ケンジロニウスの再生

ロック史を追いながら関連図を作成(関連図挫折中)

4-11 Tyrannosaurus Rex〜アシッドな暴竜〜(第77話)

〜最新のティラノザウルス?〜

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最近チラッとネットで見かけた話では恐竜には羽毛があって鳥のような姿をしていたという説が今濃厚であるようだ。

僕は恐竜について全く無知である。興味がないわけではないが特別調べたりするほどではない。もちろん化石が展示されてるなら一目見てみたいが、優先度は低い。ディズニーの『ダイナソー』を小学生の時映画館で見て2,3ヵ月は影響を受けたがその後熱を上げることもなく『ジュラシックパーク』や『ロストワールド』もTVでチラ見した程度だ。

そんな僕でもティラノザウルスが《暴君》と呼ばれ最大かつ最強の肉食恐竜であることくらいは知っている。二足歩行で小さい前足、ワニのような頭と鋭い牙、長い尻尾。イメージとしては巨大なトカゲって感じ。しかしそれが全然違って実は羽毛に覆われた鳥のような姿だったっていうのが最近の説であるようなのだ。

嘘か本当か最新のティラノザウルスの姿はこんなイメージらしい。

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なんじゃこりゃ。全然違う生き物じゃない。

確かにこりゃトカゲというより鳥だ。しかしこの最新のティラノザウルスフォルムと従来のフォルムが同じ化石、同じ骨格から復元したものだとは信じ難い。

 

ってなわけで従来のイメージと違いすぎてなかなか受け入れ難く頭が整理しにくい新説だなぁと思ったわけなんだけど、一つだけ妙に腑に落ちたというかしっくりきたことがあって。それはマーク・ボラン率いるTyrannosaurus Rex及びT-REXについてで。

確かにマーク・ボランの性格と立ち振る舞いに恐竜の《王様》であるティラノザウルスの名は相応しいかとも思うが、音楽的に肉食恐竜らしい獰猛さを感じるのは〝20th Century Boy〟のリフくらいである。特に彼のハイの効いた細い声と奇妙な高速ビブラートはティラノザウルスが持つ《唸り声》的なイメージとは一致せず、どちらかと言えばそれはブルース・スプリングスティーンのようなパワー系しゃがれ声がしっくりくる。なんて長らく考えていた。

それがこの最新の鳥型フォルムで個人的に妙にしっくりきたのだ。ボランの声は鳥の奇声のようであるし、Tyrannosaurus Rex時代の魔術的、呪術的なアシッドフォークも《パワー系》な従来の姿よりこの鳥型フォルムのほうがピタりとくる。

 

1980年代までは僕の思い描く前傾姿勢の2足歩行どころか初期ゴジラのような垂直立ち説が一般的だったようで、Tyrannosaurus Rex結成時の1967年のボランがイメージしたフォルムは間違いなくそれなんだろうけど。個人的には時を超えた2020年の最新フォルムに妙な説得力を感じてしまったという他愛もない話でござんす。

 

ちなみにこんな姿説もあるらしい。

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これは……笑

 

4-11 Tyrannosaurus Rex〜アシッドな暴竜〜(第77話)

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さて前回デヴィッド・ボウイの回でも触れたマーク・ボランの伝説のアシッドフォークユニットTyrannosaurus Rex。

ボランといえばボウイと並ぶグラムロックスターとしての70年代前半T-Rex時代が有名で僕もやはり出会いはそちらであったが、今回はそのT-Rexに改名する前60年代末のTyrannosaurus Rexを4章《ブリティッシュサイケ》のカテゴリで。

まずは67年の結成までの話から。

 

〜Tyrannosaurus Rex結成までのボラン〜

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(67年ジョンズチルドレン)

マーク・ボランは47年にロンドンに生まれた。本名はマーク・フェルド。9歳でギターを手にし、15歳でスージー&ザ・フラフープスというバンドを結成するが上手くいかず単身パリへと放浪の旅に出る。

