ケンジロニウスの再生

ロック史を追いながら関連図を作成(関連図挫折中)

10-9 2ndアルバム「David Bowie(Space Oddity)」(第72話)

ボウイ、前回はシングル〝Space Oddity〟について2回連続で書きました。

長年ヒットに恵まれなかったボウイにとって起死回生のシングルとなった〝Space Oddity〟がリリースされたのがアポロ11号月面着陸の69年7月。今回はその初のヒットシングルを含む2ndアルバムについて!

10-9 2ndアルバム「David Bowie(Space Oddity)」(第72話)

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Side A

〝Space Oddity〟
〝Unwashed and Somewhat Slightly Dazed〟
〝Letter to Hermione〟
〝Cygnet Committee〟
Side B

〝Janine〟
〝An Occasional Dream〟
〝Wild Eyed Boy from Freecloud〟
〝God Knows I'm Good〟
〝Memory of a Free Festival〟

 

3つのアルバムタイトル

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(米マーキュリー盤)

69年11月にリリースされた2ndアルバムは英フィリップスから67年1stと同タイトルのDavid Bowie、米マーキュリーからは「Man of Words, Man of Music」というタイトルでリリースされた。そして72年にRCAがこのアルバムの権利を買い取り「Space Oddity」とアルバム名を改めた。

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(72'RCA

3つのタイトルを持つ非常にややこしいこの2ndアルバムであるが67年1stとの混同を避けるためにも最も一般的に親しまれている「Space Oddity」表記でこれ以降このブログでは統一しようと思う。

 

アルバム概要

この「Space Oddity」は69年の6月〜9月にレコーディングされ、曲の約半数は69年春にフェザーズのジョン・ハッチンソンと共に作ったアコースティックデモ「マーキュリーデモ」から選ばれている。この時期にボウイに起こった出来事としては、恋人でフェザーズのメンバーであったヘルミオーネとの別れ、ベックナムで《アーツ・ラボ》に参加と離脱、父親の死、などでありマーキュリーデモ以降に書かれた曲やマーキュリーデモの曲のうち歌詞を改変して収録された曲ではその辺りへの思いが込められている。

全体的にボウイの12弦アコギによる弾き語りがあり、それにバックバンドが伴奏を付けたという感じでいわゆる《フォークロック》ではないにせよフォークロックスタイルのアルバムであるが、ギターのストロークや60s'とは違ったアプローチのアレンジにはオルタナティブな雰囲気が漂う。楽曲自体はマーキュリーデモを聴く限りディラン風やサイモン&ガーファンクル風のフォークソング

 

参加メンバー

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プロデュースはガス・ダッジョンがプロデュースした〝Space Oddity〟を除いてトニー・ヴィスコンティが手掛け、プレイヤーとしてもベース、フルート、リコーダーで参加。バックミュージシャンは〝Space Oddity〟に引き続きミック・ウェイン(ギター)、ハービー・フラワーズ(ベース)、リック・ウェイクマン(鍵盤)、テリー・コックス(ドラム)、ポール・バックマスター(チェロ)。加えてミック・ウェインと同じくジュニアズ・ハイのティム・レンウィック(ギター)とキース・クリスマス(ギター)が参加。

ティム・レンウィックシド・バレットロジャー・ウォーターズと同じケンブリッジ出身のセッションギタリストで、自身のバンドとしてはクイヴァーやレイジーレイサーで活動(知らぬ)。セッションギタリストとしてはエルトン・ジョンプロコル・ハルム、ブリジット・セント・ジョンにアルビオンカントリーバンドなどなど様々なビッグネームを助けた凄腕。84年にクラプトンと共にロジャー・ウォーターズのライブツアーに参加すると87年にはクラプトンのツアーに参加、88年にはウォーターズ亡きギルモアピンクフロイドのツアーに参加し、94年「対」にも参加。ティム・レンウィックはピンクフロイド分裂以降もはやネタになってるくらい犬猿なウォーターズとギルモアのどちらとも絡んだギタリストとしても知られる。

