3-9 Affinity〜キーフとヴァーティゴ〜(第78話)
ジャズロック
《プログレッシブロック》は60年代後半の《サイケデリックロック》で試みたロックへの多様なアプローチを更に広範囲に広げて複雑化し表現の幅を広げた非常に多角的なジャンルであることは前にも書いた。
そのアプローチの一つにジャズがある。
ジャズとロックは60年代後半に接触し、ロックにジャズ要素を強く取り入れたものをそのまま《ジャズロック》、逆にマイルス・デイヴィスのようにジャズ側がロック要素を取り入れたものを《エレクトリック・ジャズ》と呼ぶ。この呼び名の区別がどこまで浸透してるのかは定かではないが個人的には非常にしっくりくる区別だと思っていて、同様に《フォークロック》と《エレクトリックフォーク》、《ブルースロック》と《エレクトリックブルース》みたいな区別が一般化すればより一層ジャンル分けが明確になりわかりやすいのになぁ、とか密かに思っている。
さて、60年代末に登場し始めたジャズ要素を強く取り入れたロック、《ジャズロック》というジャンルはプログレの範疇で語られることが多く、ソフトマシーンやコロシアムなんかがその代表的なバンドであり、今回書くAffinityもそこに含まれる。
僕は今のところ「プレイヤーよりも作曲に興味がある」という理由で基本的にジャズに苦手意識を持っているんだけど《ジャズロック》に対しても同じで恥ずかしながらほとんど聴いていない。ソフトマシーンにしたってまだサイケ臭の強い1stと2ndくらいで後はどちらかというと本体よりケヴィン・エアーズやゴング、ロバート・ワイアットといった関連の方が好みだ。《ジャズロック/プログレ》と言えばそのソフトマシーンを長とした《カンタベリー系》であるがハットフィールド・アンド・ザ・ノース、ナショナル・ヘルス、ギルガメッシュあたりの名前と関連性は何故か知っているがほとんど聴いてない。
ジョン・マクラフリンのMahavishnu Orchestraとかも、カッコいいとは思うが。
そんな感じの、つまりほとんど無縁と言える《ジャズロック》勢の中で何故かお気に入りでCDも大切にしているのがAffinity。ま、理由は明確なんだけどもね。
今回はその理由と共にジャズロック/プログレバンドAffinityを!
3-9 Affinity〜ヴァーティゴとキーフ〜(第78話)
Iceというジャズバンドから発展する形で68年にイングランドのイースト・サセックス州ブライトンで結成。リントン・ネイフによる超絶オルガンと紅一点ボーカルのリンダ・ホイルが特徴のジャズオルガンロックバンド。
70年にヴァーティゴレコードから唯一作となるセルフタイトルアルバム「Affinity」をリリース。キーフによる〈水辺で和傘を差し座る女性〉のジャケットが印象的でプログレファンから熱烈な支持を得ているアルバムだ。そう、ジャズロックを苦手とする僕がAffinityに惹かれた理由はそのヴァーティゴというレーベルとキーフによるジャケットによるところが大きいわけなんだけどまずはアルバム自体の内容から軽く。
70年唯一作「Affinity」
まぁそもそもジャズジャズしすぎてないのが僕が好む1番の要因か。ボーカルのリンダ・ホイルはジャズの教養はもちろんあるんだろうが時折サイケデリックな面すら覗く自由で変幻自在な歌唱にはロック魂を感じる。ん、いや、自由で変幻自在な歌唱はジャズそのものか…
A面4曲,B面3曲の計7曲だがやはり目立つのはラストの〝All Along the Watchtower〟。もちろんあのウォッチタワーだ。邦題〝見張り塔からずっと〟、ボブ・ディラン67年「John Wesley Harding」に収録されジミ・ヘンドリックスが68年にカバーしたウォッチタワーをアフィニティがカバー。どちらかというとジミヘンバージョンのカバーにノリは近いがアフィニティは12分弱に及ぶジャズアレンジをぶちかましている。特に派手なアレンジを施してるわけではなく、歌とインストゥルメンタルソロを交互に繰り広げるだけであるが、とにかくリントン・ネイフのオルガンソロが暴れまくりで圧巻。
