ケンジロニウスの再生

ロック史を追いながら関連図を作成(関連図挫折中)

9-1 イカれたテキサス・サイケ〜The 13th Floor ElevatorsとThe Red Crayola〜(第52話)

USサイケは7章8章でサンフランシスコからロサンゼルスと進んできたが、9章では「その他のUSサイケ」と大きく括って進めていきます。

 

USサイケの最重要バンドの一つと考えられているThe 13th Floor Elevatorsは避けれないなぁ、ってことでまずはテキサスサイケへ!とはいえこの辺は全く掘り進めてなくて、The 13th Floor Elevatorsもそこまでハマったわけでもないし…

なのでThe 13th Floor Elevators、そしてもう1組重要なテキサスサイケバンドThe Red Crayolaとその中心人物メイヨ・トンプソンのソロ作、その辺りを(ってかそれくらいしか知らぬ)!

 

9-1 イカれたテキサス・サイケ〜The 13th Floor ElevatorsとThe Red Crayola〜(第52話)

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USサイケ最重要バンド13thフロアエレベーターズ。何が重要かと言うと彼らの66年1st「The Psychedelic Sounds of the 13th Floor Elevatorsが〝サイケデリック〟という言葉をロックに持ち込んだ最初のアルバムと言われている。このアルバム以前にもビートルズリボルバーバーズ〝霧の8マイル〟などのサイケデリックロックは存在していたが、それらは発売当時《サイケデリックロック》と呼ばれていたわけではなく、後にそう分類されたというわけだ。んなわけでサイケデリックロックというジャンルを作り出したとも言える13thフロアエレベーターズを。

 

The 13th Floor Elevators

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65年にテキサス州オースティンでロッキー・エリクソン(ギターボーカル)、ステイシー・サザーランドリードギター)、トミー・ホール(エレクトリックジャグ)を中心に結成。西洋で不吉と言われる〝13〟という数字を冠したバンド名だが、アルファベットの13番目が〝M〟でありマリファナの頭文字であることが関係しているらしい。

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66年頭にデビューシングル〝You're Gonna Miss Me〟をリリースしオースティンを中心にテキサス州で話題になる。数ヶ月後テキサス州ヒューストンのインディレーベルであるインターナショナル・アーティスツ・レーベルはこのシングルを再発し、これがビルボード55位のヒットとなる。この曲はかの有名な72年のガレージロックコンピ『Nuggets』にも収録され後のパンクロックの生成にも大きく貢献した。

 

66年11月にインターナショナル・アーティスツ・レーベルから1stアルバム「The Psychedelic Sounds of the 13th Floor Elevatorsをリリース。

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このいかにもな目玉のジャケットがあまりにも有名な13thフロアエレベーターズのデビュー作。LPのスリーヴにはトミー・ホールによるLSDを賞賛する文章が書かれ、タイトルと共にサイケデリックロックを象徴する1枚となった。ガレージロックを基盤としながら深いリバーブやエコーを駆使したギターの音色とトミー・ホールによるエレクトリックジャグが強く特徴的で、西海岸にも衝撃は広がりグレイトフルデッドらシスコサイケ勢にも強い影響を与えた。さらにロッキーエリクソンの叫ぶような歌い方はジャニス・ジョプリンにも影響を与えたと言われていて、テキサス出身のジャニスはサンフランシスコに移る前に13thフロアと接点があったと思われる。

ヒットシングル〝You're Gonna Miss Me〟から始まるこのアルバムは国内に限らず国外にも強い影響を与えていて、2曲目のRoller Coasterのギターリフは明らかにピンクフロイド1st「夜明けの口笛吹き」の〝Lucifer Sam〟に影響を与えている。

ガレージロックはなぁ…と僕は13thフロアエレベーターズと割と距離をとっていたんだけど、改めて聞いてみるとエリクソンの荒々しくもどこか弱々しい歌やサザーランドの記憶よりも歪んでいないギターに驚いている。〝You're Gonna Miss Me〟こそザ・ガレージ!っといった雰囲気だが、全体的には繊細なサイケデリアだ。

しかしやはりこのバンドの1番の特徴はLSD狂いのトミー・ホールによる〈とぅくとぅくとぅくとぅく〉言ってるエレクトリックジャグだろう。ジャグとはジャグ・バンドのジャグであり、ウイスキーを貯蔵する瓶などに息を吹きこんで音を鳴らす楽器である。

