5-4 Tudor Lodge〜3種の神器(1)〜
ロック探検
僕にとってのロック探検の最初の地図となったのは前にも言ったがクロスビートかロッキンオンかどちらかの《年代別名盤100枚》的な特集で、60's,70's,80's,90's,00'sと5つの年代でそれぞれ100枚、計500枚の名盤が紹介された本であった。高校生の頃であるので2005年くらい発刊だろうか。僕は特に60's、70'sに惹かれて200枚の内のほとんどを入手した(この特集に載っていたものはタワレコやブックオフなんかで大体は手に入る)。
若き日の僕の探索方法はこれら音楽誌や入手したCDのライナーノーツからの派生、及び友人との情報交換だったんだけど、20代前半にスマートフォンを手にして劇的に世界が広がることなる。インターネットの到来である。というのも高校時代から携帯電話は持っていたし、家にパソコンはあったが、インターネットというものをちゃんと利用しだしたのはスマホを持ってからであった(ガラケー時代も懐かしきmixiのロック系コミュニティで少しの情報は入手していたけど)。言ってもインターネット能力は全く高くはないので情報入手先は限られているんだけど、特によく利用させてもらったサイトやブログを軽く紹介しておこう。
まずまさに今僕が書いてるような音楽紹介ブログ系。無数にあるんだろうけど、その中でもアーティスト名やバンド名アルバム名を入れて検索をかけると度々出てくるブログが2つあった。
『サイケデリック漂流記』
と
『ロック好きの行き着く先は…』
というブログで
『サイケデリック漂流記』はその名の通りサイケやアシッドフォーク周辺のマニアックなブログであり、『ロック好きの行き着く先は…』は60's,70'sを中心に何千枚ものアルバムをレビューしている化け物ブログである。調べてみたところ、どちらも2005年に開設しており、『サイケデリック漂流記』は去年2018年を最後に更新が止まっていたが、『ロック好きの行き着く先は…』の方は今もほぼ毎日、2日に1枚くらいのペースでレビューを書き続けている。たまげた。いったい何歳くらいの方で何をしてるどんな方なのか気になるところだが、正直知識も愛情も到底太刀打ちできない。勝てるわけもないしなぞったって仕方ないから僕なんかは《図で繋げていく》というテーマを1つ乗っけて書いてるんだけど。ちなみに『ロック好きの〜』はなんと嬉しいことにツイッターアカウントも存在していたので気になった人は要チェック。
あとはオンラインレコードショップ系のサイト。主に『ディスクユニオン』と『カケハシレコード』。
まずディスクユニオンなんだけど、東京の人にとっては当たり前の中古レコードショップかも知れないが、我ら関西人からするとこれだけマニアックなところまで行き届いているチェーン中古レコード店は驚愕(最近ついに大阪にできたね!しかし行けてない!)。サイトでのレビューや特集なども丁寧で素晴らしい。
カケハシレコードは通販専門のレコードショップ。埼玉に会社があって数人で運営してるんだけど、めちゃくちゃマニアックで、ロック系レコードショップでは日本一なんじゃないかと思う。webマガジンとかレビューみてると未だに聞いたことないバンド名がバンバン飛び出し、「〇〇が好きならこんなのもあります」的な特集にはかなり世話になった。しかし情報だけ仕入れてカケハシレコードで買わずAmazonで買っちゃっていて、ほんとに申し訳ない。いつか必ず還元したい。
あと『Youtube』。基本的には上記のブログやサイトで情報入手→Youtubeで試聴→Amazonで購入、が僕のパターンだったんだけど、一時期Youtubeで情報入手している時期があった。忘れもしない〝buleriver571〟というアップローダーがいて、60年代後半〜70年代前半のサイケ、アートロック、プログレ、プログレフォーク、アシッドフォーク系なんかを大量にアップロードしており、その全てがマニアックで素晴らしい音楽でそこからかなり情報を仕入れた。恐らくは海外の人であるのだろうが、ある日忽然とアカウントが消えた時はかなりのショックだった。
とまぁそんな感じでインターネットによって僕のロック探検は無限に続く迷宮に足を踏み入れたわけなんだけど、すぐさま《ブリティッシュフォーク三種の神器》と言われる3枚のアルバムに出会うことになる(よく《ブリティッシュフォーク三美神》ともも言われている)。
この英フォーク三種の神器は〝マニアックのド定番〟というなんとも矛盾した言葉がしっくりくるような、何というか迷宮の入り口にデカデカと飾ってあるような3枚なんだけど、3枚とも70年代前半の女性ボーカルの英プログレフォークバンドのアルバムであり、CD化される前は入手困難な激レアレコードであったことが共通点としてあげられる。
Tudor Lodge の1st,Mellow Candleの1st,Spirogiraの3rdが《三種の神器》と呼ばれる3枚なんだけど、海外wikiを見てみてもそれぞれの関連性について言及していないことから《ブリティッシュフォーク三種の神器》って括りは日本人が作ったんじゃないかな。
なわけで〝激レアで手に入らないマニアックな英フォークロック〟として有名になりすぎてもはや全くマニアックと言えなくなった《ブリティッシュフォーク三種の神器》を見ていこうと思う。70年前半は本当に様々な種類の音楽が生まれた時期で、独自性をもったバンドが山ほどいるんだけど、そんな一癖も二癖もあるやつらを多数抱えていたヴァーティゴレコードから71年にデビューしたTudor Lodgeから。Tudor Lodgeはペンタングルとフェアポートとも関わりがあるので前回の続きということで!
