ケンジロニウスの再生

ロック史を追いながら関連図を作成(関連図挫折中)

9-4 Gandalf〜リヴァーブの魔術師〜(第55話)

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〜魔術師という異名〜

〝魔術師〟という異名は魔法を使ってるとしか考えられないほど鮮やかなプレーや高度な技術を持った人物を表す意味で様々なジャンルにおいてよく使われる。

【笑顔の魔術師】と呼ばれたロナウジーニョを筆頭に人並み外れたスキルを持つスポーツ選手に使われることも多く、野球でも変化球を得意とするピッチャーや守備の上手い野手に使われることがしばしば。

【ピアノの魔術師】と呼ばれたリストや【色彩の魔術師】と呼ばれたシャガールなど芸術分野でも多く使われるが、ちょっと調べてみると『はらぺこあおむし』の作者が【絵本の魔術師】と呼ばれてたり【スパイスの魔術師】と呼ばれる三つ星シェフまでいて、とにかくどんなジャンルでも人並み外れた能力者に〝魔術師〟の異名は与えられている。〝魔術師〟と呼ばれる人物をリストアップしてみるのも面白そうだ。多分学問においても【数字の魔術師】や【言葉の魔術師】みたいに呼ばれる人が存在するんだろう。科学者や化学者なんてまさに魔術師だしね。

 

さてロックにおいても〝魔術師〟はめちゃくちゃ使われまくっている。ストラトの魔術師】ジミ・ヘンドリックスだったり、【ポップの魔術師】ロイ・ウッド【鍵盤の魔術師】リック・ウェイクマン、というか【鍵盤の魔術師】だったり【ギターの魔術師】なんかは何人いるんだってくらいいる、【ポップの魔術師】もトッド・ラングレンジェリーフィッシュのボーカルなんかも呼ばれてるみたいだし。このブログでも紹介したソフトロックの【コーラスの魔術師】カート・ベッチャーも忘れてはいけない。もちろんこんなのは非公式でありただの異名であるので一般的にどれだけ認知されてるかはわからないけどね。

 

そして今回紹介するGandalfというニューヨークのサイケバンドに僕は【リヴァーブの魔術師】という異名を勝手に与えたわけなんだけど、これに関してはちょっと意味合いが変わってくるのかも。

もちろん彼らの持ち味である深いリヴァーブやエコーを効かせたサイケデリアは素晴らしいが、『人並み外れたリヴァーブの天才!』って程でもなくて…これはただガンダルフという名前に引っ張られた形での【リヴァーブの魔術師】である。そういう意味では【ポップの魔術師】と呼ばれるロイ・ウッドも彼が70年代に結成したWizzardというバンドに引っ張られた感は否めない。まぁしかし彼はThe MoveELO、Wizzard、ソロ名義で数々の天才的なポップセンスを発揮したのは確か。

 

さぁガンダルフと言えば皆さんご存知J・R・R・トールキンの長編小説指輪物語に登場する魔法使いのキャラクター名である。このキャラクター名の元となったのは北欧神話のガンダールヴルというドワーフの名であるようだが、Gandalfというバンド名の元ネタは『指輪物語』の方で間違いないだろう。

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(映画『ロード・オブ・ザ・リング』でのガンダルフ

僕は『指輪物語』も読んでないし、『ロード・オブ・ザ・リング』も公開当時の小学生の頃に観たはずなんだけど記憶は曖昧。昔はそこそこファンタジーが好きだった気がするんだけどね。

まぁとにかく『指輪物語』からバンド名をとったサイケバンドGandalfなんだけど、なんかファンタジー小説のキャラクターからバンド名をとるってイタいと思いませんか?少なくとも僕は最初そう思いました。しかし時代を追ってみるとそんなにすっとんきょうなことでもないことが見えてくるんだな。サイケと魔法というのは何かと共鳴するところがあるようで、そんな話を少し。

 

〜サイケと魔法〜

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僕のイカれたバンドメンバーによると「そもそもロックと黒魔術に深い関わりがある!」らしいんだけどその辺りは正直僕はちんぷんかんぷんで…

ストーンズブライアン・ジョーンズツェッペリンジミー・ペイジらが黒魔術崇拝者だったことくらいは知っているし、ジーオズボーン及びブラックサバスが崇拝したカルト野郎アレイスター・クロウリーの存在はカウンターカルチャーにも大きく関与している。

 

