5-9 ブリティッシュフォーク図、再編!(第81話)
夏が終わり涼しくなってきましたね。秋はブリティッシュフォーク、黄金に輝く落ち葉のような風景が浮かぶ黄昏の音楽。
ブリティッシュフォークはフェアポート関連にペンタングル関連、tuder lodge,mellow candle,spyrogyraの三種の神器、その他いくつかざっとまとめてこのブログの5章で触れたが、ストローブスとリンディスファーン、この2つの割と大きめなブリティッシュフォークロックバンドをスルーしていた。
〝ブリティッシュフォークは女性ボーカル〟という固定概念とトラッドを基調とするブリティッシュフォークにおいて〝アメリカンフォークなニュアンスが強い〟という二つの理由でストローブスとリンディスファーンを軽んじてきたが、それが少し合ってたが大きく勘違いしていたことを今秋学んだ。
全体図消滅
(消滅せし全体図、画像だけ残ってる)
このブログを初めたのが去年の3月、ちょうど1年半ほど経った。丸1年でようやく累計1万アクセスに到達、少ないながらも読んでくれてるロック狂の人々に感謝の気持ちでいっぱいであった。そしてなんと今1年半で3万アクセスに到達。最初1年で1万アクセスだったのが、この半年で2万アクセス、しっかりと伸びている。いやー続けてみるものだ。
このブログは〝ロック史を振り返りながら相関図を作成するブログ〟である。正直僕よりロックに詳しい人は山ほどいるし、勝手に師と仰いでいるロック狂ブロガーも何人かいる。そんな人々と張り合っても勝ち目がなくモチベーションが保てないので、僕は〝ロック図作成〟という目的を+αしてやってきた(効果的だったかは置いといて)。
しかしその地道に築き上げてきた全体図が消滅してしまったのだ。
本当に興味がない話だと思うが事の端末に少しお付き合いいただきたい。
実はロック全体図を作成するという大いなる野望を抱いて進めてきたが数ヶ月前に挫折し〝ジャンル別図〟にシフトチェンジしたところだ。シフトチェンジしてから〝ジャンル別図〟を作成したのは《UKサイケ》と《プログレ》と《ソフトロック》であるがその手順はこう。
(例:UKサイケ図の作り方)
図アプリの挫折した〝全体図〟を複製する
↓
〝全体図〟から4章《UKサイケ》関連以外の図を削除する
↓
整理して《UKサイケ図》の出来上がり
それだけ。全体図を小分けにするだけの作業だ。
そんな感じで3章プログレ図と6章ソフトロック図も小分けにした。5章ブリティッシュフォークや7章シスコサイケ、8章LAサイケ、9章その他USサイケ辺りはシフトチェンジ後触れてなかったのでまだ小分けにできていない、そんな状態だった。
それで今回ストローブスとリンディスファーンを書くにあたってブリティッシュフォーク図を小分けにしようと図アプリを開いたら〝全体図〟がないのだ。「ん?」と固まってしまったが、すぐに全てを理解した。
おそらくはプログレ図の小分けを行った際に「全体図の複製」をし忘れてオリジナルの全体図からプログレ関連以外を消去しプログレ図を作ってしまったようだ。凡ミスである。
なわけで全体図が消滅した。のでブリティッシュフォーク図を1から作らなければならないことになり、ここ数日ポチポチと作り直してたわけだ。
で、せっかく作り直したのでストローブス、リンディスファーンに行く前にその図を使いながらここまでの5章ブリティッシュフォークを振り返ってみようというわけです。
新!ブリティッシュフォーク図
はい、少し張り切って写真付きにしてみました。青色が男性、ピンクが女性、灰色の人名やバンド名は関わりがあるが〝ブリティッシュフォーク外〟のもの。
さて5-1 ブリティッシュフォークとフォークリバイバル - ケンジロニウスの再生で書いたようにブリティッシュフォークロックは無伴奏トラッドシンガーであったシャーリー・コリンズと革新派ギタリストのディヴィ・グレアムが出会ったことで始まる。
ディヴィ・グレアムとシャーリー・コリンズ
アメリカのフォークリバイバルでは1940年代からウディ・ガスリーやピート・シガーなどがギターの弾き語りで歌うスタイルを定着させていたがイギリスのフォークリバイバルはシャーリー・コリンズを筆頭に無伴奏でトラッド(スコットランド民謡やアイルランド民謡)を歌う伝統的なスタイルを守り続けていた。
英トラッドとギターがようやく出会ったのがディヴィグレアムとシャーリーコリンズがコラボした64年「Folk Roots, New Routes」である。
ここからブリティッシュフォークロックの道が開ける。フォークとロックの融合がフォークロックであるが、ブリティッシュフォークロックは伝統のトラッドフォークが色濃く残っていることが特徴であり神聖で美しい空気感は独特なのだ。
