ケンジロニウスの再生

ロック史を追いながら関連図を作成(関連図挫折中)

1-3 これぞブリティッシュ!The Hollies!

アメリカの現代バイオリニスト、ジョシュア・ベルが行なった実験がある。1席100ドルのコンサートを行う彼が3億5000万のバイオリンを人通りの多いニューヨークの地下鉄の路上で演奏すればどれくらいの人が足を止めるのか、というものだ。結果、数人が足を止めるがすぐに去り、帽子に小銭が35ドル、ジョシュアベルだと気づいた人は1人もいなく、拍手を送った人もいなかった。

人々は音楽そのものを純粋に評価できておらず、それに付随するもの、つまり音楽以外の情報に価値を感じている。ということがこの実験により明らかになった。

音楽を純粋に評価できているか。僕自身長い間このことについて考え、いまだ答えのでないテーマである。「ロックの金字塔!」って紹介される名盤が無数にあって(ほんまに金字塔乱用されすぎ。)それを手にした僕は「金字塔なんだから素晴らしいはずだ」という先入観を持って聴き始めるわけだ。「この名盤を否定することは僕にセンスがないことを露呈することになるんじゃないのか?」とか思っちゃってないか?いやそんなことはない!だって素晴らしいじゃないか!でも今さら音楽だけを評価できてるという証明のしようがないな…とか自問自答。

僕は美術に詳しくはないが、美術の世界なんか特にこんなことだらけなんじゃないかと思う。

しかし一方でこんなことも思う。『とある名言があったとして、それはその内容よりも誰が言ったかの方が重要だ。』って。その言葉の内容ももちろん大事だが、その背景によって説得力が大きく変わる。音楽においても誰が歌ってるか、その人はどんな人物か、何を想ってその曲を作ったか、など曲が持つ音以外の情報はやっぱり重要だ。人殺しが「愛こそ全て」を歌ってもやっぱり響かないだろう。(ちなみにタイムリーな話であるが、ピエール瀧がコカインをやってたという「情報」はテクノグループである電気グルーヴの音楽の説得力を下げるものとは思わない。だってテクノだよ?役者やタレントとしての説得力はしらない。)

そんな考えからバックボーンを含めて音楽だ!なんて最近は思うようになってきて。まぁ僕も大人になったってことだ。なんせ僕のこのブログは「音楽に付随するもの」だらけだ。音楽が持つ音楽以外のさまざまな情報を辿ってサーフィンしていくブログだから。とはいえ、「他人の評価」や「売り上げやチャートなどの数字」に惑わされぬよう注意しようとは思う。良し悪しは置いといて好みじゃないものは好みじゃないと言える男でありたい!!

1-3 これぞブリティッシュ!The Hollies!

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さてCSN&Yから始まり前回はThe Byrds、今回はThe Holliesでござんす。

↓前回まで↓

図はここまで。

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の今回はここ。

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・The Holliesとは

5歳で出会ったアラン・クラークとグラハム・ナッシュ少年がエヴァリーブラザーズに影響を受けて「リッキー・アンド・デイン」というコーラスデュオを結成したところから始まる。2人が活動の幅を広げ始めたころ、「カーク・ダニエルズ・アンド・デルタズ」というバンドのベーシストであったエリックヘイドック出会い、62年にホリーズの原型が誕生。

64年にデビューアルバム「Stay with The Hollies」リリース。

どうだろうかこの華の無さ。CSN&Yの「N」、グラハムナッシュがいたことで有名なホリーズだがよく言われがちな「ビートルズの二番煎じ」という「情報」に惑わされることなく見ていこうと思う。

とは言ってもホリーズにはあまり精通してなくて、正直アルバムも2枚しか持ってないのね。他はApple Musicで何度か聞いた程度!なので僕の「情報」にも惑わされぬように…

しかしその2枚が僕にクリーンヒットしおもいっきりノックアウトさせられたのだ。

その2枚が6枚目の「Evolution」と7枚目の「Butterfly」である。「Evolution」,「Butterfly」は共に67年発表でありサイケデリックブーム真っ只中で無数のバンドが試行錯誤を重ね様々な実験的音楽を生み出す中、ホリーズもその流れに乗り作り上げた素晴らしい2枚だ。

