LAソフトサイケ
6章で《ソフトロック/サンシャインポップ》に触れ、僕はロサンゼルスがその中心地であるとして書いた。60年代末、同時期にサンフランシスコを中心に盛り上がりを見せるヒッピームーヴメントやサイケデリックブームとは一線を引いたロサンゼルスの職業音楽人たちが突き詰めたポップの結晶が《ソフトロック/サンシャインポップ》界隈であると思ってはいるが、音楽表現の幅を飛躍的に広げる可能性を持ったサイケデリックエッセンスはやはり無視できるものではなかった。
サイケニュアンスを取り入れたギリギリの《ソフトロック》がカート・ベッチャー関連(ミレニウム、サジタリアスなど)だと僕は思っている。実際ミレニウムのリズム隊はミュージックマシーンという元LAガレージサイケバンドのメンバーだ。
6章で触れた他のソフトロック勢で言うとペパーミント・トローリー・カンパニー辺りもギリギリのラインだろうか(超えてるか…)。
(6章ソフトロック周辺図)
その《ソフトロック/サンシャインポップ》のギリギリのサイケラインを越えた《ソフトサイケ》と呼ぶべきバンドがロサンゼルスにはたくさんいる。ミレニウムを「サイケの香りが漂うソフトロック」とするなら、「ソフトロックの香りが漂うサイケデリックロック」と呼ぶべきバンド達が《ソフトサイケ》だと考えていて、その音楽性は僕にとって超絶どストライクなのだ。
ソフトロックの定義(再び)
ゾンビーズやホリーズをソフトロックと捉える見方もあるし、エルトンジョンやカーペンターズもソフトロックと捉える見方、AORやアダルトコンテンポラリーをソフトロックと捉える見方まであって、ソフトロックの定義というのはまだまだ定まっていない。なので[Soft rock]でネット検索をかけても僕の考えるソフトロックとは今一つ一致せずモヤモヤしてるのが現状である。
しかし僕は「ソフトロックはサンシャインポップとほぼ同意義である!」という答えになんとか辿りついた。よし、これでもし[Sunshine pop]で検索をかけて僕の思うソフトロックと一致すればスッキリするぜ!ってやってみたらSunshine popのwikiにStrawberry Alarm Clockの名が……ん…ストロベリーアラームクロックはソフトロックじゃなくてフラワーヒッピー臭満載のサイケバンドでしょ。「ソフトロック=サンシャインポップ」も違うのか……わかんねぇ!
ってのが6章の締めくくりだったと思うんだけど、そこで名前だけ出てきたストロベリーアラームクロックから8章LAサイケを始めようと思います!
8-2 Strawberry Alarm Clock〜嵐の青春〜
【イチゴ時計】といういかにもサイケデリックなバンド名のストロベリーアラームクロックは67年にThee Sixpenceというバンドが発展する形でロサンゼルスにて結成された。Thee Sixpenceとして既に4枚のシングルをリリースしていたようで(未聴)、その後メンバーが代わりストロベリーアラームクロックとして67年に再始動というのが正しいようだ。
とにかくUNIレコードからのデビューシングル〝Incense and Peppermints〟がいきなり全米1位を記録する大ヒット。
〝Incense and Peppermints〟はオルガンが印象的なドアーズチックなサイケナンバーであるが、ドアーズにない明るさとハーモニーを持ったフラワーでポップな彼らの代表曲である。が、しかしこの曲の作曲は外部の作曲家が行っており、さらにメインボーカルも外部の人間であるのだ。オルガンのマーク・ワイツとギターのエド・キングはこの曲のインストゥルメンタルのアレンジに大きく貢献したが作曲者としてクレジットされず、バンドにとっては何とも言えない大ヒットシングルとなった。
同67年そのヒットシングルを冠した1stアルバム「Incense and Peppermints」をリリース。
「Incense and Peppermints」
先述の大ヒットタイトル曲以外はしっかりとバンドメンバーが作曲をこなしストロベリーアラームクロックのフラワーサイケデリックがしっかりと詰まったアルバムである。この1stでの作曲は主にベースのジョージ・ブネルとフルートのスティーブ・バーテックが担当し、オルガンのマーク・ワイツとギターのエド・キングがサウンド面の要を担うといった構成。
全体的にB級感と雑味はあるものの〝Strawberry mean love〟や〝Bird in my trees〟といった極上のサイケポップが収録されたLAサイケを代表する名盤。全米11位を記録した。
トリップ映画「Phych-Out(ジャック・ニコルソンの嵐の青春)」
68年に『Phych-Out(ジャック・ニコルソンの嵐の青春)』というカルトサイケ映画が作られた。サンフランシスコのヘイトアシュベリーを舞台に当時のカウンターカルチャーやドラッグカルチャーを描き、そこで生きる若者の青春を描いた《トリップ映画》である。主演はジャック・ニコルソンで、この映画にストロベリーアラームクロックがストロベリーアラームクロック役として出演している。さらにLAガレージサイケの代表、The SeedsもThe Seeds役で出ている(らしい…まぁ実は随分前から気になっているんだけど観てないのよね…)。
しかしヘイトアシュベリーのリアルを描いた映画でありながら本場シスコサイケのバンドではなくLAサイケのストロベリーアラームクロックとシーズを起用しているのに違和感を感じるが、ガチガチのシスコサイケ連中が映画に出演するのもそれはそれでどこか冷めるし…何よりシスコサイケ連中の素行の悪さをレコード会社が恐れたためにシスコサイケ全体のレコードデビューが遅いって言われてるくらいだし、映画側も怖かったんだろうと推測。
