ケンジロニウスの再生

ロック史を追いながら関連図を作成(関連図挫折中)

10-8 続・Space Oddity(第69話)

10-8 続・Space Oddity(第69話)

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さて前回から引き続き69年7月にリリースされたボウイ念願の初ヒットシングル〝Space Oddity〟を。

前回はYESのリック・ウェイクマンペンタングルのテリー・コックスなどこの曲に参加したメンバーについて、そしてボウイが自ら演奏した12弦とスタイロフォンについて書きました。

今回は歌詞についてから!

 

アポロ11号人類初の月面着陸と英5位の大ヒット

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アポロ11号打ち上げの5日前、69年7月11日にリリースされTVの特集などで度々流されてイギリスで最高5位のヒットとなった、とあるが実際にはアポロ11号が7月24日に地球に帰還した後にやっとBBCで曲が流されるようになりスロースタートで5位まで登ったというのが正しいらしい。

というのも世間の宇宙への関心と〝Space Oddity〟のリリースタイミングは確かに合致していたものの〝Space Oddity〟という歌がアポロ11号に寄り添っていたかというと決してそんなことはない。

〝Space Oddity〟の歌詞は《Ground Control(地上管制塔)》《Major Tom(トム少佐)》との通信のやり取りで展開していく。

Ground Control to Major Tom,
Ground Control to Major Tom,
Take your protein pills and put your helmet on.

「管制塔からトム少佐へ。

プロテインを服用しヘルメットを装着せよ。」

Ground Control to Major Tom, 
Commencing countdown, engines on 
Check ignition and may God's love be with you. 

「管制塔からトム少佐へ。

カウントダウン開始、エンジン点火、点火確認、神の御加護を。」

これが冒頭の歌詞で、ロケット発射前の時点から物語は始まる。この歌のバックで「10...9...8...」とカウントダウンが始まり「...3...2...1...lift off!」でロケット発射を表す楽器の轟音が鳴り響きサビへと向かう(シビれるのよこれが)。この轟音パートは〝A Day in the Life〟を彷彿とさせるよね。

This is Ground Control to Major Tom
You've really made the grade
「管制塔からトム少佐へ。

やりました!発射成功です!」

サビでは発射成功を伝える声から始まる。その後記者がどんなシャツを着ているか知りたがってることを伝え、カプセルの切り離し開始を告げたところでやっとトム少佐の返信パートへ。

This is Major Tom to Ground Control
I'm stepping through the door
「トム少佐より管制塔へ。

ドアを出て外に出たところだ。」

と無事な様子で宇宙へ飛び立った感動を述べる。

こんなふうに管制塔とトム少佐のやりとりを元に展開していくが、

Ground Control to Major Tom

Your circuit's dead, there's something wrong
「管制塔からトム少佐へ。

回線異常です、何があったのですか?」

Can you hear me, Major Tom?
Can you hear me, Major Tom?
Can you hear me, Major Tom?

Can you hear…

「トム少佐、聞こえますか?トム少佐、聞こえますか?トム少佐、聞こえますか?トム少佐、聞こえ……」

と何らかのトラブルで通信が途絶え

And I'm floating around my tin can

Far above the Moon
Planet Earth is blue

And there's nothing I can do.

「いまわたしはブリキ缶のまわりを漂っている。

月のはるか真上だ。

地球は青い、

だけどできることはもう何もない。』

とトム少佐は宇宙で遭難、漂流。で終わる。

 

つまり簡単に言うとこの曲は「宇宙飛行士のトムが事故により宇宙で遭難する歌」であり、どちらかというと「文明の過度な発達へのアンチテーゼ」ともとれる内容だ。

なので世間の宇宙への関心とはマッチングしたものの、人類初の月面着陸と乗組員の安全を願うムードの中ボウイは何とも不吉な歌をリリースした反逆児とも言える。今の時代なら大炎上ものの案件となりかねないリリースだが、デビューから長らくヒットを出せないボウイの奇抜な試みだったのだろう。なのでこの曲はリリースから2週間後の7月24日に乗組員が無事帰還してから放送されることとなりスロースタートでイギリスチャート最高5位を記録した。

