映画『エコー・イン・ザ・キャニオン』を観て
先週観に行った映画『ローレルキャニオン〜夢のウエストコーストロック〜』に引き続き、同じくローレルキャニオンをテーマにしたドキュメンタリー映画『エコー・イン・ザ・キャニオン』を観てきました!
先週『ローレルキャニオン〜夢のウエストコーストロック〜』について書きましたが、今回はこの2作品を比較しつつ『エコーインザキャニオン』の概要と感想を書いていこうと思います!
結論から言うと僕は『ローレル・キャニオン』の方が何倍も楽しめました。ただ、『エコーインザキャニオン』にもまた違う面白さはあります。この2作品が同時期に日本で公開されることを知った時、「おいおい大丈夫か、話被るでしょーに」と思ったものです。しかし観終わってみるとこの2作品は同テーマを取り扱っていながら全く違うアプローチをとっていました。
ヘンリー・ディルツという当事者を案内人としてローレルキャニオンの物語を丁寧に時系列順に振り返った『ローレル・キャニオン』。対して『エコーインザキャニオン』ではボブ・ディランの息子であるジェイコブ・ディランが案内人となっています。このことを前情報で知った時「何故ジェイコブディランが?」という疑問と違和感が少なからず湧きました。父親のボブ・ディランはニューヨークのイメージが強いし、ジェイコブがやっていたウォールフラワーズも(数曲しか聴いたことないが)ローレルキャニオンサウンドとはほど遠いものだと感じたからです。
そんなわけで、少々の不安と期待を抱えて古くから知る地元の映画館へと足を運びました。
以下、ネタバレ含みます↓
映画『エコー・イン・ザ・キャニオン』を観て
『エコーインザキャニオン』は2018年にアメリカで公開された映画で、この度日本で公開されるのは約4年遅れということになります(『ローレルキャニオン』は2020年のTVドキュメンタリー)。60年代半ば〜70年代頭までのローレルキャニオンの物語の素晴らしさを伝える、という点で『ローレルキャニオン』と『エコーインザキャニオン』のコンセプトは一致しているが、その方法は全く違うものでした。
ウエストコーストロックリヴァイバルプロジェクトのドキュメンタリー
『エコーインザキャニオン(2018)』、『リンダ・ロンシュタット(2019)』、『ZAPPA(2020)』、『ローレルキャニオン(2020)』、このペースは明らかにウエストコーストロック及びローレルキャニオンサウンドのリヴァイバル運動が起こっているとしか考えられません。そんな空気感を感じつつ観に行った『エコーインザキャニオン』はまさにリヴァイバル運動そのもの、といった内容でした。実のところ『エコーインザキャニオン』はローレルキャニオンのドキュメンタリーではなくて、正確に言うと「ウエストコーストロックリヴァイバルプロジェクトのドキュメンタリー」だったのです。
そのリヴァイバルプロジェクトの概要はジェイコブ・ディランを中心にBeckやノラ・ジョーンズ、フィオナ・アップルといった次世代のミュージシャン(といってももう4,50代)による60'sウエストコースト/ローレルキャニオンサウンドのカバーアルバム制作及びライブです。
そのカバーアルバムのレコーディング風景とライブ映像が映画の軸で、間間にジェイコブディランが直接レジェンド達に当時の話を聞きにいくインタビュー映像が挟まれている、という構成。事前情報無しで観に行ったので「あ、え、そういう感じなのね」とびっくりしました。
『エコーインザキャニオン』というタイトルをなんとなく「ハリウッドの山々に【こだまする】ローレルキャニオンの音楽」的な感じに捉えていたが、そのタイトルには「ローレルキャニオンサウンドを今の世代まで響かせよう」という意味が込められていることが映画冒頭で明かされました。その仲介役がジェイコブディランやベック、ノラジョーンズといった今の世代でもまだ馴染みのある(ぎりぎり?)ミュージシャンというわけです。まさにリヴァイバル運動!
