6-8 続・東のソフトロック(第71話)
「ソフトロックは西海岸!」というマイ定義を捨て去り前回はニューヨークのアンダース&ポンシアのプロジェクトInnocenceとTradewindsについて書きました。
今回はその続きで東のソフトロックをいくつか!
The Free Design
《究極のコーラス》と日本でかなり人気の高いフリー・デザイン。小山田圭吾(コーネリアス)のレーベル〈Trattoria〉から94年にCD化されたことで日本のソフトロックブームの中心的グループとなり本国アメリカや欧州でも再評価された。
クリス・デドリック、サンディ・デドリック、ブルース・デドリックの3人の兄妹グループとして66年にニューヨークで結成され、すぐに妹のエレン・デドリックが加わり、最終的には末妹のステファニー・デドリックも加わるというスーパー兄妹グループ。
同じく兄弟グループのビーチ・ボーイズやビージーズに引けをとらないハーモニー、コーラスアンサンブルに加えて、アレンジャーでトロンボーン吹きの父とジャズトランペッターの叔父をバックボーンに持つ音楽的教養の高さが特徴である。
実は個人的にはそこまでハマれなくて、理由としては〝良すぎる〟って感じだろうか。フリーデザインは当時商業的成功を得ることができなかったが、その理由も〝良すぎた〟からかもしれない。非常に高い音楽的偏差値を持っているがなんかハマれない。これは「エリートで教科書通りでつまらない」とかでは決してなくて、教科書通りどころかクリス・デドリックのジャズコードを駆使した楽曲や複雑すぎるコーラスアンサンブルはどちらかと言えばプログレッシブである。
気持ちいいし美しいんだけどなぁ…前にビーチ・ボーイズの回で、『「スマイル」は〝神に捧げるポケットシンフォニー〟だから人間の僕には「スマイリー・スマイル」の方が刺さる』的なことを書いたと思うが、フリーデザインに対しても同じような感じで「僕に向けられていない」と思ってしまう、つまりは《ポピュラーミュージック》ではないんじゃないかと思ってしまうのだ。完全にポップなのにたまに《イージーリスニング》なんじゃないかって思ってしまう。なんて言ってみたり。
フリーデザインが売れなかった理由は〈Project 3〉というレーベルが弱小だったということもある。デドリック兄妹の美しいコーラスは当時結構評価されていて大手レーベルも注目していたようで、そこに入りプロの作曲家に曲を提供され兄妹で歌えばそこそこ売れたと思うんだけど、クリス・デドリックは自らの探究心とこだわりを許してくれる〈Project 3〉を選び、結果的に〝良すぎる〟作品を作り上げて商業的に失敗に終わったわけだ。
では軽く個人的オススメアルバム紹介を。
67年1st「Kites Are Fun」
タイトル曲1.〝Kites Are Fun〟はビルボードACチャートで33位、ポップチャートで114位のフリーデザイン唯一のチャートイン曲であり爽やかな名曲。
全体的にフルートやリコーダーやトランペットなんかが曲ごとに効果的に使われた《バロックポップ》的なアレンジとクリス、サンディ、ブルースの3人の美しいハーモニーが乗ったフリーデザインでは1番好きなアルバム。
5.〝My Brother Woody〟や7.〝Don't Turn Away〟などまさにソフトロックなオリジナルソングやサイモン&ガーファンクルの〝59番街橋の歌〟のカバーやビートルズの〝ミッシェル〟のカバーなども秀逸。特に〝59番街橋の歌〟は同じくデビュー作でカバーした西のソフトロックバンドハーパース・ビザールや本家にも劣らない素晴らしきアレンジ。
68年2nd「You Could Be Born Again」
妹エレンが加入し男女2人ずつのママス&パパス体制になった2nd。ジャズ的要素が強くなり、4人になったコーラスアンサンブルもかなり複雑化しているがまだ割と好きなアルバム。
