グレイトフルデッド、ジェファーソンエアプレインとサンフランシスコの最重要バンドについて書いたので、やはり共に3大シスコバンドに数えられるこのバンドも見ていくべきかと。
7-3 Quicksilver Messenger Service〜3大シスコバンド〜
クイックシルバー・メッセンジャー・サーヴィス(QMS)は3大シスコバンドの中では特に日本での認知度が低いバンドであるがサンフランシスコでは絶大な人気を誇ったバンドである。かくいう僕もグレイトフルデッド、ジェファーソンエアプレインに比べるとパッとしない印象を持っていてアルバムごとに姿を変える掴み所のないこのバンドにはそこまで熱くなることはなかった。しかしバンド始動直前にマリファナ所持で収監されリタイヤし、70年の4thアルバムから復帰して活躍するディノ・ヴァレンティという男にはかなり共鳴するところがあり、彼のアシッドな68年のソロアルバムはお気に入りだ。
んなわけで3大シスコバンドQMSの結成から変化の様とディノヴァレンティについてさらっと。
今のところ図では末期ジェファーソンエアプレインにベースのデヴィッドフライバーグが加入したことと、極初期にシスコ1のジャンキーであるスキップスペンスがセッションに参加していたことでつながっている。
60年代初頭にサンフランシスコのフォーク界隈にいたデヴィッドフライバーグは《ブリティッシュインヴェイジョン》を受け、同じ界隈にいたジェリーガルシア、ポールカントナー、デヴィッドクロスビーらがバンド結成していくのと同じく65年頃にジョン・シポリナ、ジム・マレイと出会いQMSの母体を作り始める。
さらにフライバーグはニューヨークからカリフォルニアへと移ってきたフォーキー、ディノ・ヴァレンティと出会う。この男がQMSのキーマンとなる男であるがバンドがスタートする直前でマリファナ所持で収監される。
この直後のセッションにスキップスペンスが参加していたようだが、ジェファーソンエアプレインにドラマーとして引き抜かれて行き、結局別のメンバーを迎え入れてバンドが始動する。
シポリナのフィードバックやトレモロアームを多用したレフティギターが特徴的なサイケデリックサウンドで人気を呼び、67年にはモントレーポップフェスティバルに出演した。ヒッピーの祭典モントレーポップフェスティバルには当然多数のシスコバンドが出演しているが、レコードデビュー前のバンドが多く、同フェスでのアピールでレコード契約が決まったシスコバンドも多かったようで、QMSもそうであった。
68年に「Quicksilver Messenger Service」でキャピトルレコードからデビュー。
やはりこのアルバムがサイケデリックバンドQMSとしては代表作となるかも。《ギタリストのためのサイケデリックロック》ってのがこの時期のQMSの印象で、ブルースギターが軸でありグレイトフルデッドと同じくジャム演奏を得意としていた彼らのセッションが詰まったアルバム。12分に及ぶ〝The Fool〟は凄まじい。〝Dino's Song〟とそのままのタイトルな収監され脱退済のディノヴァレンティ作曲の曲も収録されており、しっかりとした《曲っぽい曲》もある。
69年2nd「Happy Trails」
1stの延長上にあるが2ndはライブ録音であり、より一層持ち味が発揮されたアルバムである。
A面のボディドリーの〝Who Do You Love?〟をテーマにしたセッションを組曲形式で23分繰り広げる様はアメリカンプログレの走りとも言える。これも1st同様《ギタリストのためのサイケデリック》でありシポリナのフィードバック、トレモロアームともう1人のギタリストゲイリー・ダンカンのハードなブルースギターが絡み合うサイケデリック。
同年3rd「Shady Grove」
ギターのゲイリーダンカンが脱退し、ニッキー・ホップキンスが加入したことでダブルギターのサイケバンドからギターと鍵盤が絡み合うよりプログレッシブなバンドへと変化する。
ニッキーホップキンスはイギリス人であり、ジェフベックグループやストーンズ、キンクス、フー、ビートルズなど様々なイギリスのバンドの多数の重要な楽曲で鍵盤を弾いたロック最重要鍵盤弾きであるがこの時期にカリフォルニアに移り住みQMSやジェファーソンエアプレインなどサンフランシスコ勢とも交流を持ち始める。
このアルバムで数曲作曲者としてクレジットされているニック・グレイブナイツという人物はQMSの1stアルバムをプロデュースした人物であるが、この男もサンフランシスコにおいて重要なコネクションを持つ人物である。シカゴ出身でブルースロック界隈では有名な人物らしくポール・バターフィールドやマイク・ブルームフィールドとも強い交流があるようだが、60年代末のサンフランシスコでの活躍でいうとマイクブルームフィールドとのサイケブルースバンドThe Electric Flagにてボーカル、ジャニス・ジョプリン脱退後のBig Brother and the Holding Companyでボーカル、ジャニスのソロへの曲提供、そしてQMSの1stプロデュースと3rdへの曲提供。
とにかく僕はブルースに疎くてシカゴブルースなんかも全くなんだけど、このニックグレイブナイツやマイクブルームフィールドなんかもこの時期サンフランシスコに流れてきているんだからフラワームーブメントってすごいよね。