レジェンド達の今の姿と声
この映画の軸はカバーアルバム制作とライブだ!といってもやはり醍醐味は当時のローレルキャニオン関係者へのインタビューシーンになるでしょう。ジェイコブディランが直接レジェンド達の元を訪れ、当時の話を聞きに行く、「ディランの息子」というのも乗っかって非常に興味深いものになっています。
『ローレルキャニオン』の方は当時の写真とインタビュー音声が基本構成だったのでレジェンド達の“今の姿”はほとんど見れなかったが、『エコーインザキャニオン』ではしっかりと年老いた今のレジェンド達を見ることができます。インタビューに登場したのはデヴィッド・クロスビー、スティーヴン・スティルス、グラハム・ナッシュ、ロジャー・マッギン、ミシェル・フィリップス、ブライアン・ウィルソン、リンゴ・スター、エリック・クラプトン、ジャクソン・ブラウン、トム・ペティ(誰か忘れてる気がする…)。
傲慢で性格が悪いことで有名なデヴィッド・クロスビーが普通にいいお爺ちゃんだったこと(とはいえこの映画以降でもTwitter等で問題発言連発)、太りすぎて心配になったがブライアン・ウィルソンがめちゃくちゃ元気そうだったこと、年老いたロジャー・マッギンを初めて見れたこと、爺さんになったグラハムナッシュが「音楽は世界を変えると今でも思っている」と言ってくれたこと、などなどロックファンにとって嬉しいシーンは多くありました。
ただインタビュー内容のほとんどはWikipediaに載ってる類の有名な話が多く、初めて聞けるようなものは少なかったと思います。それでも「クラプトンとバッファローの面子がマリファナ所持で捕まった際スティルスだけが逃げた話」や「バーズがキャロルキング/ジェリーゴフィンの〝Goin' Back〟を収録したことがクロスビー脱退に繋がった話」、「ビートルズ〝If I Needed Someone〟の12弦フレーズはバーズ〝The Bells Of Rhymney〟から拝借した話」、「ブライアンウィルソンはバッハとチャックベリーとジョージマーティンのストリングスに影響を受けたという話(あれ?フィルスペクターは?)」などを本人達の口から直接聴けたのは面白かったです。ミシェルフィリップスが「ママス&パパスのバンド内不倫の話」を武勇伝のように語ってるのには、うん…
ジャクソン・ブラウンとトム・ペティ
『ローレルキャニオン』ではローレルキャニオンの第2フェイズ、CS&Nにジョニミッチェル、ジャクソンブラウンにイーグルスといった70年代のローレルキャニオンについても多く描かれていましたが『エコーインザキャニオン』は60年代に焦点を絞ったものになっていました。ポスターにもでかでかとリッケンバッカー12弦があるように「バーズとロジャーマッギンの12弦エレキとそれにまつわるビートルズの話」に割とウエイトを置いていて、あとはバッファロースプリングフィールド、ママス&パパス、ビーチ・ボーイズくらい(あとはアソシエイションの曲を一曲カバーしてたっけ)。ドアーズもラヴもローレルキャニオンの象徴とも言えるジョニ・ミッチェルも名前すら登場していませんでした。
にもかかわらず、インタビューシーンはジャクソン・ブラウンとトム・ペティの比率が非常に多くなっています。彼らは60'sをリスナーとして、青春として直撃した世代、言わばアメリカンロック第2世代で、彼らの視点から語られる60'sウエストコーストの風景は非常に説得力のあるものでした。「ビーチボーイズはお揃いの服を着ていてダサいという印象だったが『ペットサウンズ』で吹っ飛ばされた」とか「バーズとバッファロースプリングフィールドの公演を見に行った時のバッファローの演奏は衝撃だった」とか。サーフィン/ホットロッドをやってる頃のビーチボーイズが若者からダサいと思われがちだったのは初めて知りましたね。ビートルズ等スタイリッシュなブリティッシュビートバンドが侵攻してきて、自国でも同じスタイルでバーズが登場して、そりゃそっちの方に夢中になるか…しかしそれを全て『ペットサウンズ』でひっくり返した!そういった動きを直撃世代が振り返る。ジャクソンブラウンとトムペティはこのドキュメンタリーで結構重要な役割を果たしていると思います。
レコーディング映像
ジェイコブ・ディランを中心に多くのゲストを招いてレコーディングされたカバーアルバムですが、レジェンド達もゲストとして参加しています。特に印象的だったのはクラプトンとスティルスが別々ではあるが同じ曲でギターソロバトルを繰り広げたこと。クラプトンはバッファローに強く影響を受けていたらしく、スティルスからは「ツインギターの場合、場面場面でどちらが引くことが重要」という超初歩的なことを教わったよう。ジェイコブは「2人は似ている」と言及していました。