サイケサウンドには〝マジカル〟という表現もよく使われ、LSDが引き起こすサイケデリック現象そのものが魔法の世界のような感覚をもたらすことや、カウンターカルチャーに黒魔術が1枚噛んでいることもありサイケと魔法は割と密接な関係にあったと言えるだろう。

サイケロックの名盤のジャケットだけを見てみてもいくつか魔法との接点を発見できる。

まずビートルズ67年「サージェントペパーズロンリーハーツクラブバンド」のジャケットには様々な著名人が登場しているが、その中にアレイスター・クロウリーがいる(左上2番目)。

そして明らかにこれに影響されたアルバム、ローリングストーンズの67年「サタニック・マジェスティズ」ではファンタジーの魔法使いのようなコスチュームを纏ったストーンズのメンバーを見れる。ちなみにこのジャケットにはビートルズのメンバー4人の写真が隠されている。ストーンズらしくないサイケデリックで評価が分かれるアルバムであるが、ブライアンジョーンズのまさに〝魔術師〟と呼ぶべきマルチインストゥルメントっぷりが彩りを与えた1枚。

シスコサイケバンド、カントリージョー&ザフィッシュの67年2nd「I-Feel-Like-I'm-Fixin'-to-Die」も同じく魔法使いコスチューム。

他にもまだまだあるんだろうが、もう一つ、ピンク・フロイドの68年2nd「神秘」に触れたい。これを言いたいがために今回のブログ書いてると言ってもいい。

このジャケットはシドバレットの親友でありピンクフロイドと親密な関係であったストーム・ソーガソン率いるアートチームヒプノシスによって手掛けられた。70年代を中心にピンクフロイドツェッペリンなどの多数の名ロックアルバムのカバーアートを手掛け有名アートチームになるヒプノシスのその記念すべき最初のカバーアートがこの「神秘」であり、そのジャケットには魔法との関係が隠されている。

〜「神秘」に隠された魔法コミック〜

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僕は去年2019年、マーベルコミックの映画シリーズにハマりにハマって現在までの全23作品を一気に見たんだけど、そんな中で思いがけない情報と出会った。

マーベル映画では1作目2008年『アイアンマン』にて使われたAC/DC〝Back In Black〟を筆頭にいくつかのロックの名曲が挿入歌として流れ「おっ!」っとテンションの上がる場面がいくつかあった。ツェッペリン〝Immigrant Song〟やボウイの〝Moonage Daydream〟、ELOの〝Mr.Blue Sky〟なんかも流れてたと思うが、僕が1番興奮したのはシリーズ14作目ドクター・ストレンジ(2016年公開)』でのピンクフロイド〝星空のドライヴ〟である。

ドクター・ストレンジ』は簡単に言うと凄腕の医者であった主人公が自動車事故に逢い、そこから魔法の世界へと足を踏み入れていくファンタジー映画であるが、結果的にはサイケデリック演出満載のガチガチのトリップ映画であった。序盤の医者映画が自動車事故をきっかけにトリップ映画へと変わるわけだが、その運転中に流れてたのがピンクフロイド67年「夜明けの口笛吹き」収録の星空のドライブであり、この曲がトリップ映画へと変わる起点になっている。星空のドライブはインストナンバーであるがシド在籍時の代表曲である。

バキバキのサイケ演出と挿入歌にフロイドを使ったあたり、監督はかなりのフロイドファンに違いない!と調べてみたところ、なんとまぁ実は逆であったのだ。去年1番の驚きである。

〜ドクターストレンジと神秘〜

逆であったとはどういうことかと言うと、ピンク・フロイドの方が『ドクターストレンジ』のファンであった、ということだ。

『ドクターストレンジ』のマーベル原作コミックは63年頃に連載が始まったみたいで、その名の通りの奇妙な世界観は独特のものがありトリップ漫画としてカルト的な人気があったようなのだ。ピンクフロイドのメンバー(誰かは不明)も熱狂的なファンだったようで、その証拠が68年2nd「神秘」のジャケットに残されている。

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この宇宙を匂わしながらサイケデリックな雰囲気を残している、まさにシドバレット脱退後のピンクフロイドの音楽性にぴったりなジャケットだが、なんと『ドクターストレンジ』のコミックのある1ページをコラージュしたものであるというのだ。

嘘でしょ、と思い調べたらマジだったのね。

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(わかるかな?)

