11-2 ウォレス・コレクション〜ベルギーのロック〜(第91話)
2014年2月9日、大雪の東京。
前回は元祖チェンバーロックと言われるサードイヤーバンドについて書き、その中で「7,8年ほど前に従姉妹の結婚式で東京へ行った際にお茶の水のディスクユニオンで70年2ndを買った」とサードイヤーバンドとの出会いに触れた。この時は滅多に東京に行くこともなかったので従姉妹の結婚式の後そのまま4,5日留まり友人と会ったりディスクユニオンを巡ったりしたのだが、超絶激しい大雪で交通機関が止まり、ホテルや漫画喫茶どころかファミレスにすら帰る手段を失い彷徨う人々で溢れ返り入れず、コンビニの自動ドアは自動で開かず、と大波乱の滞在であった。のでサードイヤーバンドの2ndをその時に買ったことも強く記憶に残っていたわけだ。
Facebookの機能の一つに「○年前の今日の投稿です」と過去の同じ日付の投稿を掘り返してお知らせしてくれる、というものがある。2014年の2月9日に買ったCDの写真をこの2021年の2月9日にFacebookが「7年前の今日ですよ」と知らせてくれた。それがまさに上に書いた大雪の東京の冬のことだった。
投稿によるとこの日はディスクユニオンお茶の水店と新宿店を巡り新宿のビジネスホテルに泊まったよう。ホテルに泊まれてるので雪が止んだ後だろうか、と調べてみると前日の2月8日(土)が記録的な大雪で東京は45年ぶりに27cmの積雪となったとか。何にせよ翌日9日はしっかりとディスクユニオンを巡り17枚のCDをゲットできたようで、その中にはちゃんとサード・イヤー・バンドのセカンドがあって思いがけず記憶の証明が成されたわけだ。ラインナップを見てもわかるようにこの当時はブリティッシュフォークにお熱だったようで3種の神器をここで一気に揃えていたのには驚き。ボスタウンサウンドについて書いた際
に「何故アート・オブ・ラヴィンだけ持ってるのかが不明」と書いたがそれもこの時に買ってたのね。他にもタンジェリン・ドリームやブロッサム・トゥースなど気になるものがあるが、特に気になったのがウォレス・コレクション。名曲〝Daydream〟に心奪われたベルギーのELOことウォレス・コレクション。正直CDを持っている記憶もなかったが写真に残ってるんだから持ってるんだろうとCD棚を探すと発見。で、改めて聴いてみたり軽く調べてみたりしたわけだ。
てなわけでベルギーなんてワッフルが有名くらいしか知らないくらい知らないが《11章英米外のロック》の2回目はベルギー・ロックを(ベルジャン・ロックと言うのだろうか)!ほとんど知らないがベルジャンロックにはMad Curryなど素晴らしいバンドもいるのでその辺も触れれたら!
11-2 ウォレス・コレクション〜ベルギーのロック〜(第91話)
ベルギーはオランダ、フランス、ドイツに囲まれた国であり公用語もオランダ語、フランス語、ドイツ語である。フランスとドイツのロック輸入度合いは言うまでもなく、オランダにもショッキングブルーやフォーカスなんかがいるのでその3国に囲まれたベルギーもしっかりとロックを輸入しており70年代半ばから後半ごろには他のヨーロッパ諸国と同じようにいくつかのプログレッシブロックバンドが誕生している。ベルジャンロックの歴史は詳しく知らないが、ウォレス・コレクションは68年結成69年デビューであるので、最古とまでは言わないがベルジャンロックの中ではかなり先駆け的バンドと言えるだろう。
Wallace Collection(ウォレス・コレクション)
ビートルズ等ブリティッシュロック勢からの影響を受けた楽曲にベルギー国立フィルハーモニーオーケストラ出身のストリングスメンバー2人が彩りを加える、《ベルギーのELO》というのはまさにウォレスコレクションを表す1番簡単な肩書きである。とはいえMoveの延長からストリングスメンバーを加えELOと名を変えてデビューしたのは71年であるのでロックバンドにストリングスメンバーを加えるというユニークなスタイルはこのウォレスコレクションの方が早い。
