ケンジロニウスの再生

ロック史を追いながら関連図を作成(関連図挫折中)

3-7 ソフトマシーンとカンタベリー

アヴァンギャルドとはフランス語で「前衛的」という意味であり、「プログレッシブ」とは英語で「革新的」という意味である。

「前衛的」と「革新的」って伝統や保守的なものから逸脱した「目新しい」もの、的なニュアンスをどちらも含んでいて似たような言葉だなぁと思うんだけど、不思議なことに「アヴァンギャルド」と「プログレッシブ」という言葉はこと音楽において感覚的に上手く使い分けられているように思う。アヴァンギャルドサウンドアヴァンギャルドサウンドだし、プログレッシブなサウンドプログレッシブなサウンドだと何となく区別できるのだ。これは音楽好きの友人と話していても、様々な音楽レビューや記事を読んでいても大きなズレは無く、自然と感覚的共有ができているように思う。

「フーガ」や「ブルース」などのように音楽的な形式を表す言葉は当然ハッキリとした音楽的根拠を持って区別できるが、音楽が持つ感覚的な部分を表した言葉の区別は非常に難しい。そんな感覚的な「アヴァンギャルド」という言葉について少し自分なりに考えこんでみると、「今までにはなく目新しい」のはもちろんだけど、少し「無法者」というか荒々しいニュアンス、いわば「破天荒」といった感じが含まれている気がする。これは「アヴァンギャルド」という言葉の「ヴァ」と「ギャ」と「ド」の濁音が持つエグ味を感じとっているのか、「プログレッシブ」という響きが持つどこか洗練された感じとはやはり違うのだ。

プログレッシブロックは洗練された「革新的」な表現方法で「ロック」を限界点まで進めたが、ロックにおいて「アヴァンギャルド」と称されるやつらは「ロック」すらもぶち壊しにかかる異端者という解釈を僕は持っている。という前置きから今回の話に入ろうと思う(ちょっと、おれうっさい?)。

3-7 ソフトマシーンとカンタベリー

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(ソフトマシーン)

そんなこんなで僕が最もアヴァンギャルドなバンドだと感じているのがSoft Machine(ソフトマシーン)」である。いや厳密にはアヴァンギャルドな奴が3人いたバンド」と言ったほうが正しいかもしれない。今回は主にその3人について書こうと思うが、ソフトマシーンを語る上で避けては通れないのがカンタベリーという地方、そしてそこにいた「ワイルドフラワーズ」というバンドである。

ワイルドフラワーズが生んだ2つのバンド

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(ワイルドフラワーズ)

カンタベリーとはイングランド南東部にある地域であり、そこで64年に「ワイルドフラワーズ」というバンドが結成された。このバンドを祖として数々のバンドが誕生し、後に「カンタベリーロック」と呼ばれる1つのジャンルにまでなっていくわけだ。

カンタベリーロック(カンタベリー系ともいう)はプログレッシブロックの中の1つの派閥みたいなものであり、ジャズを強く取り入れた音楽性が特徴。

ワイルドフラワーズというバンドは90年代になってようやくデモ音源が発掘されたようなくらいで(僕は手に入れれてない)全く知名度もないバンドであるが、そこに在籍していたメンバーが「ソフトマシーン」と「キャラバン」の2つのプログレを代表するバンドに分かれたことで有名である。

64年から67年まで活動をしたがその期間の中でメンバーの変動は多々あるが、在籍していた人物が

ケヴィンエアーズ→ソフトマシーン

ロバートワイアット→ソフトマシーン

ヒューホッパー→ソフトマシーン

ブライアンホッパー→ソフトマシーン(サポート)

リチャードシンクレア→キャラバン

デヴィッドシンクレア→キャラバン

パイ・ヘイスティング→キャラバン

リチャードコフラン→キャラバン

といった感じに2つに分かれていく。66年にソフトマシーンが、68年にキャラバンが結成された。

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初期ソフトマシーン(デビュー前、アレン期、サイケ期)

