6-7 東のソフトロック(第70話)
僕はまだソフトロックの定義について考えている
- ブルースの匂いがしないこと
- ギターロックではないこと
- ウィスパーボイス多し
- コーラスワーク強し
- ライブを想定しない緻密なスタジオワーク
- 主に西海岸カリフォルニア
- 60年代後半〜70年代前半
- ドトールで流れる
このあたりが僕がイメージするソフトロックの性質でありこれらを成立させる音楽を並べてみると《サンシャインポップ》とほぼ同意義なんだ、と決着しかけたところでそれも違うな…と答えが出ぬままひとまずソフトロックを後にしたのが半年程前の去年の10月。
そもそも《ソフトロック》という仕分けは90年代に渋谷系が素晴らしきアメリカ音楽を再発掘した際に生まれたようなもので、そんなただの仕分けにこだわる必要はないのかもしれない。というか「〝ジャンル〟なんてただの言葉なんだから仕分ける意味がない」って考えの人もたくさんいるだろう。ただ僕は決して〝言葉〟にこだわっているわけではなくあくまで音楽の〝共通点〟にこだわっているわけで。その背景と土地と時代と、そういったものを共有する音楽群に一つの言葉を与えて括りたいが故に〝ジャンル分け〟に熱くなっているわけで。特に《ソフトロック》は未だ曖昧な線引きしかされてなくてモヤモヤする代表ジャンルであるので。僕はロック史を図に起こすことを目的としてこのブログをやっているので尚更ジャンル分けは重要なわけで。
全体図、失敗!
(失敗に終わったここまでの全体図)
さてその図であるが全体図がどうにも平面図では上手くまとまらないことがわかってきたので、各章ごとに分けて図を進めていくように志半ばでシフトチェンジすることにしました。
全体図は立体図じゃなきゃ成り立たないと思い知ったのでいつの日か〝ロック史オブジェ〟なる建造物を制作できる日を夢に見ながらひとまず各章ごとに、ジャンルごとに図を作成していこうと思います。
なわけで今回は新生ジャンル別図を使って半年ぶりに6章ソフトロックの続きを!
6-7 東のソフトロック(第70話)
(関連するがソフトロックと呼べないバンドは灰色にしてます。)
さて6章ソフトロック今までの図が上図である。主にロジャニコ関連カートベッチャー関連しか書けてない。それは僕がソフトロックの定義に〝主にアメリカ西海岸〟というのを加えていたからというのが大きい。「フィルスペクター→ビーチボーイズの流れの先にソフトロックが誕生している」と考えたことや「ハリウッドという映画都市の存在が職業作曲家やセッションミュージシャンを多く起用するソフトロックに関連している」と考えたことなんかが〝ソフトロックは西海岸〟と定義付けた理由だったんだろうが、やはりどうしても東を無視できなくなってきた(すでに紹介したマーゴ・ガーヤンは東の人だけどね)。どうあがいてもソフトロックと呼ぶしかない音楽がニューヨークにもあるのだ。
この間ラヴィン・スプーンフルについて書いた時に東のソフトロックを受け入れないと成立しないと確信したので図に書き加えていきます!多くはないが僕の知り得るニューヨークのソフトロックをいくつか!
The innocence
〝ウォール・オブ・サウンド〟と呼ばれる60年代前半から半ばのフィル・スペクターの徹底的なスタジオワークによるポップソングがソフトロックの基盤になっているのは間違いない。
フィル・スペクターは40年にニューヨークに生まれ、49年に父の自殺によりロスへ移住、58年にテディベアーズ名義でロスの音楽シーンに登場、ロスではまだポップビジネスが育ってなかったこともありニューヨークへ移住、61年に師であるレスター・シルと共にフィレス・レコードを設立しクリスタルズらを輩出、ニューヨークでの経験と人脈を得て62年にロスに戻り66年ごろまで数々のヒット曲を生み出す。
といったようにフィルスペクターはニューヨークとロス、東西で活躍したプロデューサーである。
フィルスペクターが身を潜める60年代後半のアメリカ音楽シーンにはかつてフィルスペクターの元で働いた〝フィルスペクター門下生〟と呼べるプロデューサーやアレンジャーやミュージシャンが活躍し、特にソフトロック界隈でその受け継いだ力を発揮するわけで、その多くがロサンゼルスの人物であったことから僕は〝ソフトロックは西海岸〟と言ったりしていたわけなんだけど、東西で活躍したフィルスペクターであるのでちゃんと〝東の門下生〟もいたのだ。それがイノセンスである(正直60年代頭のアメリカンポップスまでは追えてなくて、フィルスペクターの仕事の全貌をはっきり把握できてないのよねん。)。
イノセンスはフィルスペクターの元で働いていたピーター・アンダースとヴィニ・ポンシアのソングライティング&プロデューサーコンビ、そしてカマ・ストラ・レコードの社長アーティ・リップによる66年に結成されたプロジェクトである。カマ・ストラはラヴィン・スプーンフルが在籍していたレーベルで、フィルスペクターがデビュー前のラヴィン・スプーンフルを欲しがっていた話は有名、ラヴィン・スプーンフルをソフトロックバンドだとは言わないが楽曲的にも何やらフィルスペクターを取り巻く同じ輪の中にいるのは間違いないだろう。なわけでイノセンスはラヴィン・スプーンフルの1stシングル〝Do You Believe in Magic〟をカバーしていたり。
67年に唯一作となる「The Innocence」をリリース。ダビデ像に革ジャンを着させたヘビメタっぽい発想のジャケットであるが可愛らしく美しいポップアルバムである。