15歳で海外を放浪することがまず凄いが、さらに異常なのがそのパリで出会った魔術師に弟子入りし半年ほど共同生活を送りながらあらゆる魔術、呪術、錬金術を教わったという。ロックと魔術との関わりはガンダルフの回でも書いたが、さすがに本当に弟子入りまでしたのはボランくらいじゃなかろうか。

9-4 Gandalf〜リヴァーブの魔術師〜(第55話) - ケンジロニウスの再生

ちなみにボランはその魔術師に「30歳までに血だらけになって死ぬ」と予言されそれを信じていたが本当に30歳になる直前で自動車事故で他界することになる。しかしこのパリの話も信憑性は低くて、本当はほんの1週間ほど旅行に行っただけという話もある。ボランの大嘘つきは有名なのだ。

 

65年にデッカレコードと契約しパリの魔術師について歌ったシングル〝The Wizard〟でソロデビュー。この時から名前をマーク・ボランと名乗る【Bolan】という名は【Bob Dylan】から取られたと言われている。長きに渡りライバル関係となるボウイともこの辺りで知り合っている。

67年までに3枚のシングルをリリースし後にBBCの人気DJとなるジョン・ピールに気に入られたりもするがヒットには至らず。

ソロデビューが失敗に終わったボランはサイケバンドJohn's Childrenにギタリスト兼コンポーザーとして加入。ジョンズチルドレンは「Orgasm」というアルバムしか聴いたことがないがこれがボラン在籍時のアルバムなのかどうかはよく知らない。普通にかっこいいバンドなんでまた掘ってみようとは思う。とにかくジョンズチルドレンは過激なパフォーマンスが特徴のめちゃくちゃなバンドだったよう。

The Complete John's Children

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ボランは半年も経たない内にジョンズチルドレンを脱退し、自らのバンド結成のためにメンバー募集をする。それで出来たのがTyrannosaurus Rexである。

 

〜Tyrannosaurus Rex結成〜

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Tyrannosaurus Rexはアコギとパーカッションという特殊編成のアシッドフォークが特徴であるが、結成当初はバンドであったらしい。そのバンド編成でのライブが散々だったことと、ジョンズチルドレンでの過激すぎるライブの破壊行為の弁償としてレーベルからギターとアンプを没収されたことなんかからボランはアコースティックギターを持つことになったよう。この時ボランは20歳。

バンドはすぐに解散となったがドラムとして参加したティーブ・ペレグリン・トゥックはボランと意気投合し、2人で活動することとなる。当時18歳であり歳下であったティーブ・トゥックはボランを養うためにドラムキットを売り払いボンゴだけが手元に残ったという。

こうしてアシッドユニットが出来上がった。なんちゅー成り立ち。

特殊な編成でアングラな音楽を始めた2人はロンドンアングラの聖地UFOクラブを運営しピンクフロイドをデビューさせたジョー・ボイドに売り込みをかけるが、結局トニー・ヴィスコンティがプロデューサーとなりRegal Zonophone Recordsと契約を結び68年4月にシングル〝Debora〟でデビューする。ボランのソロ時代からの理解者であるジョン・ピールが違法ラジオで放送するなどロンドンアングラを中心に2人の斬新な音楽は話題を呼び〝Debora〟は英34位のヒットとなる。

7月には「My People Were Fair and Had Sky in Their Hair... But Now They're Content to Wear Stars on Their Brows」というクソ長いタイトルの1stアルバムをリリース。

1st「My People Were Fair and Had Sky in Their Hair... But Now They're Content to Wear Stars on Their Brows」

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この1stアルバムはJ.R.R.トールキンの『指輪物語をモチーフに作られたアルバムで、この長いタイトルもその関連のものなのだろうか。

ちなみにスティーブ・ペレグリン・トゥックのペレグリン・トゥック】は『指輪物語』の登場人物の名を取ったものであるが、スティーブはボランと出会う前からペレグリン・トゥックを名乗っていたよう。2人は『指輪物語』好きで意気投合したのかもしれない。

