速したゲットバックセッション。ジョンとジョージは完全にやる気に満ち溢れた!しかしやはり拭いようのない歪みのような、そんな不穏な空気を残して終わったパート2でした!

パート3へ続く!

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