ディヴィ・グレアムはDADGADチューニングの発明者としても有名で、後続のギタリストに大きく影響を与えた。マーティン・カーシー、バート・ヤンシュ、ジョン・レンボーン、ポール・サイモンらフォーク系ギタリストはもちろん、レイ・ディヴィスやジミー・ペイジにも。
ディヴィグレアムは62年に代表曲〝Angi〟を含むEP「3/4 AD」でデビューしているが、そのタイトル曲〝3/4 AD〟は英ブルースの父アレクシス・コーナーとコラボ。
アレクシス・コーナーのバンド、ブルースインコーポレイテッドにはクリームを結成するジャック・ブルースとジンジャー・ベイカーやストーンズを結成するチャーリー・ワッツなど後に活躍するミュージシャンが多数在籍していた。そこにペンタングルを結成するテリー・コックスとダニー・トンプソンもいた。
ペンタングル
英フォークロックを代表するバンドの一つであるペンタングルは英フォーク/ブルースギタリストのバート・ヤンシュ、古楽に傾倒していたジョン・レンボーン、トラッド歌手のジャッキー・マクシー、そしてブルースインコーポレイテッド出身のダニー・トンプソンとテリー・コックスの5人で67年に結成された【五芒星】の意を持つバンドである。
バート・ヤンシュとジョン・レンボーンの2人のギタリストはペンタングル結成前の66年に《フォークバロック》と評価される共作アルバム「Bert and John」をリリース。
この2人のプレイがペンタングルの肝であるが、リズム隊のジャジーなプレイもかなり重要であり特に初期は《ジャズトラッド/ジャズフォーク》な印象が強い。
アコースティックギターに様々な古楽器、ウッドベースにドラムとアコースティックな構成が基本であったが70年4th「Cruel Sister」で禁断のエレキギターを導入しここでようやく《ブリティッシュフォークロック》と呼べるものになる。
アン・ブリッグス
繋がりとしてはバート・ヤンシュをトラッドの道へ導いたとされるアン・ブリッグス。デビューは64年と早いがアルバムは71年になってようやくリリース、ブリティッシュフォークの重要な歌姫である。
テリーコックスとダニートンプソン
テリー・コックスはデヴィッドボウイの69年2nd「Space Oddity」に参加するなどセッションドラマーとしても幅広く活躍。ダニートンプソンとテリーコックスの2人はブリティッシュフォーク界隈を中心に様々な場所で顔を出す重要リズム隊。
フェアポート・コンベンション
ペンタングルと並んで(以上に?)英フォークロック重要バンドとされるフェアポート・コンベンション。
ロンドンアングラを盛り上げたUFOクラブを作ったことでも知られるプロデューサージョー・ボイドに発掘され68年にデビュー。デビュー当時はアメリカンフォークロックの影響が大きく《イギリスのジェファーソンエアプレイン》と評されていたが、69年に歌姫サンディー・デニーが加入したことにより徐々に英トラッド色が強くなっていく。
サンディー・デニー在籍時の69年2nd,3rd,4thが傑作であるが特に4th「 Liege & Lief」は収録曲のほとんどがトラディショナルソングで構成された正真正銘のブリティッシュフォークロック。
繋がり(フェアポート関連がかなり広がる)
サンディー・デニー
69年「Liege & Lief」の後サンディー・デニーはフェアポートを脱退しフォザリンゲイを結成。このバンドは後にフェアポートに加入する面子も何人かいてフェアポートの姉妹バンド的な感じでこれまた英フォークロック重要バンド。
サンディー・デニーはフェアポート加入前の67年にデビュー前のストローブスに参加している。ストローブスについては次回書くつもりだが、70年〜71年にはイエスに加入する前のリック・ウェイクマンが在籍。
リック・ウェイクマンもペンタングルのテリーコックスと共にデヴィッドボウイ69年「Space Oddity」に参加しているので繋いでいる。
ジュディ・ダイブル
サンディーデニーが加入する前のフェアポート68年1stで歌ったジュディ・ダイブル(こないだ亡くなりましたね)はキングクリムゾンの前身バンドGiles, Giles and Frippに短期間加入したことでも知られる。
その後69年にジャッキー・マコーリーとのフォークデュオTrader Horneを結成。ジャッキーマコーリーは初期Them(ヴァンモリソンがいたバンド)の鍵盤を弾いてた人物である。Trader Horneの70年唯一作「Morning Way」も英フォーク重要作品。
アシュリー・ハッチングス
こいつがブリティッシュフォークを底なし沼にした罪な男。フェアポートのベーシストであったアシュリーハッチングスは69年「Liege & Lief」の後、よりトラッドな作風を求めてフェアポートを脱退しスティーライ・スパンを結成。これまた英フォークロックを代表するバンドで、メンバーにはマーティン・カーシーがいた。