【Wallace Collection】というバンド名はイギリスの美術館の名から取られたもので、69年デビューアルバムのタイトル「Laughing Cavalier」もその美術館に展示されている絵画のタイトルから取られている。美術館〈Wallace Collection〉は主にバロック時代の美術品が展示されているようで、〝Laughing Cavalier〟もバロック時代の肖像画であるらしい。そしてその名を使ったウォレスコレクションというバンドはストリングスを導入したバロックなアレンジを施したロックバンドであるのでまさに名は体を表したバンドである(バンド名がウォレスコレクションになる前も16th CenturyやStradivariusといった名で活動していたようで一貫してバロックに関連する名を使っている)。ちなみに美術館〈Wallace Collection〉に並ぶ美術品は元々リチャード・シーモア=コンウェイなる侯爵のコレクションであり、それを非嫡出の息子リチャード・ウォレスが相続し、それをウォレスの未亡人がイギリス政府に寄贈したことで1897年に美術館設立となったよう。リチャード・ウォレスのコレクションでWallace Collectionなのね、ほえー。
この美術館というのがEMIの本社の近くにあるようで、ウォレスコレクションはEMIからデビューとなるが、EMIとの契約が決まった後にバンド名を決めたのかどうかまではよくわからない。何にせよ69年にデビューアルバム「Laughing Cavalier」をEMI傘下のParlophoneからリリースし、そこからのシングル〝Daydream〟が世界的にヒットすることになる。
69年1st「Laughing Cavalier」
EMIと契約、アビーロードスタジオでレコーディング、エンジニアはジェフ・エメリック、というベルギーのバンドとしては考えられない高待遇でのデビュー。破格の待遇でスタートを切れたのはやはり〝Day dream〟という名曲を持っていたからだろうか。タイトル通りのドリーミーな空気感、ドラムボーカルフレディ・ニーウランドの透き通ったハイトーンボイス、チャイコフスキー〝白鳥の湖〟を引用したストリングスフレーズ、ギターのシルヴェイン・ヴァン・ホールマンが持ち替えて吹く印象的なピッコロ、〝Hey Jude〟ばりの大合唱リフレインのクライマックス、非の打ち所のない名曲。もちろんベルギー国内チャートでは1位を取り、ヨーロッパ諸国、アメリカなど世界21ヵ国でヒットを記録。ベルギーの公用語はオランダ語フランス語ドイツ語の3つであるが、ウォレスコレクションは基本的に英詞で歌っている。僕の持つフランス〈Magic Records〉からの再発CDにはオランダ語(?)バージョンが〝Evlyn〟として、フランス語バージョンが〝Rêveries〟としてボーナストラックに収録されており、〝Daydream〟には言語を変えたいくつかのバージョンも存在するよう。
そんな〝Daydream〟はアルバムラストに収録。やはりこの曲が目立つが他の曲も素晴らしい。1.〝Get That Girl〟のようなストリングスをフィーチャーしたプログレッシブな楽曲や2.〝The Sea Disappeared〟や11.〝Baby I Don't Mind〟のようないかにもブリティッシュなビートポップナンバー、3.〝Get Back〟のようなソフトサイケ、9.〝Peru〟のような実験的な曲や、8.〝Fly Me To The Earth〟のような少しねちっこいがインパクトのある曲など様々。ブリティッシュビートからの影響下にありながらサイケロックやプログレの要素も散りばめられており、メドレー的に紡がれていく構成もあったりで《サージェント症候群》下の一枚と言える内容。まさに69年な名盤。
〝Daydream〟で美声を響かせるのはドラムのフレディ・ニーウランドであるが基本的にはギターのシルヴェイン・ヴァン・ホールマンのメインボーカルとフレディ・ニーウランドのバッキングボーカルのハーモニー。作曲はほとんどがシルヴェイン・ヴァン・ホールマンとヴァイオリンのレイモンド・ヴィンセント、プロデューサーのデヴィッド・マッカイの3人がクレジットされている。
その後
〝Daydream〟のヒットを皮切りにヨーロッパ諸国、アメリカ、メキシコ、南アメリカをツアー。
