ケンジロニウスの再生

ロック史を追いながら関連図を作成(関連図挫折中)

3-1 プログレッシブロックの幕開け!ムーディーブルース!

プログレッシブロック

プログレって何なのさ。progressiveを辞書で引いてみると、[進歩的な,革新的な; 進歩主義の]と出てくる。直訳すると進歩したロック、革新的なロックといったところだろうか。

プログレッシブロックと言われる曲の特徴として、

・曲が長い

・高いテクニックを要する

・転調、変拍子多発

・歌詞が難解

などが挙がるだろうが、僕はプログレッシブロックの説明するために必要な点はただ1点だけだと考えている。それは「ロックにおける表現の限界を壊した、広げた、あるいは目指したもの」ということである。

プログレ以前のロックは好きだ嫌いだ嬉しい悲しいなどの最悪言葉だけでも伝わる気持ちを音楽に乗せてより感情豊かに表現する、といったようなものだったが(そんな単純なものだとは言い切れないけど)プログレッシブロックでは簡単に表現できない、書物や映画でやっと表現できるような深いテーマをロックで表現することを目指したものだと僕は認識している。

つまり曲の長さ、ハイテクニックな演奏、難解な歌詞などのプログレに見られる特徴は「表現するための手段」でしかないということだ(少なくとも70年代前半までの初期プログレは。そこから影響を受けて高度な演奏や変拍子のみを抜き取り、難解なほど良し、みたいな本末転倒プログレバンドもたくさんいる)。

実際ピンクフロイドは代表的なプログレバンドであるが、ハイテクニックな演奏とは言いがたい。彼らはテクニックとは別の手段で表現の限界に挑んだのである。

となると重要なのは何を表現するか、ということになる。どんなテーマを表現するために音楽という手段を使うか、ということだ。プログレッシブロックの誕生には「コンセプトアルバム」という概念の誕生が大きく関わっている。

コンセプトアルバム

コンセプトアルバムとはアルバム1枚で一貫したコンセプトを持ち、アルバム1枚で1つの作品であるという認識のもと作られたアルバムであり。僕は世界初のコンセプトアルバムとして有名なビートルズの67年作「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」を聴いてからベストアルバムというものを敬遠している(実際の世界初のコンセプトアルバムは66年のマザーズオブインヴェンションの1st「フリークアウト!」だと言われている)。

といってもサージェントは「ペッパー軍曹のロンリーハーツクラブバンド」という架空のバンドがショウをするというコンセプトにすぎず、オープニングとエンディングそしてアンコール、というショウであるというコンセプトこそ持ってはいるが楽曲そのものは単体単体で確立している。

しかしこのコンセプトアルバムという発想(クラシックから来たんだろうが)が「サージェント症候群」で広まり、テーマが複雑化していった先にプログレッシブロックが誕生したのだ。

そうして生まれた世界初のプログレッシブロックアルバムが67年11月リリースのムーディーブルース2nd「Days Of Future Passed」である。

3-1 プログレッシブロックの幕開け!ムーディーブルース!

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3章はプログレ

2章で紹介したThe Move,ELOのドラムのベブベヴァンがキャリアをスタートさせたバンド、「デニー&ザ ディプロマッツ」。そこで一緒だったデニーレインが64年にムーディーブルースを結成。ということでムーディーブルースにたどり着いた。

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英国バーミンガムで結成されたムーディーブルースはデビュー当初R&Bバンドであり、1965年にアルバム『デビュー! (The Magnificent Moodies)』を発表。同年、シングル「ゴー・ナウ」が全英1位・全米10位の大ヒットを記録する。

1966年にベースのクリント・ワーウィックとリード・ボーカルとギターを担当していたデニーレインが脱退。デニーレインはいくつかのバンドを渡り歩いた後、ポールマッカートニーとウィングスを結成する。デニーレインから繋がってきたんだけど、67年2ndで爆誕するプログレバンドムーディーブルースにはデニーレインはいないのだ!しかしこのデビュー付近のデニーレインのR&Bバンドムーディーブルースも素晴らしいのね、全く違うバンドだけど。

