ケンジロニウスの再生

ロック史を追いながら関連図を作成(関連図挫折中)

5-2 Pentangle〜革新の五芒星〜

 

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(ペンタングル)

5章はブリティッシュフォークロック!

2章で少しジョーボイド関連で触れたブリティッシュフォークの図から続いていきます。

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前回言ったように、無伴奏で歌っていたトラッド歌手シャーリーコリンズとギタリストのディヴィグレアムが64年にコラボレートした「Folk Roots New Routes」によってブリティッシュフォークの革新が起こるわけなんだけど、このディヴィグレアムについて少し(僕もそんなには知らぬ)。

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デイヴィ・グレアム

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無伴奏で歌うというのがブリティッシュトラッドフォークの本来の姿であるので、純粋なトラッドギタリストなんてものはもちろん存在しない。スキッフルの影響でギターを始めたデイヴィグレアムはアコースティックギター1本でインストゥルメンタル曲を演奏するギタリストであり(たまーに歌う)、ジャズやブルースを好んで演奏していた。

62年デビューEP「3/4 AD」では「Anji」というアコースティックギターインストの代表曲となる曲を発表(バートヤンシュやポールサイモンなど多数のギタリストがカバーしているギターインストの名曲)し、EPのタイトルとなっている「3/4 AD」では《ブリティッシュブルースの父》と呼ばれるアレクシス・コーナーと共演した。

3/4 A.D. EP

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※アレクシスコーナーは61年にブルース・インコーポレイテッドというバンドを結成するが、そのバンドに多数の若手ミュージシャンを入れ替わり立ち替わり加入させ育てたことが《ブリティッシュブルースの父》と呼ばれる所以であり、その中にはクリームのジャックブルースストーンズチャーリーワッツブライアンジョーンズ、そしてペンタングルのニートンプソンテリーコックスらがいた。

63年1stアルバム「The Guiter Player」ではジャズを中心に演奏。

64年2nd「Folk,Blues&Beyond」ではジャズに加えてボブディラン(アメリカンフォーク)やブルースのカバー、そしてイギリス民謡をギターで演奏し、さらに同年にシャーリーコリンズとのコラボレイトを果たし、無伴奏で歌うのが常識であったブリティッシュフォークにギターを参入させ、伝統を重んじるブリティッシュフォークを革新の道へ乗せた。

このことからイギリスのフォークリバイバルにおいて最も重要な人物の1人に挙げられるが、彼の最も有名な偉業はドガドチューニングを発明したことだろう。ダドガドチューニングとはギターのチューニングを6弦から順にDADGADと変則にチューニング(本来はEADGBE)することによって開放弦を使ったドローン効果を発揮できるチューニングで、今となっては割とポピュラーなギター変則チューニングであるが、これの発案者がデイヴィグレアムである。

ブリティッシュフォークリバイバルのみならず多数の後続のギタリストに多大な影響を与えたデイヴィグレアムであるがその近々の影響下にいたのが67年にペンタングルを結成するバート・ヤンシュジョン・レンボーンであった。

バート・ヤンシュとジョン・レンボーン

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ドノヴァンが「Bert's Blues」と「House of Jansch」という2曲を友人のバートヤンシュに捧げた。という話はドノヴァンの回で書いたが、バート・ヤンシュはドノヴァンと同じくスコットランド人であり1943年にグラスゴーに生まれエディンバラで育った。

10代の頃にギターを始め、『the Howff』というフォーククラブに通い始める。そこでスコティッシュフォークシンガーのアーチー・フィッシャーに出会い、アメリカンブルースの巨匠ビッグ・ビル・ブルーンジーアメリカンフォークリバイバリストのピート・シーガーウディガスリーを教わる。

後にインクレディブルストリングバンドを結成するロビン・ウィリアムスともこの時期に出会い、一時期ルームメイトであったそう。

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バートは63年にはロンドンに移り住み、そこで

ジョンレンボーンやデイヴィグレアム、ロイハーパー、ポールサイモンらの革新的なアコースティックギタリストと出会う。

65年に1stアルバム「Bert Jansch」、2nd「It Don't Bother Me」をリリース。ブルース、アメリカンフォーク、トラッドフォークを弾き語る姿はしばしば《英国のボブディラン(ドノヴァンと同じだ)》と称されることもあったが彼の持ち味はデイヴィグレアムと同じくインストゥルメンタルのギタープレイにある。