 

つまりはフロイドが好きだった60'sカルト魔法漫画『ドクターストレンジ』の1ページをヒプノシスがコラージュしたものが68年「神秘」のジャケットであり、それを知る監督が2016年の映画『ドクターストレンジ』の挿入歌に〝星空のドライブ〟をぶち込んだというわけだ。この話、有名なのかな?僕びっくりだったんだけど。

 

えーっと、なんやっけ……そうサイケと魔法の関係。ビートルズストーンズピンクフロイドだってこのサイケ期に魔法に惹かれていたんだから、Gandalfが『指輪物語』からバンド名を取ったとしてもちっとも不思議じゃないって話!

9-4 Gandalf〜リヴァーブの魔術師〜(第55話)

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さて前置きが長くなってしまったが、肝心のガンダルフに関してはほとんど情報ないのですぐ終わります。

65年にニューヨークにて結成。ピーター・サンドというギターボーカルが中心人物で、67年にキャピトルレコードと契約。元々バンドはThe Rahgoosと名乗って活動していたが、レコーディング時にはGandalfとなった。その直前はGandalf and The Wizardsとより魔法使い感が強いバンド名だったそう。しかし実際にGandalfという名前であったのはレコーディングの間の短い期間だけだったようでその後またThe Rahgoosに戻ったよう。

同67年に唯一作となる「Gandalf」をレコーディングしたが、キャピトルとの関係は悪かったようでリリースは69年となりプロモーションも行われなかった。69年にはガンダルフ改めThe Rahgoosも解散していたようで散々であったが、後年徐々に評価され2002年にCD再発となった再発掘組の一つである。たまたまなのか狙ったのか映画『ロードオブザリング』の1作目が公開されたのが2001年なのね(2002年が2作目)。再発CDのブックレットによるとなんせ短い期間だけのバンド名であったのでピーターサンドは〝Gandalf〟のスペルも忘れてしまったくらいだったようだが、再評価されCDがリリースされることには喜んでいる様子。

 

同じく69年にキャピトルからリリースされたThe Common People「Of The People / By The People / For The People From The Common People」Food「Forever Is A Dream」とまとめて《キャピトル3大メロウサイケ》と呼ばれたりするが僕はガンダルフが1番お気に入り。Common PeopleとFoodももちろんいいけどまとめるには少し毛色が違うように思う。69年リリースといってもガンダルフはサイケ全盛期の67年レコーディングだから、ということもあるかもしれない。そんな67年レコーディング69年リリースの「Gandalf」。

Gandalf

Gandalf

  • アーティスト:Gandalf
  • Sundazed
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《メロウサイケ》というジャンルに分類されることが多いガンダルフたが《メロウサイケ》って一体何なのよ。音楽において《メロウ》と言う言葉を使うことは多いが、具体的にどういったものかと問われるとハッキリ言えない(勘違いしがちだがメロウとメロディは関係ない)。wikiによると

Mellow-果物や酒などが熟していること。転じて、ものごとが円熟したさまを表す。人柄や、音楽では柔らく豊かな楽曲を指す。

とのことで、《メロウサイケ》は意味合い的には《ソフトサイケ》と近そうである。Nirvana(UK)などの《ドリームサイケ》とも近いようにも思う。というかこの辺のバンドは全部《ソフトサイケ》と言ってしまっていいだろう。

そんな中でも一応分類すると個人的に《メロウサイケ》及びガンダルフの特徴は曖昧な表現になるが《ムード歌謡》っぽいところにあると思っている。変にネチっこくて実に日本的。《ムード歌謡》のルーツはハワイアン、ジャズ、ラテンにあるようなのでその辺も関係してくるのかしないのか。なんにせよ日本人に馴染みやすいメロディと雰囲気を持っていて、僕なんかはすんなりと入ってきた。

前回はバニラファッジの素晴らしきサイケアレンジのカバーについて書いたが、この「Gandalf」も全10曲中8曲がカバーでピーターサンドによるオリジナルが2曲。

1曲目〝Golden Earrings〟にとにかく魅了されて僕はこのCDを購入した。まさにメロウサイケとはこのことか!というオルガンのフレーズと、風呂で歌ってんのか!ってくらい深いリヴァーブの効いたボーカル。聞いたことない新たなサイケに出会った感覚であったが、よく考えればムード歌謡に似た雰囲気を持っていた。原曲はジャズナンバーであり1947年の映画『Golden Earrings』に使われたものである。僕は当然この曲を知らなかったが言われてみればジャズナンバーが原曲というのはものすごく納得。