ママス&パパス〝夢のカリフォルニア〟やビートルズ〝エレナ・リグビー〟、タートルズ〝ハッピー・トゥギャザー〟のカバーが目立つが、それよりも1.〝You Could Be Born Again〟や8.〝I Found Love〟なんかのオリジナルのクオリティが抜群。もうすでに〝良すぎる〟。6.〝Quartet No. 6 in D Minor〟のコーラスアンサンブルとかエゲツない。
やはりアメリカでは《サンシャイン・ポップ》に含まれるようであるが、フリーデザインのコーラスは〝冷たさ〟が特徴で〝氷点下のハーモニー〟なんて称されている文章も見たことがある。ハーモニーの暖かさみたいなものは何故かなくて、やっぱりママス&パパスらカリフォルニアのボーカルグループとは少し違う。かといってブリティッシュフォークや聖歌的な神聖さのある冷たさかと言えばそれも少し違っていて、やはりニューヨーク特有の冷たさ(ドイツも近いと思っている、東京もなのか…)だろうか。《サンシャイン・ポップ》とは思わないんだよなー。
69年3rd「Heaven/Earth」
ここまでがソフトロックかなー、ロジャニコっぽい〝Now is the time〟が好き。
70年4th「Stars/Time/Bubbles/Love」
かなりジャズ寄りなアルバム。
一般的には3rd,4thがピークとされてるのかな??この後71年、72年のラスト2枚はカーペンターズ的ポップになった印象。そこちゃんと聞いてないんだけど。
70年5th「...Sing for Very Important People」
ピーター、ポール&マリーの「Peter,Paul&Mammy」に影響を受けて作られたChildren's Album。子供に向けられた歌であるから僕に向けられた歌ではないにせよ、コンセプトがあるからアレンジに歯止めが効いているのか。んー…結構好き。ちなみに72年ラストアルバム「There is a Song」では〝Peter,Paul&Mary〟という曲を作っており、フリーデザインはピーター、ポール&マリーがお好きなよう。
2001年「Cosmic Peekaboo」
日本でのソフトロックブーム、小山田圭吾による発掘からの再評価を受けてか2001年に復活しアルバムをリリース。ロジャニコにせよ、素晴らしくも埋もれたバンドを復活させたのは同じ日本人として誇りに思う。あざす!
以上!図は…とりあえずポツンと置いときます。
The Cyrkle
サークル。僕は2nd「Neon」が好きでずっとサイケ/ソフトサイケのカテゴリに入れていたんだけど外部作曲者曲の多さや3rd「Minx」を考えるとソフトロックバンドと言えるか。
サークルはトム・ダウズとドン・ダンネマンを中心としたバンド。元々はThe Rhondellsというバンドであったがビートルズのマネージャーであるブライアン・エプスタインに65年に見出されて名前をThe Cyrkleに改名。Cyrkleは【円】を意味する【Circle】を捩った名であるが、このyとkのなんとも読みにくい変なスペルを与えたのはジョン・レノンである。
トム・ダウズが同時期にサイモン&ガーファンクルのサポートベースをしていたことからデビュー曲〝Red Rubber Ball〟をポール・サイモンからプレゼントされこのデビューシングルがビルボード2位の大ヒット、さらに66年の夏にはビートルズの米ツアーの前座として抜擢されるなどかなり恵まれたスタートを切った。
トム・ダウズとドン・ダンネマンの歌はジョン&ポールのようで、アレンジも秀逸で、オリジナルもそこそこ良くて、ポール・サイモンやバカラックなどから良曲を提供され、ジョンにバンド名を与えられビートルズと関わりを持ち、もう成功の道しか見えない恵まれたバンドであったがご存知の通り67年にブライアン・エプスタインが死んでしまったことで路頭に迷い結局68年に3枚のアルバムのみを残して解散する。
バッドフィンガー然り、ビートルズと関わると悲惨な結末を迎えるのか…そんなサークルの素晴らしきアルバムを!