66年3rd「Jack Orion」はほとんどがトラディショナルソングで構成された正真正銘のブリティッシュフォークアルバムであると言えるものとなった。

Jack Orion [12 inch Analog]

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バートヤンシュのルーツはブルースやアメリカンフォークであったが彼をブリティッシュフォークの道に導いたのはアン・ブリックスの存在が大きいだろう。アンブリックスもまたブリティッシュフォークにおいて重要な歌姫であるが、アンがスコットランドエディンバラヒッチハイクで訪れた際バートと知り合い、以後親交が続いた。バートとアンはよく兄妹に間違われたらしい。そのアンに「Jack Orion」収録のバートの代表曲となる「Black water side」などのトラッドフォークを教わった。

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ちなみにジミーペイジはバートヤンシュのファンであり、ツェッペリンの1stで「Black water side」のギターをそのまま借りて「Black Mountain Side」という曲をレコーディングしている。ペイジもフォークリバイバルにかなり影響を受けており、ツェッペリンをロックバンドにするかフォークバンドにするか結成時に悩んだほどであるらしい。

66年にはジョンレンボーンとの共作アルバム「Bert And John」をリリース。ジョンレンボーンもバートと同じく65年にソロキャリアをスタートさせており、ロンドンでのバートのルームメイトでもあった。

2人のアコースティックギターの交わりはよく《フォークバロック》と称されている。この後のペンタングルでも2人の素晴らしいギターはもちろん聴けるが、アコギ2本だけでの掛け合いを聞けるこの作品は貴重である。ジョンレンボーンもデイヴィグレアムの影響とフォークリバイバルの流れの中に出てきたギタリストであるが、古楽に傾倒していたのが特徴としてよく語られる。

 

バートとジョンの2人にジョンとすでにデュエットを組んでいたトラッド歌手のジャッキー・マクシーが参加。そこにアレクシス・コーナーのバンドであるブルース・インコーポレイテッドにてダブルベースを弾いていたダニー・トンプソンとドラムのテリーコックスが参加して67年にPentangle(ペンタングル)が結成された。

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5-2 Pentangle〜革新の五芒星〜

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トラッド歌手のジャッキーマクシー、ブルースとフォークのバートヤンシュ、古楽のジョンレンボーン、ジャズのダニートンプソンとテリーコックス、というそれぞれの個性がぶつかり合う超革新派のブリティッシュフォークバンドが誕生。ほんとに五芒星という意のバンド名がしっくりくる別の星の5人が集まって生み出す化学反応を楽しめる。

ペンタングルはフェアポートコンベンションと共にブリティッシュフォークロックの代表的なバンドであるが、ジョンレンボーンは《フォークロック》とカテゴライズされることに異を唱えていて、彼の言う通り62年ビートルズによる《ロック》誕生以降のニュアンスは全く取り入れていない。楽器も結成当初は電気類を一切使わないアコースティックのみである。ジャンル分けするなら《ジャズフォーク》と言ったところだろうか。

個人的な見解では、やはりトラッドフォークは無伴奏が本来の姿であるので歌さえトラッドであればそのバックのインストゥルメンタルはどんな形であれブリティッシュフォークと呼べると思っていて、その融合の自由度がこのブリティッシュフォークロックというジャンルの面白さであり、70年代にはプログレフォークなるものが誕生していくことに繋がっていくんじゃないかと思っている。まぁ言ってみれば歌がトラッドであるなら《メタルフォーク》や《ノイズフォーク》みたいなものも生まれてもいいってことで(多分探せばある)。

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68年にアルバム「Pentangle」にてデビュー。

トラディショナルソングとオリジナルソングをほぼ半々ずつで構成されている。この半々のスタイルは3rdアルバムまで続くが、トラディショナルソングも洗練されたアレンジによってオリジナルに聞こえるし、オリジナルソングもトラッドが持つ神聖さをしっかりと備えていて、正直クレジットを見ないとどれがトラッドでどれがオリジナルかわからない。それくらいトラッドとオリジナルが上手く溶け合った絶妙なブリティッシュフォークである。

