前回の続きで5章のまとめとして図で繋がりそびれている英フォークを紹介していきます。
5-8 続・底なしの英フォークロック
Heron
インクレディブル・ストリング・バンドのマイク・ヘロンのバンド、ではないのよね。しばらく勘違いしてた時期があって、僕以外にも勘違いしてた人いるんじゃないかな?ってゆうか昔どこかでそういう文を見かけてそう信じてしまった気がする。
英フォークは緑のイメージが強くて、《木漏れ日フォーク》なんて呼ばれるバンドもいるんだけど、まさに木漏れ日フォークそのものなのがこのヘロンである。何故かというと上の写真の通りレコーディングを野外で行ったというのだ。そんなことしてしまったらもちろん風に葉が揺れる音や小鳥のさえずりをマイクが拾ってしまうんだけど、それを良しとして、結果素晴らしき木漏れ日フォークを生んだのだ。
そんなイギリス南東部バークシャーの片田舎で《野外録音》されたデビューアルバムが70年「Heron」である。
野外録音ばかりが目立ちがちだけどもちろん楽曲や演奏も素晴らしくて心地よい。1曲目の「Yellow Roses」の美しさで完璧にやられた。ほとんどの曲の頭と曲の終わりにちゅんちゅんちゅんちゅんと中々の数の小鳥が鳴いていてSEにしては鳴きすぎだろうと、野外録音のリアリティを感じることができ、少し笑ってしまう。その鳥の声を聞かせるためなのか曲と曲の間不自然に長いし。
彼らは非トラッドフォークでありビートルズ等の影響が強く見られるが、牧歌的であり尚且つ優雅な雰囲気はまさに英国的。全体的にアコースティックでドラムレスで穏やかであるが、オルガンが割とロック調であるのも印象的。名曲だらけでソングライティング能力が普通に高いバンドである。
翌年71年に2枚組の2nd「Twice As Nice & Half The Price」をリリースしてるがこちらはドラムが入り1stとは少し印象が変わるんだけどこれも素晴らしい。Disc1の2曲目「Take Me Back Home」なんか抜群のブリティッシュポップ。
しかし海外wikiにもバンドのページがないくらいであんまり詳しい情報はわからないんだよなー、勉強勉強。
Forest
英フォークは緑だ、なんて言ったけどまさに緑なバンド名のフォレスト。
彼らは元々無伴奏でトラッドを歌うボーカルグループだったようなんだけど、インクレディブルストリングバンドの出現によりアシッドフォークへ目覚めていく。
69年に1st「forest」をリリース。
どこか呪術的でカルトでケルトな雰囲気を持ったアシッドフォーク。ハーモニカ、ハープシコード、リコーダーや管楽器を駆使して独特の雰囲気を作り出している。
70年には2nd「Full Circle」をリリース。
フォークファンから愛される名盤。1st程のイカれ具合はないが、アシッドでヘロヘロでありながら3人のハーモニーが美しいという非常にバランスのとれた作風。
英フォークは本当に女性ボーカルが活躍するジャンルであるが、アシッドフォーク方面ではインクレディブルストリングバンドを筆頭に男性陣の活躍が目立つんだな。神秘の女達と異端の男達って感じ。
Comus
ロジャー・ウットンとグレン・ゴリングという2人の美大生を中心に結成されたコーマス。デヴィッドボウイが称賛したことで有名なプログレフォーク、アシッドフォークバンドである。
71年に今でもカルト的人気を誇る「First Utterance」でデビュー。
リーダーであるロジャー・ウットン自らが書いたこのジャケットを見ればこのバンドがどんなバンドなのか察しはつくと思う。アシッドフォークにはヘロヘロなやつらや狂気的なやつらや呪術的なやつらがわんさかいるんだけど、《猟奇的》なのはコーマスくらいじゃないだろうか。
主にアコースティックギター、フルート、バイオリン、ベース、パーカッションくらいのアンサンブルであるのにどこかメタリックで暴力的。シングルとしてもリリースされた1曲目「Diana」の冒頭を聞いた瞬間に「あ、こんなの初めて!」ってなる。かっこいいし刺激的で斬新なんだけど、これをシングルでリリースしたんだって事実に聞きながらニヤけてしまう。ただキテレツなだけではなく女性ボーカルボビーワトソンによってしっかりとトラッドの血を引く美しさも兼ね備えていて唯一無二のサウンドを作り上げている。10分を超える曲も数曲ありプログレフォークとして捉えられることもしばしば。
72年に解散。
再結成した74年に2nd「To Keep from Crying」を残し再び解散。
2008年に再々結成し、2012年には3rd「Out of the Coma」をリリースし現在も活動中である、がやはり1stの衝撃を超えるのは難しい。とにかく71年1st「First Utterance」を聴いて僕と一緒に笑いながら感動してほしい。
Tea and Symphony
ちょっとアシッドフォーク続きになっちゃうんだけど、アシッドフォークも難しいところで、フォークリバイバルの延長線上に居れば大きく英フォークに括られるんだろうけど…
例えばアシッドフォーク代表のシドバレットなんかはフォークリバイバルの延長線上にはいないだろうし、サイモンフィンなんかもそう。サイケデリックロックをアコースティックでやったらアシッドフォークって呼ばれちゃうのも確かで。
フォークリバイバルの延長線上にあるアシッドフォークの代表はインクレディブルストリングバンドで間違いないだろう。《民謡を蘇らせる》という運動の流れの中でそれを崩していくのがフォークリバイバルの延長線上にあるアシッドフォークの立ち位置だと思っているんだけど、シドバレットもインクレディブルストリングバンドもどちらもトラディショナルソングを演ってないんだけどサイケデリックロックをアコースティックで演ってるのと、トラッドをサイケニュアンスで崩していくのとではやはりニュアンスが違う。
このどちらもが一緒くたになってアシッドフォークと呼ばれていることとか前回言ったようにフォークとフォークスタイルの区別が曖昧なこととかをやっぱり僕なんかは気にしちゃうし、まだまだ言葉が足りないなぁって思うわけだ。
さっき紹介したComusやこのTea and Symphonyなんかは狂いすぎててフォークリバイバルの延長線上に立っているのかどうか正直わかんないんだよね。かといってビートルズ等に影響を受けたロックキッズでも絶対ないし、恐らくはフォーク側の人達なんだろうけど。
Tea and Symphonyはアコースティック編成で宗教歌的なものや呪術的なもの、中世的なもの、古楽、クラシックをごちゃ混ぜにしてひっくり返したような音楽性である。
69年「An Asylum for the Musically Insane」でデビュー。
このカラフルなジャケットが表すように色んなものがごちゃ混ぜになってオモチャ箱のような音楽を鳴らすんだけど、決してカラフルポップではなくて、混沌恐怖。しかしアイデアに溢れていて面白い。
基本メンバーはジェフダウという人物を中心に3人組である。
翌年70年に2nd「Jo Sago」をリリースしてるがこちらは未聴。手に入れねば!