※ジャグバンドとは20世紀初頭にアメリカ南部で流行った身の回りのものを使って演奏するバンド形態のことであり、ジャグの他に洗濯板やノコギリなんかも楽器に見立てて使われた。

トミーホールはジャグをホーン楽器としてではなくマイクを通すことで〈とぅくとぅくとぅくとぅく〉とパーカッション的で効果音的な使用法で13thフロアエレベーターズの楽曲に組み込んだ。

初めて聞いた時は衝撃的で興味が湧いたが、アルバム通して聴くと正直飽きるしやかましい…13thフロアが後続のサイケバンドに与えた影響は大きいのに対して、同じようにエレクトリックジャグを使用したバンドはいなくて、まぁ、そうゆうことだ。とはいえ斬新なサイケデリック表現は唯一無二で、そのアイデアには賞賛を送りたいけどね。

67年には2nd「Easter Everywhere」をリリース。

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バンドの絶頂期のアルバムであり、1stほどの衝撃はないにせよ方向性は同じで完成度の高いアルバムである。ディランの〝it's all over now baby blue〟のへろへろなカバーも収録。

それにしてもビートルズやバーズのサイケの影響下にいない独自のサイケデリアを作り上げていることに驚きを隠せない。シスコサイケ勢は彼らの影響が1番強いのが見てとれるし、LAサイケ勢はビートルズ、バーズ、ドアーズ、13thフロアの良いところを混ぜ合わせて昇華したような感じか。やはりサイケの土台を支えたバンドの一つとしてもう少し評価しないとなぁ、と思わされる。

13thフロアの人気は高まっていたが68年になると薬漬けのトミーホールとロッキーエリクソンが機能しなくなり、バンドは停滞する。3rdアルバムとなった「Live!」は過去のデモやアウトテイクに客の歓声や拍手を足した擬似ライブ盤になった。

69年、唯一正常なオリジナルメンバーとなってしまったサザーランドによる楽曲と過去のアウトテイクでなんとか作られた4th「Bull of the Woods」を最後に早くも解散となる。このラストアルバムがフォークロック的要素も垣間見えて13thフロアっぽくはないが意外に良いのね。

以上!

The Red Crayola

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13thフロアと並んでテキサスサイケの代表的なバンド、レッド・クレイオラメイヨ・トンプソン率いるサイケな3人組であり、66年にテキサス州ヒューストンにて結成。バンド名は『赤いクレヨン』の意である。エクスペリメンタルロックやアヴァンギャルドにも分類されるが《カオス》という言葉が1番しっくりくるイカれたバンドだ。

67年に13thフロアと同じくヒューストンのインディレーベル、インターナショナル・アーティスツから1stアルバム「The Parable of Arable Land」でデビュー。

Parable of Arable Land

Parable of Arable Land

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もうジャケットから十分カオス具合が伝わると思うが内容はもっと凄まじいことになっている。

やはりこのアルバムの特徴は〝Free form freak-out〟という曲にあるだろう。この曲はThe Familiar Uglyと名付けられた50人の友人(ミュージシャンかどうかも不明)が様々な楽器を自由に演奏したり叫び声を上げたものを録音したフリーノイズ曲である。これがNo.1〜No.6まで6曲あり、曲順で言うと1,3,5,7,9,11曲目と一曲置きに配置されている。

正直この【フリークアウト】という言葉があまり把握できてなくて、和訳すると【パニックになる】、スラングとして【麻薬体験、幻覚体験をする】になるようだが、音楽において【フリークアウト】は稀にジャンルのような使われ方をする時がある。麻薬体験、幻覚体験の音楽となると《サイケデリック》と同じだ。けどフリークアウトはもっと滅茶苦茶だ。フランク・ザッパの66年1st「フリーク・アウト!」がやはりそれを代表するものになるんだろうが中々掴めず調べているとこんな文章と出会った。

『フリークアウトとは馬鹿げたことを真面目にやること』

ん、それって《前衛音楽》じゃん、って言ったら前衛音楽家に怒られるか。

未だにはっきりとした定義は見つからないが、幻覚体験を音化した《サイケデリック》よりも〝最中〟といった印象であり、《前衛音楽》よりも〝悪ふざけ〟感が強いものとして僕は捉えている。