さてゲイリーダンカンはディノ・ヴァレンティと新バンドを組む為にこのアルバム前に脱退となったが、結局次のアルバムでヴァレンティと共に復帰し、6人編成となる。
70年4th「Just For Love」
この時期のQMSを全盛期と見なす考え方も一般的に強い。
極初期の65,6年頃にマリファナ所持による収監によってバンドを去っていたヴァレンティが帰ってきたわけだが、早速全9曲中8曲がヴァレンティの曲となりQMSはヴァレンティ主体のバンドへと姿を変える。作曲のみならず圧倒的存在感を持ったボーカルとしてもバンドを引っ張って行く。その音楽性はラテンロックと言えるものであり、シングルとしてもリリースされた〝Fresh Air〟はQMS史上最も売れたシングルとなった。
この次も同じ編成で71年に5thアルバムを作ってるんだけど、これ以降知らないのです。その5thアルバムの後にデヴィッドフライバーグが脱退し末期ジェファーソンエアプレインに加入、そしてジェファーソンスターシップの結成メンバーとなるわけね。
ディノ・ヴァレンティ
さてディノヴァレンティ。舞い戻ってきた70年にサイケバンドQMSをラテンロックに変えたわけなんだけど別にラテン系のミュージシャンというわけではなく元は東海岸のフォーク界隈にいた人物である。
フォークリバイバルがピークを迎えた60年代頭にニューヨークで活動しており彼が作った〝Get Together〟という曲は東海岸のフォーク界隈で話題となり歌い継がれていたそう。レコードリリースとしては64年にキングストントリオが歌ったのが最初で、有名なのはフォークロックバンドヤングブラッズが67年にカバーしたバージョンだろう。ヤングブラッズはラヴィン・スプーンフルと共に東海岸を代表するフォークロックバンドであるが、ヴァレンティの〝Get Together〟のカバーは彼らの代表曲となった。ジェファーソンエアプレインも1stアルバムで〝Let's Get Together〟としてカバーしており、〝Get Together〟はディランの楽曲と肩を並べるフォークアンセムである。
ちなみにディノヴァレンティというのは芸名でニューヨーク時代はチェット・パワーズと本名を名乗っていた。他にも場面場面でいくつか芸名を使い分けてるややこしいヤツ。
それで60年代半ばに西海岸に移り、デヴィッドフライバーグと出会いバンドを結成した矢先にマリファナ所持で収監。QMSに舞い戻るのは70年になるわけなんだけど、もちろんマリファナ所持くらいで4,5年も収監されていたわけはなく、QMSに合流する前はソロ活動を行なっていた。その68年の唯一作「Dino valente」がアシッドフォークの名盤なのだ。
彼はよく《アンダーグラウンドのディラン》と称されるが、その理由として〝Get Together〟など多数のミュージシャンに評価されている曲があるにもかかわらず彼自身がレコーディングを行うことを拒否していたからのようである。そんなヴァレンティがようやく重い腰を上げてレコーディングしたのがこの68年のソロアルバムなのだ。
フレッド・ニールの影響を強く感じる12弦ギターの弾き語りで歌われる本作だが、12弦が持つ浮遊感と彼の独特な声によってアシッド感満載のアルバムである。ニューヨークにいたころからこのスタイルだったのかどうかは正直わからないが、恐らくは西海岸のムーブメントと触れ合い生まれたアシッドフォークであると僕は思っている。サイモンフィンほどイカれてはないがニックドレイクほど美しくない(どっちもイギリスだけど)、という非常に危うい位置にいる感じで引き込まれるのよ。
声自体がサイケなんだよな…サイケって音色がかなり重要で、「音色がサイケだなぁ」って感想って割とあることなんだけど、ヴァレンティは《声の音色がサイケ》って感じで珍しいタイプだと思う。
2011年には未発表曲集「Get Together」もリリースされた。60年代末〜70年の間、つまりQMS加入以前の時期に録られた曲達であるようだが、こちらは68年のソロアルバムに比べるとアシッド感は控えめ。フォークシンガーとしての姿を見ることができる作品で、《アンダーグラウンドのディラン》という異名がしっくりくるのはソロアルバムよりこの未発表曲集だと思う。
オリジナルの〝Get Together〟を聞くことができるが、ヤングブラッズやジェファーソンエアプレインによる爽やかなフォークロックバージョンとは違いやはり少し妖しい空気感を持っている。最後加速していく様とか、やっぱこの人変な人だなぁとにんまり。このアルバムもオススメ!
それで70年、QMSの4th「Just for Love」でのラテンっぽさは一体どこから来たのかってのが割と謎なんだよね…QMSのその後の数枚を聞いてないから何とも言えないんだけど。聞かないと!とにかくディノヴァレンティの声はそれだけでサイケであると言えるので、続きも聞かないとなぁって書きながら思った。Apple Music Apple Music♪♪
終わり
まぁこんな感じです。
シスコサイケQMSとしてはやっぱり1st,2nd。
ニッキーホップキンスとのプログレッシブな交わりを見たいなら3rd。
曲調は変わるがバンドの全盛期はディノヴァレンティ復帰の4th。
ディノヴァレンティのソロもサイケ/アシッドファンは必聴!
では次回はシスコサイケまとめ!