1曲目〝I Am and So Are You〟は英フォークロックバンドリンディスファーンのアラン・ハル作曲。アラン・ハルはソロが特に好きで素晴らしいメロディメーカーであるがこの曲もいい曲。英フォーク界隈の人間だがそこまでトラッドトラッドしているイメージはなくこの曲もジャジーなソフトロックのような仕上がりに。ブラスアレンジはジョン・ポール・ジョーンズ。この人はほんとに色んなところに顔を出すな。英ロックの宝だ。曲調はマーゴ・ガーヤンの〝Timothy Gone〟あたりに雰囲気似てるなぁなんて思ったりするが、そういやマーゴガーヤンもジャズの人だ。
2曲目〝Night Flight〟はギタリストのマイク・ジョップとリンダ・ホイルによるオリジナル。ジャケットイメージと【夜のフライト】という曲名にぴったりシンクロする陰鬱で美しい空気感から始まり激しくヘヴィなロックへと展開していく。この鬱っ気のある静けさとヘヴィオルガンジャズロックのメリハリがこのバンドの特徴の一つ。
3曲目〝I Wonder If I Care as Much〟はエヴァリーブラザーズの57年デビューシングルのB面カバー。この曲でもジョンポールジョーンズがストリングスアレンジで参加。ジャズ要素はほぼないソフトロックな仕上がり。ネイフによるハープシコードのループフレーズが秀逸でラストのリンダ・ホイルのファルセットも美しい。フェイドアウトした後に再び戻ってくる終わり方(僕はメリーゴーランド法と呼ぶ)も素敵。
4曲目〝Mr.Joy〟はアネット・ピーコック作曲。アネット・ピーコックについては勉強不足でよく知らないがジャズ界隈の人間であり、実験音楽、電子音楽のパイオニアでもあるよう。この曲にも確かに実験的要素を感じることはできる。ネイフはピアノを演奏、オルガン以外も素晴らしい。ホイルはメランコリックで可愛らしい歌い方からジム・モリソンばりの熱唱まで変幻自在。
B面に移り5曲目〝Three Sisters〟はリントン・ネイフとリンダ・ホイルによるオリジナル。オリジナルはこの曲と〝Night Flight〟の二曲のみ。ブラスをフィーチャーした曲であるがマイク・ジョップのギターソロも聴きどころ。彼も凄腕。
6曲目は〝Coconut Grove〟はラヴィン・スプーンフルのカバー。原曲が元々ジャズ風味であるのでマッチング感は抜群。アメリカにないヨーロッパならではの鬱っ気が乗った名カバー。
そして最後が先述したボブ・ディラン作〝All Along the Watchtower〟。
ボーナストラック
僕の持つAngel Airから2002年に再発されたCDではボーナストラックも8曲と豊富でオリジナルの曲数を上回るボーナスっぷり。
アフィニティはこの後中心人物と言えるオルガンのネイフとボーカルのホイルが脱退してしまうわけなんだけど、ボーナストラック収録のデモ〝Yes Man〟を聴く限りこのメンツでよりプログレッシブなアルバムをもう一作作れたんじゃないか、と悔やまれる。
ローラ・ニーロの〝Eli's Coming〟、ビートルズの〝I am the Walrus〟のカバーも秀逸。ホイルの【Walrus】の発音がクールすぎる。
アルバム1曲目〝I Am and So Are You〟を提供したアラン・ハルによる曲がもう一曲ボーナストラックに〝United States Of Mind〟というタイトルで収録。ブリティッシュフォークっぽいニュアンスとわざとズラしたビート(なんかジャズの奏法として聞いたことあるぞ!)が心地よい名曲。
アフィニティのその後
アルバムは評論家に高い評価を受けたがツアーに疲れた中心人物のリントン・ネイフとリンダ・ホイルが脱退。
リンダ・ホイルは71年に後にソフトマシーンに加入するカール・ジェンキンスと組みヴァーティゴからソロアルバム「Pieces of Me」をリリース。こちらはよりジャズ色の強いアルバムとなった。
アフィニティは新たな女性ボーカルとキーボードを補充して活動を継続。この時期の音源が「1971-1972」としてAngel Airから2003年にリリース。このホイルの代わりに加入したヴィヴィアン・マッコーリフという女性ボーカルはイエスのパトリック・モラーツの76年、77年のソロアルバムに参加している。