70年にはフランス映画『La Maison』のサントラを手がけ2ndアルバム「Wallace Collection」もリリース。が、この2枚聴けてないのよね(YouTubeにもないし…)。しかし何やらレビューによると1stよりも2ndアルバムの方が《ベルギーのELO》と呼ぶに相応しい内容らしい。是が非でも手に入れたいところだ。
何やら良さげな2ndだが〝Daydream〟ほどのヒット曲は出なかったようで71年にウォレスコレクションは解散。
解散後シルヴェイン・ヴァン・ホールマンはTwo Man Soundというポップトリオを結成し、70年代にベルギーとイタリアで人気を博したそう(全く知らぬ)。
まぁこんなとこです。ELO好きは絶対刺さるはず!ではほんの少しだけ僕の知る他のベルジャンロックを。
Mad Curry
ベルギーも他のヨーロッパ諸国と同じく70年代後半にプログレファンに愛されるバンドがいくつか出てくるようだがその辺は掘れてなくて、というか僕はリリース年に縛られている節があるので70年後半はどんなジャンルであれ全く手を付けれてないのよね…なわけでベルギープログレの中でも71年リリースのMad Curryは聴いてたりするわけで…リリース年で判断するのは本当に悪い癖だとは思うんだけど。
さてMad Curry。簡単に言えば女性ボーカルギターレスジャズロック、なんだけどめちゃくちゃ良い。僕は基本的にジャズは苦手なんだけど、それはインプロヴィゼーションに走りすぎな側面で、決してジャズ的ニュアンスが嫌なわけではなくて。このバンドは即興というよりも割と構築的なジャズアンサンブルを繰り広げるので好み。例えるなら〝21世紀の精神異常者〟の中盤ジャズパートからギターのインプロヴィゼーションを抜いたような感じ。オルガンを主体としたサウンドにキャッチーなメロディ、ハッとさせられるサックスフレーズ、変なリズム隊、なんとも不思議なジャズロック。71年に1枚アルバムを残して消えていったバンドだが、その唯一作の4曲目〝Music, The Reason Of Our Happiness〟と6曲目〝5 Longhaired Children In A Cave〟が特にお気に入り。ジェントルジャイアント的なジャズロックと言えそうだが、割と唯一無二のサウンドを持ったバンドだと思っている。
Waterloo
ベルギーのオルガンプログレバンドWaterloo70年唯一作「First Battle」。B級プログレといった感じだが70年のベルギーにこのバンドがいたという事実は重要。方向性はYesとかに近い気がするがフレーズや仕掛けがいちいちダサい。というか複雑な展開で1曲に何個も別のメロディやフレーズが出現するのに、その全てがカッコいいYesが異常だと気付かされる。
Waterlooといえばキンクスの〝Waterloo Sunset〟。なわけで【ウォータールー】だと思ってたが、読み方は【ワーテルロー】らしい。何やらwaterlooという地名は世界各国にあるらしく、それらもキンクスが歌ったロンドンのウォータールーも元々はベルギーのワーテルローが由来とのこと。1815年にナポレオン率いるフランス軍とイギリスオランダ連合軍が戦闘を行いナポレオンが敗れたのがベルギーのワーテルローで〈ワーテルローの戦い〉として有名なよう(世界史で習ったのか?)。【ワーテルロー】はフランス読みのようだがそれを由来とし英語読みした【ウォータールー】という地名が世界各地に多数ある、ということらしい。ほえー。となるとこのバンドの唯一作のタイトル「First Battle」も〈ワーテルローの戦い〉に関連しているんだろうな。ってかジャケットの絵ナポレオンなのか!それを踏まえて聴けばまた違う面が見えてくるかも、Yesというよりも「タルカス」なのかも(戦闘組曲的な意味で)。
以上!
ベルギーにはもちろんまだまだロックバンドがいるんだろうが、僕が知るのはこの3バンドくらいです。《ベルギーのELO》ことWallace Collectionはおすすめ!2ndを何とか手に入れたい!Mad Curryは正直Wallace collectionよりもおすすめ!プログレファンじゃなくても刺さるはず!Waterlooはかなりのプログレファンじゃないとキツいかも(僕はキツい)!
また時が来たらベルジャンロックの世界へ飛び込もうかとも思いますが、しばらくは放置になりそう。
では!
(関連性は見出せなかったが一応図を)
(11章英米外のロック図)