とにかく2.〝Mairzy Doats〟が素晴らしく可愛いサイケポップで超お気に入り。この曲は1940年代のノベルティソング(コミックソング)が原曲のようだが見事なサイケアレンジに仕上がっている。話が少し逸れるが僕はイノセンスと「psychedelic essentials」という名前のアルバムで出会っている。同じ「psychedelic essentials」というタイトルでThe SmokeやThe Foolのアルバムなんかも再発されているんだけど、それらは僕がネットやYouTubeでイノセンスやThe Smokeなどの情報を仕入れCDを手に入れようとAmazonで検索をかけて見つけたアルバムである。「psychedelic essentials」のタイトルで再発されたものの大概がバンド名と同じタイトルのアルバムでサイケニュアンスが盛り込まれたアルバムであると思うんだけど先程気になってdiscogsで調べてみるとレーベルがAmazon.coとなっておりどうやらAmazonによる再発のようで、確かにCDではなく音源データ販売みたいなのが多くヒットしたような。Apple Musicにあるイノセンスもこの「psychedelic essentials」であり、それで聞くかぎりオリジナルと曲順もかなり異なっている。で、1曲目が〝Mairzy Doats〟でこのアルバムで1番サイケニュアンスの強い曲を持ってきてるってわけか。イノセンスはソフトロックの定番とも言われる作品であるが、この〝Mairzy Doats〟と「psychedelic essentials」のイメージで長らく僕はサイケの枠組みに放り込んでいたのよね(ソフトロックは西という定義もあったし)。
全体的には少しサイケニュアンスはあるものの王道ソフトロックといえる心地の良い曲が並んでいる。アンダース&ポンシアは優れたソングライターであるがこのイノセンスではシングルとしてもリリースされた1.〝There's Got To Be a Ward(素敵な言葉)〟を筆頭に4.〝All I Ask〟、5.〝Your Show Is Over〟とA面に3曲提供したのがドン・チコーネという人物(〝素敵な言葉〟は〝Mairzy Doats〟と同じアプローチのアレンジでソフトロック至極の名曲)。ドン・チコーネはガレージポップバンドクリッターズのフロントマン兼作曲家で、クリッターズは66年にラヴィン・スプーンフルの〝Younger Girl〟のカバーでヒットしたバンド。クリッターズは同66年にアンダース&ポンシアの楽曲〝Bad Misunderstanding〟をシングルリリースしておりそのプロデュースがアンダース&ポンシアとアーティ・リップ、つまりイノセンスである。そして67年イノセンスのアルバムにドン・チコーネが楽曲提供ってことで、ラヴィン・スプーンフル、イノセンス、クリッターズも同じ輪の中にいたよう。
ドン・チコーネはクリッターズの後フォー・シーズンスに加入。後年は〝クリムゾン&クローバー〟で有名なTommy James and the Shondellsにベーシストとして参加したよう。
売れないには売れないなりの理由がやっぱりあるものなんだけど、イノセンスはミレニウムと同じくこのクオリティで売れない理由がわからない。
素晴らしきソフトロック、バロックポップで全体的に漂う可愛らしい雰囲気はバブルガム・ポップな印象も受ける。とにかくオススメ!
The Tradewinds
イノセンスと同じくアンダース&ポンシアの変名プロジェクトのトレードウィンズ。同じくカマ・ストラから67年に唯一作「Excursions」をリリース。
ジャケットに4人写ってるんだけどその辺はよくわからない。イノセンスと共にソフトロック必需品、ミレニウムとサジタリアスのような関係だろうか。
ラヴィン・スプーンフル風味な1.Mind Excursionやクリッターズに提供した3.〝Bad Misunderstanding〟、ビーチボーイズ風味な4.〝New York's A Lonely Town〟や5.〝I Believe in Her〟など良曲多数だが僕はイノセンスの方が好きかな。
イノセンスがバブルガム風味なところもあり〝子供向け〟ならトレードウィンズは〝大人向け〟って感じか。トレードウィンズはアメリカンポップス臭が強くてイノセンスでみせた可愛らしさが消えた印象。時系列的にはイノセンスが先だと思うんだけどアレンジ面サウンド面でもイノセンスの方が洗練されてるように思う。ま、好みの問題が大きいが。
※追記:ちょっと調べてみたところトレードウィンズが65年66年にシングルリリース、そこからイノセンス名義で66年、67年にシングルとアルバムリリース、トレードウィンズのアルバムもリリース??のようでやっぱりトレードウィンズが先。フィルスペクターやビーチボーイズ的なアメリカンポップなトレードウィンズとその後出現するソフトロックなイノセンスって感じか。非常に納得!!
以上!
とりあえず今回はここまで!イノセンスとトレードウィンズはニューヨークソフトロックの最重要アイテム!他のニューヨークソフトロックにはそこまで詳しくないんだけど、フリーデザインとサークルくらいは紹介しときたいので次回も引き続き〝東のソフトロック〟を!!
では!
(ソフトロック図、西海岸が右でニューヨークが左になっちゃったな…んー…)