ケンジロニウスの再生

ロック史を追いながら関連図を作成(関連図挫折中)

映画『ザ・ビートルズ:Get Back』を観て(Part1①)

遅ればせながら

ようやく見始めました『Get Back』。マーベル映画のドラマシリーズが始まるってんで以前Disney+に1年ほど契約してた時期があって。しかし観るものが無くなり、PS4との連携ができない不便さもあって解約。するやいなや『Get Back』がDisney+で公開されるという情報が届く。映画館での上映を楽しみにしていたことと、Disney+解約したばかりってこともあって軽くヘソを曲げていたんだけど、やっぱり辛抱たまらず再契約した次第でございます。そしたら知らぬ間にPS4とも連携できるようになってて、なんか前より月額上がった気もしつつ、まぁ良しとして。

『Get Back』への期待値

(映像『Let It Be 』より)

正直事前に公開された先行特別映像を観てから『Get Back』への期待値はかなり高くなっていて、なんせ僕はしっかり映画『Let It Be』にショックを受けた人間なもんで。『Let It Be』は未だ正式にソフト化しておらず、僕が10年ほど前に観たのは海賊版日本語訳付きのDVDだったんだけど、その終始険悪な雰囲気とビートルズが崩壊していく様は割と衝撃的だった。といってもその険悪ささえ味として受け止め、『Let it Be』の「バンドは仲悪くてなんぼ」ってゆーイメージに僕は少なからず影響を受けていたところもある。かつてダウンタウンが「お笑いコンビは仲悪くてなんぼ」というイメージを残したような感じ、違うか。

そんなこんなで僕は《ゲット・バック・セッション》の破綻及びビートルズ崩壊に関してそこまで悲観的に考えていない。最終的にフィルスペクターはよく『Let It Be』としてまとめ上げたと思うし、ルーフトップコンサートも良い着地だったと思うし、何よりよくあの後『アビイ・ロード』を作れたなぁという賞賛の方が大きかったりする。

それでもゲットバックセッションから50年以上過ぎた2020年代「映画『Let It Be』はセッションの暗部ばかりをピックアップした過剰編集によるものだった」なんてこと言われたら思わず立ち上がってしまうもんで。「またビートルズ商法ですか…」という声も少なくはないようだが。

ゲットバックセッションの様子を記録していた映像は約60時間あって、『Let it Be』はそれを80分に編集したものであり内容は非常に暗いものだった。しかし60時間ある映像を改めて掘り返すと実際はもっと和気藹々としていた、というのが先行特別映像を観る限り『Get Back』の醍醐味のようで、その数分の先行特別映像では楽しそうにふざけまくっているメンバーの様子が映し出されていたわけで。そりゃ期待しちゃいます。『Let It Be』は過剰編集だったんだ、50年越しに真実が明らかになるんだって。

また騙された

(『Get Back』先行特別映像)

この度Disney+で公開された『ザ・ビートルズ:Get Back』は全3話で、なんと計約7時間30もの大ボリュームとなっている。『Let It Be』の約5倍のボリュームであるので、より真実に近いのは間違いない。しかしまだ第1部しか観てないが「また騙された、ほんまおれってアホ」と思わされた。数分のふざけまくってる楽しそうな先行特別映像、あれはあれで過剰編集と言えるものだと気付かされたからだ。実際にはやっぱり険悪で、間違いなくバンドは崩壊に向かっている。ただそれでも冗談を言い合ったり曲に前向きに取り組んだりもしている、そんな感じだ。

ビートルズは世界1のバンドで特別な存在だが、バンド崩壊の光景においては「バンドあるある」だったりする。もうどうしようもなく歯車が噛み合わない関係性になってしまっていても、下ネタや冗談も言うし笑うこともある、バンドって、組織って、人間関係ってそんなもんだろう。「険悪なセッション」いや「実は和気藹々としていた」黒か白か、そんな二元論で語れるものではなく人間というのはもっと複雑だ。「つい先日会って元気そうだったし、先の予定も楽しみにしていたから、彼は自殺じゃない」なんてのも何言ってんだか、と思う。自殺に追い込まれるほどの精神状態でも、体裁は気にするし先の予定も入れたりもする。人間は複雑だ。話を戻そう。

事実は複雑だ。7時間半もの情報量なら尚更。その複雑さこそ真実であり歴史なのだ。……いや、まだ第1話しか観てないんだけどね。先行特別映像の楽しげなシーンのほとんどはアップルスタジオに移ってビリープレストンが参加してからのものだから第2話以降のようだし。全部観てから書けよって話なんだけど、第1話だけでも書きたいことが溢れてきたので、まぁ少しだけ!