2人の主要メンバーを失ったムーディーブルースはメンバーを補充し、新しい音楽を模索しはじめる。そこで彼らが手にしたのがメロトロンという最初期のサンプラーである。メロトロンはプログレッシブロックにおいて最重要とも言える楽器でたくさんのバンドが愛した本当に使いづらい楽器なのだ。メロトロンはビートルズの「ストロベリーフィールズフォーエバー」やキングクリムゾンの「クリムゾンキングの宮殿」などが有名。

そんな時にドヴォルザークの「新世界より」のロック版みたいなものを演奏できるバンドを探していたレコード会社の思惑が一致して作成された、ロックとオーケストラの融合を試みたアルバムが2nd「Days Of Future Passed」である。「1日」をコンセプトに夜明けから夜更けまでを表現したこのアルバムはもはやクラシックそのものといった感じであり、これが世界初のプログレッシブロックアルバムとなった。

ちなみにこのアルバムの最後の曲である「サテンの夜」が72年にアメリカのラジオで新曲として間違って流され大ヒットし、このアルバムも全米3位を記録する。

67年といえばサージェント症候群真っ只中でまだまだ世間はサイケブームである中、ロックとクラシックの融合をいち早く果たしたムーディーブルースはすごい(というか新世界よりのロック版を録りたいとか言ったレコード会社のやつが狂ってる)。

68年3rd『失われたコードを求めて』(In Search of the Lost Chord)ではメロトロンの比重が増しオーケストラとは決別した。

このアルバムのテーマは「精神世界の探求」であり、ドラッグ体験や東洋思想を軸としたサイケデリックアルバムである。僕はこれが1番好き。メロトロンはもちろんだがレイ・トーマスによるフルートも素晴らしい。

ビートルズの「ストロベリーフィールズフォーエバー」が67年2月なのでメロトロンの使用はビートルズが先であるが、後のメロトロンブームのきっかけとなったのはムーディーブルースの功績が大きいだろう。

それにしてもサイケ→プログレという流れがこの時代の揺るぎない流れであるのに順序が逆なのが本当に不思議だ。まぁ世界初のプログレッシブロック、なんてもちろん2ndリリース当時は自分たちでは思ってなかっただろうしそもそもプログレッシブロックなんて言葉もないし、新たな扉を自分たちがこじ開けたことにも気づいてなかったんじゃないだろうか。

まぁとにかく3rdアルバムからマイク・ピンダーによるメロトロンを本格導入し、プロデューサーがトニークラークになり、ジャケットもフィル・トラバースによるものになる。この布陣でムーディーブルースは快進撃を続ける。んだけど、正直僕はムーディーブルースにはハマれなかったというか何というか…

69年4th「夢幻」から71年7th「童夢辺りがバンドのピークになるんだけど、何というかファンタジーに聞こえてしまうの。ロードオブザリング、みたいな。ジャケットも相まって。それは別に悪いことではないんだろうけど。

夢幻+9(紙ジャケット仕様)

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例えば5th「子どもたちの子どもたちの子どもたちへ To Our Children's Children's Children (1969)」なんかは人類の太古の歴史と未来としての象徴である宇宙との対比をテーマに作られたアルバムなんだけど、現実にあった太古と現実に広がる宇宙ではなくファンタジーの世界の話、のように聞こえてしまうのだ。

これは僕の持論なんだけど、哲学とオカルトは紙一重で、ほんの少し表現を間違えると世界の真理に届くはずの話が薄っぺらいオカルトに変わってしまう。

これをムーディーブルースに感じてしまって、たくさんの楽器を使って何か薄っぺらいこと言ってらぁ。って思ってしまうのだ。いや、ムーディーブルース好きな人多いと思うのでこの辺にしとこう。だいたい僕なんか英語もロクに解らないし、彼らの表現を受け取る度量がないだけなのかもしれない。