The Pentangle [Analog]

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同年2枚組アルバムの2nd「Sweet Child」をリリース。

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Disc1がロイヤルフェスティバルホールでのライブ音源、Disc2がスタジオ音源という2枚組。

スタジオ音源とライブ音源を抱き合わせてリリースするなら、普通はDisc1がスタジオ音源だと思うんだけどこの「Sweet Child」は逆。ライブ音源こそがメインだと言わんばかりのこの2ndアルバムだがまさにそうで、このライブ音源12曲は1stのラストに収録された「Bruton Town」1曲以外スタジオ音源は存在していない(後にCD化された際にスタジオ版がボーナストラックとして公開されたものもある)。

バンドとしてはデビュー間もないとはいえメンバーそれぞれが結成前からすでにプロとしてのキャリアを積んでいるのでライブのクオリティは流石。

僕のペンタングルとのファーストコンタクトはYoutubeで見たライブ映像(2ndのライブ音源の時のとは違うが…)であり、ただ1点を見つめて微動だにせず椅子に座り、太古から語り継がれたトラッドを歌うジャッキーマクシー、ダブルベースを弓で弾くダニートンプソンとドラムを叩きながらグロッケンも叩くトニーコックスのジャズリズム隊、その土台の上で左右に分かれて座ってアコースティックギターを弾き散らし合うバートヤンシュとジョンレンボーン、その5人がまさに《五芒星》の形に陣取ったステージはとても神秘的で美しく、なおかつロックでないのにロックより熱を持ったものだった。それからCDを入手してペンタングルにハマっていったわけなんだけど、スタジオアルバムももちろん素晴らしいが、やはりペンタングルはライブバンドだと思っている。てなわけで最初に買ったペンタングルのアルバムでもあるこの2ndはお気に入り。

Disc1,11曲目「The Time Has Come」はアン・ブリッグズ作曲である。

69年の3rd「Basket of Light」

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このアルバムは商業的にも成功し、全英5位を記録する。シングルとしてリリースされTVドラマの主題歌にもなった1曲目「Light Flight」は「Take5」を彷彿させるジャズナンバーで、5拍子と7拍子という変拍子で展開していくクールな曲であり、以後彼らの代表曲となった。

1st,2ndでジャズフォークスタイルを確立したペンタングルはそのスタイルを維持しつつもこのアルバムではさらに新たなニュアンスを取り込みトラッドフォークの革新を進めて行く。

B面1曲目「Hunting Song」はテリーコックスのグロッケンが全編に渡って美しく不気味に鳴り響き、B面2曲目「Sally Go 'Round the Roses」はR&Bのカバー、B面ラスト「The House Carpenter」はバートがバンジョーを、ジョンがシタールを弾く《ラーガフォーク》と呼べる名曲。前作まではジャッキーマクシーのトラッドとダニーとテリーのジャズセクションという基盤の上でバートとジョンの2人のアコギによる様々なアプローチで彩りを足していく面白さがあったが、このアルバムでは基盤はジャッキーマクシーのトラッドな歌のみで男4人が様々なアプローチを仕掛けるって感じ。なのでジャズの枠を飛び出る瞬間も多々あるんだけど、それでもペンタングルらしさみたいなものは全くブレないから凄い。

さらなる変化としては前作まででもバート、ジョン、テリーの3人がバッキングボーカルとして歌うことがあったが、今作からリードボーカルを取る場面も多く見られるようになる。紅一点ボーカルのフォークバンドから男女混成フォークバンドというスタイルに移り始めたのもこのアルバムの特徴だろう。恐らく一般的に1番おすすめされてるのはこのアルバム。

Basket of Light -Hq- [Analog]

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  • アーティスト:Pentangle
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70年4th「Cruel Sister」

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ここまでトラディショナルソングとオリジナルを半々くらいのバランスでやってきたペンタングルだがここにきてこの4thは全てトラディショナル。がしかし、僕は今までで1番《フォークロック》なアルバムだと思っている。