《ゲット・バック・セッション》とは

そもそも《ゲットバックセッション》とはどのような経緯で行われたものなのか。映画冒頭ではビートルズの簡単な略歴が語られたが、その辺のところは詳しく語られていなかったので少し整理してみる。

  • 67年8月にビートルズの親であり船長であったマネージャーのブライアン・エプスタイン急死
  • 67年末、エプスタインの死後ビートルズ自らが手がけた初めてのプロジェクトであるTV映画『マジカルミステリーツアー』公開(イギリスでのみ)。
  • 68年2月〜4月、インドに超越瞑想の旅へ。
  • 帰国後自らの会社アップル・コアを設立。
  • 68年5月からホワイトアルバムのレコーディングセッションを開始。10月に終了し、11月にリリース。
  • 69年1月2日《ゲットバックセッション》開始。

ブライアン・エプスタインの死後、ビートルズは明らかに地に足がついていない状態だった。エプスタインのようなジャッジメンもいなく、脚本も監督もない映画『マジカルミステリーツアー』を作ったが、当然無秩序な内容となり失敗。インドへの瞑想旅行は自分達を見つめ直す旅となったが、アップルコアを設立したことはまた大きな負担を抱えることとなった。『ホワイトアルバム』のレコーディングセッションではメンバー間に不和が生じ始める。それは8トラックレコーダーを導入したことにより4人同時に演奏する必要性がなくなったことが大きかった。全30曲のダブルアルバムは各メンバーのソロの寄せ集めと言うのは乱暴だが、それに近いものになった。ただ断っておきたいのは『マジカルミステリーツアー』のサントラ及び『ホワイトアルバム』の内容は極上の傑作であること。楽曲、アレンジ、文句のつけようがない。それでもこの時期にメンバー間の緊張と不満が高まり、徐々にビートルズが崩れ始めていっていたのは事実。ずっと正解へと導いてくれたエプスタインの不在、明らかに不穏な空気が流れるバンド。そこでエプスタインの代わりにバンドのまとめ役を買って出たのがポール・マッカートニーだった。

ポールはバンドに対して「昔みたいに戻ろう」と投げかけた。ビートルズは66年にライブをやめてスタジオワークに集中したことで『サージェント・ペパーズ〜』『マジカルミステリーツアー』『ホワイトアルバム』といった実験的で作品性の高い楽曲達を作り上げることができた。ただその反面バンド内に不和が生じた原因もそこにある、とポールは感じたのかライブの再開とオーバーダヴ無しのアルバム制作を『ホワイトアルバム』の後、次の方針として打ち出したわけだ。

そうして69年1月、《ゲットバックセッション》が始まった。オーバーダヴ無しのアルバムを作るためのセッションであり、その後のライブを想定したものでもあった。さらにそのセッションの様子を終始カメラで抑え、ドキュメンタリーTV番組にするというプロジェクトも同時進行で行われた。

結果的に当初予定していたアルバム『Get Back』はお蔵入りになり(海賊盤出回る)、このセッションでレコーディングされた音源はフィルスペクターの手により70年『Let It Be』としてリリースされた。

ライブはツアー案は無しに、妥協案で出たTV番組用に客を入れてライブする案も無しに、最終的に1月30日にアップル事務所の屋上でゲリラ的に行われた〈ルーフトップコンサート〉に着地。

ドキュメンタリー番組プロジェクトは白紙に。結局その約60時間にも及ぶ映像は編集され70年に映画『Let It Be』として公開された。そこから50年の時が経ち再編集されたものが今回の『ザ・ビートルズ:Get Back』というわけだ。

第1話を観て

第1話の内容はトゥイッケナム・フィルム・スタジオでのゲットバックセッション開始からジョージ・ハリソンが一時的にバンドを脱退するまでだった。1969年1月2日から10日まで。

一つ決定的に言えることは映像がめちゃくちゃ綺麗。こんなに鮮明に復元できるものなのかと驚いた。それだけで『Let It Be』よりは明るい映像に見える。

ではさらさらっと第1話の感想を書いていこうと思うんだけれど、長くなりそうなので2回に分けます!

では!

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