とはいえプログレバンドでムーディーブルースの影響を受けていないバンドはいないと言っていいほどの影響力を与えたバンドである。世界初のプログレ作品を作ったこと、メロトロンを広めたこと、それだけで本当に偉大なバンドだ。さらに彼らは69年に自らで「スレッショルド・レコード」というレーベルを立ち上げたのだが、アーティスト自身がレーベルを持つというのもかなりの先駆けである。

しかしそのレーベルの運営で忙しくなり、72〜78年までバンドは休止する。この時期はプログレ全盛期とも言える時期である。

再始動後アルバムを一枚リリースするが、中心人物であるマイク・ピンダーが脱退、さらに6人目のムーディー・ブルースとまで言われたプロデューサーのトニー・クラークも「マイクがいないムーディー・ブルースをプロデュースする意味がない」と離脱。

この状態でキーボードとして加入したのがイエスを脱退したパトリック・モラーツだった。

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パトリックモラーツ

エスのパトリックモラーツ!といってもモラーツが参加したのは74年「リレイヤー」のみである。

レヒュジー

パトリックモラーツはイエス加入前に「Refugee(レヒュジー)」というキーボードトリオのバンドを組んでいてベースのリー・ジャクソン、ドラムのブライアン・デヴィソンは元「The Nice」のメンバーである。レヒュジーは73年に結成したが1枚アルバムを残し、パトリックモラーツがイエスに引き抜かれる形で74年に解散。モラーツはレヒュジーを踏み台にした!なんて説も…

Refugee -Remast-

Refugee -Remast-

  • アーティスト:Refugee
  • Esoteric
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ナイス
The Nice

The Nice

  • アーティスト:Nice
  • Castle Essential
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ナイスもレヒュジーと同じくキーボードトリオバンドであり、ナイスのキーボードはあの鍵盤版ジミヘンと言われるキースエマーソンである。

ナイスは66年に結成され4枚のスタジオアルバムを残して70年に解散。キースエマーソンはナイス解散後、プログレ5大バンドの1つ「エマーソン、レイク&パーマー(ELP)」を結成。リージャクソンとブライアンデヴィソンは第2のナイスを求めてパトリックモラーツと「レヒュジー」へ、 といった感じである。

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ELP

エマーソンレイク&パーマーはプログレ5大バンドと言われる内の1つであり、同じく5大バンドの1つであるキングクリムゾンを脱退したベースボーカルのグレッグレイク、アトミックルースター(これも元々キーボードトリオ)を脱退したカールパーマーとナイス解散後のキースエマーソンの3人で70年に結成。「タルカス」や「展覧会の絵」など名作を残すんだけどELPはまた別で書きます。

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プログレ5大バンド

ピンクフロイド、キングクリムゾン、イエスELPジェネシスの5バンドを俗にプログレ5大バンドと呼びます。なんともうジェネシスを除く4つが出てきました。

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ジェネシスもその内繋がるでしょう。まぁジェネシス…繋がんなくてもいいけど(ジェネシスファンごめんなさい)。

この5大バンドにムーディーブルースが入らない謎ですが、プログレ全盛期に活動を休止していたことと、元祖プログレバンドとして横一列に並べるには不自然である、的な感じなのでしょうか。何にせよ誰が言い出したかはわからないがプログレ5大バンドにムーディーブルースが入ってないせいで少し忘れられがちなのは確か。もしムーディーブルース、そういや聞いてないなーって人はこの機会に是非1度。

 

リックウェイクマン

あとすでに名前が出てるとこですが、2章で出てきたブリティッシュフォークの歌姫サンディデニーが元々いたバンド「ストローブス」に参加していた時期があるということで出てきたイエスのリックウェイクマン。

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リックウェイクマンは71年にイエスに加入しイエスの黄金期と呼ばれる時期のメンバーだが74年に脱退しパトリックモラーツが代わりに加入する。

エス加入前の70年頃にストローブスに在籍していたリックウェイクマンだがその前の69年の音楽学校の学生時代にデヴィッド・ボウイの2nd「スペースオディティ」にてメロトロンとチェンバロで参加している。すげぇ。

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まぁひとまずこんなところでしょうか。3章ではムーディーブルースから始まったプログレブームをぐいぐい見ていきます。

3章図

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全体図

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