8曲のカバーの内3曲がティム・ハーディンの楽曲のカバーである。ティム・ハーディンはフォークシンガーであり、60年代前半にディランやジョーンバエズらが活動していたフォークの聖地ニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジにて活動していた。フレッドニールと並べて語られるほどのフォークシンガーであるようだが、僕はガンダルフを先に聴いてそこからティム・ハーディンを知った。フォークロックの先駆者としても語られることもあるが、とにかく曲がよくて66年「ティム・ハーディン1」と67年「ティム・ハーディン2」は割と好き。

ガンダルフがカバーしたのは2曲目〝Hang On to a Dream〟、3曲目〝Never Too Far〟、5曲目〝You Upset The Grace Of Living〟の3曲であるが特に〝Hang On to a Dream〟キース・エマーソンナイスフリートウッドマック、初期のムーディブルースマリアンヌ・フェイスフルにまでカバーされた名曲。そういった面子がほぼ原曲に忠実なカバーをしている中、ガンダルフのカバーは実に挑戦的で面白い。テンポをグンと落とし妖しさ全開、サビで4拍子に変わる大胆なアレンジは秀逸で見事なサイケポップに仕上げている。

8曲目Tiffany Rings〟と9曲目〝Me About You〟タートルズ〝Happy Together〟の作詞作曲コンビで知られるGarry Bonner and Alan Gordonによる楽曲である。さすが名コンビ、2曲とも素晴らしいソフトサイケ。Tiffany Rings〟なんかはもはやサイケではなく完全なるソフトロックであるが、美しすぎる名曲。

4曲目〝Scarlet Ribbons〟はクリスマスソングにも使われるポピュラースタンダードのカバーであるが、〝Golden Earrings〟〝Scarlet Ribbons〟〝Tiffany Rings〟とイヤリング、リボン、指輪といった装飾品をタイトルにした曲を3曲カバーしてるのもジャケットと相まって小気味良いのよね。

忘れてはいけないのがピーターサンドによる2曲のオリジナルで、決してただ曲が書けないカバーバンドではないことをしっかりアピールしている。

 

このアルバムをレコーディングした後The Rahgoosにバンド名を戻し少しの間活動を続け、68年か69年にはバンドは解散。ピーターサンドはTiffany Rings〟での作曲コンビGarry Bonner and Alan Gordonとの仕事関係を継続させThe Barracudaという別バンドでシングルをリリースした。この辺の音源を集めたコンピレーションアルバムが2007年にGandalf名義で「2」としてリリースされた。

Gandalf 2 [12 inch Analog]

Gandalf 2 [12 inch Analog]

  • アーティスト:Gandalf
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68年〜70年ごろのGandalf(The Rahgoos)とThe Barracudaの音源、さらには貴重すぎるGandalf(The Rahgoos)のライブ音源まで収録された嬉しい1枚。

68年〜70年ごろの音源であるので1stっぽいメロウサイケも数曲はあるものの割とフォーク寄りの曲や持ち味のリバーブが全く掛かってない曲もあり1stを期待すると少し戸惑うが、このアルバムでのGandalf(The Rahgoos)の楽曲はほとんど全てがピーターサンドのオリジナル曲でありGandalfのオリジナルソングを堪能するには1stよりもこちらの方。Garry Bonner and Alan Gordon作曲のThe Barracudaの楽曲ももちろんグッド。

 

終わり

他に何とか知ることができた情報はガンダルフのメンバーでありオルガンやハープシコードら鍵盤類を弾きガンダルフサウンドにおいて重要な役割を果たしているフランク・ヒューバックはこの後エンジニアになったようで、ルーリードのライブ盤やレーナードスキナードのアルバムなどにエンジニアとしてクレジットされているってことくらい。

 

一時期結構このバンドの虜になってて、「サイケ好きだ!」って人がガンダルフを知らなかったら「なんだよ嘘つき!」って心の中で《サイケ好き》の基準にしてたくらい。笑

まぁとにかくメロウサイケ、ソフトサイケ、ソフトロック、バロックポップ辺りを跨いだバンドであり、素晴らしきアレンジと深淵のリバーブの魔法を使うガンダルフは超絶オススメ!!

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図の繋がりはこれくらいだろうか…広がれニューヨーク界隈!ヴェルベッツ書かねえとなぁ……疲れそうだ…

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