ケンジロニウスの再生

ロック史を追いながら関連図を作成(関連図挫折中)

映画『Moonage Daydream』を観て

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デヴィッド・ボウイドキュメンタリー映画『Moonage Daydream』、観てまいりました。

ボウイのドキュメンタリーといえば、2021年に公開された『Stardust』が、製作発表当時興味をそそられ割と待ち焦がれた映画だった。が、ボウイの音源を使う許可が下りなかったという衝撃の情報を得て一気に冷めた。当然観に行ってない。ボウイの映画といえば98年公開の『ベルベットゴールドマイン』があるが、あれもボウイの音源はおろか名前すら使う許可が下りなかった。

そんなこんなで、此度の『Moonage Daydream』ってのはボウイ初の公式認定ドキュメンタリーということになるらしい。デヴィッドボウイ財団が保有する未公開映像やインタビュー音声等を存分に使ったドキュメンタリー!というのがこの映画の1番の売り文句になっている。作中には40曲ものボウイの楽曲が詰め込まれていて、そのディレクションを行ったのがボウイを1番理解している男トニー・ヴィスコンティってのもとても楽しみなポイントだった。IMAX、そして水曜日割引、という最高のコンディションで4/5に映画館へと足を運んだ。

『Moonage Daydream』はドキュメンタリーではない

結果から言うと、非常に面白くて満足感のある映画だった。ただドキュメンタリーとは言いがたいものだった。海外であまり評判が良くないというのはなんとなく情報として得ていたが、おそらくはその点が原因ではなかろうか(レビューを読んだわけではないが…)。ボウイの知られざる真実や素の部分を垣間見たくて映画館に足を運び、肩透かしにあった人は少なくないだろう。

何故ドキュメンタリーでないと感じたかというと、それは第三者の視点が皆無に等しかったからだ。ボウイのインタビュー映像/音声、ボウイのライブ映像、ボウイのプライベート〝風〟映像に、ボウイの残したナレーション的言葉、ほぼそれだけで成り立っている。どれだけ初公開の秘蔵映像や秘蔵音声が使われていたかはわからないけど、どれも素顔というよりはボウイによってしっかりプロデュースされた姿と言葉だったように感じた。ライブに集まったファンという第三者のインタビューはあったが、劇中でボウイが「大衆の好みは誘導できる」と言ったように、その少年少女たちはボウイが作り出した世界の中の住人だった。そう、デヴィッド・ロバート・ジョーンズが作り出した〝デヴィッド・ボウイ〟というペルソナ/キャラクター/世界/アートの顛末を見せられた、そんな映画だった。デヴィッドロバートジョーンズの素顔というのは、結局のところわからずじまいだったように感じた。

「キャラクターを演じ続けている」とそのキャラの外から述べるボウイに対して「それで、今この瞬間は素顔なのですか?」というインタビュアーの質問こそが核心であり、それに対して不敵に笑ってはぐらかしたボウイはどうみてもボウイというペルソナを被っていた。「トップスターはみんな虚像だ」と自身を含めてジョンレノン等を例に挙げつつボウイは語る。そしてその孤独についても。そこだけは素顔が垣間見えたが、この『Moonage Daydream』はその素晴らしき虚像そのものの映画だといえるだろう。

 

人生を〝デヴィッドボウイ〟というアート作品に捧げた

ドキュメンタリーというよりは神話に近いもので、実像ではなく虚像、そんな映画だった。虚像というと少しわかりにくいか…〝作品〟というのが正しいかもしれない。

僕は本当に映像というものを観ていないことをこういったドキュメンタリーを観るたびに思う。音源は腐るほど聴くが、ライブ映像もPVもインタビュー映像もほとんど観てない。だから熱心なファンからしたら何度も観たと感じている既出のものかもしれないが、『Moonage Daydream』での様々な時期のライブ映像やインタビュー等はほぼ全て新鮮で刺激的だった。その中でもシビれたのはボウイの崇拝するものについての話だった。ジギースターダストの頃、火星から来たロックスターとしてカルト的人気を得ていた時期のインタビュー映像だった。ファンからカルト宗教の教祖かのような信仰を受けていたボウイに対してインタビュアーは「あなたは何を崇拝していますか?」と尋ねた。それに対してボウイは「人生。人生を愛している」と答えた。

ボウイは人生をアートに捧げた。常に自分自身を〝作品〟として作り変え続け、死ぬまで突き進んだ男だ。死ぬ間際に残した挑戦的な作品には世界中が驚かされた。

Blackstar

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聴衆が求めているものを無視して、次へ次へと変化し作り続けた(『Let's Dance』については聴衆に寄り添い金を稼ぐ、的な証言があった。一般的に言われていることだけど、自身がそういう発言をしていたのは知らなんだ)。音楽以外にも絵や映像、パフォーマンスなど、アートを追求するボウイの姿が多く映し出されていて、ロックスターとしてというよりアーティストとしての歩みが強調されていた。