しかし不謹慎な事を言うが、もし仮にアポロ11号が事故に遭っていれば英5位どころではなくもっと爆発的に売れていたはず、たぶん。

アメリカでは124位に留まったが73年に再リリースした際にはビルボードチャートで15位を記録し、これがアメリカでの初ヒットとなった(実は〝Changes〟Starmanってアメリカではあんまり売れてないのね)。

 

トム少佐のその後

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ボウイは70年代に《ジギー・スターダスト》、《ハロウィーン・ジャック》、《シン・ホワイト・デューク》といったペルソナを次々と被りそのカメレオンっぷりを見せつけるわけだが〝Space Oddity〟で登場した宇宙飛行士《トム少佐》というキャラクターはこの後もボウイ作品に何度か登場する。

70年代はそのカメレオンっぷりに加えて実験的な《ベルリン3部作》をリリースしカルト・スターとしてロック界に君臨するわけだが、その一連の流れに終止符を打ったのが80年スケアリー・モンスターズであり、そこで過去と決別し次作83年「レッツ・ダンス」で健全なポップ・スターへと転身する。その決別作「スケアリー・モンスターズ」の中心となった〝Ashes to Ashes〟という曲でボウイは《トム少佐》を蘇らせたのだ。

〝Space Oddity〟で宇宙の遭難者となってしまった《トム少佐》のその後の話となる〝Ashes to Ashes〟、【灰は灰に】と名付けられた曲の冒頭がこうだ。

Do you remember a guy that's been
In such an early song
I've heard a rumour from Ground Control
Oh no, don't say it's true 

だいぶ昔の曲に出てきた男を覚えてるかい?
わたしは地球管制塔からの噂を聞いていた。
あぁどうか事実だと言わないでくれ。

《トム少佐》にまつわる噂を聞いた男の視点の話だ。その噂の内容がこう。

We know Major Tom's a junkie
Strung out in heaven's high
Hitting an all-time low

わたしたちはトム少佐が麻薬中毒だって知ってる。

天国ほど高い場所でラリりながら

常に低く打ちのめされている。

オーラスがこう。

My mama said, "To get things done
You'd better not mess with Major Tom." 

母は言った「終わったことなの、
トム少佐にかかわらないで。」

 

これは明らかに70年代のボウイ自身を《トム少佐》に見立てて歌われたものだろう。現にボウイは70年代半ばから麻薬中毒に苦しめられ、そのリハビリを兼ねて拠点をベルリンに移しブライアン・イーノと《ベルリン3部作》を作った。カルトスターという名声を得るために被り続けたいくつかのペルソナも当時のボウイにとっては精神を圧迫する重荷となっており、その全てを捨て去りたいという思いが〝Ashes to Ashes〟に表れているように感じ取れる。

「高いところにいながら常に低いところでぶつかっている」-いくら富と名声を得てもドラッグでハイになっても根本的なところが解決していない、というのがボウイが過去との決別を決めた大きな理由なのだろうが、その現状を11年ぶりに《トム少佐》を登場させ表現するあたりは流石のセルフプロデュース能力。宇宙へ飛び立ち月のはるか上で遭難した《トム少佐》と、〝Space Oddity〟のヒットを皮切りに〈高い位置〉へ昇り名声と苦悩の末にジャンキーになった自身をリンクさせ、《デヴィッド・ボウイ》の10年に及ぶ物語を完成させたと同時にそれを否定した。あっぱれ。

とはいえ《トム少佐》はこの後95年〝Hallo Spaceboy〟2015年〝★(Black Star)〟のMVにも登場することになるが、その辺はまた(そこまで書けるだろうか)。80年「スケアリー・モンスターズ」についても詳しくはまた(そこまで書けるだろうか)。

〝Ashes to Ashes〟という曲自体は「これがニューウェーブか!」と僕にニューウェーブ》の定義を植え付けた一曲である。かっこいい。

 

〝Space Oddity〟ついに宇宙へ!