ミシェルフィリップスはレコーディングには参加していないが、見学に訪れた様子が描かれていてママス&パパスの楽曲がカバーされるのを聴き「私たちってこんなにいい曲を歌っていたのね」とユーモアを飛ばしていたのが印象的でした。
モヤモヤポイント
そんなわけで見どころはたくさんあるのですが、冒頭でも言ったとおり僕は『ローレルキャニオン』の方が何倍も楽しめたし感動しました。それは『エコーインザキャニオン』を観てる間、終始モヤモヤしていたからです。一言で言うと「で、なんでジェイコブディランなの?」ってことです。ジェイコブディランが、Beckがノラジョーンズが、どれくらい60'sウエストコーストロックを愛しているかの掘り下げが全くなく、彼らがカバーアルバムを作りライブをする必然性と説得力に欠けていると感じました。さらにジェイコブ・ディランの父親譲りの無愛想さ(とにかく目が似てる!)やインタビュー時の貧乏ゆすりもあって、「あれ?こいつほんまに好きなん?」とまで思ってしまったり。
後から調べてみると、ジェイコブディランはニューヨーク生まれであるがウォールフラワーズはLAで結成されており、デビュー前は〈ウイスキー・ア・ゴーゴー〉等サンセットストリップのクラブに出演していたようで、繋がりはしっかりあった。Beckやノラジョーンズにしても、あれだけのミュージシャンなんだからもちろん60'sを通過していることでしょう。問題はそこを全く掘り下げなかったことで、そこを無視したら映画として、プロジェクトとして成立していないような…
まぁ本当は演奏で説得させられるのが1番早いが、当たり前だけどオリジナルを超えるカバーでは全くなかった。
あとは僕の痛すぎる性質も関係しているのかも。僕は痛すぎるので75年以降に出てきたミュージシャンを同世代、ライバルだと思っているところがある。僕は売れないどうしようもないミュージシャンで、ジェイコブとBeckは世界的ミュージシャンで20歳近く歳上なのに。「こいつらより俺の方が60'sを理解してる!」とか痛すぎる感情が湧いちゃうわけで…笑 ちなみにウォールフラワーズはほとんど聴いたことないけどBeckは結構好きで聴いていました。ノラジョーンズも1stはかなり聴いた。
衝撃のエンディングサプライズ!!
そんなこともありモヤモヤした映画ではありました。しかし、素晴らしいサプライズがエンディングにありました!まだ観てなくてこの先観る予定の人はこの先は特に見ない方がいいかも
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最後はバーズの〝What's Happening?〟が流れてエンディング。
66年『霧の5次元』収録曲で大好きな曲だったので興奮しました。そして曲と共にエンドクレジットが流れ始めたわけですが、その後ろでスタジオで1人暴れ回ってギターを弾く爺さんの姿が。特徴的な壊れたようなムーブと、バカみたいな単音のギターフレーズ、ニールヤングだ。
映画は「曲にまつわるエピソードをインタビューで触れる」→「その曲のカバーライブorカバーレコーディング風景」という流れを繰り返して進んできました。ビーチボーイズの曲の前はブライアンウィルソンのインタビュー、バーズの曲の前はマッギンかクロスビーのインタビュー、という風に。バッファロースプリングフィールド2nd『アゲイン』に収録されたニールヤング作の怪曲〝Expenting To Fly〟もカバーされ、ライブシーンがありましたが、ニールヤングのインタビューはありませんでした。ポスターにも名前がないし「あぁニールヤング出ないのね」と思っていたのでこのサプライズにはびっくり!
この出方もニールヤングらしいし、バッファローの曲ではなくバーズの曲でギター弾いてるひねくれ具合もらしい。にんまりするラストでした。
結果よかった!
先週は『ローレルキャニオン』、今週は『エコーインザキャニオン』、2週連続のローレルキャニオンドキュメンタリー、楽しかったです!ウエストコーストリヴァイバルが実を結ぶことを願います!
最後に一つ疑問なのはポスターにもリッケンバッカー12弦がドンとあって、映画でもかなりフィーチャーされていたにもかかわらずポスターにロジャー・マッギンの名がないこと…そりゃ他のローレルキャニオン勢と比べると70年代以降あまり活躍できなかったかもしれないがこの映画の内容なら1番上に名前入れないといけないんじゃない?爺さん勢の中でも1番気合い入れてお洒落していたし…
まぁ結果観に行ってよかった!それに尽きます!
では!