さて1st。オリジナル盤にはデビューシングル〝Debora〟は収録されてないが、僕の持つ再発CDにはボーナストラックに収録されている。ありがたい。“デブリダーブデブリダーディダー”と呪文のように繰り返すキラーチューン〝Debora〟。カルチャークラブの〝カーマは気まぐれ〟がオカマのテーマソングとしてTVなどで使われているようにこの〝Debora〟もデブのテーマソングとして使われるべきだと密かに思っている。

全曲ボラン作曲であるがアルバム収録曲のほとんどはジョンズチルドレン時代に演奏していた曲のアコースティックバージョンであるよう。曲自体は繰り返しを多用するセクションの少ないシンプルな短い曲が並び、その辺は後のT-Rex期の楽曲と根本的には変わらないと思う。70年代のボランの変貌を裏切りと捉えるアングラファンもいたようだが、実はボランは変わってなくてただ編成やアレンジが大幅に変わってボランの見せ方が変わった、という方が正しいのかもしれない。

基本的にはボランが曲を作るがアレンジはトゥックとヴィスコンティが手掛けたようで、Tyrannosaurus Rexの超アシッドな空気感を作ってるのはトゥックによるところが大きい。ただのパーカッショニストではないのだ。現にこの時期ボランはLSDを一切使用してない魔術とトールキン好きの青年で、トゥックが筋金入りのヒッピージャンキーだったよう。

とはいえやはりボランの声というのはサイケデリックそのもので、特にミュージックソー(ノコギリ)を鳴らしたかのような高速ビブラートはどうやって出しているのか真似できない奇妙さがある。この歌唱法で他に思いあたるのが同じくロンドンアングラアシッドフォークバンドのComusで、何かしら影響を与えた可能性はある。Comusはデヴィッドボウイがファンであったことが有名だが、69年の《ベックナム・アーツ・ラボ》にも参加してたよう(それは知らなかった)で、そう思えばボウイのフェザーズというアコースティックユニットもTyrannosaurus Rexの影響が少なからずあったのかもしれないなぁ、とか思ったり。フェザーズの〝Ching-a-ring〟とか〝Debora〟の影響下にあるとも思えるし、Comusの〝Diana〟はTyrannosaurus Rexの進化系とも言えなくもない。

FIRST UTTERANCE: REMASTERED EDITION

FIRST UTTERANCE: REMASTERED EDITION

  • アーティスト:COMUS
  • ESOTERIC
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後にT-Rex一世風靡するボランの魅力の一つに〝Metal Guru〟〝Telegram Sam〟などで見られる《バブルガムポップ》とも捉えれそうな〈可愛さ〉があると思っているんだけど、それはTyrannosaurus Rex期からあって抜群のポップセンスを発揮している。ロックンロール調のものからフォーク調のもの、インド調のものなどバリエーションに富んでおりほぼアコギとボンゴのみなのに飽きないアルバム。

ラストの〝Frowning Atahuallpa (My Inca Love)〟ではジョンピールが語りで参加している。

素晴らしきアルバムアートを手掛けたのはジョージ・アンダーウッド。学生時分に親友デヴィッドボウイと喧嘩し、ボウイにオッドアイを授けた男だ。やっぱりボウイとボランは何かしら関わる。

このアングラ精神の塊と言える1stアルバムは英15位という快挙を成し遂げた。

この勢いのままわずか3か月後の68年10月に2ndアルバム「Prophets, Seers & Sages: The Angels of the Ages」をリリース。1stほどではないがこれまた長いタイトル。

 

2nd「Prophets, Seers & Sages: The Angels of the Ages」

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1stから3か月、レコーディング時期もさほど変わらないのでほぼ1stと同志向のアルバム。

一曲目の〝Deboraarobed〟は【Debora】と逆読みした【arobed】を合体させたタイトルで、その名の通り〝Debora〟の1分30ほどの再録とそれを丸々逆再生させたものを合体させたイカれたバージョン。