Tuder Lodge〜3種の神器(1)〜
《ブリティッシュフォーク三種の神器》の3バンドはプログレフォークと分類されることが多いんだけど、そこまでプログレッシブロック的な側面があるかというとそうでもなくて、特に3バンドの中でもこのチューダーロッジは穏やかで優しい英国フォークロックバンドである。聞きやすいしきっと聴けばみんな気にいると思う。
英国の田園風景が浮かび上がるような牧歌的雰囲気を持ったTudor Lodgeはジョン・スタナードとリンドン・グリーンの男性フォークデュオにアメリカ生まれのアン・スチュアートが加わった男2人女1人の3人組である。3人ともがアコースティックギターと歌をプレイするというフォークグループであるのでロック要素は少なくて当然(アンはピアノとフルートも担当)。
71年にヴァーティゴレコードから「Tudor Lodge」でデビュー。
この6面開きの変則ジャケットが特徴のコレクター魂を刺激されるレコードであるが、オリジナル盤はいくらの値がついてるのか見当もつかない。しかし今ではCD化され、6面開きを再現した紙ジャケ盤まで出たり、さらにはアナログ盤も再発(しかしこれですらAmazonで2万くらいする)されたりでこのアルバムの音源自体は今日では簡単に入手できる。
僕が持ってるのは90年代の再発CDで歌詞カードもちゃんとこの6面開きであるんだけど、裏の文章はハングル文字なのに日本語の帯とライナーノーツついてるしでめちゃくちゃなのよね…
メンバー3人のアコースティックギターと癖のない美しい混声コーラスにアン・スチュアートのフルート、そしてサポートミュージシャンによる、ファゴット、クラリネット、オーボエ、ホルンなどの管楽器とバイオリン、ビオラ、チェロといったストリングスが見事に彩りどこか中世的なニュアンスを持ったブリティッシュフォークを聴くことができる。さらにサポートとしてベースにダニートンプソン、ドラムにテリーコックスがペンタングルから参加している。
ブリティッシュフォークリバイバル、ブリティッシュフォークロックはトラディショナルに寄り添い伝統を重んじる保守的な側面(もちろんいい意味で)を強く持っていることは前回までに言ったが、トラディショナルソングのニュアンスをしっかりと含んだ新たなオリジナルソング、言わば《コンテンポラリー・トラッド(激矛盾ワード)》を作り出し歌うミュージシャンもこの時期多数生まれている。ヴァシュティバニヤンなどがその代表例であるが、チューダーロッジもその類のバンドであり、生粋のトラディストではないがトラッドが持つ神秘性と伝統感をしっかり封入した本当に〝英国らしい〟音楽を届けてくれる。
A面1曲目「It's All Comes Back To Me」を始めまさに名曲だらけのアルバムでありこれは《三種の神器》の3枚全てに言えることであるが、決して〝レア〟なだけで有名なアルバムではない。しかし〝レア〟であるということは即ち市場に出回った枚数が少ないということで、つまりリリース当時はほとんど話題にならず売れなかった。
リリース直後すぐにアン・スチュアートが脱退。アンはその後カーヴド・エアの72年3rdアルバムにフルートでゲスト参加している。
チューダーロッジにはアンの後任としてリンダ・ピーターズが加入し、72年にオランダツアーとイギリスにて数回のライブを行った後、リンダが脱退しチューダーロッジは解散。
リンダ・ピーターズはその後フェアポートコンベンションのリチャード・トンプソンと結婚し、リチャード&リンダトンプソンとして成功する。
このリンダピーターズが参加していた72年の頃の音源は97年にリリースされたコンピレーションアルバム「It All Comes Back」にて少し聴くことができる。
チューダーロッジ再結成?
80年にオリジナルメンバーで再結成するが、すぐにアンが脱退しリン・ホワイトランドが加入。85年にはリンドン・グリーンがオーストラリアに移住し、チューダーロッジはジョン・スタナードとリン・ホワイトランドのデュオとなる。しばらく目立った活動はなかったが、97年に26年ぶりとなる2ndアルバム「Let's Talk」をリリース。それから現在まで2人はちょくちょくアルバムをリリースし活動を続けているが、やはりメンバー構成が原型をとどめていないためオリジナルのチューダーロッジとは別物として捉えるべきだろう。
ちなみにApple Musicにはこの97年以降のアルバムはあるが、大事な71年「Tudor Lodge」がない。いまや僕の所有している大体のアルバムはストリーミングで聴けるんだけど、聴けないアルバムがあるとやっぱりちょっと嬉しい(Spotifyにはあるかもしらんけど)。
まぁYouTubeにも音源あがってるし、CDも普通に手に入るので是非!
最後にせっかく名前が出たのでアン・スチュアートがゲスト参加したカーヴド・エアからの繋がりも。
Curved Air(カーヴド・エア)はソーニャ・クリスティーナという歌姫とバイオリンをフィーチャーした音楽性が特徴のプログレッシブロックバンドであるが、後にポリスを結成するハイハットの魔術師スチュアート・コープランドが在籍していたことでも有名である。
他にもロキシーミュージックやU.Kに加入するバイオリンのエディ・ジョブソン、キャラバンに加入するベーシストのマイク・ウェッジウッドなんかも在籍していた。
終わり!