66年1st「Red Rubber Ball」
コロンビアレコードからリリース。
1st時はモッズ、フォークロック、ガレージポップといった感じのポップでロックな音楽性。すでにシタールを使い始めており、僅かながらサイケデリックの香りも。
サークルの好きなとこを1つ挙げるとすると声である。澄みきったドン・ダンネマンの声と気の抜けたトム・ダウズの声の絡みが非常に気持ちいい。特にトム・ダウズは〝ゆるい〟とも違うし〝優しい〟とも違うし〝気の抜けた〟というのが1番しっくりくる淡々とした歌い方が絶妙にクール。
ヒットシングル1.〝Red Rubber Ball〟と5.〝Cloudy〟はポール・サイモンとブルース・ウッドリーの共作。ブルース・ウッドリーはオーストラリアのフォークカルテットThe seekers(シーカーズ)のメンバーであり、シーカーズがロンドンへ進出した際にロンドン時代のポールサイモンと出会い数曲共作し、それがサークルに贈られた。〝Red Rubber Ball〟〝Cloudy〟と2ndアルバムの〝I Wish You Could Be Here〟がサークルに贈ったサイモン&ウッドリーの共作であるが、この3曲はシーカーズも録音しており、〝Cloudy〟はサイモン&ガーファンクルの66年「Parsley, Sage, Rosemary and Thyme」にも収録された。それぞれのアレンジの違いを聞いてみるのも面白い。
オリジナル曲は半数以下だが良曲多し。
プロデュースは少し後にザ・バンドのプロデュースで有名になるジョン・サイモン。このサークルの1stがジョン・サイモンの最初の成功したプロデュース作品である。アルバムはビルボード47位。
67年2nd「Neon」
67年サイケ真っ只中のアルバム。引き続きジョン・サイモンによるプロデュース。1stと同じくオリジナルは半数に満たず提供曲が多いが、全曲アレンジが秀逸でかなり好きなアルバム。
特にサイモン&ウッドリー作の4.〝I Wish You Could Be Here〟が超お気に入りで、ぷーんぷーんと鳴る不思議なスライドベースがどうやってるのか、あまり聴いたことない手法。すごい。スタジオミュージシャンが弾いてなければトム・ダウズが弾いてると思うんだけど3.〝Weight Of Your Words〟にしてもめちゃくちゃいいベース弾くのよね。ライブ映像見たことないが、探してみよう。あるのか。
ドラムのマーティ・フリードが作曲し歌った6.〝Two Rooms〟とこのアルバムから加入した鍵盤のマイケル・ローゼカンプが歌う2.〝The Visit (She Was Here)〟がこのアルバムで一際ソフトロック/ソフトサイケ的。
ビートルズ〝I'm Happy Just To Dance With You〟のカバーがサークルが只者じゃないことを物語っていて、明らかにビートルズと違う奇怪なダンスを踊っている。転調しまくり、おれ絶対歌えない。
「Neon」は超オススメ!
70年「The Minx」
これがソフトロックの隠れた名盤とされる。
67年にブライアン・エプスタインが死んで露頭に迷ったサークルは『The Minks』という映画のサントラに挑戦。この映画は女スパイものの映画で68年には完成していたようだがインパクトが弱いという理由でエロシーンが足されて69年末に成人指定で公開されたB級ポルノ映画である。サントラはサークル解散後の70年にリリースされた。
B級ポルノ映画のサントラという残念な肩書を持つが内容はボサノヴァを取り入れた美しいソフトロック。Eternity's Children然りボサノヴァとソフトロックは割と接点があり心地の良いサウンド。
しかし全体的には雑味があり「Neon」での秀逸なアレンジは失われたように思う。そこまではハマってないアルバムだが、ソフトロック界ではその肩書も含めて有名な作品。
以上!
《究極のコーラス》《氷点下のハーモニー》と評価されるフリー・デザイン!
ビートルズやポール・サイモンというビッグネームと接点を持ちながら消えていったサークル!
どちらもニューヨークソフトロックの重要グループでござんす!
ちょっと無理矢理ですがサイモン&ガーファンクルの〝59番街橋の歌〟をカバーをしたという点だけでフリーデザイン繋いどきます…
ソフトロック図
イギリスのバンドについてはゾンビーズもホリーズもビージーズも僕はソフトロックには含めていないんだけれど、唯一ビリー・ニコルスだけはソフトロックなんじゃないかと思っていて…またその辺りも書けたら!
では!