ミックジャガーだかキースリチャーズだかどっちが言ったか忘れてしまったが(ミックの気がする)

「ロックは進化も退化もしない。変化するだけだ。」みたいなことを言っている。

確かにロックは様々な姿に形を変えて現代まで変化してきたが、僕は70年代頭までは確実に進化の道筋を踏んでいると思っている。ロック誕生、ブリティッシュビートロックの誕生からフォークロック、サイケデリックロック、初期プログレッシブロックの流れは変化とは言えない緩やかな芸術的進化の流れが確かにある。サイケブームの始まりにはフォークロックの匂いが、サイケブームの終わりにはプログレの匂いが、プログレの頭にはサイケの匂いがしっかりと残っているのだ。

つまりサイケデリックロックはそれまでのロックより確実に芸術的に先に進んだロックであると思っている。アイデアやセンス、想像力と創造力がモノを言うサイケブームに我こそはとたくさんのバンドが現れた。1枚だけアルバムを残して消えていってるバンドも少なくない。

そういったサイケブーム到来をチャンスと捉えて自分の感性をぶつけ才気爆発させるニューカマーはいいとして、60年頭からキャリアをスタートさせてすでに人気を得ていたホリーズなどのロックバンドにとってはかなりのプレッシャーとなっただろうと想像できる。アイドルとしてエンターテイナーとして活躍していた彼らが、ここではっきりとクリエイター、芸術家としての真価を問われ、下手すりゃ化けの皮が剥がされるわけだ。

結果としてホリーズには力があった。めちゃくちゃあった。それを証明したのが67年「Evolution」と「Butterfly」である。

とはいえまずはそこへたどり着くまでの道のりを

ビートルズの二番煎じ」と評するのはさすがに極端だが、確かに似通う点は多々ある。

まずエヴァリーブラザーズとバディ・ホリーに影響を受けた点(バディホリーはホリーズというバンド名の由来でもある)。

デビューさせたプロデューサーはビートルズのプロデューサーのジョージマーティンの弟子であるロンリチャーズ。

デビュー時にドラムを交代している点。

そもそもビートルズ人気が爆発した当時のイギリスは「音楽バブル」のような状況で、第2のビートルズ探しに躍起になっていた。ホリーズのメンバーがどう思っていたかはわからないが、確実に周りの人間は目指せ第2のビートルズ!という意識のもと売り出そうとしていたのだろう。

そして64年にデビュー。デビューアルバム「Stay with The Hollies」は自作曲は1曲のみでほぼ全曲がチャックベリーやリトルリチャードのカバーである。まだブリティッシュビートにすらなっていないロックンロールのカバーバンドといった感じである。

同年2nd「IN THE HOLLIES STYLE」,65年の3rd「HOLLIES」では自作曲が増え、ブリティッシュビートサウンドに。この頃はまさに初期のビートルズといった感じだ。

66年4th「Would you believe?」ではビートロックが残りつつアコギや12弦ギターが増え始め、フォークロックが香り始める。ビートルズで言えばハードデイズナイトやヘルプといったところだろうか。

Would You Believe?

Would You Believe?

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同年5th「FOR CERTAIN BECAUSE...」では完全にビートロックの雰囲気はなくなりフォークロックと言える作品を作っている。ビートルズでいえばラバーソウルにあたるが、ホリーズはトニーヒックスがバンジョーを多用したり、メンバーの作曲能力も格段に上がり、独自のサウンドを作りあげた最初のアルバムだろう。このアルバムから結成からのメンバーであるエリックヘイドックに代わってバーニーカルバートがベーシストとして加入している。