Amazing Blondel
インクレディブルストリングバンドやペンタングルなどを筆頭に英フォークは古楽からの影響もよく見られることは前に言ったんだけど、その中でも特に古楽色が強いのがこのAmazing Blondelである。彼らはもはや《Medieval folk rock(中世フォークロック)》と呼んでしまえるようなバンドである。同じベクトルにいるであろうグリフォンやジェスロ・タルといったバンドはプログレッシブロックにカテゴライズされると思うんだけど、Amazing Blondelは英フォークの枠にいると僕は思ってる。とはいえ1stしか聞いたことないんだけどね。
70年に「The Amazing Blondel and a Few Faces」でデビュー。
今僕は古楽、中世音楽に目覚めたばかりでして、好奇心ビンビンであるのでこれからこのバンドもじっくり聞いていこうと思ってる。
Caedmon
78年Caedmonによる恐らくデビュー作「caedmon's hymn」。これがYouTubeでしか聞いたことなくて、めちゃくちゃ良くて。CDがAmazonで5000円とかするもんで貧乏人の僕には中々買えず、5年くらい《ほしい物リスト》に入ってたんだけど、今見てみたら1500円で売ってて即買いしました。嬉しい!正直情報は全く入ってないのでCDに何かしらの情報が記載されていることを期待します。
プログレフォークバンドに分類されると思うんだけど78年と中々の出遅れ感はあるんだけど。まずジャケットがいいよね。
ちなみにバンド名のcaedmon(キャドモン)とは7世紀の宗教詩を書いた詩人らしくて、アルバム名のcaedmon's hymnはその詩集のことらしいです。
Broselmaschine
英フォーク英フォークって家のCD棚漁ってたら、「お、こんなんもあったな。」って取り出したBroselmaschine。で、こいつら何やったっけって調べたらドイツのフォークロックバンドなのね。
なわけで英フォークじゃないんだけど、ここで書かなきゃ書くタイミングなさそうなので。
71年1st(多分)「Broselmaschine」。
ドイツは素晴らしいロックバンドがたくさんいるんだけど、フォークロックもいるのね。基本的にアコースティックでドラムレス、フルートが印象的でプログレフォークに分類されるがアシッドフォークとも言える妖しさと美しさを持っている。
唯一作だと思ってたんだけど数枚アルバム出してるみたい。
Sibylle Baier
ドイツフォーク繋がりでシビル・ベイヤー。
これはそのリリースに至るまでの特殊さで有名なアルバムである。ドイツ人女性シビル・ベイヤーが70年〜73年にかけて自宅でひっそりとアコースティックギター1本で美しくももの悲しい曲達をオープンリールに吹き込んだ。ただそれだけである。個人的趣味で宅録した素晴らしいフォークソングは約30年の時を超えて彼女の息子の手によって2004年にCD化される。しかしそれも家族へのプレゼント用としてである。それがダイナソー・JrのJ.マスシスの手に渡り、感激を受けた彼の協力を得て2006年に「Colour Green」としてリリースされたわけだ。
当時売れなかったレコードを再評価してCD化する流れは90年代からあったが、シビルベイヤーのような例は聞いたことがない。しかもそれが《ドイツのヴァシュティ・バニヤン》とまで評価されることになるんだからシビルベイヤーもさぞかし驚いたことだろう。
1曲目「Tonight」、3曲目「The End」なんかの暗くて美しい世界はなんとなくカートコバーンが持つ暗さに通ずるところがあって、それをJ.マスシスが発掘したのもなんとなくわかるようなわからないような。全体的に暗く、ドイツが持つ《冷たく》《悲しい》雰囲気が漂っているが妙なトリップ感があり、アシッドフォークとも呼べる。
とにかくデビューすらしてないアーティストを発掘したというのは夢がある。僕も息子が発掘してくれるかも知れないからね。
おしまい
まぁ最後ドイツフォークになっちゃったけど、英フォークはこんなもんかな!恐らくこれで底なしの英フォークのコップ一杯分くらいです。まだ英フォークを書くには早かったと反省!しかし本当に英フォークは素晴らしい世界だと再認識!
次はアメリカに渡りソフトロック辺りを検討中!