まず〝ノー電気〟という暗黙のルールを破り、ジョンレンボーンが禁断のエレクトリックギターを導入したことは大きいだろう。さらにジャズ要素がかなりなくなった。このアルバムで《ジャズフォーク》バンドが《フォークロック》バンドになったと言ってもいいだろう。バートとジョンのアコギ2本の掛け合いの出番も減って、片方がアコギ、もう片方がダルシマーコンサティーナシタールといった楽器を互いに弾いているのも特徴。

1曲目「A Maid That's Deep In Love」ではドラムレスのアコギのコードストロークが主体の美しい曲であるが、このコードストロークを弾いてることがまず珍しいことである。バートによるダルシマーも印象的。

2曲目「When I Was In My Prime」はジャッキーマクシーの独唱であり完全なる無伴奏トラッド。原点回帰といった感じだが、このアルバムに差し込まれると、なんていうか《フォークロック》の中での一幕と感じれる。

3曲目「Lord Franklin」はジョンレンボーンの弾き語りにバートによるコンサティーナアコーディオン系の蛇腹楽器)とジャッキーマクシーのバッキングボーカルが美しく響く曲。そこに重ねたジョンレンボーンのエレキギターも秀逸。

4曲目タイトル曲「Cruel Sister」は物悲しく美しい雰囲気漂う曲、ってかトラッドは基本物悲しく美しいんだけど。特にって感じ。

バートのアコギアルペジオにテリーコックスのダルシトーン(鍵盤楽器なんだけど鉄琴のような音)が響き、背景でジョンのシタールが鳴っている。ドラムはこの曲がやっとこのアルバムで初登場であるが、ティンパニー的にタムを叩いている程度。

以上4曲がA面で、ほぼドラムレスと言ってもいい作りであり前作までに比べて静かでおとなしい印象だが、前作までより明らかに《ロック》が滲みでてる面白さ。

B面は「Jack Orion」1曲のみという構成。「Jack Orion」はバートヤンシュが66年のソロアルバムでタイトルにしたトラディショナルソングであるが、それを19分近くに及ぶアレンジに仕上げた。バート、ジョン、ジャッキーの3人の歌の交わり、中盤パートでのバートとジョンのリコーダーによるハモり、ダニートンプソンの弓で弾くダブルベースの不気味な響き、ジョンのエレキギターソロ、テリーのダルシトーンソロなど聞きどころ満載。後半の盛り上がり時のドラムは明らかにロックドラムと呼べるものであるだろう。

音楽的変化が見られ、やっとはっきりと《ブリティッシュフォークロック》と呼べる4thであるが、やはり《トラッド》という大いなる核があるので禁断のエレキギターを導入してもブレたとは思わないんだよなー。

Cruel Sister [Analog]

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71年5th「Reflection」、72年6th「Solomon's Seal」でペンタングルは解散するんだけど、この2枚恥ずかしながら持ってないのよね。Apple MusicとYoutubeで軽く聞いたけど、70年代に突入してもやっぱりペンタングルはペンタングルだった。70年代に入るとなんか嫌な感じに変わってしまうバンドたくさんいるんだけど、ブリティッシュフォーク界隈は安心。例えば70年の伝説の一枚だけで姿を消したバシュティバニヤンが2005年にいきなりアルバムリリースして、あいも変わらず美しいフォークを歌ってくれたり。

82年ごろに再結成して、85年にアルバムリリースしてからメンバー入れ替わりながらコンスタントにアルバムをリリースしている。

95年にはオリジナルメンバーがジャッキーマクシーのみになり以降Jacqui McShee's Pentangleとして現在まで活動している。この辺もまたゆっくり聞いていこうと思っております!

その他の活動で言えばバートヤンシュ、ジョンレンボーンの2人はペンタングル結成前から始めていたソロ活動をペンタングル在籍中を含めて生涯通して続けた。この偉大なギタリストのソロ作品群はギタリストなら聞いておくべし!2011年にバートヤンシュが死去、2015年にジョンレンボーンが死去。

以上!

最後に、バートヤンシュとの関わりで出てきたアンブリックスなんだけど、64年にデビューEPをリリースしたがアルバムをリリースしたのは71年になってからである。この71年にリリースされた2枚のアルバム「Anne Briggs」と「The Time Has Come」がとにかくいいので一応おすすめして終わります!

ブリティッシュフォーク界隈は今んとここんな感じ!

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