キース・クリスマスは70年前後の英国フォーク系SSWとしてニック・ドレイク辺りと共に度々名前が出てくるものの長年しっかり聴けてない人物であったが、ここで名前が出てきてびっくり。何やら彼もベックナム・アーツ・ラボに参加していたようでその繋がりでの参加のよう。これを機にキース・クリスマス、聞いてみよう。

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2019Mix

そんな感じの豪華メンツでの「Space Oddity」だが、実は僕はそこまで好きなアルバムでもなくて。さっきも言ったようにボウイの弾き語りに伴奏をつけたようなアレンジがほとんどで曲はいいのに勿体無いってゆー印象が強い。ボウイの12弦アコギのストロークが目立ちすぎてうるさいなぁって思ってしまうくらい。

そんな僕の元に舞い降りたのが去年リリース50周年にトニー・ヴィスコンティ自らがリミックスしたバージョン。これがめちゃくちゃいい。

僕は基本的には楽曲そのものやアレンジにすこぶる興味があって、続々と出るリマスターやリミックス音源にそこまで興味はないんだけど(特に耳も良くないし)この「Space Oddity 2019Mix」を聴いて少し考えが変わった。

最初に〝Space Oddity〟の2019Mix&新PVをYouTubeで聴いた時は「あんまり良くないなぁ」と思ったんだけど、アルバム全体の2019Mixを聴いたら〝Space Oddity〟以外がめちゃくちゃよかった。ん…というか〝Space Oddity〟はアルバム内で一際元々良かったから他の楽曲がめちゃくちゃ良くなったと言うべきか。

つまりガス・ダッジョンプロデュースの〝Space Oddity〟が良くて、トニー・ヴィスコンティの他の楽曲があんまりよくなくて、50年の時を経てトニー・ヴィスコンティが再ミックスしたら〝Space Oddity〟以外はめちゃくちゃ良くなった。トニー・ヴィスコンティは未だに〝Space Oddity〟が苦手みたいだが他の楽曲の答えには辿り着いたんだろう。トニー・ヴィスコンティのプロデューサーデビューはティラノザウルス・レックスの68年辺りで、69年当時はまだ25歳くらいの若者。そう考えると今回みたいに時を経てリミックスで爆発的に良くなることは割とあることなんだろう。リマスター、リミックス、手を出すか…途方もないな…ビートルズのリマスターとかも全く手を出してないからなぁ…

とにかく2019Mixを聴いてほしい、2009リマスターと比べても段違いに良い。僕も去年出た「Conversation Piece」ってボックスセットのApple Musicで聴いてるだけなんだけども。このBoxはボウイのホームデモやマーキュリーデモ、「Space Oddity」の2009リマスターと2019Mixなんかが詰まってるスペシャルなボックス。今年は70年3rd「世界を売った男」のリミックスが出るのかと思うと楽しみだ、あれも快進のミックスかと言われればそうでもない気がするから。

ちなみにこのボックスセットのタイトルとなった〝Conversation Piece〟という曲はマーキュリーデモにあったものの2ndには収録されず、次のシングル〝The Prettiest Star〟のB面に収録された楽曲。この「Space Oddity 2019Mix」では8曲目にねじ込まれていて、これも素晴らしい。

さて、曲解説とまではいかないがざっと。

〝Space Oddity〟の立ち位置

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・まず冒頭は先にシングルリリースして初ヒットとなった〝Space Oddity〟で幕開け。この曲がやはり目立ちがちだがアルバム自体は宇宙をテーマにしているわけではない。〝Space Oddity〟に関しては前回思いの丈を書き殴ったので省略。アルバムバージョンではシングルと同じレコーディングセッションであるがアウトロが30秒ほど長くなっており、トム少佐はより宇宙の果てへ流されていく。

・続く〝Unwashed and Somewhat Slightly Dazed〟〝Space Oddity〟の12弦ギターストロークエレキギターのディレイを受け継ぐ形で始まる。さらにサビの部分でのリズムは〝Space Oddity〟の間奏前のギターリフ(?)と同じリズムを持ってきてる辺りは意識的にアルバムに脈絡を持たせている、たぶん。【ジャ・・ジャ・・ジャ・・・ジャ!・ジャ!・・・】ってやつね。ちなみに〝Space Oddity〟のこのフレーズは後の93年〝郊外のブッダでも登場する。結構好きなんよね〝郊外のブッダ〝Unwashed and Somewhat Slightly Dazed〟は歌詞が難解で意味不明であるが、亡くなった父親について歌っているよう。ハーモニカも炸裂しており、元気な時のディランチック。

