ケンジロニウスの再生

ロック史を追いながら関連図を作成(関連図挫折中)

映画『ザ・ビートルズ:Get Back』を観て(Part 2 ②)

『Get Back』パート2、続きです!

前回↓

1969/1/15

2回目のジョージ説得会は成功

12日と15日にジョージとの話し合いが行われたわけだが、この2回の話し合いにはさすがにカメラもマイクも入らず。といいつつどっかに音声隠してるんちゃうの??ないか、さすがに…

2度目のジョージ説得となった15日の話し合いは建設的な方向に進み、TV特番の中止トゥイッケナムスタジオからアップルの新スタジオへの移動、そしてジョージ・ハリソンの復帰が決定した。

12日の話し合いの後、ジョージは2日ほどリヴァプールに帰っていたようだが、それで少し落ち着いたのもあるのかもしれない。何にせよジョージの脱退劇はほんの5日間で収束したわけだ。

1969/1/16 

〝Oh!Darling〟のエコー増し増しデモ

セッション序盤から広すぎることや音響面でメンバーから不満が出ていたトゥイッケナムスタジオからアップルの新スタジオへの移動が15日の話し合いで決まり、16日には早速機材の引っ越しが行われた。

この日はポールのみトゥイッケナムスタジオに現れ、スタッフが引っ越し作業を行う中〝Oh! Darling〟のピアノ弾き語りデモを録音。ゲットバックセッションのエンジニアを任せられていたグリン・ジョンズによる謎のエコーが特徴的なデモとなった。

大丈夫か?アップル新スタジオ

その後グリンとジョージがアップルの新スタジオの視察へ。新スタジオの設計を任されていたのはアップル・エレクトロニクス(アップルの家電部門)の責任者でもあるマジック・アレックスという人物。しかしグリンとジョージがアップルスタジオに到着すると、そこにあったのはノイズ乗りまくりの使い物にならない録音設備。パート1でもマジックアレックスは「口だけのエンジニア」というイジりをメンバーからされているシーンがあったが、パート2ではその問題児っぷりにもう少し焦点が当てられている。パート2はグリン・ジョンズやマジック・アレックスに加えてジョージ・マーティンやデレク・テイラーなどビートルズを語る上で重要な裏方の人間が多く登場するのも見どころの一つだろう。

とにかくこの16日の時点でアップルスタジオはまだ全く使い物にならない状態でありそれに愕然としたグリン・ジョンズはジョージ・マーティンに助けを求め、大急ぎでスタジオをレコーディングできる状態に持っていく。なわけで17日、18日、19日は機材調整作業に費やされることとなった。

1969/1/20

セッション再開(撮影なし)

ジョージが復活し、新アップルスタジオでリハーサルが再開した初日はメンバーの意向でカメラは入らず。マジック・アレックスがやらかしたスタジオはまだ完成には至っていなかったがリハーサルは決行された。

ポールを知りすぎている2人組の追っかけギャル

この日スタジオから追い出された撮影クルーは、スタジオの外で出待ちをしているファンにインタビューを行っている。この2人組の女の子はトゥイッケナムスタジオの外にもいたようで、かなり熱狂的な追っかけのよう。ちなみにポールファン。

この2人にジョンとヨーコの関係について尋ねると「男女のことだから別に大きな問題ではない」と回答。ビートルズに求めるのは「ライブの再開」で、解散するなら「それは仕方ない、ポールが見れればいい」と回答。ジョン&ヨーコ問題に対しては13日の映像で語ったポールの考えとほぼシンクロしてるし、ライブ再開もポールの意向とマッチしていて、ガチでポールを知り尽くしたファンといった感じ。となるとポール&リンダについても質問してほしかったところ…

1969/1/21

リンゴの立ち位置

アップル・セッションは2日目から撮影クルーが入った。

リンゴはこの新スタジオは落ち着く、トゥイッケナムスタジオは広すぎだった、と発言。

その後ジョージ・マーティンがスタジオに置かれた一本のマイクを指して「このマイクは撤去するのか」と監督のマイケルリンゼイホッグに尋ねるとマイケルは「気づかれないように会話をとりたいから置いておく」と答えるシーンがあるが、その会話にリンゴが参加しているのが面白い。リンゴはバンドやプロジェクトに対して一歩引いた位置にいる存在で、スタッフからもそういう認識を持たれており、スタッフとメンバーを繋ぐポジションとして信頼されていたのかもしれない。

しかしジョージ・マーティン、めちゃくちゃ背でかいし、ジェントルで、かっこいい。リンゴは撮影が入らなかった昨日の再開初日セッションへの満足を伝えるが、ジョージマーティンはそうでもないと感じた様子。

特番は中止となったが

当初予定していた「アルバム製作&ライブドキュメンタリー特番」は中止となったが撮影は続行され、まだスタジオライブ盤の製作も諦めてないし、屋外ライブもやる気の様子。何にせよここで撮影の続行を判断したおかげで、この『Get Back』があるわけだ。ナイス判断。

《ロックンロール・サーカス》

16日にスタジオ引っ越しが行われ、この21日からアップルスタジオにカメラが入ったものの、スタジオ自体はまだ万全というわけではなくグリン・ジョンズは走り回って奮闘している状態。

そんな中監督のマイケルリンゼイホッグはジョンに《ロックンロールサーカス》の紹介動画を撮らせてほしいと頼む。《ロックンロールサーカス》は68年末にマイケルが撮影したローリング・ストーンズ主催のスタジオライブ特番で、ザ・フーや新人だったジェスロ・タルなどが出演し、ジョンはクラプトン、ミッチミッチェル、キースリチャーズと一夜限りのバンド〈ダーティー・マック〉を結成して出演。