1st同様これまたボランの作曲センスとトゥックのイカれ具合が見事なお気に入りのアルバムだが、こちらはチャートインしなかった。

前にも書いた音楽面で上手くいってないボウイをパントマイマーとして前座に使い、ボランがサドスティックな喜びを感じていたのはこの時期だろうか。

69年5月に3rdアルバムUnicornをリリース。やっとタイトルが短くなった。

 

3rd「Unicorn

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このアルバムから楽器の数が明らかに増える。オルガン、ハーモニウム、ピアノなどの装飾が増え、わずかながらベースとドラムも登場。トニーヴィスコンティのピアノが目立つ5.〝Cat Black (The Wizard's Hat)〟は完全にグラマラスな空気感を持った曲だ。アシッドファンもグラムファンも楽しめるアルバムなんじゃなかろうか、いやそれでもまだまだかなりアシッド感が強いが。オルガンなどの装飾が増えたことで独特のアングラ臭は少し抑えられたが、サイケ作品としての完成度は高まっている。

これも割と好きなアルバム。7.〝She Was Born to Be My Unicornは名曲。

英12位のヒットを叩き出しチャートに返り咲く。

ユニコーン+15

 

トゥックの脱退

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アレンジのほとんどをトゥックとヴィスコンティが手掛けたことは書いたが、これだけのアレンジセンスがあれば曲も作れるわけでトゥックはヴィスコンティ宅で自作の曲も製作していた。しかし絶対的《王》であるボランはトゥックの曲を許さずTyrannosaurus Rexで発表する機会を与えられなかった。

Twinkの回で書いたようにトゥックはTwinkの「Think Pink」にコンポーザー兼パーカッションで参加、これにボランは怒りトゥックを脱退させた。加えてボランの憧れのシド・バレットとトゥックがLSD仲間だったこともボランの嫉妬心を刺激したようだ。

自分のためにドラムキットを売り払うほど忠実だった歳下のトゥックがTomorrowのTwink,ピンクフロイドのシドバレットという自分より格上のロンドンを代表するジャンキーとつるむようになったのは《王》として我慢ならなかったのだろう。数年後T-Rexで大スターになった時にインタビュアーにトゥックについて尋ねられたボランは「あぁ、どっかの貧乏人ね」と吐き捨てたらしい。

 

なんだかボウイとの話やトゥック脱退の話なんかを書くとボランが虚栄心と自尊心の塊で、さらに嘘つきで、嫌な奴みたいに見えるがこれには彼が《王》であるから仕方ないとしか言いようがない。ロック界を見渡してもその器の人物は多くはなくボランが偉大であることは間違いないのだ。ボランの悪いエピソードは山ほどある、金にも汚くジョンピールもヴィスコンティも後に捨てられる。いやまぁ、嫌な奴なのは間違いないか…笑

 

その後

ボランは次なる相棒ミッキー・フィンと出会う。

デヴィッド・ボウイ〝The Prettiest Star〟のレコーディングに参加。

70年3月4thアルバム「A Beard of Stars」をリリース。

Fry Recordsに移籍しバンド名をT-Rexに改名

70年12月T-Rexとしての1stアルバムT-Rexをリリース。

なんだけどこの70年のTyrannosaurus Rexの4枚目とT-Rexの1stがちゃんと聴けてないんだよな…

その後バンド形態となりシングル〝Hot Love〟〝Get it On〟が立て続けに1位を取り、71年2ndアルバム「電気の武者」、72年3rd「スライダー」でスターダムにのし上がるわけだがT-Rexについてはまた別の機会に。

以上!

英アングラ伝説のアシッドフォークTyrannosaurus Rexはサイケ好きなら必聴!ボランの何がすごいって、結局のとこ声だと思うんだな。高速ビブラート、真似してみてくださいほんとに出来ないから。

図はトゥック⇔トゥインク辺りで繋いどきます!

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では!

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(4章ブリティッシュサイケ図)

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