まず60年代初頭にオーストラリア人の放浪者であるデヴィッド・アレンというヒッピー野郎がいた。彼はパリでビート文学の巨匠ウィリアム・バロウズと出会い(ソフトマシーンというバンド名は同名のバロウズの著書からとられたもの)、バロウズとラジオなどで仕事をするがその当時にロバートワイアットと顔見知りになる。イギリスに渡った際にはワイアットの母が営む下宿に世話になり、そこでマイク・ラトリッジという男、そして同じく放浪者であるケヴィンエアーズと出会う。そうして1つのサークルが出来上がり、ロバートワイアットとケヴィンエアーズはワイルドフラワーズを結成、マイクラトリッジは大学へ戻り、デヴィッドアレンは再びヨーロッパ各地へ放浪の旅に出る。64年のことである。

66年にワイルドフラワーズを脱退したワイアット(ドラム)とエアーズ(ベース)、ロンドンへ帰ってきたアレン(ギター)が新バンドを結成。そこに大学へ行っていたラトリッジ(鍵盤)が合流し、バロウズに電話にてバンド名の使用の快諾を得た後に「ソフトマシーン」が誕生する。

この時期はやっぱり時代通りサイケデリックロックをやっていてUFOクラブを中心に活動し、当時UFOクラブに出入りしていた同世代のピンクフロイドやジミヘンと親交を深めた。ピンクフロイドとの交流は後々まで続き、シドバレットのソロ作品を手伝ったり、逆にワイアットのソロ作品ではニックメイスンがプロデュースを手掛けた。

このデビュー前のサイケデリック期のデモ音源は後に発売される「Jet Propelled Photographs」というコンピレーションアルバムで聞くことができるがいわゆるサイケポップといった感じでソフトマシーンらしさはまだ無いが、それでも才能の片鱗はしっかり感じられる。

バンドはロンドンに収まらずヨーロッパ各地をライブで訪れるが、パリ公演からの帰りにアレンが麻薬所持でイギリスへの入国許可が降りずそのままパリに留まりバンドも脱退となる。

デヴィッドアレンとGong

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アレンは取り残されたフランスにて後に妻となるジリ・スマイスらと共に「Gong」というサイケデリックバンドを結成。彼のヒッピー思想を反映した独特な音楽は人気を呼び72年には英ヴァージンレコードと契約し無事に?イギリスへ帰っている。彼の71年のソロアルバムであり名盤である「バナナムーン」ではワイアットがドラムで参加している。

バナナ・ムーン

ゴングからは後に「ゴング・グローバル・ファミリー」と呼ばれる様々なゴングと言う名を冠するバンド(プラネットゴング、ニューヨークゴング、マザーゴング、ゴングジラなど…)が誕生するんだけど、そんな感じもヒッピーっぽくて面白い。

アレンはオーストラリア人であるし、ゴングはフランスで結成されたバンドであるがソフトマシーンの関係から「カンタベリーロック」に数えられることが多い。75年にアレンが脱退するまでのいわゆる「クラシックゴング」はサイケファンなら必聴!73〜74年の「The Radio Gnome Invisible (見えない電波の妖精の物語)三部作」と呼ばれる『フライング・ティーポット』『エンジェルズ・エッグ』『ユー』はまさにアヴァンギャルドな3枚である。

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ソフトマシーンのアヴァンギャルドなヒッピーサイケ野郎デヴィッドアレンとゴングは要チェック!

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ソフトマシーンデビュー

アレンを失ってイギリスに帰国したエアーズとワイアットとラトリッジの3人は代わりのギターを補充することなくキーボードトリオとして活動を続け、ラトリッジのジャズ志向からかサイケポップからジャズロックへと動き始める。

68年に「ソフトマシーン」でデビュー。

ジャズとサイケが融合したサウンドで一聴滅茶苦茶だけどクール。だいたいジャズ自体を僕は「無法」な音楽だと思っていて、そこに彼らのサイケデリックが不気味に混ざり合った異端っぷりはまさにアヴァンギャルドの極みである。

ラトリッジのファズの効いたオルガンもカンタベリー系の特徴である。ワイアットの凄まじいドラムと弱々しいボーカルのアンバランス具合も癖になる。

このアルバムの制作と並行してジミヘンの長期アメリカツアーに同行しており、その時のライブでは後にポリスに参加するアンディサマーズがギターを弾いている。この60年代末ごろにアンディサマーズは後期アニマルズでもギターを弾いてるがポリスといえば80年代のイメージなので年齢を調べたらポリスデビュー時36歳なのね、びっくり!