ヘルミオーネへの想い

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・3曲目〝Letter to Hermione(ヘルミオーネへの手紙)〟はタイトル通り69年春に別れたヘルミオーネへの未練を歌っている。「マーキュリーデモ」の段階では〝I'm Not Quite〟という曲名であったが、ヘルミオーネとの別れを経て歌詞を書き変えて〝ヘルミオーネへの手紙〟という超ストレートな曲になった。ちょいとしゃがれ声なのも良い美しい曲であるがジャキジャキとボウイのギターが騒がしめなのが少し気になる。

・6曲目(B面2曲目)の〝An Occasional Dream(時折の夢)〟もヘルミオーネとの儚い時を歌ったものだろう。この曲は割と67年1stっぽいアレンジで、トニー・ヴィスコンティのフルートやリコーダーが秀逸なバロックポップ。2019Mixで格段に良くなった曲一位!

ちなみに71年ハンキー・ドリー収録の〝Life On Mars?〟は少女目線から歌われる大名曲であるが、そのモデルもヘルミオーネであると言われている。

【Hermione】ってハーマイオニーとも呼べるようで、ハリーポッターが流行ってからはハーマイオニー・ファージンゲールとも表記されることがあるみたい。英語読みとドイツ語読みとかなのかな??よくわかんないが。

アーツ・ラボへの夢と失望

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69年春にヘルミオーネと別れてベックナムへ移り住み、そこでボウイは新たなコミュニティを築き始める。そこには様々な芸術家志望の若者が集まり次第にアートコミュニティ《ベックナム・アーツ・ラボ》となった。そこで最初の妻となるアンジーとも出会っている。《アーツ・ラボ》はヴェルヴェッツも参加したアンディ・ウォーホルの《ファクトリー》の影響が強くて、それはカウンターカルチャーの匂いもしっかり含んだヒッピー的要素も備えていた。ボウイの短いヒッピー時代である。

69年8月16日、アメリカで伝説的な音楽の祭典ウッドストック・フェスティバルの2日目が行われた同じ日にイギリスはロンドンのベックナムで《アーツ・ラボ》もベックナム・フリーフェスティバルを開催した。ここでボウイは《アーツ・ラボ》とヒッピー文化に失望したという。〝多くの若者は芸術の創造のために参加するのではなく、参加するために来ているだけだった〟というニュアンスで否定し、ヒッピーの実態を見透かし見限ったような感じだろうか。

イギリスのヒッピーについては僕も前に書いたが思想よりもファッション感が強かったんじゃないだろうか。さらにフェス終了後売上の計算をしていた仲間に「金の亡者め!」と悪態をついて出て行ったというエピソードも残っており、父が亡くなった直後で気が立っていたこともあるようだが何かしら《アーツ・ラボ》に対して納得いかないことがあったよう。

こういった経験から生まれたディストピアソングが4曲目の大曲〝Cygnet Committee〟で、反対にフリーフェスティバルの美しい思い出を歌ったのがエンディング曲〝Memory of a Free Festival(フリーフェスティバルの思い出)〟である

〝Cygnet Committee〟は10分近くある5つほどのセクションで構成されたドラマチックな大曲で、76年「ステーション・ステーション」のオープニング曲をリリースするまでボウイの1番長い曲となる。このアルバムにおいて非常に重要な位置を占めているこの曲はマーキュリーデモの〝Lover To The Dawn〟を発展させて出来上がった曲で、プレグレッシブフォークと呼べる仕上がりになった。畳み掛けるようなオーラスは「ジギースターダスト」での〝Five Years〟〝Rock'n Roll Suicide〟と同様の熱と狂気を演出している。ボウイの真骨頂。全セクション魅力的なメロディを持っているが、やはりその全てがボウイのコードストローク中心なのが勿体ない。オーラスの一節A love machine lumbers through desolation rows愛の機械が荒廃の街を耕す〉という箇所では「あ!desolation row!ディラン!」って思っちゃうよね。