ボウイは人生を〝デヴィッドボウイ〟というアート作品に捧げた。『Moonage Daydream』はその〝デヴィッドボウイ〟という作品そのもの、って感じだった。細かくは忘れたがボウイはアートを「曖昧なものの具現化」的なものとして定義していた(ここ大事やのにはっきり覚えてない笑)。まさに〝デヴィッドボウイ〟というアート作品は実像のない虚像、まさに白昼夢(Daydream)のような存在だ。

僕ももちろん映画を見る前はデヴィッドボウイ(デヴィッドロバートジョーンズ)の素顔、実像を期待したが、見終わってみるとこれこそがボウイでこれこそが正しいと思った。そう思える唯一の男がデヴィッドボウイなんだ、と。ビートルズの『Get Back』は今まで知ることのできなかった〝記録〟を垣間見ることができて本当に嬉しかった。ザ・バンドのこないだのドキュメンタリーは面白かったけどロビーロバートソン視点で書かれすぎていて事実とは遠いのかも、と思った。ドキュメンタリーは事実に近いかどうかこそが重要なものだと思っていた。『Moonage Daydream』はドキュメンタリーどころかアート作品だった。でもそれが〝デヴィッドボウイ〟の真実だとなんとなく納得できた。死んだ後もボウイだなぁと。これに関しては監督のブレット・モーガンの采配なのだろう。デヴィッドボウイ財団の秘蔵資料の中にはもっとプライベートな映像もあったろうし、“Space Oddity”以前の苦悩の時代やベックナムフリーフェスで怒りを露わにした話、薬物に苦しんだ70年代半ばなど、もう少し素顔に近そうな部分をピックアップすることもできたはずだ。でも一貫してアートを追求するボウイの姿を魅せ続けたことは「臭い物に蓋」ってんじゃなくて、アート精神によるものに感じた。ブレットモーガンにその意識があったのか、それともそういう映画にすることが財団から出された条件だったのか…

 

IMAXの映像と音圧と印象的なシーン

ま、そんなとこです。あとは個人的に熱かった箇所を覚えてるだけ少し触れておこうかと思うが、とにかくIMAX!初めてではないと思うんだけど、映像も音も良かった。特に音圧にはびっくりした。爆音も爆音、苦手な人いるかもしれないが、やっぱあれくらい欲しい!鳥肌立つし震える!

冒頭、どんなだっけな、ニーチェの言葉を引用したボウイのナレーションから始まって、“Hello,Space Boy”だっけか。音源にはいたるところに効果音が足されていて、映像とリンクしてすんげえスペーシーだったような。その後ジギー期のライブシーンに移って、“フリークラウド〜”からの“全ての若き野郎ども”。この繋ぎ目が秀逸。トニーヴィスコンティのこの映画用の編集なのか、元々このジギーライブでのアレンジなのかはわからないけどとにかく秀逸。あ、そう、ビートルズLove Me Doのカバーも初めて聴いたかも。ブルース度増し増しのボウイハーモニカバージョン。なんか時間についても面白いこと言ってたな、これが冒頭やったか「時間は役目を求めてる」とかか「時間は役割/意義を欲してる」だかなんだか、忘れたけどニュアンスは伝わった。ボウイ哲学、おもろいのよねー

あと“Cygnet Committee”で生きたい生きたい生きたいと叫んでからの“フリーフェスティバルの思い出”のイントロコードオルガン、の流れもめちゃくちゃ鳥肌ものだった。あ、ここでエンディングかーって思うくらい美しかった。そう正直「エンディングかぁ」って思うシーンがこの他にも3回くらいあった。え、あ、まだあるんか、ってゆー(笑)。結果なんか2時間が長く感じちゃったのは確か…あとはなんだろ、あーとにかく“Ashes to Ahses”ってまじでかっこいい曲だなーすげー曲だなーってこと!ベルリンに移ってブライアンイーノと新しい手法で音楽を作ることにした、的な話からの“Sound and Visionも鳥肌ものでしたねー。Heroesのライブもよかったし、“スターマン”“Changes”はエンドロールでしたね。まぁまぁまぁ40曲堪能できる、それだけで価値ある映画でしょう!もうサントラ出てるのね〜

あとおれだけかな、ボウイが1人でパントマイム的なのしてるシーン(割と歳いってる頃、バーっぽい、多分撮影スタジオで)なんだけど、めっちゃゴイゴイスーに似てる動きしてて笑ってもうたんやけど。

まぁとにかくボウイファンなら楽しめる映画です!いや、ドキュメンタリーじゃなくて、ボウイのアートキャリア概要って見方をするならボウイ紹介映画とも取れるかも!だから知らない人がボウイを知るキッカケにもなるのかしら!「2時間でわかるデヴィッドボウイ」的な。

ま、まだ観てない人は是非!

あ、お久しぶりです、ほんとに。最近全く書いてませんでした。それこそボウイについても『世界を売った男』で止まっております…文章ってしばらく書かないと書けなくなるってめちゃんこ実感してます…また書ければ!

では!!

 

 

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