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この長いアメリカツアーの中でリリースされた1stアルバムは評判もよくレーベルは次作を望んだが疲弊しきったメンバーはもはや解散状態にあった。そしてケヴィンエアーズはバンドを脱退し、イタリアのイビサ島へと隠遁する。エアーズの代わりに同じくワイルドフラワーズ出身のヒューホッパーが加入する。

自由人ケヴィンエアーズ

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ケヴィンエアーズは元来放浪者であり、ワイルドフラワーズ結成前の16歳のころからスペインのイビサ島マヨルカ島、モロッコなどを何度となく放浪したとされ、これらの土地で身に着けたある種の無国籍的で自由な感性は彼の音楽スタイルの特徴でもある。

そして68年に長期にわたるツアーに精神的に疲れてソフトマシーンを脱退すると、ガールフレンドと共にかつて訪れたイビサ島へ隠遁する。イビサ島は当時ヒッピー達の聖地として知られており彼の心を癒すにはぴったりの場所だったのだろう。結局エアーズは90年代半ばにイギリスに帰るまで25年ほどイビサ島で生活をする。

イビサ島に移り住むとすぐに自らのペースを取り戻し曲を書き始め、69年に1stソロアルバム「Joy of a toy」をリリース。

Joy of a Toy [12 inch Analog]

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サイケやアシッドフォークに分類されるだろうが、彼が持つ独特の「ゆるさ」と自由な感性はシドバレットと繋がるところがあり、僕はエアーズのことを「ハッピーなシドバレット」だと思っている。好き。

このアルバムはソフトマシーンのワイアット、ラトリッジ、新たに加入したヒューホッパーらが手伝っており、アルバムには収録されなかったが1stシングル「Singing a Song in the Morning」ではキャラバンのリチャードシンクレア等が参加、さらにその曲のセッションにシドバレットが参加しているバージョンが「Religious Experience [take 103] (Singing a Song in the Morning)」として1stアルバム「Toy of a joy」がCD化された際にボーナストラックに収録されている。シドが他人の作品に関わってるのは本当に珍しく貴重な音源である。

ケヴィンエアーズは細々と作品を出し続け一部の層からカルト的人気を得た。

2nd以降の彼のバックバンド"The Whole World"にはマイクオールドフィールド(映画「エクソシスト」の曲、チューブラーベルズで有名)がいて、2ndと3rdに参加。74年のライブアルバムにはブライアンイーノ、ジョンケイル、ニコの名もあり、エアーズの交流関係の広さが伺える。

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ヒッピーの聖地イビサ島で緩やかな時間を過ごし、たまにイギリスに出ていって音楽をする。いや、実際どんな生活だったのかは知らないけど理想的な音楽ライフだなぁ。アヴァンギャルドな自由人ケヴィンエアーズ、おすすめ!エアーズのソロも決してジャズロック的なものではないがカンタベリーロックに数えられることがしばしば。

ジャズ期ソフトマシーン

ケヴィンエアーズが脱退してヒューホッパーが加入しさらにジャズ色を強めていくソフトマシーンは69年に2nd「Vol.2」をリリース。

Vol. 2

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このアルバムにはヒューホッパーの兄であり、ワイアットやヒューホッパーと同じくワイルドフラワーズ出身のブライアンホッパーもホーン奏者として参加。アレンとエアーズというサイケ路線の2人がいなくなり、ラトリッジ主体のジャズ路線へと大きくシフトしていくことになるが、このアルバムも絶妙に不安定な危ういバランスを持っていて僕はお気に入り。ソフトマシーンとしてはこの後くらいから全盛期と呼ばれる時期に入るが僕はやはり1stと2ndの「危うさ」が真骨頂だと思っている。

70年にはシドバレットのソロ「帽子が笑う、不気味に」にメンバー3人揃って数曲参加。同年3rd「3」,71年4th「4」をリリースするが、徐々にメンバーも増え、シリアスなジャズロックへと変化していく中で居場所を失ったワイアットが脱退。ドラムでありボーカリストでもあったワイアットだったが「4」の頃になるとソフトマシーンは完全なインストゥルメンタルバンドと化していた。