そんなフリークアウトサイケな〝Free form freak-out〟はもう良いとか悪いとか判断できるようなもんじゃなくて、ただただカオス。でもこれが前衛的に聴こえたりサイケの真髄に聴こえたりするんだから僕もだいぶ侵されているな…もしいよいよ「No.2のあそこのフレーズがいいよね〜」とか言い出しちゃったら病院行きである。

そんな〝Free form freak-out〟と交互に、2,4,6,8,10,12曲目にレッドクレイオラのバンド曲が配置された構成の「The Parable of Arable Land」。オリジナルソングは曲として成り立っていて(当たり前)、サイケ/エクスペリメンタル、もしくはアヴァンギャルドと呼べる音楽であるが、メイヨ・トンプソンのへろへろなギターと歌はマジなのか下手なのか何なのかわからない。ただ繊細なメロディやフレーズが時折飛び出してきたりするのが気持ち良くて不思議な感覚を味合わせてくれるの。

レーベルメイトである13thフロアエレベーターズのロッキーエリクソンが2曲目〝Hurricane Fighter Plane〟にオルガン、4曲目〝Transparent Radiation〟にハーモニカで参加している。

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同67年にレッドクレイオラは次作「Coconut Hotelの製作に取り掛かったが、内容が商業的じゃなさすぎるということでレーベルにリリースを見送られた。この「Coconut Hotel」は95年に時を越えてリリースされたが、内容は実験音楽といった感じで1stよりは何倍もまともに感じる。1stのカオスなフリークアウトに熱狂的なカルトファンがついたもんだからまともな実験音楽は商業的じゃないってなったんだろうか。

Coconut Hotel

Coconut Hotel

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68年に2ndアルバム「God Bless the Red Krayola and All Who Sail With It」をリリース。ここでバンド名のスペルがCrayolaからKrayolaに変わっている。

1stのジャケットから一転シンプルなデザインとなった2nd。これが割とお気に入りで、へろへろさと意味不明さは顕在であるが1〜2分ほどのサイケ/エクスペリメンタルが20曲収録されていて、個人的にはエクスペリメンタルの「ホワイトアルバム」と呼べるアルバムだと思っている(まぁホワイトアルバムも実験的なんだけども)。「ホワイトアルバム」同様オモチャ箱のようなアルバムで聴くたびに「おっ」と思わせられる小さなアイデアが散りばめられている。1stに比べると地味で存在感の薄いアルバムであるがオススメの1枚。

 

アルバムを2枚残して残念ながらレッドクレイオラは解散となる。しかしこの後70年にリリースされたメイヨ・トンプソンのソロアルバム「Corky's Debt to His Father」がめちゃくちゃ良いのだ。

奇才メイヨ・トンプソンの唯一のソロ作品である70年「Corky's Debt to His Father」。

レッドクレイオラでの実験性は身を潜め、ディラン風のブルースやフォークやカントリーの影響が強く出ているがメイヨ・トンプソンの独特な奇妙さと絡みあって極上のアシッドフォークアルバムに仕上がっている。演奏も歌も非常に素晴らしくて「あ、やっぱりこいつレッドクレイオラの時わざと変にしてたんやー」ってわかる。個人的にはスキップスペンスの69年Oarと並べて好きなアメリカンアシッドフォークアルバムである。3曲目〝Horses〟とか最高。

 

このアルバムをリリースした後メイヨ・トンプソンはアメリカのアートシーンに嫌気がさし、イギリスへと渡ることとなる。70年代後半にはラフトレードレコードで働き、多くのポストパンク勢のプロデュースをこなしたことでポストパンク界の重要人物とも見られている。この時期に同時にレッドクレイオラ名義で自身の音楽活動も再開し、79年から2006年までいくつかのアルバムをリリースした(がこれは聴けてない)。レッドクレイオラ名義となっているが事実上メイヨ・トンプソンのソロプロジェクトであるようだ。またゆっくり聴いていきます。

 

終わり

以上!テキサスサイケの2大巨頭(?)13thフロアエレベーターズとレッドクレイオラでした!双方の1stはサイケ必需品!レッドクレイオラの2ndとメイヨ・トンプソンのソロは結構オススメ!

テキサスサイケ、面白いバンドがたくさんいるんだろうなぁと思いながら積極的に掘ろうと思えないのが正直なところ。笑

 

では!

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