個人的にはホリーズビートルズよりもブリティッシュサウンドだ!と感じる。癖が強すぎないアランクラークとグラハムナッシュの歌声も要因の1つだろうか。実質ホリーズも「ブリティッシュインヴェイジョン」の一員ではあるのだがアメリカでそこまで人気が伸びなかった。ブリティッシュすぎたんじゃないかと僕は思ってる。90年代のオアシス、ブラーを筆頭とするブリットポップ勢が持つ英国らしさに引き継がれて行ったのはビートルズはもちろんなんだけど、ホリーズキンクスの持つ英国らしさのような気がするのだ。

同年にリリースされたシングル「Bus Stop」は日本でも大ヒットし、以降彼らの代表曲となる。この曲の作曲はなんと後に10ccを結成するグレアムグールドマンである。

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ブリティッシュビートを卒業し、独自の音楽的追求(グラハムナッシュが推し進めた)を始めたホリーズが作り上げたサイケデリックアルバム67年「Evolution」。

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Side one

1.Then the Heartaches Begin(Clarke)
2.Stop Right There(Nash)
3.Water on the Brain(Clarke)
4.Lullaby to Tim(Nash)
5.Have You Ever Loved Somebody?(Clarke)
6.You Need Love(Clarke and Nash)
Side two
7.Rain on the Window(Clarke)
8.Heading for a Fall(Clarke)
9.Ye Olde Toffee Shoppe(Nash and Clarke)
10.When Your Light's Turned On(Clarke and Nash)
11.Leave Me(Clarke and Nash)
12.The Games We Play(Clarke and Nash)

*()はリードボーカル

いかにもサイケなこのジャケットはオランダ出身のアート集団「The Fool」によるものである。フールはビートルズが68年に設立した「アップルコア」という会社の5大事業(アップルレコードが有名)の内の1つである「アップルブティック」の専属デザイナーとしても有名。

フールは68年にアシッドフォークアルバムもリリースしておりそのプロデュースはEvolutionのジャケットでの繋がりもあってかグラハムナッシュが務めた。

※フールは他にもサイケロックバンドThe Move(後のElectric Light Orchestra)やアシッドフォークバンドIncredible String Bandのジャケットデザインも手がけ、他にもクラプトンのギターペイントやジョンレノンのロールスロイスのペイントなどサイケデリックムーブメントにおいて重要なデザイナーである。

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さぁビートルズでいうところ(ビートルズで言い過ぎ…逃れられない仕方ない…)の「リボルバー」にあたる極上サイケ名盤「Evolution」だが、前回紹介したバーズの「霧の8マイル」を彷彿させるギターフレーズから始まる1曲目「Then the Heartaches Begin」で幕を開ける。

とにかく全曲通してメロディセンスが抜群。

ポップ路線を志すアランクラークと音楽的追求を志すグラハムナッシュが噛み合わず後にナッシュの脱退となるのだが、このアルバムではこの2人が素晴らしいバランスを保っている。

ナッシュ作の2.「Stop Right There」ではブリティッシュらしさの暗面ともいえるどんよりとしつつ美しいメロディに不気味なストリングスを絡め、4.「Lullaby to Tim」は終始歌にトレモロをかけ続けるという斬新なアレンジ(Tommy James and the Shondellsの「クリムゾン&クローバー」を思い出す。)をしてみたり攻めまくるナッシュだが、クラークの曲にナッシュのアイデアが重なった曲こそが絶妙なサイケポップを生みだし、ホリーズにまとわりつくビートルズの影をかき消してくれる。

ドラムのボビーエリオットはこの時虫垂炎にかかり3曲しか叩いていない。サポートで数人のドラマーが参加しているがその内の1人がジミヘンが率いたバンド「The Jimi Hendrix Experience」のミッチミッチェルである。さらになんと、3.「Water on the Brain」でピアノを、6.「You Need Love」でハモンドオルガンをデビュー前のエルトンジョンが弾いている。

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SIDE1の6曲が特にオススメ。SIDE2は前作にあってもおかしくない曲がちらほらあるが、それでも粒ぞろい。

そして同じく67年「Butterfly」。

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Side one
1."Dear Eloise"
2."Away Away Away"
3."Maker"
4."Pegasus"
5."Would You Believe?"
6."Wishyouawish"