しかしこの特番は長らくお蔵入りになり、約30年後の96年にようやくVHSがリリースされた。お蔵入りとなっと理由は、ザ・フーの圧倒的な演奏にストーンズが怯んでしまった、というのが定説となっている。

マイケルに紹介動画を頼まれたジョンは

今夜のホストはローリングストーンズです

とカメラに向かっておどけてみせた。その後リンゴはキース・ムーンのモノマネをしてドラムを叩き出す。《ロックンロールサーカス》の話題でキースムーンのモノマネ…ストーンズの番組なのに…リンゴとキースムーンが親友であったこともあるにしてもザ・フーストーンズを食ったという話に信憑性を持たす1コマでした。《ロックンロールサーカス》と聞いて連想されたのがザ・フーだったわけだから。

『Get Back』1番の爆笑シーン

この頃のビートルズにはストーンズ界隈のスタッフが多く流れてきている。グリン・ジョンズもそうだし、マジック・アレックスもそうで、マイケル・リンゼイ・ホッグもそう、そしてこの後ビートルズに最後のトドメをさすアラン・クラインもそうだ。

グリンジョンズとマジックアレックスはストーンズの現場で以前から交流があり、後にグリンは自伝でアレックスのことを

よく言えば妄想に取り憑かれた男、悪く言えばただの詐欺師

と形容している。

マジックアレックスはこのアップルのスタジオ設計を任された際72トラックのレコーダーを作れると豪語したが、結果4トラックどころか全く使い物にならないノイズだらけのものを用意していた。そもそも何故こんな胡散臭い奴がアップルエレクトロニクスの責任者に任命されていたのか。元々はブライアン・ジョーンズがジョンに紹介したらしく、ジョンはアレックスのことを天才だと信じ新事業の責任者に任命するほど気に入ったというわけだ。ジョン以外のメンバーは胡散臭さを感じていたようだが、ジョンもこのゲットバックセッションの時点でアレックスのヤバさにはそろそろ気付いてそうな様子。

とにかく16日にアップルスタジオの現状に驚愕してからグリンはスタジオを使える状態にするために必死になって働いた。そして20日ビートルズのセッションが開始し、21日には再び撮影もスタート、しかしまだ万全ではなくスタジオ内を走り回るグリン。ビートルズメンバーはそんなグリンの奮闘を知ってから知らずが「まだ録れないのか」といった厳しい態度。かなり可哀想なグリン。

そんなところにマジックアレックスの新発明品が到着する。それはネックが回転式になっており表裏にギターとベースの指板がついているギターベース両刀のトンデモ楽器だった。このバカみたいな発明品にメンバーは爆笑するが、そんな中でもスタジオ準備に奮闘しているグリンの心中を思うと可哀想でおかしくて…誰のせいでこんなことになってると思ってんねん、って。グリンには悪いけど声出して爆笑してしまった。フリが効きまくりの完璧なオチやったので。

僕はマジックアレックスについて詳しくはないが、彼はグリンの言うところの「妄想に取り憑かれた男」なんだろうな、と思う。自分を天才発明家だと偽り金を得る詐欺師ではなく、自分を天才だと信じてるポンコツなんだろう。どちらにせよヤバいやつには変わりないが、恐らく悪人ではないんじゃないかな。「ギターとベースが一緒になってたらいいのに」ってのはパート1のトゥイッケナムでのセッション中にジョンが発言していて、それを聞いたアレックスは「おれできるで、天才やから」ってトンデモ楽器を作り出した。72トラックレコーダーも16トラック(8トラック×2)が限界の時代にマジで作れると思ってたんだろう。天才とバカは紙一重と言うが、まぁ愛すべきバカだ。とはいえインドに同行した際にマハリシビートルズを引き裂いた《マハリシの淫行噂》を流したり、晩年はジョン関連のものをオークションで売りまくったり、まぁ善人とは言えないか…

アレックスはギリシャ人で、元々は街の家電屋みたいなもんだったらしいが、何やら電話の音声認証システム?やら後世に残る発明も実際にしてるようで、すごいっちゃすごいみたいだけどね。

とにかくこのシーン1番笑った。

ビートルズ崩壊記事でトーキングブルース

トゥイッケナムの時からそうだが、自らについてかかれたマスコミ記事がビートルズメンバーの会話のネタであることが多い。
グリン必死の準備中の暇タイムは自由なセッションが行われた。ここでポールのアホ顔ドラム等ふざけるメンバーが見られる。

そんな中面白かったのがブルースセッションをバックにポールがビートルズ崩壊記事をトーキングブルース風に朗読してるシーンだ。これとかもBOXとかに音源収録されているのかしら??

ジョンのハイが噛み合えば

このゲットバックセッションはジョンのヘロイン中毒の影響がモロに出てる時期として知られている。『Get Back』でその影響が顕著なのはジョージが一時的に脱退している間ジョージなしの3人でトゥイッケナムに集まった1/13,14、そして1/20にアップルスタジオに移動してからの数日間だろう。

この21日もジョンは完全にハイになっており異様にテンションが高い。しかしそのジョンのテンションにメンバーが乗ると見事にセッションが進んでいく、という現象がこのアップルセッション序盤で多くみられる。この日リハが行われた〝Dig a Pony〟なんかはリンゴのドラムフィルもジョージのギターも神がかっている。

ジョンのテンションに合わせてセッションを進めていく、というのがこの時期のビートルズの一つの解決法だったのかもしれない。実際1人の主要メンバーに合わせてバンドを進めていく方法は全く珍しくない。しかしビートルズにはポールというもう1人の主要人物がいるし、ジョージも大きな自我を持ち始めていたので…

続く!!

とにかくパート2、めちゃくちゃ面白くて書きたいことが山ほどあるのでもう少し続きます!

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