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僕は宇宙が好きだ(特別勉強したわけではないが)。壮大なスケールや未だ明らかにならない神秘性にもちろん惹かれるわけだが、1番はその現実感のない途方もない話の数々が《現実であること》を体感する瞬間が好きだ(体調によれば言いようのない恐怖に襲われる)。月や星を見て思うことはいつも「綺麗」とかではなく「あれがあそこにある!本当に!」だ。

地球が丸くて、1年かけて太陽の周りを周り、1日かけて自転することを知ってはいるが体感することは毎日を生きていてあまりない。太陽と同じほどの大きさに見える月が地球の衛星であり夜空に無数に輝く星々が太陽と同じ恒星であることを、知ってはいるが体感することはあまりない。そんな小学校で習うようなことを《現実のこととして体感する瞬間》がたまらなくて、世界の真理が顔を覗くような、そんな瞬間を求めながら宇宙に想いを寄せている。

しかし日々の生活で宇宙を体感することは難しく、やはり賢い専門家様の宇宙探査活動を通してその感覚を得ることが多い。1番簡単なのがUstreamISS国際宇宙ステーション)からの生配信をひたすらぼーっと見ながら酒を飲むこと(ほんまにオススメ、地球を約90分で一周してるから星が見える夜と青い地球が見える昼がばしばし繰り返すのよね。これも現実。)なんだけど、とりわけ興奮して鳥肌立ちまくったものの一つがカナダの宇宙飛行士のクリス・ハドフィールドが2013年5月にISS内で〝Space Oddity〟を歌った映像だった。もうちょうど7年前か。

これは宇宙で作られた初めてのMVであり歌とギターと映像をISSで、他は地上でレコーディングされたようだが、これが少し歌詞を変えてるが歌も上手くてアレンジも良くてISSの窓から地球見えたりで鳥肌もんなのよ。ボウイも大喜びで、許可を得て期間限定での配信だったと思うんだけど今探してみたら普通にあった!

僕にとっては音楽が1番現実に密接していて、それが宇宙で録音されたってんだから《宇宙を現実として体感する》のには1番の組み合わせなわけで。ボイジャーがゴールデンレコードを積んで今も尚宇宙を飛び続けてることとか、NASA50周年でビートルズ〝Across the Universeを乗せた電波を遥か宇宙めがけて送信したこととかにも胸躍るが、このクリス・ハドフィールドによるISSでの〝Space Oddity〟のMVは特に感動的だ。リアル《トム少佐》の誕生!!遭難はしなかったけどね。

 

B面〝フリークラウドから来たワイルドな瞳の少年〟

最後にシングルB面曲〝Wild Eyed Boy from Freecloud(フリークラウドから来たワイルドな瞳の少年)〟について軽く。

この曲も2ndアルバムにおいて重要な曲であるが、先行してリリースされたシングルバージョンではほぼボウイの弾き語りとポール・バックマスター(〝Space Oddity〟でストリングスアレンジ)による弓弾きのウッドベース(チェロ?)のみのアレンジに収まっている。アルバムバージョンでは派手なストリングスアレンジで〝Space Oddity〟同様ドラマチックなアレンジに仕上がっていているところを見るとこのシングルバージョンでは時間が足りなくて質素なままリリースしてしまったようにも取れるが、これが妙に中世吟遊詩人的で良い。

フリークラウドと呼ばれる山から来た少年を主人公にしたなかなか狂った物語だが《ジギー・スターダスト》に通じる世界観をすでに表現している(大袈裟なビブラートも)。主人公は長年ヒットが出なくて苦しむボウイ自身を重ねていると言われている。

 

以上!

参加したミュージシャンだけ図に繋いでおきます!素晴らしい面子。皆この後11月リリースの2ndアルバムにも参加しています。

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2話続けてボウイの念願のヒットシングル1969年7月11日リリースの〝Space Oddity〟に触れてみました。サポートした面子、ボウイによる12弦のストロークとスタイロフォン、アポロ11号と歌詞、トム少佐のその後、ISSで歌われた感動、B面について、そんな感じで。〝Space Oddity〟は個人的にも思い出深い曲なのでこの機会に再び向き合うことができて楽しかった!

では!

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