僕は映画が本当に全くで(やっとここ半年でスターウォーズやマーベルシリーズを観だしたくらい。西部劇は昔から好きで何作も観てたが…)ジャックニコルソンがどんな俳優であるかも知らないが、この時期の西海岸のカウンターカルチャーやフラワームーヴメントにどっぷりな俳優であったことは間違いない。『嵐の青春』と並んで語られることの多いトリップ映画である67年『The Trip(白昼の幻想)』では脚本を担当し、66年にはLAサンセットストリップのクラブ(ライブハウス)への弾圧に反抗した若者による1000人規模のデモ集会に参加し警官隊に捕縛されている(Buffalo Springfieldの〝For What It's Worth〟の元ネタとなった事件)。ジャックニコルソン作品、また観てみよう。ちなみに『白昼の幻想』のサウンドトラックはマイク・ブルームフィールド率いるシスコサイケバンドThe Electric Flagによるもの。
(エレクトリックフラッグ周辺)
『嵐の青春』の劇中では〝Incense and Peppermints〟を始めとする1stアルバムからの楽曲がいくつかフィーチャーされたストロベリーアラームクロックだがテーマソングも担当した。そのテーマソング〝Pretty Song from Psych-Out〟が収録された2ndアルバム「Wake Up...It's Tomorrow」を68年にリリース。これが素晴らしきソフトサイケでお気に入りなのよ。
2nd「Wake Up...It's Tomorrow」
僕は1stより先にこのアルバムでストロベリーアラームクロックに出会った。とにかくYouTubeで〝Curse of the Witches〟を聴いて一気にこのバンドの虜になったのを覚えている。
1stではブネル/バーテックによる共作が中心でマイク・ワイツとエド・キングのオルガンとギターを中心としたフラワーサイケサウンドであったが、この2ndではメンバー全員が作曲に関わりサイドギタリストのリー・フリーマンによるシタール、ドラムのランディ・ソルによるグロッケンやマリンバ、スティーブ・バーテックのフルートなどが非常に効果的に使われたソフトサイケへと進化した。
全米1位を取ったデビューシングル〝Incense and Peppermints〟ほどではないがトップ40入りのヒットを果たした2ndシングル〝Tomorrow〟、ジャケットのグル(導師)を思わせる3rdシングル〝Sit with the Guru〟も収録されている。
ほんとに素晴らしいアルバムだと思うんだけど、1stに比べて売れ行きが良くなかったことから次作「The World in a Sea Shell」では外部作曲家による曲が多数使用されることになる。
3rd「The World in a Sea Shell」
68年リリース3rd。〝Incense and Peppermints〟の作曲したJohn S. Carter/Tim Gilbertの曲やキャロル・キングによる楽曲などが多数使われ、A面6曲の内オリジナルソングが1曲のみという結果となった。そんな経緯からも非常にソフトロックらしいと言えるアルバムであり、元々特徴的であったハーモニーがさらに強調された。このアルバムのみを切り取るとストロベリーアラームクロックが《サンシャインポップ》に含まれるのに合点がいくが、やはり前作のサイケデリアが真骨頂だと思うんだよな。いいアルバムではあるんだけれど…
やはりバンド側も納得がいかなかったのか、ベースのジョージ・ブネルとドラムのランディ・ソルが脱退。リードギターが新たに加入し、エド・キングがベースにまわるなど大幅なシフトチェンジが行われ、69年に4th「Good Morning Starshine」をリリース。
4th「Good Morning Starshine」
やはり69年、ストロベリーアラームクロックも周りと同じくサイケが身を潜めてブルースロック化していく。ので正直あんまり聴けてないアルバム……
解散、再結成
4thリリース後ストロベリーアラームクロックは解散。70年代半ばや80年代以降に何度か再結成してライブなどを行なってたようだが目立った動きはなかった。
ところが2012年に5th「Wake Up Where You Are」をリリース。
Apple Musicでこの存在を知って、最初はコンピレーションアルバムだと思ってたんだけどしっかりと2012年に新たに録音されリリースされたものであった。1曲目がThe Seedsの〝Mr.Farmer〟のカバーから始まる。これがとにかくいい。これは2009年に死んでしまったシーズのフロントマン、スカイ・サクソンに対しての追悼の意も込められているようで『嵐の青春』にも共に出演したシーズとは強い交友関係にあったようだ。
再録の曲が多数あるものの現代の音質でそれが聴けるのは非常に嬉しい。ってかもうお爺ちゃんのはずなのに声が昔と変わらない、それでコンピアルバムだと思っちゃったんだけど。現代の音質と言っても何というか現代風なクリアなサウンド、というわけではなくてガチガチの60'sサウンドを維持してるのもすごい。こういう再結成アルバムに珍しい名盤だと思う。
終わり
1st,2ndは間違いなくLAサイケの名盤。
2012年の再結成アルバムもオススメ!
ストロベリーアラームクロックはメンバーのその後のことなどの繋がりのコーナーも書きたいので次回その辺を!