Angel Airからは他にも2000年代にいくつかコンピがリリースされている。69年にリンダ・ホイルが声帯手術のため一時離脱してたころのインストライブ音源やそれ以前の極初期の音源(Ice時代?)など。全てApple Musicにあるのでまた聴いてみようとは思う。
72年に結成メンバーであるマイク・ジョップ(ギター)、モー・フォスター(ベース)、グラント・サーペル(ドラム)の3人が揃って元マンフレッドマンのマイク・ダボのツアーメンバーとなったことでアフィニティは解散(マンフレッドマン丸っきりノータッチなんだよな…)。
こんなとこです。
さてと、アフィニティを輩出したヴァーティゴレーベルと印象的なジャケットを手がけたキーフについて少し。
Vertigo(ヴァーティゴ)
69年にフィリップス・レコード傘下として誕生したヴァーティゴ・レコード。
【眩暈(めまい)】を意味するレーベル名まんまのロゴと独特の暗さを持った癖のあるバンドを多数輩出したことでUKロックファンから愛され続けているレーベルだ。
主にジャズロックを含むプログレやハードロックバンドが在籍。有名どころはブラック・サバス、ユーライア・ヒープ、マンフレッドマン・チャプタースリー、ジェントル・ジャイアント、コロシアム、ロッド・スチュアートあたりだろうか。
このブログで触れたバンドでいうとチューダーロッジ、ドクター・ストレンジリィ・ストレンジの2nd、ニルバーナ(UK)の「局部麻酔」、UKサイケKaleidoscopeの変名バンドFairfield Parlour、元フェアポート・コンベンションのイアン・マシューズのソロあたりもヴァーティゴ。
他にも面白いのに1枚で消えたようなバンドが多数いたりして僕が初めてレーベル単位で興味を持ったレーベルでもある。
そんなヴァーティゴ作品達の中でもアフィニティは割と代表的な位置で語られることが多いのだ!
キーフ
ピンクフロイドやツェッペリンらのジャケットを手がけたヒプノシス、イエスやエイジアらを手がけたロジャー・ディーンと並んで70年代ロックアルバムジャケットの代表的なデザイナーとして有名なマーカス・キーフ。
本名はキース・マクミラン。写真家であり主に写真を使ったジャケットであるのでロジャー・ディーンよりはヒプノシスと比較すべきか。ヒプノシス同様シュールな作品が多いがキーフは退廃的で鬱っ気満載なのが大きな特徴。
69年ヴァーティゴからの記念すべき1枚目となったコロシアムの「ヴァレンタイン組曲」からジャケットデザイナーとしてのキャリアをスタート。
ここからヴァーティゴ作品を軸に活動。異色レーベルであるヴァーティゴの他にヴァーティゴ傘下のネペンサ、RCA傘下のネオンなどマニアックなレーベル作品を手がけたのでヒプノシスやロジャーディーンと比べるとマイナーなアルバムが多いが
ブラックサバス1st「黒い安息日」
デヴィッドボウイ「世界を売った男」
ニルバーナUK「局部麻酔」
でアフィニティ
あたりが代表作品とされている。退廃的で陰鬱でどこかホラーでゴシックな特徴がこの数枚でも伝わるかと思う。技術的には赤外線フィルムがどうたらとかネガがどうたらとか特徴があるようで、その辺はよくわからないけど、どれもヨーロッパ特有の暗さが表現されていて魅力的。
シュールなヒプノシス、ファンタジーなロジャーディーン、メランコリックなキーフとそれぞれ特徴が違って本当に面白いジャケットが70年代にはたくさんある。基本的に絵や写真に疎い僕でも手に入れたくなる魅力的なジャケットを持ったアルバムがあって、そんなこともあってアフィニティを購入し好んでいるところは大きくある。絶対レコードで手にするべきなんだけどね…たっけぇのよ!
以上!
アフィニティとヴァーティゴとキーフ、こんなとこです!
いつも次何書こうか悩んでるんだけれど、なんかこの回から書きたいものがふわふわっと繋がってきた。アフィニティに曲提供したアラン・ハルとリンディスファーンについて。そしたらアランハルの「パイプドリーム」と個人的に既視感を持つジャケットのケストレルについて。とか。たらたら書いてるデヴィッドボウイも次あたりはキーフジャケの「世界を売った男」だし、うん、またゆっくり書いていけそうです。
では!
(3章プログレ図)