71年にはスティーライ・スパンとフェアポートのメンバーらで構成されたアルビオン・カントリー・バンドを結成し、当時の妻であったトラッドの女王シャーリーコリンズのバックを務め「No Roses」をリリース。英フォーク界の強者が集結した歴史的アルバム。
その後もアシュリー・ハッチングスはアルビオン・ダンス・バンド、アルビオンバンド、アルビオン・クリスマス・バンドと活動していくがその辺はまだノータッチ。
ジョー・ボイド関連
ロンドンサイケの聖地であるUFOクラブを運営しピンクフロイドのデビューシングルをプロデュースするなどUKサイケ方面で重要人物であるジョー・ボイドであるが、ブリティッシュフォーク界隈でも大きい影響力を持っている。フェアポートコンベンションを発掘しただけではなく、アシッドフォークなインクレディブル・ストリング・バンド(ISB)やDr.Strangely Strangeを発掘、プロデュース。
SSW系ではヴァシュティ・バニヤンやニック・ドレイクをプロデュース。ヴァシュティ・バニヤンの70年名盤「Just Another Diamond Day」ではフェアポートのサイモン・ニコルとデイヴ・スウォーブリック、ISBのロビン・ウィリアムソンがサポートしたり、ニック・ドレイクの69年1st「Five Leaves Left」ではフェアポートのリチャード・トンプソンやペンタングルのダニー・トンプソンがサポートしたり、英フォークは割と狭い範囲で繋がっていたりする。
リチャード・トンプソン
フェアポートのリーダーでありギタリストであったリチャード・トンプソンは71年にフェアポート脱退し、ソロ活動。70年代半ばには妻のリンダ・トンプソン(リンダ・ペータース)と共にリチャード&リンダ・トンプソン名義で活躍。その妻リンダ・ペータースは72年に解散間際のチューダー・ロッジに加入していた時期がある。
ブリティッシュフォーク3種の神器
誰が呼んだか《ブリティッシュフォーク3種の神器》と呼ばれる3枚のアルバムがある。Tudor Lodge の71年「Tudor Lodge」、Mellow Candleの72年「Swaddling Songs」、Spirogiraの3rd「Bells, Boots And Shambles」の3枚で、3枚とも男女混声の《プログレフォーク》と呼べる音楽性であることと、入手困難な激レアレコードであったことなどから括られることが多い。
この3バンドについては
で書いた。
チューダーロッジ
チューダーロッジの71年唯一作ではペンタングルのダニートンプソンとテリーコックスがバックを務めた。紅一点のアン・スチュアートは脱退後カーヴド・エアにフルートでゲスト参加している。そのアン・スチュアートの代わりにリンダ・ペータース(リンダ・トンプソン)が加入したという形だ。
メロウキャンドル
元々女性3人組だったが、そこに男3人が合流しフォークロックバンドになったメロウキャンドル。72年に唯一作「Swaddling Songs」を残して解散。ドラムのウィリアム・マーレイはケヴィン・エアーズの70年2ndに参加していたこともありその繋がりでメロウキャンドル解散後マイク・オールドフィールド作品に参加。クロダー・シモンズも同じくマイク・オールドフィールドやThin Lizzy作品にゲスト参加している。同じ界隈と関わりがあるのがブリジット・セント・ジョン。彼女もトラッド系ではないが英フォークSSWの代表格。
夫婦であったデイヴ・ウィリアムスとアリソン・オードネルはFlibbertigibbetというよりトラッド志向の強いバンドを結成し、78年に南アフリカで密かにアルバムをリリース、これも良い。
スパイロジャイラ
奇才を放つマーティン・コッカーハムと美しいバーバラ・ガスキンの化学反応が素晴らしいスパイロジャイラは3枚のアルバムを残したが、その全てでフェアポートのデイヴ・マタックスがドラムを叩いている。ベースのスティーブ・ボリルはスパイロジャイラ脱退後末期メロウキャンドルに短期間加入。バーバラ・ガスキンは解散後Egg,Hatfield and the North,National Healthとカンタベリー系の重要バンドで鍵盤を弾いたデイヴ・スチュアートとのデュオで成功をおさめた。
その他ブリティッシュフォーク
繋がりを見いだせなかった素晴らしき英フォークロックバンドはひとまず孤立させておいた。
で書いた面々であるが、改めて見ても素晴らしいバンド達。プログレフォークなTrees、木漏れ日フォークなHeron、まさに森なForest、猟奇的なComus、古楽満載なAmazing Brondelなどなど、全てオススメ。
ブリティッシュフォーク界隈はハマれば抜け出せない底なし沼。
終わり!
図を再編したので少し振り返ってみようと思ったが長くなってしまった…
この続きからストローブス、リンディスファーンあたりを書いていこうかと!
では!