悲劇の男ロバートワイアット

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ワイアットはソフトマシーンを脱退してすぐにキャラバンのデヴィッドシンクレア、「デリバリー(これもカンタベリー系)」のフィルミラー等と「Matching Mole(マッチングモール)」を結成。

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72年に1st「そっくりモグラ」,2nd「そっくりモグラの毛語録」の2枚をリリース。2ndはなんとキングクリムゾンのロバートフリップがプロデュースした。

73年3rdアルバムの制作中の時期にワイアットはパーティの席で酔ったまま4階から転落し、その後遺症で下半身不随となりドラムの道を断たれる。

周りの助けを得てキーボードを弾き歌うシンガーソングライターとしてカムバックし、74年に「ロックボトム」をリリース。プロデュースはピンクフロイドのニックメイスン、サポートメンバーにヒューホッパー(ソフトマシーン)、マイクオールドフィールド、リチャードシンクレア(キャラバン)と豪華なメンツで作られたこのソロアルバムなんだけどこれがすごいのよ。

内容は実験音楽的要素を持った美しい曲達って感じなんだけど、ブライアンイーノ参加してるんじゃないの?って感じのサウンド(ちなみに75年の次作でしっかりイーノ参加)。全曲ワイアットの作曲であり、ビョークやトムヨークに繋がっていくような病的な不安感とそこにある美しさは圧巻である。声にエフェクトをかけてのスキャットが時おり出てくるが嘆きなのか祈りなのか、下半身不随という情報も相まってかとにかく不安にさせられるが、何度も聞いてしまうという中毒性のあるアルバムだ。

これもいわゆるプログレカンタベリー系とは毛色が違う音楽であり、ソフトマシーンのオリジナルメンバーであるデヴィッドアレン、ケヴィンエアーズ、ロバートワイアットの3人はカンタベリーロックを代表する人物でありながらカンタベリーロックの異端児でもあるのだ。しびれる。

ソフトマシーンのその後

とにかくアレン、エアーズ、ワイアットの3人のことを書きたかったのでもう後はさらっと。

ソフトマシーンは次々とメンバーを変えてフリージャズ、そしてフュージョンへと進んでいくわけだが、オリジナルメンバーのマイクラトリッジはずっと在籍している。ラトリッジはミスターソフトマシーンと言えるだろう。

キャラバン

ソフトマシーンと同じくワイルドフラワーズから派生したキャラバンだが、アヴァンギャルドなソフトマシーンと比べれば穏やかで聴きやすいジャズロックバンドである。

キャメルと並んで叙情派プログレの代表とも言われている。

3rd「In the Land of Grey and Pink」は名盤。

その他のカンタベリー

基本的にはソフトマシーンかキャラバンのメンバーが関わっているのがほとんどで、というか関わるとそれだけでカンタベリー系と呼ばれる傾向にある。

例えば、ワイアットのマッチングモールにいたフィルミラーの「Delivery」のメンバーとキャラバンのリチャードシンクレアが結成した「Hatfield and the North」。Hatfield and the Northと「Gilgamesh」が合体する形で「National Health」誕生。ナショナルヘルスにはビルブラフォードが参加してたこともある。

National Health

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この今出てきたバンドの中にゴングに参加した人もいたりケヴィンエアーズのバンドに参加した人もいたりで、カンタベリー系は本当に狭いところで盛り上がったシーンである。それがプログレを細分化した1つのジャンルとして知れ渡るようになるんだからすごいよね。

はい、終わります。こんなん突き進んだらあかん、しんどい!図を繋げるのがメインで、ついでに書き書きしてるつもりなんだけど…

ソフトマシーンは1と2はロックファンなら聴くべし!それ以降と他のカンタベリー系はジャズ好きなら!

ゴング、ケヴィンエアーズはサイケ、アシッド好きは聴くべし!

ロバートワイアットの「ロックボトム」は映画音楽、実験音楽好きならチェック!レディオヘッドビョーク好きにも響くかも…

ひとまずプログレはここまで3章完!結局ムーディーブルースと5大プログレカンタベリーで終わったけど、また他はいずれ書きます!

3章

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全体

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この図製作アプリが重くなってきてたまに落ちるねんな…この先不安だぜ!次回はどこにいこうか、、、

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