ディストピアを歌った〝Cygnet Committee〟に対してユートピアを歌ったのが最後の曲〝フリーフェスティバルの思い出〟。結果的にはボウイはベックナムフリーフェスティバルに嫌悪感を示すわけだけれどこの歌では〝神の国〟で〝天国〟だったと歌われている。これは〝思い出〟というよりは思い描いていた夢だったのかもしれない。

この曲がアルバムで唯一ボウイのギターコードが主体ではなく、コードオルガンの弾き語りにて歌われている。

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(コードオルガン)

1曲目〝Space Oddity〟で使用したスタイロフォンと同じく玩具楽器の部類であるコードオルガンを最後の曲に持ってきた。こーゆーのがボウイはほんとに上手い、ニンマリする。コードオルガンのみによってつらつらと歌い上げる前半が終わると後半はバンドインして〈The Sun Machine is Coming Down, and We're Gonna Have a Party. 太陽機械が降りてきて、僕らはパーティを始める〉のリフレインの大合唱で終わっていく。アルバムエンディング曲としてはビートルズ「サージェント」の〝A Day in the Life〟バッファロースプリングフィールド「アゲイン」の〝Broken Arrow〟並の名曲だと僕は思っている。

〈A love machine lumbers through desolation rows愛の機械が荒廃の街を耕す〉と歌った〝Cygnet Committee〟〈The Sun Machine is Coming Down, and We're Gonna Have a Party. 太陽機械が降りてきて、僕らはパーティを始める〉と歌った〝フリーフェスティバルの思い出〟はアーツ・ラボ及びベックナムフリーフェスティバルに対しての陰と陽を対比させた2曲だと思うんだけどどうだろうか。ラヴ・マシーンとサン・マシーン。

ちなみにこのベックナムフリーフェスティバルが開催されたのはロンドンクロイドンにある野外音楽堂であるが、老朽化が進んだこの音楽堂を修繕するために2013年にボウイファンのロシア人がチャリティイベントを開催したよう。ボウイはイベントに参加しなかったものの支持を表明しサイン入りアルバムを主催者に送ったよう(売れた金がチャリティ資金になるように)。時が経ってもボウイにとって思い出深い場所だったようで、なんかよかった。

・このアルバムでスケールの大きな曲は〝Space Oddity〟〝Cygnet Committee〟〝フリーフェスティバルの思い出〟とあと7曲目(B面3曲目)の〝Wild Eyed Boy from Freecloud(フリークラウドから来たワイルドな瞳の少年)〟だろう。7月にシングル〝Space Oddity〟のB面としてリリースされたバージョンではボウイの弾き語りとアルコベースのみの吟遊詩人的スタイルだったがこのアルバムバージョンではトニー・ヴィスコンティが派手なストリングスアレンジを施し壮大なロックオペラに仕上がっている。この曲もこのアルバムで重要な曲。アンクレジットであるがこの曲でミックロンソンが初めてギターで参加してるみたいなんだけど聴いてもよくわかんないんだよなー…

・B面1曲目の〝Janine〟は少しハードでマッチョなアレンジ。マーキュリーデモのシンプルなフォークスタイルが素晴らしいからそっち寄りでよかったのに(間奏の〝Hey Jude〟は置いといて)。

・逆にほぼ弾き語りなフォーキーアレンジになったのが8曲目(B面4曲目)の〝God Knows I'm Good〟。この曲や〝An Occasional Dream〟のような小気味の良い小曲とスケールの大きな大曲がバランス良く配置されているアルバムだ。

以上!

こんなとこかな!

とにかく2019Mixを是非聴いてくだされ!Apple Musicにもあるので!マーキュリーデモと聴き比べるのも楽しい!

僕が好きなのは〝Space Oddity〟以外だと〝Cygnet Committee〟〝フリーフェスティバルの思い出〟〝An Occasional Dream〟かな。

では!

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