Side two
7."Postcard"
8."Charlie and Fred"
9."Try It"
10."Elevated Observations?"
11."Step Inside"
12."Butterfly"

エボリューションより更にグラハムナッシュがバンドを先導していく「Butterfly」は所謂「サージェント症候群(ビートルズのサージェントによる影響から作られたもの)」の代表作の1つと言えるだろう。ただこのサージェント症候群というのはアルバムの作り方というかアルバムという概念の捉え方そのものを習ったもので、決して似たような曲をやっているわけではない。その概念の1つとして「ライブで再現不可能であろうが音楽を追求する」というような試みがあり、症候群にかかったバンドは皆スタジオに篭りひたすら研究を重ねていった。

ホリーズのバタフライもメンバーの楽器、ギター、ベース、ドラム以外の音が多数散りばめられている。ピアノ、オルガン、ストリングスやオーケストラ、管楽器、民族楽器であるシタール、SE(効果音)など様々だ。

このアルバムでは前作よりもバンドサウンドを抑えて(主にギターを抑えて、リードギターと呼べるようなものは無いに等しい、ギター弾きが3人いるのに)、鍵盤楽器やストリングス、管楽器を全面に出したような曲構成の曲が多く、もはやソフトロック、ソフトサイケとも言えるようなアレンジである。素晴らしい。

そういえば初期のブリティッシュロックバンドは鍵盤弾きがメンバーにいるバンドっていないのね。ストーンズキンクスもフーも。(あ!しまったアニマルズがいたわ…もうこの話に信憑性ないけど続けよ…)

バンドはギター、ベース、ドラム!っていうのが当たり前で、鍵盤やストリングスは裏方の仕事、という認識があったのだろう。しかし恐らくこのサージェント症候群付近での「裏方」の躍進ぶりが半端じゃなくて、その重要性を感じたピンクフロイドやプロコルハルム、ディープパープルなどは鍵盤をメンバーに、ELOなんかはチェロとバイオリンをメンバーに入れてデビューしている。

このアレンジがモノを言うサイケブームの本当の戦いは裏方同士で行われていたのかもしれない、とすら思う。そう思うとホリーズのプロデューサーであるロンリチャーズは偉大だ。師匠であるジョージマーティンに引けをとらない仕事をしたと言える。

とはいえ裏方が凄腕でも曲がよくなければ元も子もないので、これだけの名曲を作ったホリーズの面々はやはりすごい。

シングルカットもされた1曲目の「Dear Eloise」はビートルズの「ルーシインザスカイ」を彷彿とさせる3拍子パートと4拍子パートの行ったり来たりが見事なキラーチューン。5.「Would You Blieve?」のような壮大さを持ったサイケ曲や8.「Charlie and Fred」のような力強いハーモニーを響かせる曲まで聞いていて飽きないアルバム。3曲目ではしっかりシタールを使ってラーガロックを披露している。

しかしセールスには繋がらず、同時期にリリースしたシングル「King Midas」も大衆に受け入れられなかったことにグラハムナッシュは落胆。更に次回作はボブディランのカバーをしようというバンドの方針に難色を示したナッシュはホリーズを去り、CS&Nを結成する。(69年リリースの「Hollies Sing Dylan」はイギリスで3位を記録。僕は全然いいと思わない。)

ナッシュが去りポップ志向真っしぐらのホリーズはその後83年まで10数枚のアルバムをリリースするが、うーん……

いや!ナッシュがいないからという先入観で否定的になってるだけだ!先入観をとっぱらってフラットな気持ちで聞いてみよう……うーん…良くないなぁ…(ホリーズファンの方ごめんなさい。)

まぁこれは好みの問題なので。ホリーズのこんなにも素晴らしいサイケ期が嫌だという人もいるくらいなので。

この流れでサージェント症候群の名盤を紹介したいとこだが、とりあえずここまで!

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次回はCSN&YのSとN、スティーブンスティルスとニールヤングがいたBuffalo Springfield

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